徒然刀剣日記

刀剣修復工房の作品・修復実績と刀剣文化活動のご紹介

新作拵と研摩

2017-11-12 13:14:53 | 拵工作
長らくお預かりしている御刀の工作を終えました!
お待ち頂いているご依頼者様には大変心苦しいのですが、毎度ながら手が遅くて申し訳ございません!

この度のプロジェクトは、ご依頼者様に刀身と刀装具をご用意頂き、新たに刀装を拵えるお仕事です。



お持ち込み頂いた御刀は、本職ではない器用な方?が刀身を研摩されたかと思う様な極端な部分的な痩せ方をしていて、指裏の消耗が激しいため整形が難しい案件でした。



まずは、ハバキを白金師さんに依頼し、色揚げは何度か当工房で調整しました。



刀身を名倉まで研ぎ進めた段階で、鞘師さんに白鞘とツナギの製作をお願いしました(通常は、改正までで別作業に移ります)。その後、いよいよ刀装具の微調整と拵え下地を作成します。



刀装具の調整では、鍔に責め金を作り、古い切羽を用いました。切羽は、刻み加工なしで新規作成する旨のご指示を頂いていたのですが、作ってみたところ何とも味気ない仕上がりで拵え全体の雰囲気を崩すことから、都内の刀剣商を回ってサイズの合う骨董品を探し、加工取り付けしました。



柄前は、最上級の親鮫を配した鮫皮を総巻きに背合わせで貼り、柄糸を限りなく黒に近い深緑に染め上げて、諸摘みで巻き上げました。



刀剣外装の命といっても過言ではない柄成の調整にも、余念がありません。
鞘の栗型は江戸時代の物を流用して、新物では再現できない微妙な造形美を移植しました。



今回、最も時間が掛かった鞘の塗りです。細かい黒石目ですが、ただ漆黒というわけではありません。ご依頼者様からは、「ただの黒ではつまらないので…」とお伺いしていたので、海老茶の上に黒石目を撒きました。
はじめに焦げ茶の上に同様の塗りを施したのですが、あまりにも「ねらいました!」という表情が模造刀のような品の無さを感じさせるので、ハバキの色と同系色の柿色を配合して塗ることで、ほかでは見ない色合いに挑戦してみました。



とても長い時間がかかりましたが、完成です!

納期のお約束を頂いていないありがたいお仕事は、どうしても急ぎ仕事が割り込んでしまう関係上完成が遅くなります。度々様子見のお問い合わせを頂戴しますが、けっして放置しているわけではありません。もちろん、手抜きも一切ございませんので(むしろ、時間的束縛がないので入念に工作しています)、その旨ご了承くださいます様お願い申し上げます。

短刀の修復

2017-11-12 02:03:01 | 刀身研摩
大変興味深い短刀の修復です。

発見当初よりご相談頂いてきた案件で、所有者様の「適切な保管に努めたい!」というご要望を考慮して、研磨と白鞘の補修を行いました。



当初、地刃共に不鮮明。柄が錆び付いて抜けず、太陽にかざしてやっと物打ち周辺の焼刃が見える程度でした。

詰まった感じの硬い鉄と見え隠れする地金の色調から、新々刀とあたりをつけて安易な気持ちで焼刃を探していると・・・「ん?」、なんとも凄まじい刃中の働きに背筋がゾッとしてきました。



気のせいかもしれませんが、山浦一門に見る冴えを感じるも、頑張って抜いた茎には「兼友」の二字銘が!この時は、さすがに興奮しました!
体配的には南北朝もありえる形状です。

ご依頼者様は、私が何を騒いでいるのか?なぜテンションが上がっているのか?チンプンカンプンといった顔をしていましたが、今思うとお恥ずかしい限りで、ひょっとしたらあぶない人だと思われたかもしれません(笑)。
登録証が発行されて、直ちに修復を開始します。



まずは、白鞘の分解から始めます。古い白鞘は錆を吸っていて、このままでは使用することはできません。何度もご依頼者様とやり取りをするも、白鞘を新調する意味をご理解頂く事が難しそうだったので、今回は白鞘に補修を施して再利用することにしました。



研ぎでは、当初の研ぎ方(幕末期の研ぎか?)を踏襲して、現代研ぎは施しませんでした。そのため差し込み的な肌の沈み感は否めませんが、刃中の働きを楽しむことができます。



この度のお仕事は、あまり評価されていない?郷土鍛治の素晴らしい作品に触れて、その技術力の高さや作刀姿勢など、今まであまり思いをめぐらせたことのない作者の思いに意識が向きました。



明らかに古刀の再現を目指した作域であって、古今の変わらぬ美意識を垣間見たような心境に至り、言い知れぬ感動と感謝の気持ちがこみ上げてきました。



左はこの度の御刀の茎、右は特重の直江志津の茎です。
上の出来は古作を見た人間にしか作れないような働きに満ちているため、某藩の収蔵品に接することができた藩工であったと考えています。鉄の違いは若干感じましたが、それでも違和感は感じない程でした(砥石あたりは違います)。

今回は、本当によい勉強をさせて頂きました。
現在、北枕にてお祓い待ちです。