徒然刀剣日記

刀剣修復工房の作品・修復実績と刀剣文化活動のご紹介

柄下地の修復

2011-12-24 18:20:33 | 拵工作
害虫により破損を受けた柄下地を、修復しました。



使い物にならない部分を削り、新たにホウの木で補修します。

古い柄下地を削ってみると、最高級のホウの木が使われています。
マニアックな話ですが、十分に寝かした良いホウの木は、削っていてヨダレが出るほどいいものです。匂いといい、彫り心地といい、これ以上の至福の時はありません(笑)
若干引かれるでしょうが、拵工作に関わる職人(柄巻師、鞘師など)なら、きっと分かっていただけることでしょう。
刀匠が良いタマハガネとめぐり合った時、研師が良い砥石とめぐり合った時、同じような反応をされると思います(しないかも知れませんが…この点、刀匠様・研師様よろしければコメントいただければ幸いです!)。

次は、鮫皮の加工です。
鮫皮は準備万端、裏を剥いてイボタで磨きをかけた状態でスタンバイしています。
特にここ数年、できるだけ裏を剥かない様、研究を続けているのですが、まだまだ納得がいく頃合を見切れていません(涙)。

キクイムシ

2011-12-23 13:30:28 | 拵工作
長期に及ぶ集中作業の仕事が一段落し、やっと拵えの修復の仕事に取り掛かれます。
現在修復のご依頼は2件、そのうちの1件は長らくお待たせしてしまっています。
先日、鞘師さんにお願いしていたツナギが完成し、昨日より本格的に修復に取り掛かっている次第です。
時代の鮫皮を剥がしてみると、下地にホウの木の薄皮を短冊状に張り付けた様な補修後が見られます。江戸末期の修復ですので、柄下地の時代はさらにさかのぼるでしょう。

さらに補修材を外すと…、参りました!
柄下地は害虫被害を受けています。
内部は迷路状に入り組んだ1ミリ強の坑道が見られます、これはキクイムシによる被害です。



キクイムシは、甲虫目キクイムシ科に属する昆虫の総称です。
幼虫時も成虫後も、大きさは1mm前後から数mm程度で、木材への穿孔生活(この言い方が面白い!)に適応して進化した円筒状の形体の昆虫です。

日本には300種以上が生息していて、拵えに寄生する昆虫として研究したら意外と面白そうな分野です。主に森林に多く生息していて、坑道が掘られた木の幹を砕くとたくさんの幼虫が…(痒くなること請け合いです)。

基本的に、成虫・幼虫とも材木などに細い巣穴を掘って生活しているわけですが、上記柄下地の様に掘り進みます。
ほとんどの種が体内菌類と共生して木材から栄養を摂取して生きています、専門的には養菌性昆虫に分類されるのでしょうか。
木材に掘った坑道の中に植えつけた共生菌類(アンブロシア菌)を食べて生活しています。

今回の柄下地の損傷が一部に留まったのは、ホウノキが十分に枯れて硬化していたこと、後の修復材の方が虫から見ておいしかったこと、などが考えられます。

いずれにしましても、虫に喰われた柄下地は修復が必要です。

年末に向けて、ある意味私も穿孔生活に入ります(笑)