徒然刀剣日記

刀剣修復工房の作品・修復実績と刀剣文化活動のご紹介

昭和19年製陸軍刀の研ぎ

2005-12-16 14:53:51 | 刀身研摩
依頼をお受けしたまま、なかなか実施できずにいた軍刀の砥ぎを開始しました。

鉄鞘に納まった水錆状の刀であるが、2尺2寸強で手持ちが良く、例えるなら武州新刀あたりの実戦的なバランスの御刀です。

ハバキ元から刀身を透かすと、物打下3寸あたりに大きな曲がりが確認できます。
相当戦地で働いたのでしょうか、持ち主はどの様な武人であったでしょう?

早速、曲がりを修正するため道具を取り出し、刀身をジロジロと眺めるも、鍛肌が感じられません。
本鍛錬の日本刀ではなく、軍用の量産品(造兵刀)と思われます。

この手の刀身は、曲がりを修正しようにも、平地からの衝撃に弱く、下手をすると折れてしまうことがあると言われています。(このあたりは、書物などの解釈によってまちまちですが、古式鍛錬ではないために情報量が極めて少ないというのが正直なところです。)

やむなく、荒研ぎのみで整形を開始することにしました。
少々刀身が痩せてしまいますが折れるよりはマシだと考えたためですが、なんのなんの刀身の硬いこと…。

しかも焼き刃は、油焼き入れ?によるずぶ焼きと思われ、刃縁が眠く刃界の確認が出来ません。

研摩の最終工程にて、化粧を施す以外に刀らしく仕上げる方法は考えられませんが、どうしてこういった刀身が美術品として登録されてしまうのでしょうか?
とは言え、軍刀身は、試斬用として最強の切れ味を楽しめることも事実であるため、武道家には人気の一品なのです。私も、こういう刀身を常々欲しと思っていますが、出会いがありません。

今年の年末年始は、軍刀身の研磨に掛かりきりになりそうです。