海軍大将コルシンカの航海日誌

ロシアの作曲家リムスキー=コルサコフについてあれこれ

《ホメロスより》その2~細かすぎて伝わらない第3クラリネット

2021年12月14日 | カンタータ

《ホメロスより》では、リムスキー=コルサコフの得意とする海の情景描写をベースに、ライトモチーフとして勇ましいオデュッセウス(かっこいい!)や荒々しいポセイドン(《シェヘラザード》のシャリアール王を彷彿)が代わる代わる登場。途中でオデュッセウスに救いの手をさしのべる女神レウコテエのモチーフがはかなくも優美に現れます。

さて、この作品での核ともいうべき主人公オデュッセウスのモチーフを主体にしたパートは、2回登場します。
はじめは金管主体の勇壮果敢な様子で、力を頼みに筏で嵐を乗り切ろうとするさまを表していますが、ポセイドンの引き起こす大波によってあえなく沈。
筏は失われ、オデュッセウスはかろうじて残った丸太にしがみつき波間で翻弄される羽目に。

2回目はレウコテエの助言どおり、魔力を秘めたヴェールを首に巻き付け、丸太も捨てて逆巻く波の中を泳いでいく様子。今度は弦主体で演奏されますが、1回目のような力任せではなく、波に逆らわずにむしろ波に乗るように泳いでいく姿を描いているように感じられます。

リムスキー=コルサコフの作品では、同じ旋律をオーケストレーションを替えて繰り返す手法がよく見られますが、《ホメロスより》もまさにこれ。
暴風雨の迫真の情景描写と相まって、オデュッセウスの姿が物語どおりに見事に描き分けられていると思います。

ところで、私が感心したのは1回目のオデュッセウスの描写場面で繰り返し登場する、第3クラリネット(とビオラ)による連符による短い下降型の音型。
私もMIDIの打ち込みをしていて気がついたのですが、この音型が私には逆巻く暗い波間に一瞬現れる、にぶいエメラルドグリーンの帯状の筋が、ぼんやりと光彩を放っているように感じられるのです。
もっともこれを3管編成の大音響の中にあっては聴き分けるのは至難の業。というか吹いている演奏者以外にはおそらくほとんど聞こえないのではないでしょうか。



そこで、MIDIで《ホメロスより》の冒頭部分を、第3クラリネットを強調した形で聞けるようにしてみました。

Nikolai Rimsky-Korsakov : From Homer, op.60 (beginning, emphasized 3rd Cl.)
リムスキー=コルサコフ : 《ホメロスより》作品60 冒頭部分 MP3ファイル



こちらの動画では、ちょうどその部分で第3クラリネット奏者が中央に写っていて、指使いがよくわかります(笑)

Оркестр Собиновского фестиваля / Римский-Корсаков. «Из Гомера» (YouTube)
Оркестр Собиновского фестиваля
Дирижер - Юрий Кочнев



リムスキー=コルサコフの作品のデータ打ち込みをしていると、実際の演奏ではほとんど聞こえないような細工が、実はあちこちにちりばめられていることに気付くことがあります。(たとえば《皇帝の花嫁》の序曲の第2主題。ピチカートに乗って流麗な旋律を弦が奏でる裏で、木管がなんとも不思議な浮遊感のあるメロディーを吹いています。)

こうした「小細工」は、通常の演奏では聞こえなくとも、作品に彩りを添えるのに重要な役割を果たしていることがあり、それを発掘できたときは嬉しさもひとしおなのです。


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