海軍大将コルシンカの航海日誌

ロシアの作曲家リムスキー=コルサコフについてあれこれ

《不死身のカシチェイ》公演~4

2008年09月07日 | 《不死身のカシチェイ》
美貌のツンデレキャラ、カシチェエヴナの2つ目の見せ所は、第3場でイヴァン・コローレヴィチに復縁(?)を迫る場面。
そもそもこのオペラでは、イヴァン・コローレヴィチは嵐の勇士の空飛ぶ絨毯に乗って苦もなくあまりにもあっさりと王女と再会してしまうため、盛り上がりを期待していた観客があっけにとられてしまいかねない所。そのため、ここで追いすがって来るカシチェエヴナの役割は極めて重要です。

カシチェエヴナはイヴァン・コローレヴィチに、自らのプライドも何もかも捨て去って「一緒に暮らしましょう」と泣きすがり、終いには王女は逃がしてあげるから、私たちは一緒にね、とまで持ち掛けてきます。
ここのカシチェエヴナは、《皇帝の花嫁》のリュバーシャを彷佛とさせますが、いかんせん持ち時間が短いため、リュバーシャのように臓の府から生暖かい血がどくどくと溢れ出てくるようなねちっこい表現は無理でしょうけど、逆に限られた時間でどこまで彼女の情念を表すことが出来るかというのが、演出上の大きなポイントとなりそうです。

いずれにせよ、ここでカシチェエヴナは明らかにこのオペラの主人公となっていますから、もはや父親のカシチェイもお邪魔虫扱いです。

「えっと、わしの『死』は...?」
「アンタの死なんか、知ったことじゃないわよ!」

と逆切れ気味に一蹴されてしまい、不死身の魔王もすっかり形なしとなってしまいました。

こんなカシチェエヴナを哀れに思った王女は、さきほどは「誰このオンナ...恐いわ」などと言っていたにもかかわらず、彼女にキスをします。
これがカシチェエヴナの邪悪な心を浄化し、それで彼女は救済され、優しい涙を流して枝垂れ柳に姿を変える...と、こうしたプロットは、リムスキーのオペラによく見られるもの。

ヒロインあるいはその仇役の死もしくは変容の場面は、《雪娘》(スネグローチカは「愛」を知り、溶けてなくなる)、《サトコ》(海の女王ヴォルホヴァは川に姿を変える)、《皇帝の花嫁》(リュバーシャの死)、《セルヴィリア》(セルヴィリアの死)、《見えざる街キーテジ》(フェヴローニャの死)など、多く挙げることができます。
ワーグナーの影響について私はよく知りませんが、よく指摘されているところですね。