地球の裏からまじめな話~頑張れ日本

地球の裏から日本頑張れ!の応援BLOGです。
証券関係の話題について、証券マンとしての意見を述べていきます

「今さら人に聞けない質問」シリーズへのお答え

2005-12-30 07:52:15 | CB教室
またまた拙BLOGでは間が開いてしまいすまぬ。
さて、前回の記事にてコメント欄にやまどらさまからお寄せいただいたご質問、CBを理解する上では非常に大事なご質問であるので、ここで頑張ってお答えしてみようと思う。
上手くポイントを付いた回答が示せるとは、恥ずかしながら思えないのであるが、何かのご参考になれば幸甚であるね。

さて、まずはご質問・・・

『CB=社債と株式のコール・オプションの同時保有、ということだから、その価格は社債の格付け(社債の価値)とコール・オプションの価格、及び株価に依存する、と認識しています。
然らば、コール・オプションとしての価値、即ち転換価格も重要な価値の要素となるかと。これは、Black-Scholesの公式を用いて計算されましょう。

そこで、発行時に変動し得る未確定な要素は、ボラティリティσだけだと思います。

これらを踏まえると、CBの価格形成&転換価格決定スキームでは、
1.幹事会社がその時点で持っているσで、転換価格の仮条件を一旦算出し、
2.投資家が、独自のσから独自の妥当な転換価格を設定し、割安である限り、購入のbidを入れる
3.投資家同士が競合し、妥当なσから妥当な転換価格が形成される。
であるべきなのかなと思います。

しかし、仮に発行前(公表前)に転換価格が最初に決められているとするならば、もっと単純にCBの価格そのものが上がったり下がったりするだけになるのかと思います。
然らば、
主幹事会社の選定においては、設定する転換価格が大きなポイントとなる、と考えます。いかがでしょうか。
もちろん、もうひとつの要素として、スプレッド分(一般に2.5%程度?)の多寡もありますが。』

いやはや実に良くご存知ではないか!!

これに対するお答えに関してまずは実際我々がある銘柄においてCBの単独主幹事を獲得した場合の流れをご説明してみよう。
またそのCBは、ではアルパイン(スイスにての発行)とし、通貨は円としてみる。発行会社を仮にA社とする。

まずは主幹事獲得の前段階として当然の事ながらある種のコンペが行われる。
A社に資金需要がある場合、各証券会社はその調達方法を提案する。A社は当然彼らの意向に沿った調達方法(この場合はCBによる資金調達としよう)を提示した証券会社を何社か選定し、今度はそこで選定された証券会社による条件コンペが行われる。A社としては当然自社に一番有利な条件を提示してくれたところ、またユーロやアルパであった場合、海外においてきちんと販売を行える証券会社を選定することになる。
この段階でまずは現地の我々に東京のECM(引受部、Equity Capital Marketの略)の担当者から軽いヒアリングがある。

「実は○○業界(当然会社名は出さない)で規模は中規模の会社がアルパを検討しているのですが、条件はどんな感じなら販売出来そうですか?」

ここで言う条件とは何か?これがやまどらさまへのお答えの一つになるかなぁ。

発行総額
発行価格、オファー価格
クーポンの有無
年限
PUTオプションの有無
ソフトコールは120%か130%かどの程度か
イニシャル・プレミアム
下方修正条項の有無、あれば何年後でフロアーはどの程度か
グリーンシューの有無

等々である。(もちろんダイリューション、全額転換所要日数等もあるが、ここでは基本部分のみ書いておく)
この段階で当然ECMはA社のボンド価値を類似会社と比較して仮定し、さらにインプライド及びヒストリカルなボラを出して、様々な組み合わせを考慮している。
我々サイドとしてはとにかくそれを顧客であるCB投資家に販売するわけであるから、なるべく我々の顧客寄りになるような条件が欲しい。つまりプレミアムは低けりゃ低いほど良いし、PUTは無いよりある方が良いし、下方修正条項だって無いよりある方が良いし、さらにある場合はフロアーは低けりゃ低いほど良いわけであるね。
対するECMとしては、当然他社とのコンペをやっているわけであるから、彼らにとっての顧客、すなわちA社寄りの条件を提示したいわけであり、条件面では全て我々の反対になればなるほどこのディールが取れる確率が高まる。
ここでECMと現地セールスサイドが条件面で様々なせめぎあいをする。
我々もECMもお互いプロだから、そうは言ってもある程度の落とし処みたいのは心得ている。と言うのはいずれにせよこのディールを取れなければお互い金にならない、つまり会社として儲からないわけであるから。
ECMとしては、ここまでは現地に譲歩出来る、と言うモノを持っているはずで、それよりも譲るとディール自体を取れない、と言う感触はあるようだ。

さて、そのせめぎあいの末に、弊社としてA社に提示する条件が固まり、そしてそれがA社に承認された。
そして、ローンチ当日にそのアナウンスが我々に初めて来る。
この段階で日本は午後2時としよう、スイスは冬時間として朝6時。
「例のA社の件、決まりました。本日東証の引けに合わせて取締役会にて発行が承認されて、引け後に公表されますので、それでローンチとなります。条件は・・・」
(注~この段階では発行が承認される、そして東京時間の本日中つまり夜中の12時までに最終条件が決まった段階でそれも承認を受ける)

東証の引けは午後3時、スイス時間で朝7時である。この段階で正式にスイスでのA社のスイスでのCBの発行が公式発表され、我々の出番が来る。

さてその際の条件であるが、

発行総額→ほぼ決定
発行価格、オファー価格→ほぼ決定
クーポンの有無→ほぼ決定(但し現在はゼロが当たり前なので)
年限→ほぼ決定
PUTオプションの有無→有無はほぼ決定、ある場合はPUT価格に幅
ソフトコールは120%か130%かどの程度か→ほぼ決定
イニシャル・プレミアム→?
下方修正条項の有無、あれば何年後でフロアーはどの程度か→?
グリーンシューの有無→ほぼ決定

しかしながら「?」の部分も上限下限はそれぞれインディケーションがあるので、?とは言っても大体の枠は決まっている。それでECMとA社は握っているわけだ。

さて我々セールスサイドは一斉に顧客に詳細を連絡する。例えば、

銘柄はA社
発行総額→65億円
発行価格、オファー価格→発行価格@100、オファー価格@102.50
クーポン→ゼロ
年限→4年
PUTオプション→有、2年後@100
ソフトコールは120%か130%かどの程度か→130%で連続30日以上
イニシャル・プレミアム→5~15%
下方修正条項の有無→2,3年後でフロアー70%OR80%
グリーンシューの有無→有、5億円

これらの条件を顧客に提示して、我々は一斉に需要を積んでいく。
例えばある顧客の反応は、
「プレミアム5%~10%なら10億、それ以上なら5億」
「プレミアム10%までなら10億、下方修正フロアー70%ならさらに5億」
「10億@MKT(これは全ての条件が上限で決まっても10億買う、の意)」
などなど。

大体スイス時間の午前中2~3時間程度でわぁ~~っと需要を積んで、それを元にECMはA社と最後の条件の詰めに入る。そしてスイス時間の昼過ぎ頃(日本は夜8時頃)に最終条件が決定され、そして我々サイドにて投資家への配分会議が開かれて、何処へ1億、あそこへは5千万・・って感じに配分を決めて、自己に残す分やら東京や他店への配分も決めて、そして配分の連絡を顧客に一斉に行う。
その段階でこのCBは正式に世の中に流通を開始し、私がずっとやっていたマーケットメイクが始まるのであるね。(私は個人的にドンパチと呼んでいるが)


さて、ここでやまどらさんへのお答えである。
『主幹事会社の選定においては、設定する転換価格が大きなポイントとなる、と考えます。いかがでしょうか。』

設定する転換価格の絶対値と言うよりも、イニシャルプレミアムがいくらか、が焦点になる。
A社の本日の引け値が仮に1000円とした場合、5%プレミアムなら転換価格は1050円、15%なら1150円になる訳であるから、意味は同じであるが。
但しCBモデル等においては「プレミアム何%」と言う風に入れるのが通常であり、我々もプレミアムにこだわる、と一応付記させていただこう。

やまどらさんの決定スキームの1と2はまさにその通りの事を我々は通常行っている訳だが、3に関しては少々見方が異なる。
もちろん当該株価のボラから妥当なプレミアム等が算出される、或いはこのCB価格の理論価格が、ボラやプレミアムから算出されるわけであるが、これは投資家同士の競合によっては決定されない。
もちろん我々販売サイドが投資家の需要を積む段階で、余りプレミアムが高すぎると需要が極端に減ってしまう、と言う様な結果が出た場合、それに基づいてプレミアムが5%になることもあるので、そういう意味では合っているが。
と言うのは、このイニシャルプレミアムの幅は5-15%と言う感じに当初は成っている、成っているが実際は大体が上限で設定されるようになっているのだね。
万が一を考えて幅を持たせている、と考えて頂いた方が実態に近い。

ちなみにやまどらさんのおっしゃる、
「仮に発行前(公表前)に転換価格が最初に決められているとするならば、もっと単純にCBの価格そのものが上がったり下がったりするだけになるのかと思います。」
に対しては、新規発行の場合は、公表前に転換価格が決まっていると言うのは一般的には無い。第3者割り当て方式等の場合はその限りではないのであえて「一般的には」と付けさせて頂いたが、通常のCBではそのケースは無い。
前にも書いたかも知れないが、発行公表後、転換価格を即日決定出来るのが、ユーロなりアルパの魅力であり、東証上場のCBの場合は公表から転換価格決定までに約1週間程度掛かる。それは単に有価証券発行届出書だかの効力発生にそれくらいの時間が掛かる、と言う事であって、これが改善されなければこれからも一般企業がCBを発行する場合はユーロやアルパが主流になる。
何故ならば、CB発行を公表した途端株価が動き出すわけで、1000円程度の株価での発行を目論んでいたA社、しかし1週間後にはその発行が嫌気されて株が下がって結局900円程度にての発行となってしまえば、彼らの当初の計画にずれが生じるからであるね。
但し転換価格が決まった後のCB値段の値動きは当然ある意味その株価の変動によってCB価格も上がったり下がったりする単純な動きになる。

さて、最後に、発行会社においての主幹事選定ポイント(と言う理解で宜しいでしょうか?)は、設定する転換価格が大きなウエートを占めるか?とのご意見であるが、単に大きな意味での主幹事選定のポイントと言うのは、如何に当該会社にとって有利な条件を提示出来るか?と言うのが基本です。
またそれまでの付き合いだの何だのって言うある種日本的な部分も相当に絡んで来るのは想像が付くでしょう。
仮に転換価格、つまりプレミアムが大きなポイントを占めるとすれば、その他の条件を大甘にする、なんて事も可能になってしまう訳で。

ロンドンの私の尊敬する(勝手に私は彼をロケット博士と呼んでいるが)K氏によるとCBモデルってのは生株に比べて遥かに不確定な要素が多く、非常に難しいそうで・・・


と、つらつら書いてみましたが、果たしてやまどらさま、答えになっているでしょうか??
また何かありましたらどうぞ遠慮なくお願いしますね!(但しご周知のようにお答えまでこの頃少々時間が掛かっておりますが・・・汗)

またみなさんも、どうぞ遠慮なく、特にこの「今さら人には聞けない」シリーズ、私自身非常に勉強になり、かつまたそれをこのBLOGの一つの売りにしていきたいなぁなんて思っておりますので、どしどし待ってますぜ!!





2 コメント

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ぜひご意見を・・。 (玉露)
2006-01-06 23:20:08
はじめまして。



いつもすごく面白い書き込みを楽しみ半分、

勉強半分で読ませていただいてます。



最近、東証二部のサイボウズ(4776)

という銘柄の動きがあまりにエゲつないので

注目しています。



会社的には、調べてみるとすごく面白くて、

将来性もあると思うのですが、乖離率やPER

は異常だし、不思議な感じがしております。



お忙しいとは思うのですが、

もし気が向きましたら、ぜひkooniさんの

証券マンとしての意見を聞きたいと・・。



突然の書き込みのうえ、

図々しくてすみません!
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Unknown (小鬼)
2006-01-07 07:47:23
玉露さま(なんて粋な感じのHNでしょう。そういうセンスってすごくいいですよね!!)



了解しました、ちょっと明日調べてみますね。と言っても私ごときがどの程度まで中味を分析できるか分らないのですが、自分なりの見方をお伝え出来れば、と思います!

弊社のレポートとかあればお送りするんですけどね、アナリストがカバーしているかどうかも調べてみますね。



全然図々しくありませんので、どうぞ今後とも宜しくお願い申し上げます!
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