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地球の裏からまじめな話~頑張れ日本

地球の裏から日本頑張れ!の応援BLOGです。
証券関係の話題について、証券マンとしての意見を述べていきます

BLOG、再開です。

2005-06-17 01:54:11 | CB教室
いやはやお待たせいたしました。
6月14日に東京から帰ってきて、翌日からは普段どおりの出社で、まあサラリーマンとは悲しいなぁと思いながらもこれも仕事なので割り切っている訳である。
さて、今回の出張においては自分の分野であるCB及びその運営だとかと言った事の他に、どうしても色々な人が近頃のMSCBについてどう考えているか持論とのすり合わせもしたかったのだが、それに関しては非常に成功裡に終わった。
今回会った外部の人々は、国内及び外資系証券会社の運用者や引き受け担当者、また投信のファンドマネージャー、ヘッジファンド、また業界系情報ベンダーの記者諸氏である。

まずはここに小鬼は一つだけ宣言させていただくと、業界では「MSCB」と言う言葉を誰も使わない事に気付いたので、私も以降は「MPO」と言う言葉で統一させていただこうと思う。
これは「Multiple Private Offering」の略である。

さて結論から申し上げると、概ね私がこのBLOGで展開してきたことと同じようにみんな考えている、と言う事である。
つまりMPOとは紛れもなく引き受け証券会社のヘッジファンド化であり、そしてそれは一般投資家のみならずヘッジファンドやCBのファンドマネージャーにも大変不評である、と言う事である。
但し、ここで言う「不評」の中味は違う。
一般投資家においては紛れもなくそのダイリューションによる株の希薄化、それに伴う株価の下落が問題であり、それに対処すべく術がないための不評である事は論を待たない。
それに対してヘッジファンドやCBのFMに不評なのは、それを自分たちが買えないからである。
買えればもう儲かる事はほぼ約束されたような物であり、彼らにしてみれば今まで証券会社が引き受けたもののその内在するリスクを抱えきれないとの判断から特にヘッジファンドに渡していたのに、それがいつの間にやら全て丸抱えで一粒ももらえない状況になったわけであるから、そりゃあ事態は深刻である。

ここで一つ面白いコメントを紹介しておこう。
例のライブのMPOを引き受けたさる外資系証券会社(とぼかしてもみなさんはその名前が簡単に分かるか(笑))の外人と会った。
彼はそのCBの処理にもかなり関わって、実際それは非常にイージーゲームだった、と述べてくれた。
しかしながら彼自身はそのMPO全般に関しては懐疑的で、あれはやはり決して誉められた商品ではない、と言い切っていた。彼の場合はそれをもらえないから駄目だ、と言っているのでは無くて、やはり市場を考えた場合、現在の何でもMPOと言う風潮にはそれなりに危機感を持っているようだった。
典型的なアングロサクソンである彼がそう言っていたのは正直驚きだった。

ご承知のように現在MPOに関しては国内トップの野村の独壇場となっている。
何故野村か?
あなたが仮にさる企業の財務担当者だったとしよう。
各証券会社が色々な資金調達の提案を持ち込んでくるが、じゃあMPOをやってみようと言う事で各社に条件を提示させる。
ところがMPO、実は条件なんてどこも一緒で、ほとんど差異が無い。
通常のCBのように、クーポンが違う、とか発行価格をいくらまで引き上げられる、とか、証券各社の体力や営業力に応じた格差みたいのがほとんど存在しない。
野村を始めとする10社前後が出してきたMPOの条件がどれも大差なければあなたはそれを結局どこに任せるだろうか?
自分自身の社内的なリスクを考えた場合、つまりもしこの発行が上手く行かなかった場合を考えると、「それじゃあ業界トップの野村さんに任せて」おけば実はかなりの自分自身の社内的リスク回避になる。
何か起こった場合、「トップの野村さんにお願いしてこうなったんですから、どうしようもありませんね」と言う言い訳があなたは上に対して出来るのだ。

私はこの一種のMPOブームみたいのは必ずその終焉を迎える気がして仕方が無い。
もちろんMPO=駄目、って構図では成り立たないケースもあるので、一概には言えないが、それでも現状は由々しき事態になっていると思う。
商品としては、各弁護士、金融庁、どこから切ってもその違法性は完全に排除されている。ここをきちんと調べないでいまだにガタガタ言っているマスコミや知ったかぶりの諸氏が多いのはそれはそれで非常にむかつくが、まあ良い。
つまり違法性どうの、ということでの終焉ではなくて、やはり最後は倫理的、つまり最終投資家、一般投資家に対する倫理観みたいなものが蔓延していき、やがて終わるのではないかなぁと思っている。
現在野村がひたすらそれをやりまくっているのは(下品な表現ご容赦)、それをある程度予想しつつ、出来るときに突っ走ろう、って腹のような気がしてならない。
これで野村がその速度を緩めた時、つまりそれは他社にもMPOを出来るチャンスが来る事を意味するが、その時はもうそういう世界観がかなりの部分を覆う時では無いか、と。
つまり野村の強い理由の一つは、きちんとした相場観を持って、必ず高値で手を引く、って事なのだね。
その頃エンジンがかかってようやく我が社にもチャンスが巡ってきたぞぉ!と思い込んでしまう証券会社があれば、そこはその時点で実は総スカンを食らうことになるのではないかなぁ、と思う。

とりあえず本日はここまで。

通常のCBの発行から流通まで

2005-05-31 05:18:52 | CB教室
さて、今回はMSCBではなくてごく普通のCB、ユーロ円CBとかアルパイン円CBとかがどのようになっているのかをざっと説明しておきたい。
この辺をきっちり押さえていないと、いざ投資している会社がCB発行、となった時に冷静な判断がくだせなくなる恐れがあるので、きっちり学んで下さい。

ちなみに東証が国内円CBをずっとないがしろに放置していたために、日経新聞の転換社債市場欄をご覧になれば分かるが、この国内円CBはずいぶんと数が減り、かつほとんどが「気配値」のみの記載となっていて如何に流通量が無いか良くお分かりになると思う。
東証で国内円CB(ドメ、と我々は呼んでいる。ドメスティックCBのドメ、である)を発行する場合、発行決議直後に値決めが出来ない。通常1週間程度時間を置いて転換価格を決定しなければならないので、これを発行体が嫌がっている。また流通量自体が極めて少ないため、発行後のマーケット(セカンダリーマーケットと呼ぶ)にあまり期待が出来無いのを、これは引受業者及び投資家が嫌がっている。
ゆえに引受業者はCB発行候補企業に対して、ユーロまたはアルパインCBでの発行を勧めているのが現状だ。
ちなみにユーロとはロンドン市場にて発行されるCB、アルパインとはスイス市場で発行されるものをそれぞれそう呼んでいる。

ユーロとアルパの違いは何か。
ユーロで発行する場合はそのCBは必ず何処かの取引所に上場することが義務付けられている。ロンドン市場でもルクセンブルグでもどこでも良いからとにかく上場する。もっとも実際の取引はその上場した取引所で行われるわけでも何でも無く、ほとんどが相対取引にて行われる。
一方、アルパの方は上場義務が無い。その分発行手続きが簡素化され、発行費用も安く済む。
しかしながら大きな発行体は上場する事に割とこだわったりするので、現在各引受業者は、総額100億円を一つの目処として、100億以下はアルパで、100億以上はユーロでの発行に誘導している。

ちなみにユーロもアルパも値決め(転換価格の決定)は、発行企業が取締役会で発行を決議した直後に決めることが出来る。
つまり本日の午後3時に取締役会にて発行が承認された場合、結局その日の終値を基準に後はプレミアムをどれほど載せるかが決定され、それがそのまま転換価格となる。
ちなみにプレミアムのインディケーションは引受業者よりレンジが発表され、それを元に需要を募り、その状況次第でプレミアムが決まる。
例えばA企業100億の起債が決定され、プレミアムレンジが15~20%、のようにアナウンスされ、それに基づいて引受業者(主幹事)は投資家に需要を募る。
投資家も、プレミアム15%なら10億、プレミアム20%なら3億、のような感じで主幹事に応募する。

それでプレミアムが決定されると、いよいよ100億円の投資家への配分が始まる。それと同時に「グレーマーケット」と言うのが勝手に立ち、A社CB現在103-103.25、のような気配値が続々と業者間を行き来する訳だ。
これは私のところにももう年中来ていて、顧客から注文があった場合、そういった業者にコンタクトを取って、出来る商売はやる事になる。

さて翌日はダイリューションの影響を受けて株価は大体下がるが、それをも既にグレーマーケットでは折込に掛かっているので、多少の株価下落では翌日のCB値段はそんなに下がらない。
この翌日からセカンダリーマーケットが開始され、現在約6社が値付け業務(マーケットメイク)を行っている。ここに私も入っている。
ちなみにある程度の強制的流動性を保つ、と言う観点からこの6社は「ノック フォー ノック(Knock For Knock)」と言う方法にてマーケットメイクを行っている。
これはこの6社はお互いにファームプライスの出し合いをしているのだ。
私がX社にこのA社CBの値段を聞く。
X社はそれに対して、例えば103-104、のような値段を私に出す。
私はX社に対して103なら2千万円売れるし、104なら2千万円買える。
と言う具合だ。

CBやワラントの発行が盛りし頃は、マーケットメーカーだけで20社近くあった事もあった。
ただそのやり方なりを規定する規則と言うものがいっさい存在しなかったため、当時各業者間で「紳士協定」を結び、それが現在も「マーケットルール」として踏襲されている。
かつて私がDでこのメイクをやっていたときに、N社の知り合いとさらなる追加協定を2人で決めて各業者に伝達してそれが採用になった、何てこともあったなぁ(遠い目~(笑))。
いやあの当時はNとDで決めた事に対して真っ向から反対できる業者が無かったって言うのもあるが(笑)。

このような過程を経て、ユーロなりアルパのCBはローンチ(発行)され、そして流通していくのだね。

ここまでは宜しいか?

ちなみにMSCBは一切流動性が無いので、マーケットメイクの対象になんてもちろんならない。
昨日書いたように、MSCBは全て引受業者が全額「がめる」ので、セカンダリーマーケットは存在しない。
業者間をさらにつなぐいわゆるインターミディエート・ブローカーと言うのがロンドンにはいくつもあるが、彼らは日本語が読めないので、どこかがCBの発行を決議すると何人かは私に聞いて来る。
「この詳細を教えてくれ」ってね。
それが仮にMSCBだったりすると奴らは「OK,Private Dealだね、じゃあもういいわ」ってな感じの反応になる(笑)。

続きはまた書く。

MSCBに関してダラダラと

2005-05-30 06:22:17 | CB教室
LUNAさんから頂いたコメント欄に2つほどリンクがあって、読ませていただいた。
どちらの方もMSCBに対しては強烈なご批判をされており、それは確かなことだろう。
個人的にはこのMSCBは、有利発行とはならずに適法となっている現状ではそう簡単にはなくならないと思うし、では一般投資家の方はどうしたら良いかと言えば、この手の商品をしっかり理解することがまずは大切なことだと思う。

かつて野村證券が1000億のMPOプログラムを設定、と言う記事があった。MPOとはマルチプルプライベートオファーリングの略で、要はMSCB等を含む企業の資金調達手段の事である。
ここをご参照下さいな。

そのプログラム設定の記事中に、日本の一流企業の経営者さんたちが一様にコメントを出していたのだが、それが「これは素晴らしい、これでヘッジファンド等の関与を避けられる!」ってなモノばかりだったのだね。

これはいまだにそうであるが、日本の経営者の方々の頭の中にはいまだに「ヘッジファンド悪玉論」があるようだ。
CBを発行して資金調達をしたいが、でもそのCBが結局ヘッジファンドに渡るのは避けたい、とする企業経営者が実はものすごく多い。何故かと問うても、結局「転換が起こりにくい」だの「株が彼らのおもちゃになってしまう」だのと言った、実は極めてプリミティブな理由がほとんどなのである。

現在このMSCBを企業が発行し、それを全額証券会社が引き受ける構図と言うのはどう言う事かと言うと、これはね、証券会社がヘッジファンド化しつつある、と言う事なのですね。

通常の(海外発行のCB、つまりユーロ円CBとかアルパイン円CB)の場合は、証券会社が主幹事となって企業にCBを発行させて、それを投資家へ販売している訳であるが、発行直後の段階では、まずは各証券会社の重要顧客に販売する。しかしながら徐々に日が経つにつれそれらの玉は最終的にヘッジファンドに集まっているのが現状なのである。
またヘッジファンド、特にCBアービトラージ系のファンドは、まずは種玉(たねぎょく)となるCBが無ければ大掛かりなポジションが組めないため、主幹事に擦り寄って来る訳で、種をくれれば我々もあなたに株のオーダーを出しましょう、的なバーターを持ち掛けてくるところも多いのであるね。
またヘッジファンドはとにかく日々トレーディング感覚で株の売買をしてくれるので、どの証券会社にとっても彼らは大手の顧客になって来た訳だ。
そうすると証券会社が新たにCBを発行する場合、だんだんと種玉をヘッジファンドにまずは買ってもらうようになり・・・と言う形になって来ているのが実情なのである。

さて、そうやってヘッジファンドは各証券会社の大手顧客になる事に成功したわけである。
ある企業が100億円のユーロ円CBの発行を、A証券ロンドンを主幹事として決めた、と言うようなケース。
まずA証券は各セールスマンに一斉に需要を募らせる。
この場合、当然有名な年金だの、古典的手法の老舗ファンドだの、と言うところから需要を集めると同時に、色々なヘッジファンドにも当る。通常マーケット自体もそこそこで、さらにこの企業の成長の絵がきちんと描け、さらに発行条件もまあまあであれば、各ヘッジファンドは巨大な需要を提示してくることが多い。
ヘッジファンドα社~50億、Β社~50億、γ社~100億・・・ってな感じなのである。
彼らはそんなにはもらえない事を分かっていながらもそれほどの需要を出してくる。
そしてそれらの需要に基づき、証券会社A社は最終的な配分先を決める。
そしてそのCB自体の売り買いが始まり、直後から値上がりすれば売ってくるところもある訳で、そういった売り物を徐々にまたヘッジファンドが買い集めて行き、上述したように最終的に数社のヘッジファンドに玉が集まってしまうのであるね。

それを見ていた証券会社。
もうエージェンシービジネス(つまりお客さんから株の注文をもらって手数料をもらう、と言うビジネス)は儲からないのである。
日本国内を見てみればそれはもう歴然としている。大和や野村の個人営業体部門が常に苦しんでいるのは、要は個人投資家はドンドンネット証券に流れて、また手数料自由化がその首をさらに絞めているのである。
そこで考えたのが「証券会社のヘッジファンド化」だと私は思う。
要は今までCBの玉をがめて、それに株でヘッジを掛けて儲けて来たヘッジファンドを見ていて、それだったら俺たち自身でもそれをやろうぜ、ってことなのである。

しかしながら通常のCBでそれをやるにはまだまだ完全にリスクを排除できない。ゆえにCBとしてのセカンダリーマーケットでのリスクがほぼ無い、このMSCBに各証券会社は目をつけた。
また企業経営者たちも、ヘッジファンド排除、という命題が何故か頭の中にこびりついているから、双方のベクトルが一致してしまった・・
これを発行してもらい、同時に借株が出来ていれば、証券会社のリスクはかなり減る。
発行会社もヘッジファンドの介入を排除できるし、最後はお金を返す必要もない。
LUNAさんのリンク先のお二方もおっしゃっているが、一般投資家からそのリスクフィーを取っている、と言われても仕方が無いかもしれない。

しかるに、このMSCB発行誘致の動きは何かでかい問題が起こるまでは或いは続くかもしれない。
皆さんは良くお分かりだとは思うが、冒頭の野村證券のMPOプログラムって言うのは、まさにヘッジファンドを悪玉にしつつ、実は証券会社自身がそれになり変わっているだけのものに過ぎない。ただここで申し上げておきたいのは、それを良しとする企業経営者がまた多いって事である。

ここでMSCBの株の処理方法についてなのだが、証券会社はもちろん誰よりも場を見ているしその情報量も多いゆえに、MSCBの転換に関してあまり無鉄砲な事はしない可能性がある、って事を書いておきたい。

野村からUBSに最近CBプロフェッショナルが移籍して話題になったのを覚えていらっしゃるだろうか?
UBSは松井証券と組んで、まずはMSCBを企業に発行してもらい、それをUBSが全額引き受け、状況を見ながら株に転換し、その生まれてきた株を松井証券に卸し、松井は個人顧客なりに実際のマーケット値段より少し安く、或いは手数料なしで販売する、と言う流れを作ったのだね。
つまり松井証券とのタイアップもそうだが、あの話題になったTostnetを使う頻度が高いのではないか、って事だ。時間外取引でも立会い外取引でもどっちの呼び方でも良いが、ライブドアの件で話題になったあの市場である。
ダイリューションによる理論的株価は確かに一般投資家は自分で瞬時に算出できるくらいの事は出来たほうが良いが、では実際にそれだけの株が今後市場にジャブジャブ出て来て、その理論価格にたちまち収斂するか否かは、実は事はそう単純では無いかもしれない。
毎週転換価格が変わるものは正直ちょっとしんどいが、毎月型であるならば、証券会社は長期投資家をいくつか探し出しており、株が転換されるたびにその投資家へTostnet経由で松井のようにクロスを振っているかもしれない。
もちろん私はここで楽観論を言うつもりは無いが、かといってJPの太田氏が言うほどかなぁ、とも正直思ったりはする。
氏は「引き受け手は株価下落を利用して儲けることが可能」と書かれているけれど、別に株価が上昇したってそれは儲かる訳で、意図的に株価下落を利用しているのとはちょっとニュアンスが違う。

「自らファイナンスの受け皿となって、株主価値を下げることによって稼ぐというとんでもないビジネスモデルである。外国証券会社に肩を並べて競い合っている日系証券会社を見ていると、私の目にはそのように映る。」
この一言、正直引っ掛かる、私の目にはそのように映る(笑)。
株主価値を下げるかどうか、それは結局株主が判断すべき事で、何度も言うように資金を調達することによってより株主価値が増大する企業だってあるのである。
JPと言えば日系の大手証券会社にとっては同時に巨大な相手先である。彼らは当然巨大なファンドもあればインハウスファンドもあろう。
今まで彼らが得てきたモデルを、外国証券会社であるJPなんかに肩を並べて競っている日系証券会社がぶん取り始めた事に対する、巧妙な言い方(つまりこの件に関してはもう日系の独壇場になろう、もう外資系には回ってこない、だったら日系を悪者にしちまえ・的な)に取れたりもするなぁ(笑)。

確かにMSCBに関しては麻薬的要素もあると思う。
また、証券会社としてはこの手のファイナンスをやってくれるところは本当に欲しい、しかしそう簡単に応じる企業なんて実はなかなか無いのが実情だ。
実は世の中そんなに甘くない。
また仮にあったとしても、引き受け証券会社は一般投資家に痛恨の一撃を与えるようなことはすべきでは無いし、これは当たり前のことだ。
その辺の上手いスキームがそろそろ出てきても良い気もするが・・・

なんだか結論も無いが、今日はここまで。

ACCESSのMSCB

2005-05-28 05:19:14 | CB教室
バリュークリックに引き続き、ACCESSもMSCBの発行を決議し、一般投資家の皆さんはかなり混乱しているように見受けられる。
バリュークリックに関しては昨日書いた通り私の目から見てもあまり誉められたモノでは無い。特にその引受業者である日興シティーの姿勢は私には理解出来ない。
単なる引受業者としてみれば、黙っていても10%*50億の利益は確定したようなモノだから羨ましい限りであるが、投資家から見ればたまったモンじゃないだろう。ライブドア証券が協力を求めて、もしかしたら非難ゴーゴーの嵐を多少は避けるために日興シティーを引き込んだのかなぁ。

それに対してのACCESSのMSCB。
これはきちんと検証してみるとバリュークリックとの違いが多少なりとも見えてくる。
まずACCESSの時価総額は約1900億、それに対しての500億であるから、ダイリューションは約25%ちょいとなり、まあまあこれは通常の範囲だ。
本日株価が約18%下落したようで、しかもストップ安売り気配で売り物を残しては居るが、ダイリューション分はほぼ織り込んだ水準ではあると思う。
さらに、今回のACCESSの資金使途である。
レリースにはこうある。
『NON-PC端末向けソフトウエアーの開発並びに既存事業の拡大及び新規事業展開(テクノロジー・ポートフォリオの充実、研究開発人員の確保、市場占有率の獲得)に伴う資金に充当する予定であります』

正直私の頭では良く分からないが(笑)、要は今後の設備投資やR&Dに使う、と言う事であり、これは極めて前向きな使途であろう。
あまり表面的なCBの条件やバリューやらばかり見ていると見誤るケースがあるのだが、この「資金使途」は非常に投資家に取って重要な事項である事をしっかり頭に叩き込んで置かれる事をお薦めする。
やんややんや言われているヘッジファンド軍団の青目のファンドマネージャーの兄ちゃん連中もこれはしっかり押さえている。どんなに条件が良い発行であっても、この資金使途が後ろ向き(例えば今回償還が来る債券の借り換え、だとかそういった類のモノ)であれば、そこはしっかりディスカウントして向かってくる。
昨日書いたように、バリュークリックのケースはこれがもう一つはっきりしない。借り入れの返済等は分かるが、M&Aに対する資金プールのような目的はあまりにも漠然としている。
ライブドアのケースはそれが同じMAであっても、きちんとしたターゲットがあった。これは大きく違う。

もう一つこのACCESSとバリュークリックのレリースの違いであるが、それは潜在株式比率の項目である。
ACCESSの場合は、
『今回のファイナンスによる潜在株式比率は20.3%になる見込みです』
と書いた上で(ここまではバリュークリックと同じであるが)、さらに、
『潜在株式の比率は、今回発行する予約権が全て当初の転換価格で権利行使された場合に新たに発行される株式数を直近の発行済み株式数で除した数値です』
としっかり計算根拠を書いてある。
バリュークリックの場合はそれが無かったから私は推測で昨日は書いたわけだ。

ちなみに当初転換価格はバリュークリック同様、発行決議日の株価の終値に5%のプレミアムを載せた値段になっており、それは235万円である。500億円をこれで割れば、自動的に潜在株数が計算できる。
但し昨日も書いたようにこれはほぼ間違いなく最低限の株数である事には注意を要する。
来月から毎月第3金曜日に転換価格が基本的に90%に下方修正されていってしまうので、転換価格は株価がずっと一定だとしても下がる訳だからね。
もちろんこれからこの株がグングン上昇し、235万円をはるかに上回るケースが無いとも限らないので、『ほぼ』と言う表現にしたわけだが。
もっと正確に言うならば、転換価格は修正されるけれども、上下限が決まっているので、最大最小の潜在株は算出できる。
ちなみに上限価格は353万円、下限価格は118万円と決まっているようだ。

ブルーンバーグの記事等を読むと、「借株が容易に調達できその売り圧力を嫌気して・・」的なことが書いてある。
ライブドアの時もフジテレビの時もそうだったが、引受業者はその引き受けリスクを回避するため、特にMSCBのようなスキームにおいては間違いなく借り株は手当てしてある。
バリュークリックはライブドアが70%を占める株主であるからまず間違いなくそこから借りているだろうし、ACCESSの場合も大株主から野村は既に借りていると考えてよい。
通常の転換社債の場合はそれが転換可能になるまでには時間がかかるのに対して、MSCBの場合は転換開始日からさっそくガンガン売れるので、これは潜在株ではあるけれどほぼ間違いなく市場に出てくる。
それに対して通常のCBの場合、発行当初に決める転換価格に、これら同様大体プレミアムが載っており、さらに経験的に言うとパリティー(転換社債の理論価格)が120~130になってこないと転換は起こらない。(株価がその転換価格を20~30%上回ってくることと同義)
ゆえにモノによっては償還までに全く転換が起こらないものもある。
それらのケースはまさに『潜在株』であるが、MSCBの場合は言ってみれば『一時的潜在株』である。その『一時』ですらせいぜい1ヶ月程度であるが・・・。

しかしながら前にも書いたが、株って言うのはある程度の売り物が無いと上がらない、と言う説もある。
いつまでも売り物が無ければ誰も見向きもしなくなるわけで、売り物がきちんと出るのであれば、じゃあそれをしばらくしつこく買ってみようか、と動きも出てくる。
ダイリューションを株価に織り込ませる事は理論に叶っては居るが、その後実際に潜在株が出てきた時にどう考えるかはまた別問題であると言う認識もある程度必要である。

次回はもういちどきちんと転換社債と言う商品を見つめてみることにする。


バリュークリックジャパンのMSCB

2005-05-27 06:09:57 | CB教室
ロンドン出張であったので更新が出来ずにすみません。
さてLUNAさんから頂いたコメントに私は正直驚いた。バリュークリックのMSCB発行の件である。
早速プレスレリースを印刷して読んでみた。

まずその前にこのMSCB、何度か申し上げているように見方が2通りある。
一つは誰もが思う、当該株に投資していた人が、遺憾なく発揮されるダイリューションによって被る被害である。これは私の元ボスAさんもある小さなファンドを試験的に運用しているのだが、彼を持ってしても
「小鬼君、やっぱりMSCBを出されちゃうととりあえず売るしか手は無いよ...」
たださはさりながら、このような形であれどもその企業がそれだけの資金を手にすることによってそれが上手く回って長い目で見ればその会社の価値を結局は上げる事に繋がる、と言うのが別の見方である。
今時のMSCBは、かつて倒産寸前の、「もうその調達によって株主代表訴訟を起こしたいなら起こしてください、どっちみちこういう手を使ってでも資金を調達できなければ当社は破産するんです」的な切羽詰った感じが無い。
また金融庁からも「No Action Letter」が出ていると書いたが、現在ではそれは違法でもなければ倒産寸前のアップアップ状態での調達でも無いと思う。

しかしながら、それだったら出したいところはガンガン出せるか。
確かに出せるが、普通の会社は当然の事ながら出したがらない。
ここの部分の条件の詰めが、いわゆる引き受けマンの腕の見せ所であって、通常の会社にこんな話を持って行っても門前払いを食らうのが落ちだ。
普通の会社は自社の株価にそれなりのプライドを持っているから、当然株価が上がってそして高いところでCBの転換が起こって、通常の株主へもそれによるダイリューションの影響がダイレクトに響かないような配慮すら働く。
転換価格の下方修正条項だって、中堅どころの会社で大体年に1回を2回まで、さらに修正下限は当初転換価格の70%なり80%、と言うのが現在の一般的なCBの発行条件である。
もっと大きな会社になれば、当初の転換プレミアム(当初転換価格を決める際に、その決定日の株価に上乗せする部分)をかなり大きく取る。それも30%とか40%とかね。
昨日野村ロンドン主幹事で森精機と言う一部上場メーカーが100億円のユーロ円CBの発行を決議したが、これだって当初の転換プレミアムは20%を超えている。かなり投資家にとっては厳しい条件であった。

CBを発行する際にはその条件を決めるべくバリュエーションモデルと言うのがあって、それにその株価やらクレジット(信用度)やらなにやらかにやらをぶち込んで、そのオプションバリューを計算して、この銘柄なら条件的にここまでいける、いやこれ以上は難しい、の判断がなされる。
そして満を持して発行されるわけである。

しかしながら今回のこのバリュークリックのこりゃなんだ??
東証マザースのさほど大きくない会社がしかも100億円の調達、毎月第3金曜日に転換価格が90%まで下がるMSCB・・(このスタイルはちなみにフジテレビと同じだ)。
もちろんこの会社が100億発行しようとしたら例えば森精機のような条件での発行はあり得ない。
それにしてもこの会社の時価総額は190億程度しかないのに100億の発行って事はダイリューションは50%以上にのぼる。
これだけ取っても既に異常だろう。
あのライブドアだって40%くらいだったのに。ちなみにまともな銘柄ではせいぜい20-30%、30%だと結構大きいかなぁ、って印象が普通だ。
ちなみにレリースでは希薄化情報として、
『直近の発行済み株式総数に対する潜在株式数の比率は36.78%になる見込みであります』
とある。
正確な計算根拠は分からないが、100億円を当初の5%のプレミアムが乗っかった転換価格5492円で割ってやると、182万株と言う数字が出てきて、この会社の発行済み株数は大体500万株程度であるから、約35%と言う数字が出てくるのでそれを用いたと思われるが、これは完全なるミスリード情報である。
今後転換価格がどんどん下がっていく可能性が大な訳で、そうなると100億円を割るときの分母がどんどん小さくなるので、結果として生まれてくる株数はどんどん増えていくこととなり、発行済み株数に対する割合がどんどん大きくなり、この35%と言う数字が間違いなく上昇していく。
そこまでは簡単な算数であるが、つまり、発行済み株式数対潜在株式数の割合でダイリューションを計算しても何の意味も無いのだ!。だってその数はMSCBの場合は常に変動してしまうんだもん。
CB発行に際してもっとも大事なダイリューションとは、あくまでも時価総額における、CBの発行総額を計算してやらないと他の物との比較検討が出来ない。
つまりこんな情報をレリースに載せるだけ無駄であり、ミスリード要因に、「MSCBの場合は」なる。

当初転換価格は5%のプレミアムを載せては居るものの、このCBの転換開始は6月9日から。ちなみにそれ以降最初に来る第3金曜日は6月17日。つまりこの5%プレミアムが生きるのはわずか6営業日しかないので要はこんなのは100%であろうが500%であろうが関係ない。
6月17日以降は転換価格はその週の株価平均の90%に修正され、7月の第3金曜までそれは有効になる。

資金使途も非常に不明瞭でぶっちゃけ投資家を馬鹿にしているとしか言えない。
単に30億の借入金返済、10億の運転資金の計40億の発行なら、まあ理由は後ろ向きではあるけれど納得できない事は無い。しかしながら大半が将来のMA資金と言うのは、これは駄目でしょう。
ヘッジファンドどうのこうの、という話を良く聞くと思うが、彼らもプロの投資家、あるCBを買うに際しては実はこの「資金使途はナンなのか?」と言う事を非常に気にする。世間の常識で考えてもこの使途ははっきり言って言語道断。

割当先が日興シティーとライブドア証券。
まあライブドア証券の場合は例の初の主幹事案件のエフェクター細胞ってので失敗し、恐らくそれなりのポジションを抱えて評価損も出ているのではないかと邪推されるが、ここで90%のMSCB50億が入ればかなり楽になろう。
ただ私がそれ以上に許せないのが、日興シティーだ。
時がライブドアの買収合戦等の時なら私もさんざん書いてきたように容認はできた。しかしながら何も無い状態でいきなり常識外れの発行を決議させ、しかも資金使途も不明瞭な、そんなCBを出させるのに一枚かんでいたのが日興シティーなんて、地に落ちたと言わざるを得ない。
日興シティーは今まで結構きらりと光るCBの発行をしてきていただけに本当に残念だね。
これによる収益対評判を考えれば、どう考えても私はそろばんがあわないと思う。

私は立場上、今後のこの株価に対するコメントは正々堂々とは出来ないが、上述した事で私のスタンスが分かっていただけると思う。
重ねる。
このイシューはいけない・・・。