今の会社に入って最初の三ヶ月、私はデイサービスで働いていた。
ケアマネとして新設の老人ホームに異動するとき、デイの所長は言ったものだ。
「ホームは人間関係キツイわよ。三年経ったら全員入れ替わる世界だから」
それから三年半たった。所長の話はほとんど当っていた。
オープニングスタッフは、もうほとんど残っていない…。
この世界に入って驚いたのは、とにかくヘルパーどうしが壮絶に「潰し合う」ことだ。
もともと高齢者ケアに「正解」はない。反面それは、ケチを付けようと思えばいくらでもつけられる…ということでもある。
また、良いヘルパーは良い「気付き」をするものであるが、この「気付き」がまた際限がない。良く気付くものほど、仕事を抱え心配も増えて燃え尽きてしまう…ということが容易に起こりうる。
それに加えて、高くない報酬、勤続疲労による肉体的ストレス、社会的評価の定まらなさ…などが上乗せされるのだ。それで求人がいくらもあり、どこにいっても労働条件に大差ないとあれば、「三年で総入れ替えする」ほどの馬鹿馬鹿しい高離職率は、いつまでたっても維持されるだろう。
それにしても、なぜある種の介護者はああもイガミあうのだろう?
しばしば野犬の咬みあいのような光景に出会うたび、私は悲しくなるのだ。
現場労働者の回転率が良いのは、経営者にとってはマイナスばかりではない。
圧倒的に数の多い介護職員にウカツに結託されたら、労働条件を改善させなければならない。それだったら適当にヤメテもらったほうが…という体質の会社も、この業界にはずいぶん多いと聞く。
労働者どうしがツブシ合い、消耗し合うのを眼下に経営陣が田園調布に邸宅を構える…という、「資本論」か「蟹工船」の世界みたいな古典的な相互疎外と搾取の関係が、介護の現場にはある。
そういうのから、いい加減に脱しようではないか…。
私は、約十五年前から福祉の世界にいる。だから、コトがそんなに簡単でないことも知っている。
でもねえ、昔で言えばいずれ長屋の店子どうしじゃないか。
無闇にイガミ合うのはやめようよ。
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ケアマネとして新設の老人ホームに異動するとき、デイの所長は言ったものだ。
「ホームは人間関係キツイわよ。三年経ったら全員入れ替わる世界だから」
それから三年半たった。所長の話はほとんど当っていた。
オープニングスタッフは、もうほとんど残っていない…。
この世界に入って驚いたのは、とにかくヘルパーどうしが壮絶に「潰し合う」ことだ。
もともと高齢者ケアに「正解」はない。反面それは、ケチを付けようと思えばいくらでもつけられる…ということでもある。
また、良いヘルパーは良い「気付き」をするものであるが、この「気付き」がまた際限がない。良く気付くものほど、仕事を抱え心配も増えて燃え尽きてしまう…ということが容易に起こりうる。
それに加えて、高くない報酬、勤続疲労による肉体的ストレス、社会的評価の定まらなさ…などが上乗せされるのだ。それで求人がいくらもあり、どこにいっても労働条件に大差ないとあれば、「三年で総入れ替えする」ほどの馬鹿馬鹿しい高離職率は、いつまでたっても維持されるだろう。
それにしても、なぜある種の介護者はああもイガミあうのだろう?
しばしば野犬の咬みあいのような光景に出会うたび、私は悲しくなるのだ。
現場労働者の回転率が良いのは、経営者にとってはマイナスばかりではない。
圧倒的に数の多い介護職員にウカツに結託されたら、労働条件を改善させなければならない。それだったら適当にヤメテもらったほうが…という体質の会社も、この業界にはずいぶん多いと聞く。
労働者どうしがツブシ合い、消耗し合うのを眼下に経営陣が田園調布に邸宅を構える…という、「資本論」か「蟹工船」の世界みたいな古典的な相互疎外と搾取の関係が、介護の現場にはある。
そういうのから、いい加減に脱しようではないか…。
私は、約十五年前から福祉の世界にいる。だから、コトがそんなに簡単でないことも知っている。
でもねえ、昔で言えばいずれ長屋の店子どうしじゃないか。
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「自分が苦しんでいるのと同じ苦しみを、他人が全くそのままに味わっているのを見たいという欲望。だからこそ、社会的不安定の時期は別として、悲惨な境遇の人々は、その恨みを自分と同じ境遇の人々の方に向けるのだ。このことが社会的安定の一つの要因となっている」(シモーヌ・ヴェイユ 重力と恩寵)ヴェイユが工員をしていた時、体験として感じ取ったものでしょう。
「自分が不幸なときに、じっと不幸を見つめられる力をもつには、超自然的パンが必要である」
でも、「清められるための一つの方法、。神に祈ること。それも人に知られぬようにひそかに祈るというだけでなく、神は存在しないのだと考えて祈ること」厳しすぎます、ヴェーユ姉さん。なんか辛くなってきたので「芝浜」でも聴いて寝ます。いや「文七元結」にしようか。
では、おやすみなさい。