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「虚空の眼 / フィリップ・K・ディック」 書評    

2005-03-05 | 英米小説・文学

タイトルに惹かれたのが読み始めのきっかけだった。「虚空の眼」とは一体ナニ?。


この小説でフィリップ・K・ディックは個人の脳に潜んでいる多様な世界の有様を描いた。世界とは個人の価値観が作り上げる世界のことである。

個人の多様な価値観に注目し、言語で映画のような世界を構築してしまった。登場人物たちが見ている各々の多様で不気味な世界を映し出すことに成功した。

虚空の眼 (創元推理文庫)


私たちが生きている現実の世界は、多くの「生き物や物」と「観念」で構成されている。「生物や物」が「観念」に依存している、と言える。「観念」とは個人の解釈(=主観)に依存している。それは脳内に存在している。同時に私たちを支配している。

例えば、同じ犬を見ても、一人は可愛いと頬笑み、もう一人は怖いと拒絶する場合、、、その理由は対象への解釈が異なっているからだ。同じ音楽を聞いても、同じ絵画を見ても、、、人々の解釈は異なる。人間の思考・感情は己の解釈(=主観)に依存している。


だから「主観」こそが、その人間の住む現実の世界である。ディックはそこに着眼した。

もし私たちに他人の脳を映像として覗き見ることのできる能力が備わっていたら、日々の生活は実に暗澹たる時空間に変質し、生きることは極めて困難になるに違いない。他人の思考が見えるのである!恐ろしい限りだ。ディックはそれを描いた。

美と善だけを信ずる世界、穢れのない世界、ロシアの存在しない世界、、、などが登場している。指を鳴らせば全てが消えてしまう世界もある。そして、それらの世界の結末を見せてくれる。私はその結末に驚いた。

そして、最後あたりで『虚空の眼』の正体が暴かれる。小説『虚空の眼』はディック初期の最大傑作!と言われているそうだ。退屈した日常をかっ飛ばしてくれる奇想天外な作品であった。

私たちは己の解釈したものを使い思考を構築させていく。言語という表現手段を主体にしてコミュニケーションを計っている。でも、それはほんの一部である。人間の脳内に渦巻く非言語的な的思考の全貌はディックが描くように凄まじい世界であるかもしれない。他人の脳を見てみたい。その前に自分の脳内風景を俯瞰できれば、、、面白いのか、恐ろしいのか、、、不可能なことに妄想が拡がる。

お薦め!

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