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「神大紛争」とは何だったのか① 吹き荒れたストと封鎖

2019-10-22 11:30:05 | ニュース
 10月27日(日)に「50年目の卒業式」が六甲台講堂で行われる。大学紛争の影響で行われなかった1969(昭和44)年3月の卒業式を、この学年の卒業生自らが企画して開催するものだ。当時、全国に吹き荒れた「大学紛争」とは何だったのか。神戸大の「紛争」はどのような経過をたどったのか、大学に残る記録をたどった。<小野花菜子>


(写真:戸田義郎・学長事務取扱も参加した「全学大衆団交」。1969年、六甲台講堂で。 画像提供=神戸大学文書資料室。)

 1960年代後半には、ベトナム戦争や1970年の日米安保条約改定への反対運動のうねりが、全国の大学に波及し、さまざまな学生運動がキャンパスで起きた。
 1968年、学生による授業放棄、ストライキ、建物の封鎖占拠のいずれかが起きた大学は、全国の4年制大学の34%(127校)にのぼる。翌1969年、この数字は41%(153校)と、さらに増えることになった。(京大社会学研究室 小杉亮子:東京ドイツ文化センター)
 これを、「大学紛争」あるいは「学園紛争」という。

発端は住吉寮 1968年12月5日に本部封鎖

 神戸大の紛争の発端は、住吉寮だった。
 1964(昭和39)年に文部省から各国立学校長あてに届いた「2.18通達」によって、学生寮の管理運営に関する経費の負担区分の基準が設定され、寮生が負担する経費が増えることが問題視された。
 住吉寮生は「寮5項目要求」として寮費督促白紙撤回や燃料費の国庫負担などを、大学側(評議会)に求める。
 1968(昭和43)年12月5日の夜、ついに住吉寮生が本部事務局(当時は六甲台本館にあった)を封鎖。その後、ストライキと封鎖は医学部を除く全学部に波及していった。

 学内では、このほかにも、狭い学生食堂、一般教育科目の選択の自由が狭められていたことなど、学生からはいくつもの不満が噴出した。さまざまな「改善」、「改革」の要求が雪だるま式に増え、各学部の学生大会が相次いでストライキを議決。拡大していくことになった。


(写真:ロッカーや机を積み上げたバリケードで封鎖された六甲台正門。1969年撮影。 画像提供=神戸大学文書資料室。)

ストライキと封鎖が全学に波及 卒業式・入学式が中止に

 こうした中、大学側の先頭に立ったのが、戸田義郎・経営学部教授だった。1968年12月に病気で辞任した八木弘学長(法学部)に代わり、学長事務取扱に就任した(のちに学長)。
 六甲台、教養部(現在の鶴甲第1キャンパス)、文学部、工学部などの校舎が次々と、机やロッカーでバリケードが張られ封鎖された。授業が行えなくなる異常な事態が学内に広がっていく。紛争の構図は「大学側」対「学生側」といった単純な構図から迷走。ノンポリ(学生運動に参加しない)の学生もいた一方で、様々なイデオロギーをバックにしたセクトもからみ、さらに他大学からの活動家の介入、暴力(ゲバルト)も横行したため複雑な様相を見せた。
 こうしたなか混乱の中、1969年3月の卒業式は中止に追い込まれた。卒業生は、卒業証書を様々な方法で受け取ったという。そして、4月の入学式も中止となった。


(写真:戸田義郎・学長事務取扱。 1968年度卒業アルバムから。)

正常化求める声 1969年8月8日、全学の封鎖解除へ

 泥沼化する紛争に対し、正常化を求める声も広がる。
 国会で「大学の運営に関する臨時措置法」の制定に向け審議が進められるとともに、学内では一年生を中心に封鎖解除や授業開始を求める声が高まることになる。
 1969(昭和44)年7月12日、須磨区高倉山の団地造成地で、5000人の学生・教職員が参加して全学集会「全神大人結集集会」が行われた。
 この集会は大学側が解決を目指して企画したものだったが、一部学生の妨害とヘリコプターの騒音などで、約10分で打ち切られた。


(写真:高倉山造成地(須磨区)で行われた全学集会 1969年7月12日)

 夏休みの最中の8月8日、神戸大は封鎖解除に踏み切った。教職員の手によってまず経済学部・経営学部・法学部、教育学部、教養部の封鎖解除が行われた。
 最後の勧告が出された後、バリケードが次々に撤去されていった。
 同日中に文学部、理学部、工学部の封鎖も解除された。
 そして9月以降、各学部で講議が始まり、学内は平常に戻っていった。

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 1969年の封鎖解除によって、大学紛争の嵐は次第に去っていった。
 そして、1970年代のキャンパスには、「大学のレジャーランド化」と揶揄されるそんな時代がやってきたのだった。
 <続く>

《1968年〜1969年 神戸大の主なスト・封鎖の状況》
 (神戸大学教養部年表より)
12月 5日 本部事務局、学生部 封鎖。
12月19日 教養部で無期限スト突入。
12月20日 工学部学生大会 スト決議。
 1月 9日 工学部学生大会 改めてスト決議。
 1月16日 評議会団交が物別れ。神大紛争エスカレート化。
 1月18日〜19日 (東大 封鎖解除)
 2月 3日 教養部学生大会 スト続行案可決。
 2月 5日 農学部学生大会 スト決議。
 2月10日 教養部A棟 封鎖。
 2月12日 第2課程学生大会 学舎封鎖。
 2月15日 法・経済・経営学部学生大会 月末までスト決議。
 2月17日 教養部B棟 封鎖。
 2月17日 文学部学生大会 スト決議。
 2月24日 理学部学生大会 スト決議。
 3月 1日 法学部学生大会 スト決議。
 3月10日 経済学部、経営学部学舎 封鎖。
 3月10日 (神戸商船大本館 封鎖)
 4月 2日 新入生の自宅待機決定。
 4月 5日 文学部学舎 封鎖。
 4月10日 入学式中止決定。
 4月11日 新入生受け入れ集会、一部学生の妨害で荒れる。
 5月 6日 教養部C、D棟に封鎖拡大。
 5月 7日 工学部学部長室など封鎖。
 5月11日 工学部建築学科棟 封鎖。
 5月15日 法学部第2学舎 経済経営研究所 封鎖。
 5月17日 教育学部部長室など 封鎖。
 5月18日 教育学部学舎2階以上 封鎖。
 5月19日 教育学部学舎2階以上 自主解除。
 5月21日 教育学部学部長室など 封鎖解除。
 5月23日 六甲台3学部有志連合等 法学部と経済経営研究所を封鎖解除。
 5月24日 法学部と経済経営研究所 再封鎖。
 5月28日 (神戸商船大、岡山大 封鎖解除)
 6月 7日 理学部生物学科B棟研究室 封鎖。
 6月11日 理学部学舎全館 封鎖。
 6月14日 (関学 学生の手で封鎖解除)
 6月26日 工学部学舎全館 封鎖。
 7月 5日 教育学部学舎全館 封鎖。
 7月12日 高倉山造成地(須磨区)で全学集会 一部学生の妨害で大混乱。
 7月22日 経営学部学生大会 スト解除決議。
       経済学部学生大会 スト解除決議。
 8月 8日 神戸大 全学封鎖解除。
 8月18日 経済、経営学部 授業再開。
 8月19日 法学部 授業再開。
 8月29日 工学部学生大会 条件付きスト解除決議。
 9月16日 工学部 授業再開。
       教養部 全面的に授業再開。
 9月22日 (京大 封鎖解除)
11月 8日 (北大 封鎖解除)
11月10日 理学部 授業再開。
11月10日 農学部学生大会 スト中止への動き。
11月15日 文学部 授業再開。
11月16日 (阪大 封鎖解除、授業再開)
11月20日 農学部 授業再開。全学1年ぶりに正常に戻る。

▽神戸大学教養部年表(昭和43年〜46年)=附属図書館サイト
 http://www.lib.kobe-u.ac.jp/bunsho/funso/kyoyo3-6.pdf

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