キツネノマド

松岡永子
趣味の物書き
(趣味とはなんであるか語ると長くなるので、それはあらためて)

図書館はどこですか

2015-11-08 07:58:26 | コトリの宮殿
 今度は甘い悲鳴のようなかぼそい少女の声だ。
――図書館はどこですか。
 見まわしても誰もいない。木立の蔭にも霧の中にも人影はない。さっきからずっと。
――図書館はどこですか。
 いろいろな声が皆、同じことを同じように尋ねる。姿はなく、森の空を声だけが飛びかっている。
――図書館をお探しですか。
 振り向くと男が立っていた。司書なのだと、なぜだかわかった。
――いいえ。
 そう答えながら、歩き疲れていたわたしは彼の勧める石のベンチに腰掛け差し出された水を飲んだ。
――宿をとるために町に出たいだけなのです。それにしても。これだけ電子媒体が進んだというのに、まだ図書館を求めるものが多いのですね。
――言葉は物理的な形を欲しがるものなのでしょう。触れるものは確実だと信じやすいですから。
――わたしはわたしの物語を探しています。図書館にはいません。彼女はあまりにも誇り高いのでとらわれていることを潔しとしないでしょう。
――ええ、お見かけしたことはないように思います。
 町への道を教えてくれたあと、男が言った。
――気が向いたらいつでも、いらしていただいて結構ですよ。あなたは既に一つの物語なのですから。

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