キツネノマド

松岡永子
趣味の物書き
(趣味とはなんであるか語ると長くなるので、それはあらためて)

泉のほとり

2020-02-07 07:17:41 | 掌編
水を汲み上げる。きのう雑貨屋で買った安物のポリバケツだけれど、そんなことは関係ないらしい。腕ほどの長さの筆に泉の水を含ませ、敷石に古い詩を書く。向こうでは 錆びたペンキ缶を使っている人がいる。簡素な道具だけれど、筆の入れ方、運び方、止めも払いも端正で、見惚れるほど美しい。 彼が一編の詩を書き終えると、途端に文字は蒸発してしまう。跡形もない。この泉に御座すのは文芸を司る女神だという。嘉せらるればそ . . . 本文を読む