朝8時に目覚め、甲板に出てみると、霧がかかっていた。真っ白な世界を、25ノット(時速45㎞)で進んでいく。全長190m、11400tの巨体は大きく上下に揺れるだけで、安定している。
10時ころになると霧が晴れて、陸地が見えた。スマホのMapで確認すると、岩手県沖を航行しているようだ。見覚えのある場所はないかと目を凝らすと、女房のいる大船渡らしい湾口が見えた。さっそく、Lineで女房に朝の挨拶を送ると、女房からも返信が来た。
10時30分ころ、苫小牧港を出て大洗に向かっている船とすれ違った。汽笛でも鳴らすかと思ったが、静かに通り過ぎて行った。甲板にも人影はなかった。
苫小牧港には19時45分に着岸したが、小雨が降っていた。松戸の人は、今夜は苫小牧に宿泊し、稚内に向かうとのこと。私は、道東に行くので、逆方向ですね、と言ってエールを送り合い別れた。
腹ごしらえに港にある店でホッキ丼でも食べたかったが、閉店していたので、今夜の宿をお願いした友人宅がある岩見沢に向かうことにした。岩見沢まではR234号をただまっすぐ走ればよい。約80㎞の道のりだ。
R234号は、トラックしか走っていなかったが、本州と比べてやけに大型のトレーラー型が多く、どの車も80㎞/h以上出している。こちらは路面が濡れているうえ、轍にはまるとハンドルを取られるので、80km/h出すのが精いっぱいで、ただスリップ転倒だけしないよう気をつけて走った。
2時間ほどで到着し、旧交を暖めた。といっても、昨年も7月に会っている。大学時代の山岳部仲間なのだが、独身を貫いており、いつでも気兼ねなく泊めてくれる。共通の友人の近況など聞きながら夜更けまで語り合った。
翌朝6時に起床し、出発だ。雨は上がっているが、空はいつ落ちてきてもおかしくない厚い雲だ。R234号を追分まで戻り、道東道に入ろうと思った。走り出して30分ほどでぽつぽつと落ちてきた。
ライダースーツは多少の撥水性はあるので、カッパを着なくても大丈夫かな、と5分ほど走ったところで、急に雨脚が強くなり、まるでバケツで水をかけられたように、一瞬で下着までずぶ濡れになった。
「あ~ぁ、早くカッパを着ればよかった」と後悔したが、濡れてしまったものは仕方がない。そのまま走り続けることにした。スマホのナビに釧路湿原を入れておいたら、道東道には追分ICではなく、夕張ICから乗るよう導かれた。雨脚は相変わらずだったが、轍がない分走りやすい。
激しい雨に打たれながら考えるのは、どうハンドルを制御するかというその一点だ。自分がこれまで磨いてきた技術が試されている、と思うと楽しくなる。
そして、穂別を過ぎたあたりからトンネルの連続区間となった。路面は少しウェットだったが、雨さえなければ、100㎞/hを維持するのはたやすい。しかし、トンネルの外は23℃くらいだったのに、トンネルの中は5℃は低く、ずぶ濡れのまま走っていると、寒さで凍えそうになってきた。
トンネルを抜けたところに十勝平原PAがあったので、暖をとることにした。テントは置いてきたが、コッフェル(鍋)とガスコンロは持ってきたので、お湯を沸かしコーヒーを飲もう。朝飯もまだだったので、カップラーメンを食べることにした。
隣にハーレー乗りが休んでいたので声をかけると、秩父でバイク屋をやっているとのこと。お客に声をかけて北海道に出かけてきたそうで、何人かが別ルートで走っているらしい。電話をかけて安否確認しているとのこと。この雨では、さぞ心配だろう。
小一時間休んでいたら、雨は小降りになり、やがて通り過ぎて急速に晴れ間が広がってきた。天気予報では、道東地方は曇り時々晴れとなっていたが、天気予報が当たったようだ。
道東道をさらに進んでいくと、日高山脈の山岳地帯を過ぎ帯広平野へと入った。牧場が広がり、北海道らしい景色が続く。ああ、この道を走りたくて俺は来たんだなぁと空気を思いっきり吸い込んだ。
しかし、ここで問題が一つ起きた。道東道にはGSがないのだ。地図を調べると、由仁PAという札幌に近いところにあるのみで、この先終点までない。あと100㎞はあるだろう。岩見沢を出る時に入れてくればよかったが、まだ朝の6時でどこも開いていなかった。
オドメーターは180㎞を示している。高速走行をしてきたので、そろそろFuel警告灯が点くころだ。こういう時のため、私は2.5Lの携帯タンクを積んでいるのだが、それでも100㎞は走れない。PAでタンクからガソリンを補給し、GSのありそうなICを探した。下手なところで降りると人家のない原野ということになりかねないのが北海道だ。
音更帯広ICというのがあったので、帯広ならGSくらいあるだろうと思い降りた。帯広駅の方角に走っていくが、見当たらない。R241号(足寄国道)で十勝川を渡ったところにようやく見つけた。メーターを見るとなんと、250㎞を走り続けたことになる。12.5L給油できたが、これは今までの最長記録更新だ。
また、ICに戻り一路釧路を目指す。道東道は、本別JCTで阿寒湖方面の足寄ICと、釧路方面の本別ICに分かれていたので、本別ICで降りた。釧路湿原まであと50㎞。朝6時に走り始めて、すでに7時間走っている。しかし、気温が低いせいか疲れは感じなかった。
前回(2010年)は釧路まで行ったものの、霧のため何も見えなかった。今回はそのリベンジのため釧路湿原を見たいと思って出かけてきた。前回テントを張った山花公園を通り過ぎ、釧路湿原展望台の案内標識に従って進む。
展望台には14時過ぎに着いた。展望台から釧路湿原を一望できた。
時間があれば、遊歩道など散策したかったが、4月から友人の牧師が釧路にある教会に赴任したので、そこにも挨拶したいと思い、展望台の中の展示だけ見て後にした。
途中の草原に、白いものを見かけたので、何だろう?羊かな?と思いバイクを止めて近寄ってみると、タンチョウヅルの夫婦だった。ツルは冬しかいないのかと思っていたが、夏でも見られて感激した。
また、釧路には、ソーラーパネルがたくさん設置されていたが、千葉のものと比べると、角度が驚くほど急傾斜だった。詳しいことはわからないが、太陽の平均高度に基づいて設置されているのだろう。
こんなところにも緯度の違いを感じられて新鮮だった。友人の教会は釧路市ではなく、湿原に近い釧路郡釧路町にあったが、イオンのショッピングモールができて釧路市より便利だと話していた。イオンはどこの街でも駅や市役所並みのセンター的な役割を果たしているのだと納得した。
釧路湿原を貫く釧路環状道路
友人に別れを告げ、釧路ではホテルに泊まろうと思っていたが、別の友人が帯広の近くにいることを思い出し、ついでだから会って行こうと電話してみると、ぜひ泊まりに来いと誘ってくれたので、お言葉に甘えることにした。
西の空には真っ赤な夕焼けが広がり、明日も天気がよさそうだった。
本日の走行距離 440km。
道東は広くていいですけど、天気が悪いと
最悪ですね。前回北海道に行ったとき風雨
が強い状態で野付半島と根室に行って、夏
なのに手先がかじかんで大変でした。
釧路湿原ですが、あまりに湿原が広す
ぎて、西側と東側の展望台に行ったの
ですが、八島湿原のような親しみ易さ
がなかったです。
山岳部は極限状態で行動をともにするの
で何年経っても友人関係が続くのですね
うらやましい限りです。
航続距離が短いということがFZX唯一の弱点ですね。
200kmを余裕で走ってくれたらツーリングの友とし
てベストな選択なのですが。
残念ですがもうこのようなバイクは出てこないです
ね。
ところでいつも楽しいレポートで楽しく拝見いたし
ました。今回は道東が目的地だったのですね。北海
道らしくて雄大な風景が広がります。
最近は長距離を走るのが体力的にきつくなり、気に
入った場所に滞在して周辺を散策するパターンにな
っています。
次回のレポート楽しみにしています。
仰せの通り釧路湿原は大きいですね。尾瀬ヶ原も広いですが、周りが山なので狭く感じます。釧路湿原は捉えどころがない広さを感じるのが魅力なんでしょうね。
今回の釧路湿原は、前回のツーリングのやり残しです。これであとは道南を残すのみで、ほぼ北海道の道は走りました。
私はどちらかと言えば、道を走っているのが楽しいので、一か所だけでは物足りなさを感じてしまいます。きっとこれからもそうだと思います。