
北海道の旅を終え、とうとう車検の日が近付いてきた。熟慮した末、私は更新せず手放すことにした。ガレージに置いておいても良いのだが、走れないバイクは場所をとるだけだし、私が突然あの世に行くことになったら家族が持てあますと思うからだ。
それなら、万が一だとは思うが次の人の手に渡って乗ってもらう方がよほどFZXのためにはよいのではないかと思った。以前にも千葉でお世話になったバイク王に査定を依頼した。盛岡店からスタッフがトラックでやってきた。当日は雨だったが丁寧に査定してくれた。
走行距離はというと、84351㎞だった。地球2周分だ。
で、査定額はというと前回は10万キロ超だったので0円だったが、今回は10000円だった。まあ、私が8万キロ走ったバイクを買うかというと部品取りでもない限り絶対に買わないので、仕方のない金額だ。前回もバイク王に売却したと言うと、記録を調べてくれて「ああ、確かにご利用いただいていますね。では、リピート特典でクオカードを1万円分差し上げます」と言ってくれた。
必要書類にサインすると手際よくトラックに積み込み、去っていった。
私のFZXな日々は2002年12月から始まった。ヤフオクに出ていたFZXを133,000円で落札したのだ。2AKという初期型で走行距離は21000㎞だった。初めての大型二輪車で、実際に送られてきてみると、それまでグランドアクシスという原付2種のスクーターに乗っていた私には手に負えない代物だった。ただ大型二輪の免許があるというだけでツーリングをしたいという一念で購入したのだ。
ネットでツーリングクラブを探し、TMTC(Tokyo Metoropolitan Touring Club)というクラブが車種や年齢は問わず誰でも参加できるというので、入れてもらった。しかし、50歳というのは最高齢で、他のクラブ員は20代、30代の若者だった。でも、皆さんがド初心者の私にも親切に大型バイクとの付き合い方を教えてくれた。
初めてのロングツーリングは三崎だった。晴海に集合し、横浜新道から藤沢橋~葉山~三崎と走って、「ちりとてちん」という店でマグロを食べるというものだった。この日のために、毎夜R16号界隈を慣らし運転した。FZXだったからこそ乗りこなせたのだと思う。足つきの良さや教習車にも使われたマイルドな性能は初心者にはとても乗り易かった。
近くの公園でバイクを並べ記念撮影したが、整然と並ぶ他のクラブのバイクの後ろに排気量もメーカーも全くばらばらのTMTCのバイクを並べて楽しんだ。
それから毎月開催されるTMTCのツーリングには、ほとんど参加させてもらった。高速道の走行にも慣れ、行動範囲は関東一円に広がった。TMTCも居心地の良さが人を呼んだのか、メンバーがどんどん増え、ツーリングにも20台以上が集まるようになった。
2005年には、東北ソロツーリングにも挑戦した。龍飛崎にあるという石川さゆりの「津軽海峡冬景色」の歌碑や、八甲田山、ねぶた祭りを見るためにテントを背負って東北各県を走破した。
また、ベスト・バランス・インターナショナル(BBI)というバイク店と巡り合ったのも幸せだった。この店もネットで見つけたが、旧車専門に丁寧な整備をしてくれた。ベストバランスというのは、性能を追求する人には最先端のオイルや資材を使い、私のような貧乏人にはそれなりの性能のものを使ってくれるというバランスを考えてくれるのだ。
業平の狭い路地の角にあって、自転車屋に毛の生えた程度の店構えで、他のショールームのようなバイクショップとはかけ離れていたが、腕だけは確かだった。すぐそばにスカイツリーが建設され、街並みもすっかり変わってしまうと、いつのまにか店はなくなっていた。
そして何よりも私のFZXな日々を豊かにしてくれたのがFZX友の会との出会いだ。「YAMAHA FZX750オーナー&元オーナーの交流掲示板」を中心にFZXという同じ車種を持つあるいは持っていた者が掲示板に書き込むという、今でいうところのSNSの始まりのような形態で、ほとんどがメカに関する相談だったと思うが、意見を交わしていた。
また、2010年には民主党政権になって高速道一律1000円というのが実施され、全国の高速道路を思う存分走ることができた。そして高知在住のFireStomeさんの誘いに乗り、FZX友の会で土佐ツーリングを開催した。ソロではロングツーリングをしていたが、マスでは泊りを含むツーリングは初めてだった。
全国各地から参加者があったが、まだガラケーの時代でスマホのLINEなどのアプリもなかったので、連絡がリアルタイムにできずタイムラグがあり、他のメンバーと落ち合うのにとても苦労したのも昔話だ。
やがてmixiにも同様のコミュニティができ、オフ会も開かれたりするようになり、FZX誕生30周年の2016年5月には製造元であるヤマハのコミュニティプラザにツーリングがてら集まったりもした。この時には、全国から12~3人のFZX乗りが集まったのではないかと思う。
TMTCやFZX友の会の人々との出会いは私のFZXな日々をとても豊かにし、忘れがたいものにしてくれた。何人かの人々とは、今でも交流が続いているし、私がFZXを下りてからもずっと続いていくことだろう。
私がFZXに出会ってから3台のFZXを乗り継いだ。いずれも中古車だったが、1台目は8万キロメートル、2台目は事故で失ったので6千キロメートル、そして今回の3台目が7万5千キロメートル、Totalすると161,000キロメートル走行した。
次は他の車種にしたら、と何度か言われたが、ストックしてあったパーツを無駄にしたくなかったことと、何よりFZXに不満がなかったことが大きい。十分すぎるパワーとロングツーに出ても故障したことがない信頼性。唯一の不満はタンクが小さすぎることくらい。これも、携行タンクを持ち歩くようになり解消された。
ざっと地球4周分。22年の間にいろいろな道を走り、いろいろな景色と出会い、いろいろな人々との出会いがあり、FZXな日々は私の生活の一部ではなくほとんどを占めていたような気がする。
このブログも最初は単なる自分の個人的ツーリングの記録だったのだが、いつしかツーリングに出かけた楽しい場所を多くの人に紹介したいという目的を持つようになった。残念ながらもうその目的を果たすことができなくなったので、ひとまず筆をおくことにしました。
バイクに乗っているひと時の幸せが、読んでくださる人々に少しでも伝われば望外の喜びです。
拙いブログにお付き合いくださり、コメントを賜った皆様に心からの感謝と敬意をこめてお礼を申し上げます。本当にありがとうございました。
近年コロナ期間でなかなかお会いすることがかないませんでしたが、FZXオーナー掲示板ツーリングでたくさんお世話になりました。
キムさんのブログが楽しく何回も読ませていただき、たくさん勉強させていただきました。
私もキムさんの様に人生を謳歌し楽しみたいと思います。
カスタムというのは、こんなことができるんだ、とイタさんのFZXを拝見して目からうろこでした。岩手に来てみると、千葉というのは、バイク乗りにとって恵まれた場所だったなぁと思う点がたくさんあります。
どうぞ、これからもバイクと共にある生活を楽しんでください。ただ一つ私からアドバイスをするとしたら、「無事これ名馬」です。事故は自分だけでは避けられませんから。
今までありがとうございました。そしてこれからもよろしくお願いします。
これまでキムさんのブログに影響を受けました。キムさんが北海道ツーリングに行かれたのを読んで同じように北海道ツーリング計画を立てたり、能生にカニを食べにいったり、ビーナスラインを走ったりと楽しく過ごさせていただきました。
竜馬銅像の前の写真は懐かしいですね。私の古いブログはちょっと見れなくなってしまいましたが、高知よさこいツーリングの時は海に向かって腕を出した?記憶がまったくありません(笑)
また、TMTCで伊豆の深海魚料理を食べたことも思い出しました。私も70歳までは大型に乗り続け、そしてバイク静かにバイクを降りたいと思っています。
FZXでの旅の記録はもう見れなくなってしまい残念ですが、今後ともよろしくお願いします。
いつも暖かいコメントをありがとうございました。たかぴいさんに伊豆の三津からだるま山高原展望台に案内していただいた日のことは今でも覚えています。それまで東伊豆しか知らなかった私に、西伊豆のすばらしさを教えて頂き、ツーリングの幅がぐっと広がりました。
また、私とは対照的に数多くのバイクを乗りこなしてこられたたかぴいさんのお話は新鮮でしたし、説得力がありました。車に関してもそうです。今では車中泊の達人になられたようですが、旅人の心は同じだと思っています。
このブログは更新はできないと思いますが、即削除とは考えていませんので、しばらくはご覧いただけると思います。
これからもよろしくお願いいたします。
今から10年以上前に購入したのがFZXですぐに手放してしまったのですが、時々ブログ拝見していました。主様のバイクへの熱量素晴らしいです。悲しい気持ちもありますが、お元気でお過ごし下さい。
>お疲れさまでした!... への返信
コメントをありがとうございました。
バイクへの熱量は、いまだに衰えず(笑)大型は下りても軽2輪で細々とバイク生活を続けようと思っています。
名無しさんはFZXを手放しても、まだバイクには乗っておられるんでしょうか。楽しいバイク生活をお過ごしください。