子供の頃にこんな遊びをした事はないだろうか。
たとえば商店街の歩道のタイル。
色を組み合わせて敷いてある。
その中の白いタイルを踏んだら駄目とか、自分でルールを決めてピョンピョン飛ぶ。
母親に
「早く歩きなさい」と言われて、白のタイルを踏んでしまって
「あーあ」ってなって終わり。
俺の場合は、それがマンホールだった。
下に水が流れる音とが聞くと吸い込まれそうな感覚になる。
マンホールの場合、あまり親には注意をされなかった。
雨が降ったら滑りやすいとかで、踏まない方がかえっていいと思われていたからかもしれない。
ずっと決めたルールを守ってきた時に外国の作家の短編集で、敷石を踏み外して子供が消えてしまう話を読んでから、余計にやめれなくなった。
密かな、そして大人になるととても子供じみて馬鹿らしいルール。
しかし俺は、20歳を超えた今でもこのルールを守り続けている。
大学を卒業し、ある企業に就職が出来、彼女も出来た。
ある日、彼女とのデートで腕を組んで並んで歩いている時、数メートル先、俺がこのまま歩くとマンホールを踏んでしまう事に気がつく。
心で葛藤が広がる。
どうする・・・いつものように避けて通るか・・・。
しかし、彼女と腕を組んでいる今、その腕をほどいてマンホールをよけるのはあまりにも不自然だ。
迷っているうちにどんどんマンホールが近づいてきて・・・とうとう・・・
踏んでしまった。
シュポッ!
と落ちる感じがした。
思わず目を閉じる。
「どうしたの?」
彼女の声が横でした。
目を開けると、俺は別にどこにも落ちているわけでもなくマンホールの上にのっているだけだった。
「いや・・・ごめん。目にゴミが入ったんだ」
と俺は慌てて言い訳をした。
やっぱり、とても馬鹿らしい子供じみたルールだったのだ。
大げさだか、やっとその呪縛からとけたのだ。
「さあ、この先に美味しいパスタの店があるんだ」
俺はそういうと彼女とまた歩き出した。
その日の夜。
俺は彼女との楽しかった1日を思い出しながら眠りについた。
そして、夢を見た。
俺は暗いところにいた。
かろうじてわかるのは、それはどこかにずっと続いているという事。
俺は出口を探し歩き続ける。
薄暗いがぼんやりと道は見える。
ずっとずっと歩き続けた。
よく朝起きるとひどい疲労感に襲われた。
ずっと夜中に歩き続けたような感じだった。
きっと、昨日ルールを破った罪悪感から見た夢なのだ。
しかし、あまりの疲労感にその日は、仕事も定時に終わらせて、家に帰って早めに就寝することにした。
寝たらこの疲れも取れるだろう。
楽しい事を考えて眠ろう。
俺は眠りについた。
ところが、この日の夢も暗い道を歩き続ける夢だった。
夢の中で疲れて座り込んで横になるが、夢の中でまた横になるわけなので眠れるはずもなく、そこで目が覚めた。
寝なおすとまたその続きになる。
もしかすると・・・
俺はひとつの仮説に行き着く。
マンホールを踏んだ時
「シュポッ!」と音が聞こえたような気がしたのは、この事だったのかと。
出口を見つけなければと焦る。
しかし、暗い道が続くばかり。
必死で出口を探しさ迷い歩く。
翌日の疲労感は大変なものだった。
仕事にも影響をする。
毎日、毎日、夢の中で暗い道を歩き続ける。
疲れが取れず、会社の上司から病院に行く事を進められ、休暇をとるように言われる。
ここで休んでしまえば、俺は確実に落ちこぼれる事になるが、上司の言葉に従い病院に行った。
医者は薬を出してくれたが、一向によくならずそして原因もわからない。
一応、診断書は出してくれたので、よくなるまで休む事になったのだが、あまりに長期になるときっと会社も辞めざるを得ないだろう。
なんであの時、マンホールを踏んでしまったのか。
付き合っていた彼女も自然と離れていった。
こんな事なら、腕を離してマンホールを避ければよかったのだ。
1ヶ月がたったが、あの夢のままだ。
段々、現実でも夢の中でも憔悴をしていく俺は歩く事をやめた。
うずくまったままの状態ですごす。
「もう駄目かもしれない」と思ったときだった。
肩に何かがふれた。
夢の中だけど、その感触がつたわる。
顔をあげるとぼんやりだけど若い女の人の顔が見えた。
「あなたもマンホールに落ちたのね」とその女の人が言った。
夢の中だが、俺は涙が出た。
「私もずっとさまよっているの。不思議ね、こんな中で出会えるなんて。私ももう駄目かもしれないと思っていたところなの」
俺たちはいっぱい話をした。
彼女もマンホールを踏むと駄目だというルールを作っていたのだが、ある日車をよけた拍子に踏んでしまったのだという。
不思議とその翌朝、疲れが残らなかった。
眠った感じとは少し違うが、少しすっきりした感がした。
孤独から開放されたような。
ただ、夢の中で彼女の名前や住所などを聞いた気がしたのだが、そのあたりは覚えてなかった。
夢なんだから仕方ないだろう。
それに現実ではなく、俺の孤独が作り出したアニマかもしれない。
その日の夜。
果たして彼女はいるだろうか。
眠りについた時、彼女の姿が目に付いた。
俺は心から安堵した。
二人で離れ離れにならないように、先に眠ったり、そして相手が目覚めた後は動き回らないようにしようと話し合った。
そして二人で出口を探す。
手を繋いで。
俺は夢の中の彼女に恋をした。
これを境に俺の体調はよくなり、会社への復帰も果たせた。
ただ、以前と違っていたのは、早く彼女に会いたい・・・それで就寝時間も早くなり、休みの日は、ずっと寝ているようになった。
もちろん彼女とすれ違う事もある。
そんな時は、動かずに待つ・・・それを俺たちは決めた。
ただ、悲しい事に人間というものはずっとは寝てられないもので、目が覚める。
あまり寝すぎると眠れなくなったりするので、規則正しく生活をし、夜がよく眠れるように昼間に運動も取り入れた。
夢と言うのは不思議なもので、彼女と俺との間に子供が出来た。
かわいくてかわいくて仕方がない。
マンホールの中から脱出は出来ないが、子供の服などは何故かこんなのが欲しいと望めば着せる事が出来た。
そこが夢なのかと思う。
子供が歩けるようになった頃だった。
彼女と3人で喜び、手を取り合って歩いていると、驚いた事に目の前にマンホールのような大きさの光の輪が見えた。
子供が喜んで駆け出していく。
慌てて二人でとめるが、子供はその輪の中に入っていった。
「シュポッ!」
その輪に入った途端に子供が消えた。
悲鳴と共に彼女も子供を追いかけてその輪の中に入っていった。
「シュポッ!」
彼女も消えた。
俺はパニックになった。
そして俺も子供と彼女の後を追いかけて輪に入った。
「シュポッ!」
目の前に明るい光が入ってくる。
目を開けると、ただ単に目覚めただけで朝日が目に入ってきただけだった。
その日の夜、眠ると何も夢をみなかった。
そう普通の眠りだった。
何日もそんな日が続く、あまりに彼女や子供に会いたい願望からか「夢」を見るが、あの「夢」ではなかった。
もう一度、マンホールを踏もうかと思うが、これを踏んで彼女に会えるという保障があるのか。
俺はマンホールが目の前にある度に立ち止まるようになった。
そんな生活が何年か続き、相変わらずマンホールがあれば立ち止まる日々。
今日も迷いと共に歩いていた。
すると少し先に同じようにマンホールで立ち止まっている女性がいる。
近づいてみると、なんと彼女だった。
俺の顔を見て驚いて涙を流している。
俺は彼女の手をとり言った。
「さあ、行こうか」
彼女はうなづき、二人で手を取り合った。
マンホールを二人はもう絶対に踏まないだろう。
そして、消えてしまったあの子はいつかは俺たちの元に帰ってくる。
そう遠い未来ではない事が俺にはわかる。
END
***************************************
<あとがき>
子供の頃って、こういったルールがありますよね。
レイ・ブラッドベリだったのだと思うんですが、子供が敷石を踏み外して消えてしまう短編を読んだ事があり、心の中でずっと残ってました。
それなら、消えたあとどんな世界に行くのか・・・って事でうまれた話です。
ハッピーエンドがよろしいようで。
この二人の子供も二人の元にかえってきます。
帰って来ると言った方がいいのか、生まれてくるというのか・・・。
時間や空間がねじれた世界。
あまり説明すると面白くないので、今日はこれまで。
ちゃんちゃん。
たとえば商店街の歩道のタイル。
色を組み合わせて敷いてある。
その中の白いタイルを踏んだら駄目とか、自分でルールを決めてピョンピョン飛ぶ。
母親に
「早く歩きなさい」と言われて、白のタイルを踏んでしまって
「あーあ」ってなって終わり。
俺の場合は、それがマンホールだった。
下に水が流れる音とが聞くと吸い込まれそうな感覚になる。
マンホールの場合、あまり親には注意をされなかった。
雨が降ったら滑りやすいとかで、踏まない方がかえっていいと思われていたからかもしれない。
ずっと決めたルールを守ってきた時に外国の作家の短編集で、敷石を踏み外して子供が消えてしまう話を読んでから、余計にやめれなくなった。
密かな、そして大人になるととても子供じみて馬鹿らしいルール。
しかし俺は、20歳を超えた今でもこのルールを守り続けている。
大学を卒業し、ある企業に就職が出来、彼女も出来た。
ある日、彼女とのデートで腕を組んで並んで歩いている時、数メートル先、俺がこのまま歩くとマンホールを踏んでしまう事に気がつく。
心で葛藤が広がる。
どうする・・・いつものように避けて通るか・・・。
しかし、彼女と腕を組んでいる今、その腕をほどいてマンホールをよけるのはあまりにも不自然だ。
迷っているうちにどんどんマンホールが近づいてきて・・・とうとう・・・
踏んでしまった。
シュポッ!
と落ちる感じがした。
思わず目を閉じる。
「どうしたの?」
彼女の声が横でした。
目を開けると、俺は別にどこにも落ちているわけでもなくマンホールの上にのっているだけだった。
「いや・・・ごめん。目にゴミが入ったんだ」
と俺は慌てて言い訳をした。
やっぱり、とても馬鹿らしい子供じみたルールだったのだ。
大げさだか、やっとその呪縛からとけたのだ。
「さあ、この先に美味しいパスタの店があるんだ」
俺はそういうと彼女とまた歩き出した。
その日の夜。
俺は彼女との楽しかった1日を思い出しながら眠りについた。
そして、夢を見た。
俺は暗いところにいた。
かろうじてわかるのは、それはどこかにずっと続いているという事。
俺は出口を探し歩き続ける。
薄暗いがぼんやりと道は見える。
ずっとずっと歩き続けた。
よく朝起きるとひどい疲労感に襲われた。
ずっと夜中に歩き続けたような感じだった。
きっと、昨日ルールを破った罪悪感から見た夢なのだ。
しかし、あまりの疲労感にその日は、仕事も定時に終わらせて、家に帰って早めに就寝することにした。
寝たらこの疲れも取れるだろう。
楽しい事を考えて眠ろう。
俺は眠りについた。
ところが、この日の夢も暗い道を歩き続ける夢だった。
夢の中で疲れて座り込んで横になるが、夢の中でまた横になるわけなので眠れるはずもなく、そこで目が覚めた。
寝なおすとまたその続きになる。
もしかすると・・・
俺はひとつの仮説に行き着く。
マンホールを踏んだ時
「シュポッ!」と音が聞こえたような気がしたのは、この事だったのかと。
出口を見つけなければと焦る。
しかし、暗い道が続くばかり。
必死で出口を探しさ迷い歩く。
翌日の疲労感は大変なものだった。
仕事にも影響をする。
毎日、毎日、夢の中で暗い道を歩き続ける。
疲れが取れず、会社の上司から病院に行く事を進められ、休暇をとるように言われる。
ここで休んでしまえば、俺は確実に落ちこぼれる事になるが、上司の言葉に従い病院に行った。
医者は薬を出してくれたが、一向によくならずそして原因もわからない。
一応、診断書は出してくれたので、よくなるまで休む事になったのだが、あまりに長期になるときっと会社も辞めざるを得ないだろう。
なんであの時、マンホールを踏んでしまったのか。
付き合っていた彼女も自然と離れていった。
こんな事なら、腕を離してマンホールを避ければよかったのだ。
1ヶ月がたったが、あの夢のままだ。
段々、現実でも夢の中でも憔悴をしていく俺は歩く事をやめた。
うずくまったままの状態ですごす。
「もう駄目かもしれない」と思ったときだった。
肩に何かがふれた。
夢の中だけど、その感触がつたわる。
顔をあげるとぼんやりだけど若い女の人の顔が見えた。
「あなたもマンホールに落ちたのね」とその女の人が言った。
夢の中だが、俺は涙が出た。
「私もずっとさまよっているの。不思議ね、こんな中で出会えるなんて。私ももう駄目かもしれないと思っていたところなの」
俺たちはいっぱい話をした。
彼女もマンホールを踏むと駄目だというルールを作っていたのだが、ある日車をよけた拍子に踏んでしまったのだという。
不思議とその翌朝、疲れが残らなかった。
眠った感じとは少し違うが、少しすっきりした感がした。
孤独から開放されたような。
ただ、夢の中で彼女の名前や住所などを聞いた気がしたのだが、そのあたりは覚えてなかった。
夢なんだから仕方ないだろう。
それに現実ではなく、俺の孤独が作り出したアニマかもしれない。
その日の夜。
果たして彼女はいるだろうか。
眠りについた時、彼女の姿が目に付いた。
俺は心から安堵した。
二人で離れ離れにならないように、先に眠ったり、そして相手が目覚めた後は動き回らないようにしようと話し合った。
そして二人で出口を探す。
手を繋いで。
俺は夢の中の彼女に恋をした。
これを境に俺の体調はよくなり、会社への復帰も果たせた。
ただ、以前と違っていたのは、早く彼女に会いたい・・・それで就寝時間も早くなり、休みの日は、ずっと寝ているようになった。
もちろん彼女とすれ違う事もある。
そんな時は、動かずに待つ・・・それを俺たちは決めた。
ただ、悲しい事に人間というものはずっとは寝てられないもので、目が覚める。
あまり寝すぎると眠れなくなったりするので、規則正しく生活をし、夜がよく眠れるように昼間に運動も取り入れた。
夢と言うのは不思議なもので、彼女と俺との間に子供が出来た。
かわいくてかわいくて仕方がない。
マンホールの中から脱出は出来ないが、子供の服などは何故かこんなのが欲しいと望めば着せる事が出来た。
そこが夢なのかと思う。
子供が歩けるようになった頃だった。
彼女と3人で喜び、手を取り合って歩いていると、驚いた事に目の前にマンホールのような大きさの光の輪が見えた。
子供が喜んで駆け出していく。
慌てて二人でとめるが、子供はその輪の中に入っていった。
「シュポッ!」
その輪に入った途端に子供が消えた。
悲鳴と共に彼女も子供を追いかけてその輪の中に入っていった。
「シュポッ!」
彼女も消えた。
俺はパニックになった。
そして俺も子供と彼女の後を追いかけて輪に入った。
「シュポッ!」
目の前に明るい光が入ってくる。
目を開けると、ただ単に目覚めただけで朝日が目に入ってきただけだった。
その日の夜、眠ると何も夢をみなかった。
そう普通の眠りだった。
何日もそんな日が続く、あまりに彼女や子供に会いたい願望からか「夢」を見るが、あの「夢」ではなかった。
もう一度、マンホールを踏もうかと思うが、これを踏んで彼女に会えるという保障があるのか。
俺はマンホールが目の前にある度に立ち止まるようになった。
そんな生活が何年か続き、相変わらずマンホールがあれば立ち止まる日々。
今日も迷いと共に歩いていた。
すると少し先に同じようにマンホールで立ち止まっている女性がいる。
近づいてみると、なんと彼女だった。
俺の顔を見て驚いて涙を流している。
俺は彼女の手をとり言った。
「さあ、行こうか」
彼女はうなづき、二人で手を取り合った。
マンホールを二人はもう絶対に踏まないだろう。
そして、消えてしまったあの子はいつかは俺たちの元に帰ってくる。
そう遠い未来ではない事が俺にはわかる。
END
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<あとがき>
子供の頃って、こういったルールがありますよね。
レイ・ブラッドベリだったのだと思うんですが、子供が敷石を踏み外して消えてしまう短編を読んだ事があり、心の中でずっと残ってました。
それなら、消えたあとどんな世界に行くのか・・・って事でうまれた話です。
ハッピーエンドがよろしいようで。
この二人の子供も二人の元にかえってきます。
帰って来ると言った方がいいのか、生まれてくるというのか・・・。
時間や空間がねじれた世界。
あまり説明すると面白くないので、今日はこれまで。
ちゃんちゃん。