９．帰り道

　金曜日の夜、久しぶりに居酒屋に寄り道をして、課長と酒を少し飲んだ。
　部下の愚痴を言い合いしたのを思い出しながら、電車に乗る。家までは、特急で二駅だ。暖房がきいた電車から降りると、ヒンヤリとした北風が吹きつける。コートの襟を立てて、改札口を出た。
　それに輪をかけたように、粉雪がちらついている。
　自宅まで歩いて帰る。人気がない山道をいくと、大きな池がある。昔は、河童がいたと父親からきいた事があり、今でも通るたびに、河童が出てこないかとビクビクしながら、池の側を通る。
　人気もなく、電灯もなく、所々に家の明かりで、道が見えるほどだ。
　一時進んでいると、目の前に人影が見えた。背が高くて、服が白い後ろ髪が長い女の人のようだ。
　モデルのような歩き方で、早足で歩いている。きっと絶世の美人に違いない。
　私の方が足が速いので、その女の人を追い越した。
　まさか幽霊ではないよなと自分に言い聞かせて、１０歩ほど歩いて、チラッと後ろを振りかえる。
　そこには、白い服を着たロン毛の背の高い男が「今日サムッ。」と呟きながら歩いていた。