恋愛ブログ

世にも不思議な物語。
出会いの数だけドラマがある。
一日一話愛の短編物語。
〜ショートストーリー〜

10.ホタル

2007年07月10日 | 若い恋
 学校が夏休みに入って何日か経ったある日、祖父と祖母と一緒に親戚の家に行く事になった。
 初盆だからという事で、子供の私にはよく分からなかった。
 電車を降りるとのどかな田園風景があり、草むらの香りが漂っていた。人もいなくて駅員さんがぽつんと一人駅の所に立っていた。
 祖父が険しい顔をして「行くぞ。」と声をかけた。
 久しぶりに兄を訪ねて行くので気合いが入っているみたいだった。私は、祖母の手を握り、駅の階段を降りた。
 父親と母親は後から来るという話しだった。
 獣道を歩いていく事20分。
 やっと親戚の家に着いた。
 木で作られた大きな家は、田んぼの中に一軒だけドンと大きく建っていた。
 家の中に入るとお香のような匂いが鼻についた。
 座敷が玄関に入るとすぐ傍にあり、クワや斧やチェンソー等たてかけられてあった。
 おじさんとおばさんが出て来ると、「よう来なすった。」と江戸時代の様な言葉を発していた。
 一通り挨拶が終わると、祖父と祖母は大人の話しをしていた。
 私は、親戚の子供達とジャンケンで遊んでいた。
 すると、おじさんの子供のルイちゃんがやって来て、「この辺蛍がいるんだよ。」と呟いた。
 「本当。見たことない。」
 「見に行く?」
 「うん。」という訳で、夕暮れ時見に行く事になった。
 ルイちゃんと手をつないで一緒に歩くと楽しかった。
 それが恋だと知るのに大分時間がかかったけど、楽しかった。おじさんの家から10分くらいの所に大きな森があって、そこを小川が通っていた。
 隣のトトロが出て来そうな感じがした。
 ヒンヤリとした風が吹いてきて私たちを包んだ。
 まだ薄暗かったせいか蛍が見えなかったが、一時経つと光が所々見えてきた。
 葉っぱについて、蛍の尻の辺りが光輝いていた。
 一匹見つけると、周りにも仲間がやって来て、私達に芸を見せびらかしている。 まるで、蛍のコンサートのようだ。
 ルイちゃんは「きれい。」と一言呟いた。
 私も「すげぇや。」と言い返した。
 一時ボンヤリ見ていると、ルイちゃんが一匹捕まえた。
 蛍は手のひらで怯えているかのように小さく光をはなっていた。
 遠くの方で「ルイちゃん。ご飯よ。」とおばさんの声が聞こえて来た。
 蛍の光を後にして、暗い中また手をつないで帰っていた。
 ルイちゃんの手に力がこもっていた。
 きっと夜道が怖かったに違いない。
 二日ほど親戚の家に泊まり、帰る事になった。
 駅でルイちゃんと別れる時が辛かった。
 おばちゃんが黙っているルイちゃんに「何か言わないの。」と言ったら、手を振って「バイバイ。」と言った。
 私も「バイバイ。」と手を振った。
 大人になった今でも、時々その光景を思い出す事がある。
 満面の笑みで蛍を掴んで見せるルイちゃん。
 バイバイと悲し気に手を振る姿。
 田舎の風の噂でそのルイちゃんが結婚したと聞いた事があった。
 
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