テツオの章
僕の人生は、恵まれていると思う。
某私立の大学を出て、有名外資系商社に入社した。
学歴ににも仕事も容姿にもコンプレックスも挫折もなく
30歳の今日まで生きてきた。
僕は恋人選びには慎重だ。
その原因は兄の様々な恋愛事件のせいだ。
僕の兄、星斗は光源氏の生まれ変わりかと思うくらいに美貌と女好きだ。
今年で35歳、いまだに懲りもせず浮名を流している。
僕は兄の起こしているスキャンダルの渦中に何度も飲み込まれ、
何度別れの後始末をしたことか。
ある女は、逆上して、
「彼に精神的打撃を受けた。慰謝料をよこせ」と叫んだ。
「恋愛問題は二人で解決してくださいね」とやんわりと嫌味とも
とれるような注意をしたこと数件。
一番ひどかったのは、「別れを撤回するまで帰らない」と言い自宅の前で
騒ぎ出した女だ。3日間飲食をしないで玄関の前で毛布に包まって過ごした。
その女が元モデルだったと言っても誰も信じないだろう。
3日目に警察を呼び厳重注意をして女がやっと帰っていった。
警察には「恋愛問題は二人で解決してくださいね」と僕が注意をされる。
それでも兄の女好きはやめる事がなく今もどこかで浮名を流している。
「どうして女に懲りないの?!」とあきれて聞いた時
「なあ、テツオは、サッカーが好きだったよな。サッカーで怪我をしても
サッカー嫌いにならないだろう?それと同じだよ」と意味不明なことを言う。
恋愛によっては女は変貌するというころを、何度も目の当たりにしてきた僕の青春時代。
別れ際の女のギャク切れ、逆上、ヒステリー、ストーカー、
さまざまな女の裏顔を見てきた結果僕は20歳にして女性に失望していた。
恋に何も期待できなくなっていた。
美人の裏側のヒステリックさと冷酷さ。気配りの裏にある計算されたしたたかさ。
女の顔の皮一枚の向こう側の本質を見極めることは精神科でも難しい。
商社に入社してから仕事がおもしろくなり僕は仕事に夢中になった。
同僚の勇次に誘われ時々飲みに行く女友達も出来た。
3人共あっさりとしたタイプで安心している。
しかし、女は恋愛すると変貌することを知っているので僕はかなり用心している。
時々5人で飲みに行くようになり性格もわかってきた。
勇次は美香にメロメロだ。
確かに綺麗だし社交的だ。男受けするフェロモンを醸し出している。
モテるタイプだ。由里は、普通の感覚の女性で安心してつきあえる。
麻耶は、僕の気がつかないことをさりげなくアドバイスしてくれる
陰で気配りしてくれる賢い女性だ。
ある日僕は偶然に麻耶のもうひとつの顔を発見した。
僕の母は三人姉妹の長女だ。次女の早苗叔母さんは、アメリカ人と結婚して現在は
シアトルで暮している。三女の真理叔母さんはは恵まれない子供達の施設を
自ら立ち上げ、人生を捧げ今日まで独身で生きてきた。
僕は真理叔母さんが幼少の頃から大好きで、尊敬していた。
母は、あまり真理叔母さんが好きではないらしく
中学生になり隣町の県にある施設に遊びに行くことを快く思っていなかった。
「癒しの国」と名付けられた施設は、親の事情で一緒に暮せない子供達が
20人くらい常時いた。叔母の他ボランティア援助、協力してくれる
男性1人、女性2人で食事や日常の世話をしながら子供達を育てていた。
施設へ遊びに行くのも、僕の生活も多忙になり疎遠になっていった。
しかし、多忙な生活に疲れ癒されたい思うと時に必ず「癒しの国」を思い出し訪れていた。
商社に入社して無我無夢中で走ってきた。
仕事で上手くいかないとき、上司との折り合いや、後輩との付き合いに
悩み、傷ついた時必ず癒しの国に来て子供達に会いに来た。
子供達の純粋な瞳、無垢な心と向き合うと僕の心は浄化された。
「癒しの国」は僕が癒される場所なのだ。
その日上司との仕事上の見解の相違に悩みジレンマに陥り、「癒しの国に」を訪ねた。
「あら、珍しいわね。お昼時に来るなんて」
施設にはいつも平日の夜に突然現れ、翌日会社へ出勤するパターンなので
真理叔母さんは驚き喜んでいた。
「丁度よかった、これから皆で食事するの一緒にしよう」
僕は、ダイニングに向かった。並べられたテーブルに座る子供達。
その中に赤ちゃんを抱いた女性が立って見ていた。
見覚えのある顔だ。麻耶?会社の仲間の麻耶だ!
何故ここに麻耶がいるのだ?「ねえ、あの人は?」
「あ、麻耶ちゃんね。日曜日にお手伝いに来てくれるの。
ここでボランティアで働いている坂田さんの姪の麻耶ちゃん、
子供達に人気があるの。麻耶ちゃんが来るのを子供達楽しみしているのよ」
「知らなかった」
「テツオは日曜日ほとんど来たことないから知らなかったのね」
麻耶が抱いている赤ちゃんの鼻に自分の唇を近づけた。鼻に唇を合わせている。
「何をしているの?」「赤ちゃんが風邪を引いて鼻が詰まって息苦しいのよ。
それで、鼻がよく通るように口ですすって通りやすいようにしているの」
「ええっ!自分の口に赤ちゃんの鼻水が入るじゃない」
汚いよ・・・僕は言葉にできなかった。
「ここにいる人は、汚いと思って世話している人なんていないのよ。
麻耶ちゃんは特別に優しいけれど」
僕の体は震えていた。
僕の知らない麻耶がそこにいた。
いつも退社後、食事をして居酒屋で一緒に飲んでいる麻耶と
今目の前のいる麻耶が同一人物なのが信じられなかった。
「叔母さん、今日は帰るよ。僕が来ていたことは内緒にしてね」
足早に施設を去った。
・・・麻耶の思いやりは本物だった・・・
その日から麻耶に対する僕の意識が変わった。
居酒屋で飲んでも麻耶は癒しの国の話はふれなかった。
いつものように、皆の話を楽しく聞く麻耶がいた。
いつものように、人をなごませる麻耶がいた。
そんな中、ニューヨーク勤務の辞令がおりた。
栄転と言われるニューヨーク転勤、僕の中で麻耶の存在がはっきりと浮かんだ。
麻耶とニューヨークに一緒に行きたい。いつも麻耶に側にいて欲しい。
真理叔母さんの「癒しの国」に行き始めてから20年、
その場所で僕は最高の恋人に出会えた。
ある日、僕の人生を賭けて麻耶に告白した。
麻耶の瞳から涙があふれ、大きく頷いた。
僕にとって世界で一番美しい瞳がそこにいた。
続く・・・
僕の人生は、恵まれていると思う。
某私立の大学を出て、有名外資系商社に入社した。
学歴ににも仕事も容姿にもコンプレックスも挫折もなく
30歳の今日まで生きてきた。
僕は恋人選びには慎重だ。
その原因は兄の様々な恋愛事件のせいだ。
僕の兄、星斗は光源氏の生まれ変わりかと思うくらいに美貌と女好きだ。
今年で35歳、いまだに懲りもせず浮名を流している。
僕は兄の起こしているスキャンダルの渦中に何度も飲み込まれ、
何度別れの後始末をしたことか。
ある女は、逆上して、
「彼に精神的打撃を受けた。慰謝料をよこせ」と叫んだ。
「恋愛問題は二人で解決してくださいね」とやんわりと嫌味とも
とれるような注意をしたこと数件。
一番ひどかったのは、「別れを撤回するまで帰らない」と言い自宅の前で
騒ぎ出した女だ。3日間飲食をしないで玄関の前で毛布に包まって過ごした。
その女が元モデルだったと言っても誰も信じないだろう。
3日目に警察を呼び厳重注意をして女がやっと帰っていった。
警察には「恋愛問題は二人で解決してくださいね」と僕が注意をされる。
それでも兄の女好きはやめる事がなく今もどこかで浮名を流している。
「どうして女に懲りないの?!」とあきれて聞いた時
「なあ、テツオは、サッカーが好きだったよな。サッカーで怪我をしても
サッカー嫌いにならないだろう?それと同じだよ」と意味不明なことを言う。
恋愛によっては女は変貌するというころを、何度も目の当たりにしてきた僕の青春時代。
別れ際の女のギャク切れ、逆上、ヒステリー、ストーカー、
さまざまな女の裏顔を見てきた結果僕は20歳にして女性に失望していた。
恋に何も期待できなくなっていた。
美人の裏側のヒステリックさと冷酷さ。気配りの裏にある計算されたしたたかさ。
女の顔の皮一枚の向こう側の本質を見極めることは精神科でも難しい。
商社に入社してから仕事がおもしろくなり僕は仕事に夢中になった。
同僚の勇次に誘われ時々飲みに行く女友達も出来た。
3人共あっさりとしたタイプで安心している。
しかし、女は恋愛すると変貌することを知っているので僕はかなり用心している。
時々5人で飲みに行くようになり性格もわかってきた。
勇次は美香にメロメロだ。
確かに綺麗だし社交的だ。男受けするフェロモンを醸し出している。
モテるタイプだ。由里は、普通の感覚の女性で安心してつきあえる。
麻耶は、僕の気がつかないことをさりげなくアドバイスしてくれる
陰で気配りしてくれる賢い女性だ。
ある日僕は偶然に麻耶のもうひとつの顔を発見した。
僕の母は三人姉妹の長女だ。次女の早苗叔母さんは、アメリカ人と結婚して現在は
シアトルで暮している。三女の真理叔母さんはは恵まれない子供達の施設を
自ら立ち上げ、人生を捧げ今日まで独身で生きてきた。
僕は真理叔母さんが幼少の頃から大好きで、尊敬していた。
母は、あまり真理叔母さんが好きではないらしく
中学生になり隣町の県にある施設に遊びに行くことを快く思っていなかった。
「癒しの国」と名付けられた施設は、親の事情で一緒に暮せない子供達が
20人くらい常時いた。叔母の他ボランティア援助、協力してくれる
男性1人、女性2人で食事や日常の世話をしながら子供達を育てていた。
施設へ遊びに行くのも、僕の生活も多忙になり疎遠になっていった。
しかし、多忙な生活に疲れ癒されたい思うと時に必ず「癒しの国」を思い出し訪れていた。
商社に入社して無我無夢中で走ってきた。
仕事で上手くいかないとき、上司との折り合いや、後輩との付き合いに
悩み、傷ついた時必ず癒しの国に来て子供達に会いに来た。
子供達の純粋な瞳、無垢な心と向き合うと僕の心は浄化された。
「癒しの国」は僕が癒される場所なのだ。
その日上司との仕事上の見解の相違に悩みジレンマに陥り、「癒しの国に」を訪ねた。
「あら、珍しいわね。お昼時に来るなんて」
施設にはいつも平日の夜に突然現れ、翌日会社へ出勤するパターンなので
真理叔母さんは驚き喜んでいた。
「丁度よかった、これから皆で食事するの一緒にしよう」
僕は、ダイニングに向かった。並べられたテーブルに座る子供達。
その中に赤ちゃんを抱いた女性が立って見ていた。
見覚えのある顔だ。麻耶?会社の仲間の麻耶だ!
何故ここに麻耶がいるのだ?「ねえ、あの人は?」
「あ、麻耶ちゃんね。日曜日にお手伝いに来てくれるの。
ここでボランティアで働いている坂田さんの姪の麻耶ちゃん、
子供達に人気があるの。麻耶ちゃんが来るのを子供達楽しみしているのよ」
「知らなかった」
「テツオは日曜日ほとんど来たことないから知らなかったのね」
麻耶が抱いている赤ちゃんの鼻に自分の唇を近づけた。鼻に唇を合わせている。
「何をしているの?」「赤ちゃんが風邪を引いて鼻が詰まって息苦しいのよ。
それで、鼻がよく通るように口ですすって通りやすいようにしているの」
「ええっ!自分の口に赤ちゃんの鼻水が入るじゃない」
汚いよ・・・僕は言葉にできなかった。
「ここにいる人は、汚いと思って世話している人なんていないのよ。
麻耶ちゃんは特別に優しいけれど」
僕の体は震えていた。
僕の知らない麻耶がそこにいた。
いつも退社後、食事をして居酒屋で一緒に飲んでいる麻耶と
今目の前のいる麻耶が同一人物なのが信じられなかった。
「叔母さん、今日は帰るよ。僕が来ていたことは内緒にしてね」
足早に施設を去った。
・・・麻耶の思いやりは本物だった・・・
その日から麻耶に対する僕の意識が変わった。
居酒屋で飲んでも麻耶は癒しの国の話はふれなかった。
いつものように、皆の話を楽しく聞く麻耶がいた。
いつものように、人をなごませる麻耶がいた。
そんな中、ニューヨーク勤務の辞令がおりた。
栄転と言われるニューヨーク転勤、僕の中で麻耶の存在がはっきりと浮かんだ。
麻耶とニューヨークに一緒に行きたい。いつも麻耶に側にいて欲しい。
真理叔母さんの「癒しの国」に行き始めてから20年、
その場所で僕は最高の恋人に出会えた。
ある日、僕の人生を賭けて麻耶に告白した。
麻耶の瞳から涙があふれ、大きく頷いた。
僕にとって世界で一番美しい瞳がそこにいた。
続く・・・