美香の章
テツオが麻耶を選んだ。
私よりも麻耶を恋人に選んだのだ。
何故?信じられない。
私は自分でいうのも何だけどかなり綺麗だと思う。
十代から男達にはモテていたし、
今日まで何人もの男達が私の前にひざまづき告白した。
学生時代もそして3年前に就職をした今の商社でも私は男性達の
マドンナ的存在だと自負していた。
相川テツオは商社ナンバー3に入るやり手の営業マンだ。
仕事が出来てクールなハンサムな男30歳。
社内のあこがれの男性のひとりだ。
「美香と彼だったら美男美女でお似合いよ。彼も美香のこと意識しているんじゃない」
親しい同僚木村由里が好意的に言う。
由里は社内では仲のいい同僚のひとりだ
元気で明るい交友関係の広い由里の情報にはいつも脱帽している。
そして佐々木麻耶、彼女も仲のいい同僚だ。
麻耶はファッションも言動も目立つタイプではないが、
優しくて品のある動作に周りの人をなごませるものがあった。
今にして思えば私は無意識に選んでいたのだと思う。
私より容貌も女性としても魅力のない友人を選んでいたのだ。
私達三人は時々テツオと同僚の右田勇次と一緒にランチや、居酒屋で
飲む程度のよい関係が1年くらい続いていた。
ある時、テツオが飲んだ席で、
「ガールフレンドはいるけど特定の恋人はいない」と言った時から
私は意識していた。テツオの隣に座る恋人の席を。そして期待していた。
ある日、由里が仕事をしている私の席に走ってきた。かなり興奮している。
「どうしたの?由里」「テツオが海外転勤するんだって!何とニューヨーク!
彼だったらいつか海外転勤になると思っていたけど。すごいよねー」
そしてもうひとつの噂が広まっていた事実に驚いた。
その噂は女子社員の間ではかなりの話題になり広まっているという。
テツオがある女性に結婚を前提に告白したというのだ。
相手の名前を聞いた時私は耳を疑った。
「えっ?」「彼が告白した相手が麻耶なのよ。
結婚も考えてつきあってほしいと言われたらしいわよ。驚いたわ。
麻耶何も言ってくれないんだもの」
私は言葉がなかった。私は期待していた。もしかしたら三人を
時々ランチや飲みに誘うのも照れくさいからなのではと、密かに思っていた。
いつか私に告白してくる日がくるのではないかと密かに期待していた。
その甘い期待は見事に砕け散った。
翌日、私はひとりでランチを食べていた。由里に誘われたが麻耶も一緒だと
聞いて断った。今は麻耶の顔をまともに見られない精神状態だ。
時間をずらして近くのレストランで遅いランチをとっていると、
テツオが入って来た。私を見つけたテツオは笑顔で
近づいてくる。今一番会いたくない相手だ。
「ひとりなの?珍しいね。僕も今会社に戻ったんだ。一緒にいい?」
私は小さく頷く。
「ニューヨーク転勤なんですってね。おめでとう!」
「ありがとう。でも不安もいっぱいあるけど」
「大丈夫よテツオさんだったら、やり手だし人望もあるしニューヨークに行っても活躍するわ」
「とりあえず僕らしく頑張るよ。今まで由里さんや美香さんには色々と気遣ってもらって感謝してまーす」
「麻耶のことは言わないのね。そうか、恋人にもう言う必要ないよね」
「えっ、もう伝わった?」
「もう女子社員の間では噂になっているよ」「そうか」
テツオが照れた表情でパスタをフォークに絡ませている。
私のフォークを持つ手は震えていた。それを悟られまいとしてさりげなく聞いた。
「麻耶のどこに惚れたの?」テツオは運ばれてきたミートソースを一口ほおばり
水を喉に流し込むとゆっくりと口を開いた。
「彼女の優しさと気配りかな」
私だって優しいし気が利くわ・・・
「それに彼女といると自分自身でいられる。男ってどこかいつも
突っ張って生きているんだ。だから自分が素になりたい場所が欲しいんだ」
「麻耶はテツオさんにとってやすらぎの場所になったのね」
「そうだね、いつしか僕が僕らしくいられる居場所になっていた。
「最後に聞いていい?テツオにとって女性の容貌て気にならない?
麻耶の外見は好みのタイプだったの?
「外見は・・・好みというほどではなかった。でも性格が好みなんだ」
「男って外見の好みを重要視するのかと思っていたけど、テツオは違っていたのね」
キレイな男は自分がすでに持っているから女にキレイさを求めないということを
いつか本で読んだ。
「とにかくおめでとう!もう時間だから先に行くね」
私は足早にレストランを後にした。
テツオの言葉が蘇ってきた。「性格が好みなんだ」
すれ違う男性が、私を見て連れの相手に言うのが聞こえてきた。
「すげー可愛い!!超僕のタイプ!」
それでも私はテツオ選ばれなかったのだ。
唯一選んで欲しかったテツオに選ばれなかったのだ。
性格が好みだなんて、とてもかなわないよ・・・
私は空を見上げた。青空が目に染みた。
続く・・・
テツオが麻耶を選んだ。
私よりも麻耶を恋人に選んだのだ。
何故?信じられない。
私は自分でいうのも何だけどかなり綺麗だと思う。
十代から男達にはモテていたし、
今日まで何人もの男達が私の前にひざまづき告白した。
学生時代もそして3年前に就職をした今の商社でも私は男性達の
マドンナ的存在だと自負していた。
相川テツオは商社ナンバー3に入るやり手の営業マンだ。
仕事が出来てクールなハンサムな男30歳。
社内のあこがれの男性のひとりだ。
「美香と彼だったら美男美女でお似合いよ。彼も美香のこと意識しているんじゃない」
親しい同僚木村由里が好意的に言う。
由里は社内では仲のいい同僚のひとりだ
元気で明るい交友関係の広い由里の情報にはいつも脱帽している。
そして佐々木麻耶、彼女も仲のいい同僚だ。
麻耶はファッションも言動も目立つタイプではないが、
優しくて品のある動作に周りの人をなごませるものがあった。
今にして思えば私は無意識に選んでいたのだと思う。
私より容貌も女性としても魅力のない友人を選んでいたのだ。
私達三人は時々テツオと同僚の右田勇次と一緒にランチや、居酒屋で
飲む程度のよい関係が1年くらい続いていた。
ある時、テツオが飲んだ席で、
「ガールフレンドはいるけど特定の恋人はいない」と言った時から
私は意識していた。テツオの隣に座る恋人の席を。そして期待していた。
ある日、由里が仕事をしている私の席に走ってきた。かなり興奮している。
「どうしたの?由里」「テツオが海外転勤するんだって!何とニューヨーク!
彼だったらいつか海外転勤になると思っていたけど。すごいよねー」
そしてもうひとつの噂が広まっていた事実に驚いた。
その噂は女子社員の間ではかなりの話題になり広まっているという。
テツオがある女性に結婚を前提に告白したというのだ。
相手の名前を聞いた時私は耳を疑った。
「えっ?」「彼が告白した相手が麻耶なのよ。
結婚も考えてつきあってほしいと言われたらしいわよ。驚いたわ。
麻耶何も言ってくれないんだもの」
私は言葉がなかった。私は期待していた。もしかしたら三人を
時々ランチや飲みに誘うのも照れくさいからなのではと、密かに思っていた。
いつか私に告白してくる日がくるのではないかと密かに期待していた。
その甘い期待は見事に砕け散った。
翌日、私はひとりでランチを食べていた。由里に誘われたが麻耶も一緒だと
聞いて断った。今は麻耶の顔をまともに見られない精神状態だ。
時間をずらして近くのレストランで遅いランチをとっていると、
テツオが入って来た。私を見つけたテツオは笑顔で
近づいてくる。今一番会いたくない相手だ。
「ひとりなの?珍しいね。僕も今会社に戻ったんだ。一緒にいい?」
私は小さく頷く。
「ニューヨーク転勤なんですってね。おめでとう!」
「ありがとう。でも不安もいっぱいあるけど」
「大丈夫よテツオさんだったら、やり手だし人望もあるしニューヨークに行っても活躍するわ」
「とりあえず僕らしく頑張るよ。今まで由里さんや美香さんには色々と気遣ってもらって感謝してまーす」
「麻耶のことは言わないのね。そうか、恋人にもう言う必要ないよね」
「えっ、もう伝わった?」
「もう女子社員の間では噂になっているよ」「そうか」
テツオが照れた表情でパスタをフォークに絡ませている。
私のフォークを持つ手は震えていた。それを悟られまいとしてさりげなく聞いた。
「麻耶のどこに惚れたの?」テツオは運ばれてきたミートソースを一口ほおばり
水を喉に流し込むとゆっくりと口を開いた。
「彼女の優しさと気配りかな」
私だって優しいし気が利くわ・・・
「それに彼女といると自分自身でいられる。男ってどこかいつも
突っ張って生きているんだ。だから自分が素になりたい場所が欲しいんだ」
「麻耶はテツオさんにとってやすらぎの場所になったのね」
「そうだね、いつしか僕が僕らしくいられる居場所になっていた。
「最後に聞いていい?テツオにとって女性の容貌て気にならない?
麻耶の外見は好みのタイプだったの?
「外見は・・・好みというほどではなかった。でも性格が好みなんだ」
「男って外見の好みを重要視するのかと思っていたけど、テツオは違っていたのね」
キレイな男は自分がすでに持っているから女にキレイさを求めないということを
いつか本で読んだ。
「とにかくおめでとう!もう時間だから先に行くね」
私は足早にレストランを後にした。
テツオの言葉が蘇ってきた。「性格が好みなんだ」
すれ違う男性が、私を見て連れの相手に言うのが聞こえてきた。
「すげー可愛い!!超僕のタイプ!」
それでも私はテツオ選ばれなかったのだ。
唯一選んで欲しかったテツオに選ばれなかったのだ。
性格が好みだなんて、とてもかなわないよ・・・
私は空を見上げた。青空が目に染みた。
続く・・・