牧師の読書日記 

読んだ本の感想を中心に書いています。

1月21日(月) 「慟哭」 貫井徳郎著  創元推理文庫

2013-01-21 09:40:31 | 日記

 最近教会関係の本にしても農業経営の本にしても実務関係の本をずっと読んでいたので、フィクション(小説)を読みたくなった。できれば古典を読みたい気持ちがあるのだが、これはこれで別の力を使うので、気軽に読めるミステリーを読んだ。貫井氏の本は以前に一冊「夜想」を読んだことがあるのだが、今回は「慟哭」を読んだ。

 彼の小説は新興宗教を扱っている本が多いようだ。著者は宗教が嫌いなのかもしれない。ある種の偏見も持っているように感じる。でも宗教に興味があるのだろう。新興(宗教)に関する危険な部分の指摘は分かる気がする。ただどの宗教も信じていない人がすべてを公平に物事を判断することができ、宗教を信じている人は公平に判断ができなくなっていると思っているのだとしたら大きな間違いだ。教祖に傾倒している場合は理解できるのだが。すべての人は特定の宗教を信じていないとしても(無宗教だとしても)、結局は日本に生まれたことによって何かを信じているわけで、時代と環境に左右されていることを忘れてはならない。全く自分は無の状態でどの宗教にも属していないから、何にも影響されていないと考えているとしたら、あまりにも考えが浅いとしかいいようがない。もし宗教だけが人を洗脳すると考えているとしたらその考えは甘い。人は日本のメデイアや教育や様々なものを通して影響(洗脳)されているということを自覚する必要がある。ただもちろん新興宗教の常軌を逸した行動に私は全く賛成していないし、一般の人々がそれを理由に宗教嫌いになる気持ちは理解しているつもりだ。

 本書では幼女誘拐事件の捜査と新興宗教にのめり込んでいく人間とが交互に書かれていく。物語に読者をうまく引き込んでいく力(文章力、構成力)があると思う。最後に「ああ、そういうことだったのか」と交互に書かれていた物語の関係性と意味が分かる。そして驚かされる。後から考えれば伏線をはってあったのだと分かるのだが。ただ私は個人的にこの時間をずらずやり方は正統的なミステリーではないのではないかと感じた。そういう意味では東野圭吾氏の方が正統的な感じがして自分は好感を持てる。でも物語の世界に引き込まれ興味深く読むことができ、息抜きになった。扱っているテーマが重いので、暗くなったという面はあったが。