あるタカムラーの墓碑銘

高村薫さんの作品とキャラクターたちをとことん愛し、こよなく愛してくっちゃべります
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「君を罠にかける暇があったら、ウサギ一羽ひっかけるほうがマシだ。食えるから」 (旧版p20~21)

2007-07-01 23:46:33 | 神の火(旧版) 再読日記
6/29(金)より、旧版『神の火』 (新潮社) の再読を始めました。

新版の再読日記も終わってないのにねえ。加えて季節はずれは重々承知。
しかしここで読んでおかないと、間に合わないのですよ。今夏実施の「舞鶴・宮津・天橋立地どり」に! 予習もかねて読んでおかないと、ガイド役を務める者としては、恥ずかしいですからね。

***

旧版をお持ちでない方、読まれてない方もたくさんいらっしゃると思うので、どのような形式にしようか、実施前からずっと悩んでおりました。
旧版・新版の違いを逐一挙げるのもキリがありませんが、ザッとメモ書き程度で挙げてみましょうか。

ではここで、旧版『神の火』 (新潮社) の最低限の基礎情報を・・・。

初版発行は1991年(平成3年)8月25日。翌年の第五回山本周五郎賞の候補作にも選ばれています。(余談ながら第六回には、『リヴィエラを撃て』 (新潮社) も候補作に)

1995年(平成7年)7月発行の文庫化の際、全面的に書き直して出版され、同時に単行本は絶版。その後文庫版を装丁も変えて、改めて1996年(平成8年)8月、単行本で出版。
便宜上、1991年~1995年まで発売された単行本を「旧版」、それ以降に発売された文庫及び単行本を「新版」と呼んで区別しています。

私の持っている旧版は、1994年5月20日 8刷になります。

***

2007年6月29日(金)の旧版『神の火』 (新潮社)は、p38まで読了。
タイトルは、江口さんが島田先生へ向けた言葉。裏を返せば、食えるものなら本当は、島田先生を食いたいということですか?

【旧版・新版の違い メモ】
「ここも忘れてる」「ここも違うよ」という細かいツッコミは、後ほどお願いします。出来るだけ自分の首を絞めたくないので(笑)

★フックのサイズ。
【旧版】  「20dのフック付き!」 
【新版】  「22ミリのフック付き!」

建設業界の末端にいる身としては、ここは見逃せない(苦笑) 10、13、16、19、22、25、29、32、35、38、41・・・とありますので。20はないんです。19か22がここでは正しいので、新版ではちゃんと22になってますね。

★良ちゃんに近づいてきた男と、その対応。
【旧版】 老人。日野の大将への物品も受け取る。 
【新版】 壮年の男。日野の大将への物品の受け取りを、良ちゃんは拒否。

当然、男の言葉遣いや態度も違う。老人の方が、えらく丁寧だ。新版は、唾吐いてたっけ?

★良ちゃんが島田父子が乗っている船を見ている場面。
【旧版】  仮設の共同トイレの窓から眺めている。
【新版】  外から眺めている。

トイレの窓って! それはさすがに絵面が悪いでしょう・・・(苦笑)

★「ぷらとん」に関しての、島田先生への良ちゃんの接触方法。
【旧版】  江口さんが先生へ電話をかけて呼び出し、素人数人とともに闇討ちをかける。先生、ボコボコにやられる(苦笑) 
【新版】  電話で穏やかに伝える。

闇討ちって! ここから既に旧版の「暴れん坊・良ちゃん」の称号がつけられることになったのか・・・。


【今回の名文・名台詞・名場面】
自分の首を絞めたくないので、サラッと流します。
違う部分があろうがなかろうが、ツッコミ解説も極力避けます。旧版と新版が、そっくりそのまま同じ文章って、めったにありませんからね。
取り上げた文章は新版と重複する部分もありますが、それだけ私の琴線に触れた部分、私の好きなところなのだと思って下さい。
新版と比較してみたい方は、神の火(新版) 再読日記 をご参照下さい。但し参考になるかは不明。ご了承を。

★男は、ときどき船の夢を見る。多分、四年前に自分をこの国に運んできた船のことを想うからだろうが、夢の中でもいつも真っ先に、船の舳先がどちらの方角へ向いているのかと目を凝らす。自分を迎えにくる船はまだ、一度も現れたことはないが、今あそこに浮かんでいる船はどうだろう。
あの船はどこへ行くのか。あの雲の海を行く船は……。
 (旧版p9)

良ちゃんの見つめている船。その船に乗っている一人の男が、この先の良ちゃんの運命に深く関わっている。ああ、やっぱりこの場面、旧版・新版ともに好きやわ。

★多重防護のシステムは、人間工学の部分を除いてほぼ完成の域に達しているが、百パーセント確実なものなどこの世にはない。事故は〇・〇〇一パーセントの確率であっても、起こったら最後なのだから、関係者の心配は真っ当なものだった。故障もテロも、事故は事故だ。 (旧版p15~16)

★直視するに耐えない顔だったが、島田はその男から目を逸らすことが出来なかった。かつて男が言った通り、時代は確かに変わったが、時代の機関車はそれを動かそうとした人間を置き去りにした。男の清々とした夢想家の目の中では、時間は永久に止まっているのだと、島田は思うことがあった。二人で時代を変えようと囁いたその唇は、ただの狂ったロマン主義者の唇だったのだと今では思う。
島田は、自分の腹から沸騰水が噴き出すのではないかと思ったが、実際には、熱流束は蒸気の泡でいっぱいの状態だった。噴き出すべきものが噴き出さない。溜り続ける熱の逃げ場がない。原子炉の炉心では、その泡が飽和状態になるとき、逆に一気に流体抵抗がなくなって、沸騰水の驀進が起こるときがある。
 (旧版p17)

★考えてみれば、白の盛装はいつでも、この男に一番相応しい姿ではあった。弔いの日に、こんなふうに晴々と白を着て颯爽と立っていることの出来る人間が、ほかにいるだろうか。 (旧版p18)

★男の白いスーツの肩に、松明の明かりが映っていた。二年前に会ったときより、随分小さくなった肩だ。その上で、腐りかけた夢と陰謀が燃やされている、と島田は思った。 (旧版p19)

★全く、達者なのは口だけで、運動神経は昔から駄目な男だった。アスコットタイとステッキで、飄々と風に吹かれて歩いているうちが花。下を見ていないので、そのうち必ず歩道か横断歩道の段差に躓いて転ぶ。そして、骨にひびが入っても、顔色一つ変えずに再び平然と歩き出すのだ。江口はそういう男だった。この男の自負に満ちた人生は、道で派手に転んだぐらいではびくともしない。実業家であり、詩人であり、骨の髄までダンディな策謀家。そういう変幻自在な虚像とその内にある実像を、島田が冷静に見分け、それなりに眺めることが出来ようになったのは、そう遠い昔のことではなかった。そして今なお、島田にとって、どうしても一言で言い表すことの出来ない人物。それが江口彰彦だった。 (旧版p21)

島田先生から見た江口さんの描写。なかなか面白いですね。江口さん好きな私は、ここも好き。

★この男も、冬の肌を持つ男だ。 (旧版p24)

やっぱりこの表現、官能的でいいよね。好き。

★自分の人生を思うとき、島田は常に自分の腹で燃える火を連想した。この十数年、自分の腹の炉心がいつ壊れるかと見つめ続けてきた。危険の兆候はそれと分かるが、対処方法の選択と判断が難しい。これは原子炉でも同じだった。計測器のはじき出す数値を判断し、いくつもある対処方法のうち、どれが最適かを見極めるのが、技術者の仕事だ。自分も技術者の端くれであったのだから、選択も判断も自分で行うと決めていた。この炉心はいずれ崩壊することは分かっているが、それを見極めるのは自分であって、江口ではなかった。壊れているなら、安全に止めて見せる。自分が盗んだ火は自分で消し、神に返す。そう決めていた。 (旧版p27)

★歓迎したいものなど何もないが、自分の人生が未だ、人に踏まれても仕方のない影を引きずっていることを、改めて考えた。腹の中で炉心が燃えていた。不快なものや、恐怖も混じっているが、それにも増して奔出してはならない熱が迸り出ていた。 (旧版p30)

これは闇討ちかけられた後、地べたに横たわって動けない島田先生の内面状態。なかなか「熱く激しい」男のようですね、先生は。
それにしても、どれだけ容赦なくボコボコにやっつけたんだ、良ちゃん・・・。



7 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
あけましておめでとうございます。 (からな)
2014-01-02 20:36:44
つるぎさん、こんばんは。 コメントありがとうございます。

>旧作「神の火」が! 105円で!!

新年早々、うらやましいお話しを(苦笑) 指をくわえて物欲しそうな顔をしている私の顔を見せたいです(笑) 旧版は1冊しか持っていないんですよ。
古書市があればときたま覗くんですが、なかなか見つかりませんねえ。

>旧神、本当に読者はおるのだろうか…?

最近高村さんの作品にハマりつつある若い方(平成生まれの方)もいらっしゃいますから、読んでみたいと思っている方もいるはずですよ、きっと。

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有難うございます。 (つるぎ)
2014-01-02 18:47:44
からな様、あけましておめでとうございます!
お忙しいでしょうから、再読のご感想は、後々の楽しみにさせていただきますネ。

先日、ブ◯クオフに立ち寄ったら、ありました!
旧作「神の火」が! 105円で!!
持ってる(しかもボロボロ)のに、速攻でレジにもっていきました。
(そして、持ってるのに、黄金/映画バージョンも買ってしまいました)
ネットで高値と聞いてますが、旧神、本当に読者はおるのだろうか…?


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返信が遅くなって (からな)
2013-12-31 20:25:58
申し訳ないです、つるぎさん。 お久しぶりです。
さらに申し訳ないのは、たった一回で中断してること・・・。

>旧作の、島田先生は、赤毛なんですよね。ブルネットじゃないんです

え? ・・・あれ? 記憶がさだかでない・・・(冷や汗)

2014年中には何とか更新しますので、気長にお待ちくださいね。


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「旧作」が、世界で一番好きです! (つるぎ)
2013-12-27 18:08:56
こんにちは。
「神の火」自体が、高村作品内でもマイナーなのに、扱って頂いて嬉しいです!
旧作の、島田先生は、赤毛なんですよね。ブルネットじゃないんです。目立つだろうなあ。
ラスト近くの、日野との断崖絶壁でのシーン、江口老の「ほとんど恋だった」発言。
一般男性であろう大半の読者は、この作品、どうとったのか、不安だったのが懐かしいです。
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8刷読みました (masa)
2011-05-26 22:06:48
3.11をきっかけに、むずかしすぎて読みあぐねていた「火の神」を読みました。8刷でした(希少価値あり?)。
高村薫さん、すごいですねえ。読むたびに高村薫さんのすごさに圧倒されて、高村さんのことを想像し、本の世界から離れてしまうことが多々あります。
1度読んだだけでは理解できない部分がたくさんあります。文庫をアマゾンにて注文しました。読み比べてみようと思います。
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まさに名文。 (からな)
2007-07-02 22:41:45
りんこさん、こんばんは。

>「自分の人生を思うとき、~ 壊れているなら、
> 安全に止めて見せる。自分が盗んだ火は自分で消し
> 神に返す。そう決めていた。」

仰るとおり、島田先生の生き様・性格がひしひしと感じられる部分ですよね。私もここは、旧版・新版ともに、すごく好きです。

先ほどメールの返信をしておりますので、お楽しみに♪
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うれしいです! (りんこ)
2007-07-02 15:35:15
からなさん、こんにちは。

旧版「神の火」、待っておりました!!

「自分の人生を思うとき、~ 壊れているなら、
 安全に止めて見せる。自分が盗んだ火は自分で消し
 神に返す。そう決めていた。」
特にこの部分、大好きです。
島田先生の一人で戦いに挑む孤独・強さが感じられて・・・

次回も楽しみにしております。

追伸
メールありがとうございました。
お手数かけますがよろしくお願いいたします。
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