あるタカムラーの墓碑銘

高村薫さんの作品とキャラクターたちをとことん愛し、こよなく愛してくっちゃべります
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狼狽する人たち

2004-12-31 00:51:47 | レディ・ジョーカー(単行本版)再読日記
いつまで続くか、この「○○人たち」シリーズ。

昨日12/29は、第五章 のp276~307まで読了。残り約130ページ。読み終わりたいような、読み終わりたくないような。

城山社長は酒田泰一代議士と不快で無礼な対面を。そこで秘書の青野昭二から、警察に内部告発文書を送ったのが倉田副社長だとほのめかされ、衝撃を受ける。
東邦新聞社では、根来さんが行方不明に。会うと約束していたネタ元(と思われる人物)から捜索願を出すようにと言われ、騒然・茫然とする久保っちたち。
そのネタ元、加納さんは合田さんの部屋に駆け込み、根来さんの失踪とその経緯と結果を、涙ながらに語るのだった・・・。

***

さて、爆弾が3つ落とされました。

1.城山社長が衝撃受けた内部告発者が、よりにもよって腹心の倉田副社長。しかしまだまだ衝撃の事実が顕わになるのです。お気の毒です、城山社長。

2.根来さん、失踪。公安にもツテのある菅野キャップは、根来さんが危ない橋を渡っていることに気付いていたようですが、既に時遅し。

3.そして最も衝撃を受けたであろう、加納さん。何とか根来さんに報いてやりたかった。だが検察内部で相談した相手が、そのテの筋と繋がっていることが解らなかった。公私の「公」を抜いた付き合いが出来る、飲み友達・読み友達の根来さんとの関係、「公」を入れた途端、根来さん失踪という手痛いしっぺ返しが待っていたのは、皮肉といえば皮肉。
検事としての義兄の姿を、普段は窺い知ることが出来ない合田さんにとっても、うろたえ取り乱した義兄の姿を見て、初めて知ることが出来たのも、皮肉といえば皮肉。
そんな義兄を見ていても、「この男は何者なのか」という疑問は尽きない合田さん(苦笑) はふ~(ため息)

***

★☆★本日の名文・名台詞  からなのセレクト★☆★
今回は義兄弟関連に絞ってみました。城山社長&根来さん、ごめんなさい。

★「こうして人ひとりの命が奪われていくのを、誰が止められると思う。末端から中央まで、金の動くところには必ず暴力がひそんでいる。裏が表に出るのを押さえる暴力だ。事情を知っている者が自殺したり、消されたりする。ジャーナリズムも脅かされる。警察や検察は、上の方で圧力がかかる。これも暴力だ。そうして守られる者たちがいる。守られるシステムや構造がある。一人や二人摘発しても、根が張り過ぎていてシステムはびくともしない」 (『LJ』下巻p290)

★「政治や経済の根幹に近いところで流れる不正な金については、それが表に出ることを阻む暴力が働くんだ。システムを守ろうとする暗黙の膨大な力だ。沈黙。自殺。スケープゴート。失踪。何でもありだ」 (『LJ』下巻p293)
入力してみて気付いたのだが、加納さんが説明してくれると良く解るなあ・・・。

★被疑者を恫喝することも見下すこともない冷静さを常に保ち、必要な礼節は欠かさず、話はよく聞き、なおかつ心にもない言葉は決して吐かない。そういう義兄は、検事という職業に就いて、せいぜい人を徹底的に疑うことを身上としてきたとはいえ、基本的には誠意の人なのだった。 (『LJ』下巻p295)

★他人ならば、相手の心情を思いやるだけで済む。しかし義兄については、思いやるだけでは済まない何者かだということを、合田は今、考えていた。(・・・略・・・) 自分の目の前で泣いている男一人はこの自分にとって何者なのかという唐突な疑問に駆られて、合田はしばし、知らない人間を前にしているような気分で、義兄の顔を眺めていたのだった。
(・・・略・・・) 
いや。知らない人間ではもちろんなかった。この一年余り、公園でヴァイオリンを弾きながら、ほとんど毎晩のように、無意識のうちに遠くの人影を眺めては義兄が訪ねてきたのかと思い、人影が他人だと分かったら分かったで、義兄は今ごろ何をしているだろうとぼんやり思い巡らせてきた、その当の人物を今、あらためて眺めながら、むしろそうして毎晩思い浮かべてきた男一人が自分にとって何者なのかと考えた、というのが正確なところだった。
 (『LJ』下巻p295)

★合田は、これが自分のエゴから出た発想だということは分かっていた。この義兄には出世してほしい、自分には望めない社会的地位を築いてほしい、いや、永遠に自分の精神的な拠りどころであってほしい、頼れる存在でいてほしい、この自分に弱みを見せないでほしいと、常に心の中で要求してきた、そうしたエゴが、思えば義兄に対する十八年の自分の思いの大半を占めていたのだということに、一方では思い至ると、合田はだめ押しの深い困惑を味わった。そうして先ほど答えの出なかった自問に立ち返り、<以前はそうだったが、今は少し違っているのだ>と思いながら、合田は、義兄を掴んでいた手を離した。 (『LJ』下巻p296)
「義兄・加納祐介とは一体何なのか、という問いかけ」第二弾? 今回読んだところだけでも、しつこいくらい出てきます(苦笑)

★「俺のために、行ってほしい」 (『LJ』下巻p296)
出ました、合田さんの殺し文句! こんなの言われたら、義兄は行くしかないでしょう~。ああ、お気の毒な加納さん・・・お辛いでしょうに・・・合田さんのために行くのですね・・・ 

★義兄は「俺は弱いな……」と独りごちた。「それも悪くない」と合田は応えた。舌足らずな返事になったが、合田としては、こうして人に頼られるのも悪くないとふと思ったのと、自らの弱さを認める義兄も悪くはないという思いから出た言葉であった。 (『LJ』下巻p297)
ああ・・・こんな義兄弟が好きやわ・・・ 

それでは今から続きを読んでから寝ます。 

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