あるタカムラーの墓碑銘

高村薫さんの作品とキャラクターたちをとことん愛し、こよなく愛してくっちゃべります
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貴方、晴子さんに似ていると言われるでしょう? (上巻p353)

2005-10-17 23:08:01 | 晴子情歌 再読日記
9月16日(金)の 『晴子情歌』 は、第二章 土場 上巻p338~p376まで読了。つまり上巻読了。

晴子さんの手紙・・・土場へ戻った晴子さんの元に届いた電報は、父・康夫の死亡の知らせだった。弟妹を東京の祖父母や伯母の元へ帰し、晴子さん自身は衆議院議員・福澤勝一郎の家へ、奉公に出ることになった。
彰之・・・第二北幸丸で、いよいよ不眠不休に近いスケトウダラ漁が始まった・・・。

ひーん、上巻読了してから1ヶ月も経ってしまった・・・。『新リア王』 発売までには、何としてでも下巻を・・・終えられるんだろうか?(不安) 

***

登場人物
今回もめぼしい人の登場は、なし。

登場した書籍や雑誌名 (作家名だけ出ているものは無視。登場ページの表記は略。すみません)
今回もめぼしい書籍の登場は、なし。

★☆★本日の名文・名台詞  からなのセレクト★☆★

★吾が船頭になつたら、晴子さんに苦勞はさせね。
巖はそのとき、不器用に低く吐きだすやうな聲で確かにさう云ひました。
 (p347)
谷川巖、実質の結婚の申し込み!?
康夫さんの葬儀が終わった翌日、康夫さんからもらった萬年筆を晴子さんに返さねばと思って、やってきた谷川巖の台詞。・・・これってやっぱり、プロポーズですよね!
さて、晴子さんはどうしたのでしょうか?

★たつたいま觸れたばかりの巖の手だけをぼんやり見てゐますと、そのときになつて急に、康夫の遺骸を運び草を積んで燃やしたのだらう巖のその手が激しく切なくなつたと云ふか、あるいは目の前の若々しくうつくしい一つの手が、いまとなつては世界に殘つてゐるたゞ一つの實體であるやうな氣分になつたと云ふか。あるいはまた、この一ヶ月餘りの不確かな鈍い心地が一氣に何かの鋭いかたちを持つたとでも云ふのでせうか。私はいきなり巖を殘して家へ驅け戻ってしまつたのでした。ばかですね、こゝろと反對のことをしてしまふのだから。それで家へ歸ってから喉がをかしくなるほど泣きましたけれど、女が泣くときには大抵、肝心の理由はすでに不確かになつてゐるもので、そのときも最後は、そもそも何が悲しかつたのか自分でも分からなくなつてゐたのだらうと云ふ氣がします。 (p347~348)
晴子さんのおバカさん! 心だけじゃなくて、行動も正反対やないの! 泣くなら巖の胸に飛び込んで、思いっきり泣きなさい~! ・・・と私が地団駄踏んでも、後の祭り。

★「結局、躁ってやつだよね」と鼻先で唄うように言った。「誰の話だ」と彰之は一寸聞き返し、トシオは「甲板長たち、みんな」と言い、彰之が返事をためらううちにもう一言、「日本じゅうが躁でポップで、何もないよ、いまの時代」と続いた。
「東京で演劇をやってたと聞いたけれど、演劇も躁でポップだったというわけか」
「まあね。要は退屈してるんでしょ、みんな。ぼくら、とりあえず叫んだり唄ったりしてみたけどさ。何もないよ、やっぱり。漁船に乗ったら少しは違うかと思ったけど、結局大人が一番退屈してるんじゃない。ぼくらはまだキリギリスになれるけど、大人はせいぜいアリを演じるしか能がないだけでさ、結局どっちも躁ってやつでしょ」
「さあどうだろう……」
「あ、いまぼくのこと嗤ったでしょ? いいですよ、別に。ぼくらは小指を噛むの噛まないのって世代じゃないし。退屈しているだけだし。『銭ゲバ』、最高だし」
「嗤ってないよ」
 (p370)
かなり長い引用ですが、トシオと彰之の会話。多分第二北幸丸で、この二人が一番若い世代になるのでしょうか。若いといっても、時代は昭和五十一年ですが・・・(苦笑)

トシオのキャラクターは、まるで「記号」のようにも思えます。日本人で本名をカタカナで表記されている高村作品のメインキャラクターって、ひょっとしてこれが初めてじゃありませんこと?
「記号」という意味としてはちょっと不適切かもしれませんが、トシオは、私のような年齢の読み手の手助けになるようなキャラクターとして、配されているように思えるんです。カタカナ表記ってのがミソ。どこにでもいるような、当時の世間一般の平均人物像という感じがするんです。

無知をさらしますが、私は書籍でも「小説」というジャンルはあまり読んでいない方です。ある小説には、カタカナ表記されている人物が結構あるようですが、そういうのは、なぜか読んだことがない。無意識に抵抗があるみたいなんです。まるで小説のためのキャラクター、まるで顔のない記号のようなキャラクターのような気がして・・・。
その点から、トシオを「記号」みたいだなと思ったようなのです。
トシオについては、下巻でも考察していくことでしょう。

今回、ちょっと蛇足の解説します。
小指を噛むの噛まないの・・・「小指の思い出」という歌謡曲があります。この会話の前に、 あなたが噛んだ小指が痛い  とトシオが唄っていたのでした。

銭ゲバ・・・これ、何のことかさっぱり分かりませんでした。(だから私は大阪万博の時には生まれてませんってば~) goo辞書で調べたので、転記します。
俗に,金銭への強い執着を揶揄(やゆ)していう語。
〔「ゲバ」は武装闘争の意のゲバルトの略。ジョージ秋山の同名の漫画以来,用いられるようになった〕

分かったような、分からんような。 ・・・もしかして、すでに死語なのでしょうか?

***

※原文では、晴子さんの手紙は旧字体・旧仮名遣いを使用しています。どうしても変換できないものは、現代の字体・仮名遣いを使用しております。またOSやブラウザによっては、文字化けしていることもあります。その場合はお手数ですが、コメント欄を利用して申し添えて下さい。出来るだけ善処します。

上巻、何とか終わりました! バンザーイ

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