あるタカムラーの墓碑銘

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「村薫 スパイを語る」  <CONFIG.Vol.03 2014 may> の雑感

2014-06-15 22:24:19 | 何となく、タカムラー気分(お知らせ含む)
大変遅くなってしまい、まずはお詫びを申し上げます。

タイトル通り、スパイにテーマを絞って高村薫さんにお話を伺うというインタビュー。

高村さんがスパイについて語るといえば、『冒険・スパイ小説ハンドブック 』 (ハヤカワ文庫NV) に収められたエッセイを、まずは思い浮かべます。
この本が発売された当時は、高村作品は未読でしたし、今振り返ると、ひょっとしたらこれが初めて読んだ高村さんの文章、並びに初めて手に入れたエッセイなのかもしれません、はい。

スパイが登場する長編作品が多かったためか(それでも寡作作家の部類に入りますが)、スパイ小説の解説もこなされてましたね。


と、前置きはここまでにして、インタビューを読んだ内容で、私が気になった部分をあれこれピックアップ。

・1980年代初めに北アイルランドを旅したお話(p12)・・・そのとき感じた違和感。


・『寒い国から帰ってきたスパイ』の原書(p13)・・・フランス語に辟易していた20歳の頃に買って読む。以降、ジョン・ル・カレの<スマイリー三部作>、後にハヤカワ文庫の解説を書くことになる『パーフェクト・スパイ』は、作家デビューする前に読破。

・スパイについてもっとも興味深く思ったのは、彼らの職業の内実というよりも、いったいどういう人間がスパイになるのかという問題の方だった。(p14)・・・例えばル・カレの作品を読んでも、それらしい理由は書いてあるが、まったく共感や納得ができない。 スパイ行為自体に悦びを感じるような特殊な官能性、自分をあえて危ういところへ追い込んでゆくような自虐性とが備わっているように思えてならない。


・スパイの行動原理とは、つまるところ「裏切り」にほかならない。(p14)・・・自らの中心を空虚化することに悦びを感じるようなマゾヒスティックな人間こそがスパイになる。


・どんなに自らを虚しくしていっても、最後まで決して消すことができないのは、その人間の身体です。(p15)

余談ながらこの発言で私が思い浮かべたのが、『神の火』の島田浩二、『リヴィエラを撃て』のサー・ノーマン・シンクレアでした。


・私は(スパイであった)ル・カレと違って、物書きというのは基本的に白紙の存在だと思っております。(p16)・・・空虚と白紙は違う。 空虚であることに悦びを感じるマゾヒズムは、私にはまったくない。


・(『黄金を抱いて翔べ』の)幸田というどこかしら空虚な主人公は、金塊に蟲惑的なものを感じたのだろうと思います。(p16)


・小説を書くことへと駆りたてるもっとも強い動機というのはつねに、自分が理解できないものを知りたいという欲望なのです。(p17)・・・スパイも理解できなかったし、実は警察もまったく理解できなかったからこそ、『マークスの山』を書かせることになった。 政治家のこともまったく理解できなかったし、政治家の言葉がなぜ生まれるのかという疑問が、『新リア王』を書くきっかけになった。


・(阪神淡路大震災から)現在までの十九年間に私が何を発見したかと申しますと、スパイとはおよそ真逆のもの、すなわち、人が生きることの意味や、命があることの重さ、といったものです。(p17)


・合田を描きつづけるということは、そのように彼が成長してゆく過程を描くということでもありました。(p18)


・『冷血』を書く上での具体的なきっかけとなったのは、2007年に名古屋で実際に起こった強盗殺人事件のニュースに触れたことでした。(p19)

『冷血』のモデル事件(?)は、今までに高村さんは明確に仰っていないし、大方の皆さんは年末になるとニュースで取り上げられる世田谷の事件だと信じていたと思うのですが(高村さんもこの事件だとは仰っていない、はず。なので私も信じてはいなかった)、実はこれだったのか! とストンと腑に落ちました。


・カポーティの『冷血』を読んで(中略)、私ははじめて、貧しいアメリカ、わびしいアメリカというものがあるのだと知りました。(p19)・・・2000年代の日本に広がっている風景もまた、貧しい日本、わびしい日本なのではないか、と。 それが、私なりに『冷血』という作品を書いてみようと思ったきっかけです。


・音と映像がきれいな作品を集めているだけ(p20)・・・『トランスフォーマー』 『ダークナイト』 『トロン:レガシー』


・アレック・ギネス主演のBBCドラマ『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』(1975年)と、ゲイリー・オールドマン主演の『裏切りのサーカス』(2011年)(p20)・・・両方見ているが、BBC版には「冷戦の時代の匂い」が濃厚にしたが、映画は完全に消えてしまっている。


・スパイという存在に対するロマンティシズムが生まれる場所というのは、やはりイギリスなのだろう(p20)・・・イギリスにおけるすぱいのというのは基本的に、エリートが確信犯的になるものであって、貧しい人がお金目当てになるものではないのです。


・(スパイというものをあえてひとことで表現するならば、という問いに) 「時代の記憶」です。(p20)



最後にこのインタビューを計画・実施していただいた、ソシオグラフィ研究会の皆さまに、感謝と労いの言葉をお送り致します。
ありがとうございました。

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