KANCHAN'S AID STATION 4~感情的マラソン論

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ココがヘンだよ“マラソン・ブーム”①

2010年03月24日 | マラソン時評
だいたい僕は世事に疎く、今どきの流行りモノについては決して詳しくないのだが、どうも伝え聞くところでは、今は空前の“マラソン・ブーム”であるらしい。

その発信源はというと、東京マラソンのようである。東京マラソンの定員3万人に対して、その10倍近い申し込みが集まるという事実が、
「走るなんて苦しいだけで何が楽しいの?」
と思ってらっしゃる方には理解不能の現象なのだろう。しかも、東京の中心部を走るために1万円も払わなくてはいけないという事も、
「何で、1万円も払って、苦しい想いをしないといけないの?」
と思うのだろう。

思えば、'92年に始まったこの大会の前身である東京シティマラソン、ハーフマラソンでゴール関門制限時間が2時間と決してビギナー向けでない条件で、参加資格が東京在住ないし在勤者に限定(つまり、東京都に税金を払っている人間でないと走らせてもらえなかった。)されていながら、5000人の定員はすぐに埋まっていたのだから、制限時間が7時間のフルマラソンが実現したら、その50倍もの人数が申し込んできても何ら不思議なことではないと思う。この大会、何度も蒸し返すようだけど、現在の都知事が中止させたのだ。

ブームと呼ばれるものには必ず終わりが来るのだが、今のこのブームはどんな形で終焉を迎えるのだろう。ブームが過ぎ去ったからといって、東京マラソンに抽選無しで出場出来るようになるのだろうか?少なくとも、東京の五輪誘致は失敗しても、東京マラソンが「役割を終えた」として中止になるような気配はない。かつて大阪への五輪誘致活動の一環として開催されていた大阪シティハーフマラソンは五輪開催地が北京に決定したことで中止になったのであるが。

現在の都知事が退任し、次の都知事選挙で、「東京マラソンの中止」をマニフェストに掲げる候補が当選するようなことがあるだろうか。

ロンドンやニューヨークやベルリンが20~30年かけて完成させた都市マラソンを無理矢理初年度でやってしまった東京マラソンだが、そのおかげで、我が地元の愛媛マラソンも市内の中心部からスタートする制限時間6時間の大規模大会にリニューアルすることが出来た。これまで以上に周囲の関心も高まったおかげで、とても肉離れのために欠場とは周囲に言い出せない雰囲気が出来上がり、僕も自己ワーストタイムでゴールした。今年のことは早く無かったことにしたい。

まあ、既存の大会がリニューアルされるのはまだいい。今後、大阪や京都、神戸でも同様の大会が実施されるのだという。

正直、
「フルマラソンばかり、そんなに増やしてどうすんの?」
と言いたくなる。京都は人気の高かったハーフマラソンを中止させてフルに以降させるというが、そんなにみんなフルマラソンを走りたいのかな?

ビギナー(エントリー・ランナーと言うそうである。)の為には、ハーフマラソンや、もはや絶滅危惧種目である30kmレースこそ増やした方がいいのではないかと思うし、僕もそれを望んでいる。

どうやら、全く走ったこともないのに、8月の東京マラソンのエントリー受付に申し込んで、当選してからトレーニングを開始するという人も少なからずいるよである。もったいない。実にもったいないと思う。

出来るだけ、簡単な方法でやせる事が出来ると謳うダイエット本が売れるように、マラソンについても、練習しなくても、メタボ体型でも完走出来ると謳う本がいくつか出ているようである。増田明美さんがそういった類の本に対して
「イライラする。」
と週刊誌の取材に対して語っていたが、はっきり言って、練習しないでマラソンを走って、面白いのだろうかと思う。

谷口浩美さんはかつて、
「マラソンは要領のいい人には向いていない。」
と語ったことがある。要領のいい人は、楽して成果を挙げることばかり考えるからだという。マラソンというのは、スタートラインに立つまでのプロセスを楽しむスポーツなのだ。少しずつ走る距離を延ばしていき、走るペースを上げていき、体型が少しずつ変っていくことを楽しめるようでないと、マラソンを走ることは楽しめないと思う。仕事をしていて、午後3時過ぎると、

「もうすぐ仕事が終わって、走りに行けるぞ!」

とわくわくする気持ち、金曜日になると、翌日の距離走のことを思って、遠足の前日のように待ち遠しくなる気持ち、そんな気持ちが理解できますか?
できない人にはマラソン大会にエントリーして欲しくないな。

ブームと言われる割に、毎週日曜のマラソン中継の視聴率は決して上がっていない。エントリー・ランナーはテレビでマラソンを見ないのだろうか?僕などは、自分で走るようになって初めて、「マラソンをテレビで10倍楽しく見る方法」を理解したのであるが。

かつて箱根駅伝で「山登り男」と呼ばれた、大久保初男さんが、市民ランナー向けのセミナーの講師をした際、冒頭でいきなり、
「(当時の女子マラソン世界記録保持者である)イングリッド・クリスチャンセンの初マラソンの記録をご存知ですか?」
という質問をした。

「マラソンを走られるのなら、マラソンにまつわる諸々のことに対して、深く興味を持ってください。」

ということなのである。いわば、「マラソンおたく」になる事を勧めているのである。ちなみに、正解は2時間45分15秒である。そんな人がそんなに増えているようでもないし。

ブームと呼ばれている割には、僕のこのサイト、訪問者の数は以前と変っていないし、掲示板に書き込んでくださる方も昔馴染みの方々ばかりである。まあ、それでもいいんですけどね。

東京マラソンに対して、これが果たして本当に競技力の向上につながるのだろうかと危惧する意見が関係者にあった。世界記録が何度も輩出している海外の都市マラソンの代表的な大会であるロンドン、ベルリン、ロッテルダム。しかし、現在英国やドイツやオランダの男子ランナーに、世界のトップを競うランナーがいないのである。ケニアやエチオピアのランナーたちを高額の出場料で呼び寄せて、ペースメイカーに引っ張らせることで2時間4~5分台の記録を連発させる一方で、自国のランナーを育成させようという発想は見事なくらいこれらの大会から欠落しているのである。裾野は確かに広がっているがピラミッドの頂点の高さが年々低くなっていやしないか?大学の陸上部や実業団の長距離ランナーたちが、マラソンよりも駅伝を重視しているなどと言われるが、1万円払えば誰でも出場出来るマラソン大会よりも、真に選ばれし者のみが走ることのできる箱根駅伝や実業団駅伝の方に価値を見出しているとしても、仕方ないと僕は思う。



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