亀の啓示

18禁漫画イラスト小説多数、大人のラブコメです。

とにかくイチャイチャハロウィン小説版(57)

2018-02-28 00:02:47 | とにかくイチャイチャハロウィン小説版
「お母さん、来月頭にはあっちのアパート
引き上げて来るってさ!」

あれから、亮はちょっとした憂鬱に
襲われている。
なんというか、自分で自分の毒に
やられてしまったというか。

「どうしたの?元気ないよ。」

「や。うん。大丈夫だよ。」

自分で自分の気持ちさえ掴みかねて
いるのだから、言葉に出来よう筈がない。

「なんか、お母さんに向かって他人だって
連呼したんだって?」

美月はにこにこしながら言った。

「あ。それだな。今の鬱エピソード。」

「あれ?魔界の人たちはそういうの
当たり前じゃん。何ダメージ食らってんの?」

「そもそも、他人はこんなお節介しないよ。
あれほどお前らに禁句にしてたような
無遠慮な物言いも沢山しちゃったし。」

実は自分の軸がブレブレだったことにも
自己嫌悪になる。

「あれは悪趣味な論争、いや虐めだよ。」

「良心の呵責ってやつ?気がすまないなら
謝ればいいんじゃないの?」

「それこそ軸がブレブレじゃないか。」

亮はソファーに倒れ込んで、膝を抱えて
丸くなる。うううと唸りながら転げて
今度はラグに打ち上がって、海老のように
跳ねた。

「ごめん。美月。」

結果はどうあれ、絹江さんを傷つけた
ことには変わりがない。
全てが丸く収まったようにも見えるが、
思い返す余裕が出来て、どんどん自分の
悪行が心にずしりと重く足枷になってくる。
後悔とも違う。ひたすら、自分の愚かさと
傲りを思い知らされる。
これは自分が悪い。自分の落とし前を
自分でつけきれずに滅入っているだけだ。

「それいけ!」

いつのまにか、昼寝から目覚めた双子たちが
放牧されていた。

「放すなら放すって言って!」

ハイハイしながら襲ってくる息子たちに
あっという間に登られた。
渉は顔面騎乗、卓は鳩尾で胃を掴む勢いで
手をにぎにぎしている。

「ぐぶあ。ああへほ、おはへ!」

美月は二人を抱き上げて小脇に抱えた。

あぶう!と抗議をするも、
ママには敵わない。

「やり過ぎ。パパにはいい子いい子でしょ」

「そんな加減無理だよ!」

亮はいいように陵辱されゲフゲフと
咳き込み左右に転げた。

「鬱陶しいから起きて。」

にこにこしているわりに、物言いがキツイ。

「はあい。」

亮は起き上がるとまたソファでものを思う。

「お前たちはここで遊んどいで。」

リビング脇のプレイシートを敷いた一角で
二人はお座りしながらオモチャを噛み
飛行機を取り合い、ぬいぐるみをパフパフ
鳴かせる。最近は二人で、くんずほぐれつ
遊べるようになってきた。

美月は洗濯物を畳みながら、
亮に話しかける。

「あのさあ。」

「何?」

「こんなこと言って、嫌な気持ちにさせたら
ごめんだけど。」

「ん?」

「そんな風にじたばた悩む亮も好きだよ。」

「な…っ」

亮は不意打ちを食らって、顔が熱くなる。
さぞや赤くなっているだろうと
恥ずかしくて、また顔が熱い。

「大好きよ。」

美月は平然と言う。
当たり前のこと、と。

「や、やめて。美月。」

「どうして?」

「だって。恥ずかしい。」

「変なの。」

亮は、何としてでも夜までに体勢を立て直し
この女をベッドでお仕置きせねばと思う。
青臭い傷に出来た瘡蓋を剥がすのは
後回しにしよう。

「くそう。」

「降参ですか?」

美月は畳み終えた洗濯物を脇に積んで
改めて亮の方をみた。

「くそう、くそう。」

亮は美月の膝まで這ってきて、ごろりと
頭を乗せた。

「美月のおまた、いいにおい。」

アルファとベータのまねをしながら
美月の太ももを撫でた。

「よしよし。可愛いね。」

美月もコウモリ兄弟を迎えるようにして
やさしく亮の耳の後ろをカキカキした。

とにかくイチャイチャハロウィン小説版(56)

2018-02-27 00:14:55 | とにかくイチャイチャハロウィン小説版
「ご無沙汰してます。」

「あら、亮さん。」

飛行機を降りて、路線バスに乗った。
亮は旅慣れているから
海辺の町にやってくるのに
露ほども迷うことはなかった。
実際、海辺の町を経由して
隣町の見本市で仕事をしていたこともある。

「美月に頼まれたの?」

絹江さんは、仕事のついでに寄ったとか
用意してきた言い訳を一つも聞いて
くれなかった。

「逆、かな。あいつは一緒に来たいと
言ったが俺が止めた。」

「どうして?」

「電話で話してダメなものが、会ったからと
言って話の流れが180度変わるなんてこと
あんまりないからです。」

「顔見たらほだされることもあるかもよ?」

「俺にはそうは思えなかったんですよ。」

絹江さんの顔を見ていたら、何故か
苛立つ。亮は落ち着こうとするものの
絹江さんの眼差しにまた、煽られる。
口に出すこともいちいち挑戦的だ。

「やっぱり、人間じゃない人とは
話が合わないわ。」

これは、強い拒絶だ。
亮は背中が痒くなる。翼が出そうなんだが
これは堪えなければと思う。

「そんなに俺が不愉快ですか。」

駄目だ。いいように手玉に取られている。

「そう、かもね。所詮吸血鬼なんかとは
分かり合えない。いい気になって家族面
しないでもらいたいの。」

亮は、何度か深呼吸をして
言いたくなった言葉を一回すべて
飲み込んだ。頭が冷えた。

「家族じゃないからこそ。
聞きに来たんです。あなたの本音を。」

「え?」

「それを俺が正直さんに伝えるとか
そういうんじゃ、ないですよ?
ただ、あなたが何を思って帰らずに
ここに留まっているのか。
他人の常識と擦り合わせる機会を
提供しにきただけです。」

「随分とハッキリ他人だなんて言うのね。」

絹江さんは自分から煽ったくせに
とても寂しげに亮を見る。

「ヴァンパイアだけじゃなく、殆どの
魔界の住人たちは、配偶者の親族との
繋がりを重要には思いません。」

「ふうん。」

「でも。自分の大切な人が、大切に思う
人たちのことは。同じく大切に思います。」

絹江さんの瞳の色が少し変わる。
初めて会った時の、亮と分かっていながら
気づかぬ振りで楽しそうに笑っていた
あの目に戻ってきた気がした。

「そんな風にして、美月のことも
口説いたのね。」

「いや。あいつには、気の利いたことは
言ってやる余裕なんてなかったです。」

「あたしはね。おいそれと家族の元に
帰れるような身分じゃないのよ。」

「なぜ、そんなに卑屈に?」

「卑屈って……」

「じゃあ、訊きますよ?あなたは家族を
愛してないんですか?」

これは怒らせようと言ったことだ。
愛してない訳がない。
亮は、この家族がお互いを大切に
思っているのを知っている。
数回会っただけだが、知っている。

「何も分からないくせに!」

亮の思惑に乗ってくれたのか
本当に怒っているのか
判断がつかないが、亮は続けて畳み掛ける。

「分かりませんね?さっぱり。
俺は他人だから、教えてもらわないと
ちっともわからない!察し合える家族じゃ
ありませんからね!」

「あなたに、家族はいないの?」

やり返すように絹江さんが訊く。

「居ますよ。父と母、妹です。」

「家族だから、言えないことって
わからない?」

「分かりませんね。俺は後を継がずに
家を飛び出した。その時にもちゃんと
何故後を継ぎたくないのか、そして
自分は何をしたいのか。はっきりと
言葉にして説明しました。」

「親御さんは、なんて?」

「我が儘な息子だと思ったそうです。
それはつい最近聞いたことですが。
でも、俺の主張も聞いてくれて、納得して
くれた上で送り出してくれました。」

「そうなのね。」

「でも、俺は家族が嫌いだから
家を出たわけじゃない。縁を切るような
意味じゃないこともちゃんと話しました。
今でも家族のことは愛しています。
向こうはきっとつき合いきれないって
思ってるはずですがね。」

絹江さんは黙って亮の話を聞いている。
家族だからなかなか言えないけど。
家族だからこそはっきり言葉にして
伝えなければいけない。

「もう一度訊きますよ。
あなたは、家族を愛していますね?
帰りたいんですね?」

「決まっているじゃない!」

「それでは、何故。帰らないんですか。」

「どの面下げて帰れるっていうの?!」

「あなたがいくつその面を持ってるのか
分かりませんけどね!全部ですよ!」

「あなたは、他人なんでしょう。ならなぜ
こんなに無遠慮なことを言うの!」

「他人だから。あなたは他人から受けた
理不尽な仕打ちに傷ついて、本当の家族の
元に帰ればいい。素直に甘えたらいい。
甘えた後には、甘えさせてあげたら
いいでしょう?」

「もう、もうやめて!」

亮は泣き出した絹江さんの背中に
手を添える。

「会いたい。あの人に、会いたい。
だけど、こんな我が儘なこと2年も
続けてたあたしには、あの人に甘えて
慰めてもらう資格なんかないわ!」

「そんなもの、要らないでしょ。
資格ってなんですか、それは。
それを決めるのは正直さんだし。」

「え……」

「逆にあなたを受け止めて、愛する権利も
彼にはあるんじゃないですか。」

「そんな。きっとあの人はもう……」

絹江さんは心の奥底で、正直さんが
迎えに来ないことにショックを
受けているに違いないのだ。
正直さんは、もしかすると
こんな風に自分を責め続けてぼろぼろの
絹江さんのことがよく分かっていて
そっとしておこうと思っているのかも
しれない。これだって、伝えなければ
愛想を尽かしているのか
黙って待っているのか分からないのだ。

「俺だって正直さんと話をしたわけじゃ
ありませんから。でも、訊いたら教えて
もらえると思います。
あなたが、訊きますか?」

「今さら、言えないわ。」

「伝えましょうか?」

絹江さんはようやく涙を拭いて
真っ直ぐに亮を見た。

「もし、あの人が。私を許してくれるなら。
迎えに来てほしい。
ダメならもう、いいわ。」

「正直さんが迎えに来たら。最低限の
会話は持って下さいね。今後のために。」

亮はスマホを出して何処かに電話をしている。

「あ、もしもし?亮です。突然すみません。」

絹江さんはキョトンとして見守る。

「絹江さんから伝言です。
私を許してくれるなら、迎えに来てほしい。
許せないなら、ここで暮らします、と。」

亮はスマホをスピーカーにもしてないのに
正直さんの声が聞こえてきた。

な、なに?亮くん、まさか?!
絹江のところにいるのか?

「代わりましょうか?」

亮は返事も聞かずに絹江さんにスマホを
差し出した。

「あなたの愛する旦那様ですよ。」

絹江さんは指先を震わせながら
亮のスマホを受け取り、耳に大事に当てた。

「あ。あなた。」

「絹ちゃん!!今、今すぐ行くから!!
待ってて!どこにも行くなよ!」

「あなた。真っ直ぐうちまで来られる?」

「あ、そうだな。いや、大丈夫だ!」

「空港に着いたら。電話してよ。」

亮は思ったより上手く行ったななんて
思っていたが、絹江さんがスマホを
突っ返してきたとき、後から襲いかかる
大イベントがあるのを失念していたのだ。

「やってくれたな?!婿殿!!
祝い酒の席では覚えてろ!!」

うわあ。勘弁してくれ。
せめて飲み慣れたワインにしてもらえるよう
美月を通して頼もうと思った。



とにかくイチャイチャハロウィン小説版(55)

2018-02-26 00:20:43 | とにかくイチャイチャハロウィン小説版
市太郎さんの納骨も済んで
色々な手続きも終わった。
あとは、絹江さんがいつ帰ってくるか
となっていた。
絹江さんは市太郎さんの入っていた
ホスピスの近所に、ワンルームのアパートを
借りて一人住まいをしていた。
一向に帰ってくる気配のない絹江さんに
美月は事あるごとにせっついていた。

「お母さん、いつ帰ってくんの?」

「ん、そうね。色々整理しなくちゃ
いけなくて。このアパートの契約も
だいぶ残ってるから落ち着いて片付けるわ。」

母はのらりくらりとかわして
はっきりと返事をしない。
美月は電話を切ると深いため息をついた。

「お義母さん、まだ帰らないって?」

「アパートの契約も3ヶ月残ってて。
荷物なんかろくにないのになあ。
何を整理したいのかわかんないよ。」

亮は早く帰れと急かす美月の気持ちも
わからなくもないが、逆に正直さんが
動かないのが気になった。

「なんで正直さんは迎えに行かないの?」

「そっちも煮えきらないんだよね!」

美月は正直さんが動かないからこそ
絹江さんにマメにコンタクトを取るのだが
良い方に向かっているようには
思えなかった。

「母さんには母さんの事情があるんだとか
ものわかりの良いこと言っちゃって!
素直になれってえのよ!!」

美月は極限までイライラを募らせている。
だが、これを爆発させたら上手く行くものも
台無しになりそうな気がするので
亮は美月をなだめすかしてブレーキを
かけている。

「きっと、お葬式のときに
なんかあったんじゃないかな。」

亮はあのとき、夫婦の間でなにか
あったのではないかと言う。

「あるいは、何も無さすぎたか。」

言ってみてこの方が可能性が高いと思う。
お互いのちょっとした言動を読みすぎる
満足な会話もないのに、あっという間に
すれ違うケースだ。

「でも。回りが何も言わなかったら
余計膠着状態じゃない?きっかけは
つくってあげたいからさ。」

美月はもっともなことを言うが
家族が介入すると言葉が過ぎたり
無遠慮な態度になったりして
こじれることもある。











「お前に言われっと癪に触るが。
確かにその通りかもしんない。」

直樹は電話口で唸る。

「誰か自然にあの夫婦のわだかまり
っちゅーか掛け違えたボタンを直して
やれるような人はいないのかな。」

「俺だって黙ってみてる訳じゃないよ。」

「どうせ、とっとと帰ってこいよ!
引っ越しなら手伝うから!とか
言ってんじゃないのかよ。」

「俺が余計なこというと拗れるから。」

直樹はこんなとき少しも役には
立たないが、そんなところが亮は好きだ。

「俺が会ってもいいか?」

「なんで?」

直樹は何だかんだ、自分の両親が
このまま別れてしまうとか
さらさら思っていない。
美月だってケンカをいさめるくらいの
気持ちなんだろう。
これは、ケンカとか意地の張り合いとか
そんな問題として捉えていていいのか。
こんな発想は、他人だから出るのだろうか。

家族としてでなく、部外者として
話が出来るのは自分だけだと思ったのだ。
直樹の妻、みつえは直樹の高校時代からの
後輩で、つき合いは長い。人間だし、嫁だ。
絹江さんとは女同士、上下関係がたぶん
自由な会話を阻むだろう。

亮は、スケジュールの調整できそうな
週末に絹江さんを訪ねることに決めた。

「美月にもよく言い含めるが、俺が
絹江さんに会いにいくとか正直さんには
絶対に内緒だからな!いいか?」

「まあ、俺は面倒くせえから何にも
言わないけどね。」

聞かなかったことにすると直樹は笑う。
つくづく、良いヤツだなと亮は思う。






「じゃあ、あたしも行くよ!」

案の定、美月は同行したいと言い出した。
亮は心を鬼にして、美月を押し留めた。

「そんなに、信用出来ない?あたしを。」

「そういうんじゃないよ。
でも、美月にもないか?家族には
言えないけど、他人になら言えること、
相談するにも他人の方が話しやすいこと。」

「んー。確かに。」

「こんなこと言ったら我が儘だとか
こんなこと言ったら心配掛けるとか。」

家族を想うが故に話せないこと。
それは当事者だから、言えないことがある。

「そもそもお前や直樹は、言いたいこと
我慢できないだろう?いつも本音だ。」

そこがたまらなく可愛い。
そこまでは言わないでおいた。
反応がまた可愛いのは火を見るより明らかで
そうなると真っ昼間からでも抱きたくなる。

美月はぶうっと膨れっ面をする。
ああ、可愛い。これも可愛いよ。
亮は顔がとろけそうになるのを必死に
引き締めながら続ける。

「俺に話、させて。」

「ん。わかったよ。任せる。」

「俺は仕事で近所に行った事にするから。
正直さんには内緒だよ?絶対に気を悪く
しちゃうから。余計こじらすよ?」

「わかったよ。」

こんな秘密を守るのも、美月にはつらい
ことだろうが、ここは踏ん張って貰おう。
亮は美月の唇を指先でなぞる。

「いい子だ。」

なぞったラインを確かめるように
唇で触れた。








そして、亮はひとり。
海辺の町へきたのだった。




とにかくイチャイチャハロウィン小説版(54)

2018-02-25 00:14:45 | とにかくイチャイチャハロウィン小説版
「ごめん。じゃあ直接斎場に行くからね。」

絹江は自分の亭主が
一人でまっすぐにこの海辺の町に
たどり着けるはずがないと
わかっていたので落ち着いたものだった。

くれぐれもタクシーで向かうようにと
念を押した。

この海辺の町に斎場は一つしかない。
町の名前を言えれば大丈夫だ。

自分も娘時代をこの町から出ないで
過ごしたが、正直もそれは同じだった。
彼は今も住み続けているあの町で
右も左もわからない自分を見つけてくれた。
自分はまだ恋が始まってもいないのに
この町に自分の灯台を見つけたような
妙に安心した気持ちになったのだ。

結婚したのはそれからすぐだった。

自分は女の癖に、とても酒に強く
いくら飲んでも頬も染まらぬほどの酒豪だ。
小柄で大人しそうな見てくれの自分に
酒の雰囲気で落とそうとする男が
声をかけてくる。その度にどの殿方も
ベロベロに酔い崩れ白旗を上げる。
別に自分はそんな下心を燻らせた男共に
興味はないのだが、女としてどうなのかと
悪くもない痛くもない腹を自分でえぐる。
やりきれない気持ちになったのだ。

正直が絹江を飲みに誘ったのは
下心がないと言えば嘘になるが
毎日つまらなそうにしていた絹江に
自分が話しかけると、少しだけ表情が
華やぐように見えたのだ。
もう、それがたまらなく嬉しかった。
もっと一緒にいたい。
仕事が終わってからも側にいたかったから。
飲みに誘った。

だが絹江は沈んだ様子を見せた。

「お酒苦手だっけ?」

「そんな、ことは。」

「飯も旨いんだ。いつも晩飯はそこで
済ませちまうんだけど。」

「そうですか。」

一緒に飲み始めると、お互いに感じるものが
あった。一杯目の生ビールが同時に無くなり
少しも酔いの見えない振る舞いに、何故か
笑いが漏れた。

「鷺沼さんて、お酒強いの?」

「君もだろ?」

「酔ったことがないわ。」

「俺もだ。」

次にオーダーしたのは焼酎だった。
いいちこが瓶ごと来た。

「ここは俺のいきつけだから。」

氷は少なめ、普通はサワーを出す
大振りのグラスが出てきた。
絹江は自分の前に出された小さな蕎麦猪口
みたいな器を下げてもらう。

「私も、こっちのグラスで。」








「運命かなと思った。」

酒に酔わないもの同士だ。
飲むペースも一緒、酒ならなんでもやるが
焼酎か日本酒が好き。意気投合して語り合うが
一つも酒の勢いを借りたい下心はない。
下心を、酒を使わず正々堂々と口に出した。

「ずっと、一緒に。これから何十年も。」

「あたしを、女と思ってる?」

絹江はもっとはっきり口にしてほしかった。

いつもの店のいつもの席だ。

正直は向かい合って座る絹江に
身を乗り出して顔から近づく。

「わかんねえわけ、ねえだろ?」

内緒話をするように口元を手のひらで隠し
唇に唇でキスした。

「結婚して。」









絹江は正直との出会い、プロポーズを
思い出して胸を熱くした。
父の通夜を前に、夫を思って胸弾ませる。
なんて親不孝な娘だろうか。
そろそろ頃合いだ。
正面玄関の車止めに出て、タクシーの
着くのを身を乗り出すようにしながら
見守った。
もうすぐ、あの暖かい人に会える。
やはり絹江は浮き立った。

「絹ちゃん。おまたせ。」

「あなた。」

胸に飛び込みたかった。
一緒におこたに入って、みかんを剥いて
口にいれてあげたい。
ああ、だめだめ!早く喪服に着替えなきゃ。

「喪服はっ?!」

「この中だよ。美月が入れてくれたから。」

はじめ、正直はボストンバッグにまとめて
放り込もうとしていたのだが
美月が阻止した。小振りのスーツケースを
出して(これは美月のものである)綺麗に
畳んで入れてくれていた。靴もパールも
お数珠も白いハンカチも入っていた。

「あたし、着替えてくるわ。
紫陽花の間がうちの控え室だから。」

正直は喪服を着て出てきたので、すぐ
控え室に行った。
着替えや洗面道具の入った
ショルダーバッグをロッカーに入れた。

なにか手伝えないかとフロントに行くが
通夜振舞いなども手配済みで業者がことを
進めてくれている。

「あなた。あと、一時間で始まるわ。
こっちで座っていて。」

絹江につれられてホールに入る。
義父がお棺に入れられていた。
白い菊が遺体を包み込むように
敷かれて、死に化粧をされた顔を
精悍に見せている。身体にも色とりどりに
花が飾られるように乗せられている。
安らかだ。

「最期は静かだったの?」

「麻薬で痛みはなかったはずだし。
最後に私の手を握ってくれたわ。」

「そうか。」

正直は絹江の肩を抱いて、髪に頬を寄せた。

「頑張ったな。」

絹江はハンカチで目元を押さえる。

「もう、お通夜始まるから。泣かせないで」

「あ。ごめん。」

絹江は正直の喪服の背広を軽く払う。
着て来させないほうが良かったかしら。
少しシワになってるわ。









通夜振舞いの客も帰っていき
明日の告別式の参加人数や仕出しの
最終確認をしたら、もう11時を回っていた。

「若い頃、親父の葬式出したけど
ほとんどお袋が仕切ってた。
ほんと、人一人送り出すのは大変だな。」

空港近くのホテルに部屋を取った。
車の便がよかったから、絹江が軽で正直を
送ってきたのだ。

「ねえ。絹ちゃんも一緒に泊まんない?」

「ん。」

「絹ちゃん。」

「ごめんね。やっぱり、帰るわ。」

斎場で、市太郎さんの遺体の側にいるという。

「また明日。同じホールで。9時から
だから、遅れないようにね。」

「わかった。」

二人の間に冷たい何かが流れる。
正直はもう、戻れないのかと思う。
もしかすると、絹江はこの海辺の町から
離れないと言い出すかもしれない。
そんな頑なさを感じてしまったのだ。

絹江は、夜を正直と過ごしたら
もう、何もかもどうでもよくなりそうで
父を亡くしたことさえ忘れたくなりそうで
怖かった。自分にはまだ、向き合って整理
しなくてはいけないことがある。
送り出さねばならない父がいる。
そんな中で自分だけが愛しい人と幸せな
気持ちで満たされるのは、いけないことだ。

30年近く連れ添った夫婦でも
いまだに気持ちがすれ違う。
その夜、正直は一睡も出来なかった。





たまには絵を載せましょう

2018-02-24 20:49:29 | ラクガキ
久しく小説オンリーで更新してました。
ツイッターでアップしていたイラストも
置いておこうと思います。





これは本編、人間の美月と亮です。
随分前に塗り始めたんですが
色々しくじってるので、途中で塗るのを
やめたやつでして、これを画像加工アプリで
ちょっといじりました。
3パターン上げときます。






これは小説版のシンとまりのお父さん。
日本酒で13歳の身体になっちゃったシンです。




これはシンが嫌がらせで
亮にキスしようとしてます(笑)





シンとパパのシュウ
コウモリのバーバラ。





これはホントに徒然ラクガキで
好きなとこに勝手に描いてるので
シーンごとにトリミング出来ませんね。
美雪と亮の出会いは10年以上前です。
美雪も少女と大人の女性の過渡期で
可愛綺麗な感じですが、亮はまあ
はー魔女初めて見るーほげー
って感じで全然意識はしてないです(笑)





これは手癖のラクガキですかね。
深く考えずに描くと
こういうミニマムなキャラになること
多いです。







最後に。
ついこの間の2月22日の
猫の日にちなみまして
ニャンニャンしたい亮(おっさん)を。