亀の啓示

18禁漫画イラスト小説多数、大人のラブコメです。

とにかくイチャイチャハロウィン小説版(40)

2018-02-10 08:27:34 | とにかくイチャイチャハロウィン小説版
「ああ。もう、学園内に入ったよ。
大丈夫。なんなら寮の前まで送るし。」






亮は渋る鞠を説き伏せて
シンに電話をしていた。
どれほど心配しているかと
想像しただけで胸が詰まった。

結婚前、大人の美月でも魔除けのベルトを
体の三ヶ所にぴったり巻いて行動した。
自分が一緒に居てやれないとき
街の中でも治安の良いところや
先程の八百屋の大将のように
仲良くなった店の関係者の目があるところに
行動範囲を限定させた。
人間が魔界を一人で歩くことが
どれほど危険かを繰り返し教えたのだ。
実際美月は腕に覚えがある。
それは亮も認めているが所詮人間の女だ。
獣人が本気で襲えばひとたまりもない。

鞠は魔除けも身に付けていない。
シンが片時も離れずに一緒にいるから
そんなことが通用するのだ。

「君があの商店街にいたのだって
運が良かったからだよ。一本隣に行ったら
店が数軒で途切れて、いかがわしいパブが
軒を連ねてるあたりに出る。」

「え…」

「美月だって一人じゃ絶対に行かない。
あいつほど強い女でも用心する場所なんだ
シンが君を見失ってどれほど心配してるか
わかるだろう?」

「あたし、知らなくて。」

「多分あいつのことだから、いつでも
君を離さないでエスコートしてたんだろ。
基本、紳士だからな。」

「ごめんなさい」









「じゃあさ。寮の前まで送るから。
え?なにお前泣いてんの?おい!」

亮はあまりのシンの狼狽えぶりに
心配になったが、ちゃかして慰める。

「はいはい。大丈夫だったんだから。
いいだろ。うんうん。話はあとから
ゆっくりしなさいよ。どうどう。」

電話を切ると、一言。

「今夜は少し面倒くさい男になるかも
しれないけど。つき合ってやってな。」

鞠は黙って頷いた。









夜、寮の面会時間ギリギリに
シンはやって来た。

鞠からシンのマンションに行けばいいが
どうしても行けなかった。

わだかまりも溶けぬままに
心配をかけた。
そんなすぐ後に自分から甘えられるほど
神経太くないわと鞠は思う。
来てくれて、嬉しい。
でもいつものように嬉しそうに出来ない。

「鞠。」

「シン。あたし」

「もういい。外泊の手続きをしろ。」

「え?」

「はやく!」

こんなに強引なシンは珍しい。
初めてではないか。

「はい。少し待って。」

鞠は寮監室に電話をつないだ。







「飛ぶぞ。しっかりつかまってろ。」

シンは外門で外泊の手続きを取る。
セキュリティは研究者自身が出入りする
管理にも厳しい。一度外出して戻らなければ
学園都市内でなくとも捜索権が発生する。

「どこへ、行くの?」

「俺んち。」

鞠はシンの筋肉質で太い首に必死に
しがみつく。

「もう少し、話をする必要がある。」

鞠は切なくなる。
シンが好きだ。
シンも自分を好きでいてくれる。
そんな気持ちがぶつかりあうようで
体がじんじんする。

「愛してるよ。鞠。」

シンの翼がごうごうと風を切る音がする。
鞠はマントに包まれてシンにしがみついて
いるので風に煽られたりしない。
どのくらいの速度で飛んでいるのだろうか。
自分がマントから顔を出したら、多分風圧で
息が出来ない。守られて、幸せを感じる。

「着いた。降りるぞ。」

翼をビキンと鳴らして、スピードを殺しながら
地面にゆっくり近づく。着地してから
だいぶ歩いたシン。

「どうしたの?着いたんでしょ?」

「お前は見たらきっと気絶するから。」

シンの自宅の回りには魔物の番人がいる。

「おや?ぼっちゃん、久しぶりだね。」

「どの面下げて戻ってきたんだい?」

「バーバラもショーンも元気にしてるよ。」

「お前は、もういらないよ。」

口々にヤジが飛ぶ。

「お前らは忠実なしもべだ。
この家を守ってくれて。俺からも礼を言う。」

魔物どもが一瞬黙った。

「シン!帰ってこいよ!」

「寂しいよ!」

「寂しい!」

鞠はずっとマントに包まれて見えないが
シンがこの家で二番目に、しもべ達に
信頼されているのだとわかった。
家を出た今でも、実は慕われている。

シンは歩き続ける。5分くらいたった。

「どこに向かってるの?」

「ごめんな。玄関まで遠くて。
飛びたいんだけど、もしかして狙撃
されるかもしれないから。」

どんな家だ!
鞠はますます自分がシンの妻になるなど
無理な話なのではないかという
気持ちになる。

「ただいま。」

絶縁状態の実家に帰ってきたのに
シンはのんびりとして言った。
鞠を下ろす。

「んまあ、シン!」

お母様?落ち着いた女性の声がする。

「ショーンも喜ぶわ。」

「オニイチャン!オカエリオカエリ!!」

幼児の可愛らしい声が響く。

鞠は声の主を探すが、目の前にいるのは
コウモリの親子だけ。

「鞠は知らないのか。こっちのコウモリは
話すんだよ。」

「へ?」

「シン。こちらが?あの人間のお嬢さん?」

「オニイチャンノカノジョ!」

「これ。冷やかすんじゃないのよ。
ご挨拶は?」

「ボク、ショーン!ヨロシク!」

鞠は上手く口が動かなかったが
やっとのことで笑顔を作る。

「鞠っていうの。ヨロシクね。」

「マリチャン!」

「私はバーバラ。シンが生まれる前から
この家にいるのよ。なんでも聞いてね。」

バーバラの落ち着き方は、やっぱり
この家を女として仕切っているように
見受けられた。他のメイドや執事といった
使用人もバーバラにつき従う雰囲気である。

「バーバラはね。親父の奥さんなんだ。」

「え?」

鞠の目が点になる。

「いやだ、シンたら。人間のお嬢さんに
説明してもわからないと思うわ。
かわいそうでしょ。」

「いや。俺の妻になる女だ。家のことは
包み隠さず教えたいんだよ。」

鞠はシンの言葉に胸が熱くなる。
たとえ自分の常識になくても
受け入れたいと思う。
でも、コウモリがお父様の奥さんて。
じゃあ、このコウモリさん…バーバラさん
って言ったよね。この人は。

「この方が、シンのお母様なのね。」

「いや、さすがに俺のお袋は。
もう親父とは離婚するけど、純血の
ヴァンパイアだったんだ。」

「私は、ここの家の執事長。
コウモリのバーバラよ。
それでいいじゃない。」

鞠は分からなすぎて笑えてきた。
昔から、お勉強にしても
友達の言動にしても、こんなに理解
出来なかったことはなかった。
ビッグバンより理解不能だ。

「お。シン。来たか。」

シュウが居間に帰ってきた。

「相変わらず書斎から出てこないな。」

シンがもっと奥さんと息子に構ってやれ
と冗談混じりにシュウをつつく。

「鞠さん、だったかな。」

シュウは鞠をかなり評価していた。
だが、今の鞠はのっけから消化不良で
家族構成からして飲み込めずに
立ち尽くしていた。

「あんなに堂々として聡明な君が。
気の毒というか。可愛いというか。」

シュウはクスクス笑い出す。

「鞠さん。簡単に家系図を書いたわ。」

松尾物産創始者はシュウの祖父だ。
大澤財閥の令嬢である祖母の間に
長男として生まれたのがシュウの父。
下の二人の妹は大澤財閥の後継ぎと
三田銀行の頭取にそれぞれ嫁いでいる。
シュウの父と代議士中川キアリーの娘
サラとの間に生まれたのが一人息子の
シュウであった。

「いちいち書いてないけど、直系は
すべて純血のヴァンパイアよ。」

シュウは華道の名家、花房家の長女である
ジュリを嫁に迎えて長男シンと長女ユリを
もうける。

「こうして。純血のヴァンパイアの血は
脈々と継がれてきたのよ。」

すげえ血筋だ。
鞠はまた頭が真っ白だ。

「私は、普通のサラリーマンの家に
生まれた、ただの人間です。平民です。」

鞠はなんだか卑屈になってきた。

「自分ではどこに行っても困らない知性と
ある程度の品格を年相応に身に付けている
つもりでおりました。でも。」

鞠は想像も及ばないシンの家柄に
完全にノックアウトを食らっている。

「鞠。こんなくだらない家にお前は
勿体ないよ。俺はそれが心配だ。」

シンが意外な発言をする。

「くだらないって?は?何がくだらないの?
このお家のこの家系図を見る限りで
これがくだらないなんて言ったら
あたしんちなんか地獄の一丁目じゃない?」

つい興奮してしまう鞠。

「あ。ごめんなさい。」

シュウが笑い出した。

「地獄の一丁目か。それこそうちは
三丁目くらいだよ。」

鞠はますます。
わからなかった。