亀の啓示

18禁漫画イラスト小説多数、大人のラブコメです。

とにかくイチャイチャハロウィン小説版(38)

2018-02-08 00:23:05 | とにかくイチャイチャハロウィン小説版
「俺はこいつと一緒になるから。」

まだ、病室を三歩しか出ていない。
そこでシュウは足を止めたが
シンは四歩五歩と足を止めずに歩く。

「今さらそんなことはいいよ。」

シュウはすっかり毒気を抜かれている。
うなだれてため息をついた。

「好きにしたらいいさ。」

鞠はシュウを見上げている。
様子がおかしいなとは思うものの
構わずに歩いていくシンを
小走りに追いかけていく。

「ねえ。シン。どういうことなの?」

「お前は知らなくていい。」

「バカにしないで!」

「お前は関係ないから。」

「ひどいわ!私を妻にするつもりが
あるなら関係ないなんて言わないでよ!」

シンは黙って歩き続ける。
鞠はどんどん足を早めるシンに
引き離される。ついていけずに
小走りになって、何もないところで
躓いてよろけた。

「鞠っ!!」

シンは飛んで戻ってきて鞠を抱え起こす。

「お願いだから、全部教えて。」











亮が鼻歌混じりに美月の病室に向かう。

かなり遠くからでも、ヴァンパイアが
黒マントで廊下の真ん中に突っ立って
いるのがわかる。耳の尖り方が立派で
純血のヴァンパイアだとわかる。

よく見れば美月の病室の真ん前に
立ち尽くしているようだ。

「こちらの病室に御用ですか?」

駆け寄り、亮が扉に手をかけた。

「あれえ?シュウさん、まだいたの?」

美月がカーディガンを引っかけて
亮を戸口で迎えた。
だって声がしたからとすり寄る美月。

「シュウ、さん?」

亮はまじまじとシュウの顔を覗き込んだ。

「あ。えと。」

「シンちゃんのパパだよ。」

美月は事も無げに言い放つ。
美月は松尾物産がどんな規模の企業で
そのトップである会長がどれほど偉いか
ピンと来ていないのだろうか。

「か、会長?!」

「や、ここではただの親父だよ。」

亮はバレていないことを祈った。
シンと田村のお嬢さんの縁談を
ぶっ壊すきっかけをつくったのが
自分であるとバレたら今後どんな
妨害をされるかわかったものではない。

「田村さんをそそのかして
縁談を壊してくれたのは君だね?」

「や、その。す、スミマセンッ!」

「田村さんが仰っていたよ。
彼のお陰で会社も娘も救われたと。」

亮は恐る恐る顔を上げた。
シュウの表情は険しいものではなかった。

「シンに使われたのか?君も。」

「お恥ずかしい話、シンに心に決めた
女性が出来たとか一切気づかなくて。
単に話の流れだったんです。
思慮が浅く、未熟な言動でご迷惑を…」

「心に決めた女性のことを裏切らない
勇気というものは。選ばれし者にしか
与えられないと自分を偽っていた。」

また、シュウはうなだれる。
美月が寄り添って肩を抱いた。

「偶然とはいえ、息子さん授かって
良かったね。逆転サヨナラホームラン
じゃない。ね。」

「ありがと。」

「ねえ?なんでそんなに仲良いの?」

亮は美月をシュウから引き剥がし
後ろに隠すように抱き締めた。

「それに、息子って。」

「あ、あのバーバラが生んだ男の子。」

「はあ?」

亮もバーバラのことは知っている。
エリザベスの大叔母で、シンの家の
コウモリだ。最近かなり年の行った
バーバラが、繁殖に上がった話も
なかったのに出産したらしい。
美雪はモゴモゴと詳しいことを濁した。
出産も大変だったらしい。
設備の整った病院での出産も
コウモリには珍しいことだ。
未熟児で生まれた子コウモリを
保育器に入れて、落ち着くまで
完璧に看護したのも美雪と看護チームの
功労だったが、何故そこまでしたのか
亮には正直よくわからなかった。

「えーっ!」

「ピンと来るの遅いな亮。」

シュウは男前な、照れた笑顔を浮かべる。

「世間的には極秘だから、内緒にな。」

「誰に言っても信じてもらえませんて。」

「シュウさんがすべきは、シンちゃんが
この人と決めて連れてきた女性と、
ちゃんと向き合うことじゃない?」

「悔しいが、彼女は完璧だ。」

「そうですね。あの度胸はあたしも
敵わないし。」

「まったくだ。」

亮はまだまだわからないことだらけで
どこから話を掘り起こせば良いのか
さっぱり手のつけようがなくて
頭を抱えるばかりだった。









「あなたが。松尾物産の御曹司?!」

「や。ああ。」

「なんで物理学なんかやってるのよ?」

「好きだから。」

「あの学園都市に入ったら、経営に携わる
なんて無理よね?後は継がないの?」

「仕事は継がなくていいって。」

「まあ、あなたには無理よね。
こんな理系脳じゃ無理だわ。」

「それは許されてた。俺はこの家に
生まれて、ただ一つの条件をクリア
すれば好きに生きてよかったのさ。」

「何なの?その、条件っていうのは。」

「純血のヴァンパイアの血の継承。」

「どういうことよ。」

「生まれる前から純血のヴァンパイア
同士の縁談が決まってて。」

「はあ?」

「うちの本家筋はずっとヴァンパイア
以外の血が混じらずに続いてきたんだ。
そんなくだらないことを重んじる。
そんな純血の血を守ることが美徳なんだ。」

「え、じゃあ。」

「俺の存在価値そのものが純血の
ヴァンパイアの子を残すことだったんだ。」

「あたし、人間よ?」

「だから、家を継ぐのをやめたんだ。
血を継ぐのをやめた。」

「そんなこと。許してくれたの?」

「だから、俺は家とは絶縁状態なんだよ。」

「その、許嫁って」

「あ、あっちのお嬢さんには振られた。
あちらにも想い人がいたんだよ。」

「そ、そうなんだ。」

鞠は一通りの話を聞いて、苦虫を噛み潰した
顔になる。

「それは、あたしのせいなの?」

「だからそう思われたくないから!」

「あたしさえあなたと恋しなかったら」

「お前に話すつもりはなかったんだ!」

「お父様が肩を落としてたのは
そういうことなのよね?こんな人間の
ちんちくりんな女が嫁だなんて!!」

「違うよ!!家の事情は関係ないから!」

鞠はなんだか居ても立ってもいられなくなる。

立ち上がり闇雲に走り出した。

「鞠っ!待てよ鞠ぃっ!!」

先程何もないところで足をもつれさせ
躓いた女とは思えない早さで
人混みの中に紛れた鞠。
あっという間にいなくなってしまった。