亀の啓示

18禁漫画イラスト小説多数、大人のラブコメです。

パラレルストーリー おじさんと女子高生③

2018-08-30 23:59:29 | 美月と亮 パラレルストーリー
愛しい。

美月は素直にまっすぐに、俺を好きで
いてくれていた。

相変わらず賞平とは仲良さげにつるんで
いるのだが、最近賞平が少し美月から
離れているように見える。

賞平も気持ちの整理が出来たのか。
まさか、俺とのことを知って
気を使って距離を取り始めたのか。

そんな憶測がすべて外れていたと
知るのは、それから数日後のことだ。








「知らなかったの?もう村瀬さんと
つき合ってるよ。」

美月は知っていたようだ。

賞平は部活の後輩の一年生と
つき合い始めたという。

美月とは正反対の、小柄で胸が大きく
さらさらの栗色の髪が背中まで
伸びている。色白の柔らかなほっぺに、
桜色のぽってりした魅力的な唇をした
娘だ。

告白されたという。
女子力も総合的に高い彼女は
あらゆる手練手管で賞平を口説き落とした。

「美雪ちゃんはすごいよ。
あたしにはとても真似できない。」

美月は、自分にはないものを持つ
やつを素直にリスペクトする。
まあ、自分が振った男を幸せに
してくれたのだから、有難いの一語に
尽きるんじゃないか。

「ああいう女の子が上手に恋を
するんだよね。」

つい数ヶ月前まで
好きとかつき合うとかわかんない
なんてすっとぼけていた美月にすれば
そんな風に羨ましく思うのかもしれない。

だけど。

俺はこの子供みたいな幼い女の子
いや、やんちゃ坊主の方が近いような
暴れん坊女子高生にあっけなく落とされた。
体を擦り寄せてきて、後から好きだと
囁いてきて。
35のおじさんをビンビンに刺激
してきたんだから大したタマだ。

それで、土壇場でセックスを怖がる。
なんて小悪魔なんだ!

「お前も大概だと思うが。」

美月はキョトンとして俺を見た。

「長内くんは。どうして好きになって
くれたの?」

「そっくりそのまま、お返しするよ。」

美月は、上目遣いに俺を見た。

「あたしをね。ちゃんと触ってくれた。」

俺は、こんなことを言うときの美月には
全面的に腹をみせて降伏だ。

「気持ちよかったの。ずっと触ってて
欲しくなった。」

美月はうっとりした。
俺を好きと言うとき。
お前はすごく色っぽいんだよ。
お前が許してくれないから
我慢しているけど、俺はもう
お前を抱きたくて仕方がなくなる。

女子力の高い女子というものは
計画的に女子力というものを男に
プレゼンしていくものだ。
そのプレゼン力も女子力そのものだ。
美月はすべてが天然で、そこに俺は
やられちまったのだ。

「今までこんな風に思わなかったの。
仕草が好きとか。声に感じちゃうとか。」

美月は俺の声をすごくセクシーだと
褒めてくれる。だがそんな風に思うのは
世間広しとはいえお前だけだよ。

「だから!長内くんは?!」

自分ばかりが語らせられたと気づいた
美月が、ずるいとばかり俺を攻める。

「肌が、鍵をあけた。」

「え?」

俺は正直に語っている。
これで機嫌を損ねられても
それは仕方がないだろう。

「俺は、男として気持ちよかった。
頬を擦り寄せてこられてドキドキしない
男なんかいないよ。」

美月はちょっと冷めたように
つまらなそうな顔をした。

「じゃあ、違う女の子でも頬っぺたから
来られたら好きになるの。」

随分と重箱の隅つつきにくるもんだ。
でも、哀しいほど女なんだ。その発想。

「俺にも選ぶ権利とか、恋愛感情とか
あるからな。誰でもいいわけじゃない。」

「あたし。許してないけど。いいの?」

美月はセックスを拒絶していることを
やはり、ちょっぴり気にしている。

「きっと。許さないようなところも
堪らないんだと思う。」

何いってるんだ俺は。
はぐらかされて、お預けを食わされる
唯一ままならないあたりも
どうやらこの恋を強くしている気がする。

たまに、その気にさせようと
体のあらゆるところを愛撫して
必死にチャレンジするんだけど
いくら濡れてても、多分感じすぎて
女性器が痛むほどになっても
美月はOKをくれない。

でも、あと少しだと思う。

一昨日、クンニまではさせてくれた。
逆に、クンニまでしてどうして
挿入しなかったのか。

まだ、いやあ。

涙目で訴える美月が。
すごく可愛くて、色っぽくて。
我慢できずに、果てたからだ。
俺はもう挿入れるつもりだった。
クンニまで漕ぎ着けて堪忍するわけが
ないではないか。
コンドームを装着しようとして
あんまりビンビンになってて。
出ちゃった。

美月は俺が射精するのを見ていて
はじめこそ目を丸くしていたが
ぐったりと果てた俺の髪を撫でて
かわいい、と抜かした。
俺は捕まえて犯そうとしたのだが
あっけなく逃げられて、さっさと
服を着て帰り支度をされてしまった。

「送っていって。」

「もちろんだ。」

俺も身支度をして、部屋を出た。




美月が俺のアパートに来るときには
軽く変装してくる。
美月は相変わらずボーイッシュな
ショートヘアなのだが、フリマで
買ってきたというロングのウィッグを
被ってくるのである。
俺が近所に迎えに行く時も
ウィッグを被るし、車から降りる時も
ウィッグを被る。

街ですれ違うくらいなら
ウィッグだけで美月の変装は完璧だ。
だが、美月には双子の弟がいて
家の近所でウィッグを装着したところ

「美月。何、仮装してんだ?」

と絡まれて少々苦労したらしい。

それから、待ち合わせ場所を
工夫したりしてやり過ごしているが
敵は身近にいるものである。




「恋をしたてのお前が。好きだ。」

17も年下の特別奥手の君が。
俺を選んでくれた。
それが俺には堪らない。






パラレルストーリー おじさんと女子高生②

2018-08-29 20:51:49 | 美月と亮 パラレルストーリー
「長内くん、おはよう。」

翌日、美月は何にもなかったように
からりと笑っていた。
賞平も、少し物静かではあったものの
美月と行動を共にしながら、いつもの
ように笑っていた。

若いやつらは強い。

俺は、やつらのバイタリティーとか
切り替えの早さとか
たくましい笑顔がまぶしい。
俺はまたいつものように、やつらの
陰日向になり、職務を全うする。
それだけで精一杯だ。

夢の中で美月を抱いた。
自己嫌悪で胸が押し潰されそうだ。
なのに、やつは俺に笑いかける。

こんな汚れたおっさんに、そんな
天使の笑顔はいらないよ。

「長内くん。昼休み、遊びに行っていい?」

美月が俺の横に来て、小声で囁いた。

俺は、昼休みはほぼ資料に埋もれている。
図書館の書庫の奥、歴史資料の
乱雑に納めてある一角を整理しながら
一人でささやかな幸せをかみしめる。
それは学園内では誰もが知る事実だが
そこに遊びに来ると言った生徒は
初めてではないか。
10年以上教師をやっていて、初である。

「つまんねえぞ。」

俺は胸の痛みを早くもマスターベーション
の余韻のように味わいながら美月を見る。

「話があるんだよ。」

「今度は、聞かれてもいいんだ?」

また、昨日みたいに。
一緒に歩きたい。
そうか。これは俺の願望なんだ。

「伝えたいだけだから。ひそひそ
するくらいで済むよ。大丈夫。」

美月は楽しそうに駆けていく。

廊下走っちゃだめだよ!
お前はただでさえ、足が速いんだから!

うふふ、と
えへへ、の間くらいの
笑い声を立てて。
あっという間に角を曲がって
行ってしまった。







「もし、今大地震が来たら
確実に二人で圧死するね。」

美月は書庫の奥、俺のテリトリーを
見回して、呆れたように言った。

「話って?」

俺は言われ慣れていることには
取り合わずに、話を促した。

「内緒話するから。」

美月が俺に横から抱きつくように
体を寄せる。俺はさりげなく
美月の体を抱く。

「なんか、分かっちゃった。
好き、とか。つき合いたい、とか。」

俺は頭上に天使と悪魔が揃って
出現した、と思う。

「そ、そうなんだ。」

こんな風にすっとぼけた返事をしたが
胴体から離れていきそうなくらい
胸が暴れている。

「すき。あたし、長内くん、すき。」

瞬間、俺は頭上の天使と悪魔に
袋叩きにあった。

「これは、あたしが勝手に思ってる
ことだから。でもあたし、すきな人
出来て嬉しいよ。ありがと。」

そういう美月は屈託なく笑って
俺をまっすぐに見つめる。

初めて恋というものを自覚した美月は
その自分の心に湧いた暖かな感情が
嬉しいという。
その先も考えずに、ただ、それが
嬉しいというのだ。

「えっと。つき合う、ってのは。
どうするんだ?」

未練がましく俺は食い下がる。
でも自分からは言わない。

美月。大好きだ。
俺はすっかりお前の可愛らしさに
やられちまった。

一緒にいることの喜びを、教えてやる。
それがつき合うってことだよ。

そう、言って抱き締めたらいい。
美月だって、俺を好きだって
言ってくれたんだから。

「それは。色々と支障があるでしょう。」

美月は冷静だ。

「まずいでしょ。生徒となんて。」

「えっと。その。」

「ていうか。長内くん、つき合って
くれるの?」

「…………」

俺は、しばらく黙ったまま
言葉を片付けるように
大きく息をついた。

美月が、パイプ椅子に座る俺の膝に
ちょこちょこと回り込んで。
股を割るようにしながら
俺の方を見つめる。
太ももに、ぽよんとお尻を着地させた。
俺の首に手を回して抱きついた。

「えへ。すき。だいすき。」

その時、悪魔が俺の後頭部をしたたか
殴り飛ばしたのだ。

「愛してる。美月。」

美月を包むように抱き締めて。
自分の内側に隠すようにしながら。
唇に唇で触れに行く。

「んきゃ、ん。」

美月は驚いて声をあげる。

「いや?」

俺は、美月にチャンスを与えた。
これから。もう一度キスをする。
今度は、触れるだけなんかじゃない。

「いやじゃ、ないよ。」

俺は、もう一度キスした。







チャイムが鳴る。
俺は美月のセーラー服の乱れを
直してやりつつ、教室へと送り出す。

俺は自分の浅ましさにまたまた
自己嫌悪に苛まれた。

唇に始まって、耳や首筋、鎖骨をなぞり
セーラー服の胸当てを外して胸元に
唇を這わせた。強く吸う。
白い肌に紫のアザができた。

セーラー服の上着の裾から
手を入れて、胸の膨らみを探す。
容易に行き着いた山の裾野は
高さはなかったが柔らかかった。

そこで。チャイムが鳴る。

時間切れ。

でもホッとした。

「ごめん。」

いきなり盛り上がって、調子に乗って
体に触れたのは、決して誠実でもないし
品のある行為でもない。
ただ。止まらなかったのだ。

今一度。と、美月を抱き締めた。
美月はくふん、と微笑むと
頬っぺたにキスしてくれた。







美月は相変わらず暴れん坊である。
放課後はみんなでサッカーをしたり
ふと見れば木登りをしていたり
ケンカの仲裁をしていたり。

でも。俺の腕の中で
うっとりと唇を紅くして
艶のある声をあげる。

「んふう。んあん。」

「くそう、かわいい。」

書庫の奥。
たくさんの資料に囲まれて。
印刷のインクや、古くなった紙の匂いに
包まれながら、俺は美月を可愛がる。
でも。いきり立つ俺自身を挿入する
踏ん切りはつかないままだった。

「もう、やめとく。」

ある日美月が、胸元を弄る俺の手を
押し返した。

「痛かった?」

俺は膝に美月を座らせて、ペッティングを
繰り返していたのだが、美月が急に
拒み始めたのがよくわからなかった。

「なんか。おもらししちゃいそうなんだ。」

美月は、股間に違和感を感じるという。

「なんか、今もチビっちゃってる
気がしてすごく落ち着かない。」

腰をひねって、膝を上下させて恥じらう。

まさか。この娘は、自分が濡れたことに
気づいていないのか。ペッティングくらいで
失禁するほど感じているのか。
俺は美月のスカートの中に指を這わす。
太ももから、恥丘に向かって指を差し入れ
案の定柔らかく濡れている花弁をなぞる。

「いやん、やめて!汚いよう。」

俺は戻した指を鼻先で嗅いで見せた。

「これはおしっこじゃないよ。」

美月は真っ赤に頬を染め羞恥に堪える。

「愛液だよ。」

俺は、指にまとわりついた透明で
少し粘り気のある液を舐める。
雌の匂いはあまりしなかったが
あんなに濡れてくれているんだと
興奮が止まなかった。

「いやいや。恥ずかしいよう。」

俺は恥じらう美月を抱き締めて
あらためて唇に唇で触れに行く。
舌先で唇をなぞり、つつくように舐めた。

「あん。ああん。」

強めに吸い付いて、舌を絡める。

「美月。俺の部屋にこい。」

「え。」

「続き、してやる。最後まで。」

「最後?」

「分かってるだろう。セックスだ。」

セックスという言葉が、二人を
冷静に引き戻した。

美月が、おずおずと俺から唇を離す。

「ごめん。やっぱり。怖い。」

まあ、今していることだって。
セックスのうちには入ってるんだぜ。

「そうか。美月がいやなら。
やめような。」

俺はあっさりと引いた。

美月を抱き締めて、キスをたっぷりと
してやる。

美月も俺の首にしがみつくように
抱きついて、甘く囁いた。

「ごめんね。だいすき。」

美月は申し訳なく思ったのか、
自分から濃厚なキスをしてくれる。

俺は美月の背中を優しく撫でた。



放課後の喧騒が、遠くに潮騒のように
大きく小さく響いてくる。
俺は寂しく痛い感覚に胸が冷えた。
美月は、俺から離れていく。
きっと俺と一緒にいるためには
セックスをしなければ許して貰えないと
思ったに違いない。

本当のところ、どうなんだろう。
ただキスして抱き合うだけで
俺は満足するのだろうか。

するわけないけど。

美月がまだ、いやというなら
我慢する。我慢できる。

美月とは、放課後こうして
イチャイチャしたあと、一回別れて
あとで正門を出た大通りのバス停で
落ち合う。
電車には乗らない美月を、家まで送り
それから駅まで戻って帰宅する。

今日は少しぎこちなかった。
並んで歩いていても、美月の表情が
固いのは見なくたって分かる。

「美月は俺に気を使う必要はないから。
むしろ、嫌だって言ってもらって
よかったよ。このまま、美月の気持ちも確認
しないで強引に抱いちまうところだった。」

正直、強引にだって抱きたいのだが
その後に美月を失うことになるのなら
我慢する。我慢できる。うん。

「普通の男と女って。そういうもの?」

美月は、自分がわがままを言って
いるのかと不安になったようだった。

「いや。そうじゃないよ。
だって、俺はそんなお前が好きなんだ。
他のやつらのことは関係ない。」

美月は嬉しそうにしながらも
回りを見回した。
俺も我に帰って、口元を手のひらで覆う。

美月の目が柔らかく微笑んだ。

「かっこよくて。かわいい。」

美月は、俺が口元を手のひらで
押さえた仕草が気に入ったようだ。
何が良いのかはよくわからないけど。

こいつは、俺の知らないうちに
俺を見つめて、こんな些細なことを
いくつも重ねていって好きという
気持ちを暖めつづけているのだ。

そんな美月を、俺は好きだ。











   






パラレルストーリー おじさんと女子高生

2018-08-28 23:22:40 | 美月と亮 パラレルストーリー
「お前ら、とっとと帰れよぉ。」

もうすぐ最終下校の時間だ。
俺は校内に疎らに居残る生徒に
声をかける。
居心地がいいんだろうな。
街に出れば、座って落ち着く場所は
金がかかる。

「はあい。じゃーねー長内くん。」

「気をつけろよぉ。」

教師には二種類いてさ。
生徒から「○○先生」って呼ばれる人と
「○○くん」って呼ばれるやつ。
俺は、聞いての通り後者。

「長内先生は、生徒と馴れ合いすぎですよ。」

学年主任の岩倉先生がいつも言ってる。

「子供だって、威厳を持って接して
いかないと。態度に出してきますからね。」

岩倉先生は50絡みの、いかにもな思想で
子供たちとの関係を築いていて
そんなことは子供らも百も承知だ。
逆に中身がすかすかなのに偉ぶる大人を
子供たちは上手にあしらっている。

「はあ。そうすね。」

俺は暖簾に腕押し、しだれ柳で
かわしていく。
さすがに35にもなってこんなこと
注意されてる中堅教師もどうかと思う。
高校生にマウント取るのは
普通の神経してたら結構しんどいよ?
だから、俺はダメなんだ。

俺はもたもたと帰り支度をして
職員室を出る。

職員玄関に出る渡りを歩いていると
また、植え込みに生徒の影を見つけた。

「昇降口閉まるぞ。はよ帰れよ。」

気楽にいつもの声かけ。
一人だと思ったのに、よく見れば
男子と女子だった。ヤバイな。

「長内くん。」

二人は俺のクラスの生徒で
坂元賞平と鷺沼美月だ。
ふたり、日頃から仲が良いが
こんな人目につかないところに
しけこむような仲だったかな。

「じゃね。長内くん。」

美月は賞平に目もくれず、さっさと
一人で昇降口へと消えた。

「邪魔、しちゃったか?」

俺が少し申し訳なく思い
謝ると、賞平は笑顔で応じた。

「いや。もう用はすんだから。」

用、か。
ひと通り終わったってこと?
でも想像出来ないな。

賞平は俺より背も高くガタイもいい
イケメン理系男子だ。大人びてて
クラスでも兄貴的な存在だ。
美月は一見、男の子と見紛うほど
背が高く、体はスレンダーで
ショートカットの髪をなびかせながら
悪ガキのように暴れまわる。
やんちゃ坊主な女子高生だ。
賞平の妹分のようなポジションで
一緒にいることも多いんだけど
男と女だなんて匂いはしてこない。

キスくらいは、するのかな。

やっぱり、想像出来ない。


俺が職員玄関から正門を出ると
とっくに帰ったと思ってた美月が
人待ち顔で立っていた。

「美月。」

賞平を待っているのか。
だったら、一緒にいたらよかったのに。
俺が声なんか掛けたから、気まずかった?

「ごめんな。別に誰にも言わないし
遠慮しないでいいんだぜ。」

美月は真っ直ぐに俺を見る。
俺は何故か、動けなくなり
軽口が叩けない雰囲気に胸が詰まった。

「教えて欲しいことがあるんだ。」

美月は学年でも5本の指に入ることも
珍しくない秀才だ。特に生物、地学に
秀でていて、学年で1、2を争う。
まあ、争ってる相手が賞平なんだけど。

「なんだ?明日、昼休みにでも」

「誰にも内緒にしてほしいんだ。」

美月の瞳が、潤んだ。
こいつ、こんな目をするんだ。
息が苦しくなる。
誰にも、内緒って。
賞平とのことでも相談してくるのか?

俺のこの予測は当たっていたけど
俺が想像していたような話ではなかった。

「好き、とか。つき合うとか。
どうしたらいいのかな。」

「は?」

「だめ!ここじゃ誰かに聞かれちゃうよ!」

美月は俺の手を取り、きゅっと握って
ぐいと引っ張った。

「誰にも聞かれないとこ!」

誰にも、聞かれないとこって。お前。

俺は悩んだあげく、自分のアパート
近くの公園で話をすることにした。
最寄りの私鉄で3つほど先の駅で
降りる。歩いて10分ほどのところに
俺のアパートはある。
この辺には、うちの生徒はあまり
住んでない。公園という場所は
微妙だと思ったが、駅前の喫茶店や
商業施設よりは見咎められる確率が
低いかと思った。
俺も、美月のすがる妹モードに
やられていたのかもしれない。

「話が終わったら、車で送ってって
やるから。」

「うん。ありがと。」

あれ?車に乗せる方が、喫茶店で
話をするより、もっとヤバくないか?
ここらへんで、自分の磁場が盛大に
狂っていることに薄々気づいたが
何故か修正する気持ちになれなかった。

俺たちは、二人、連れだって
住宅地の奥へと歩く。
俺からしてみれば、一緒に家に帰る
途中みたいなものだ。

見慣れた近所の公園。
いつもはベビーカーを押したママさんたちや
手にゲーム機を持った中学生が座る
ベンチに、美月と並んで座った。

「はい。ここなら多分、聞かれたくない
やつには聞かれないはずだよ。」

美月は、モジモジしてなかなか
切り出さない。辛抱強く待っていると
膝の上できゅっと握りこぶしを作った。

「賞平くんから、好きだって言われた。」

「は。はあ。」

まだ、そこだったんだ。

「つき合わないかって。」

「それで?」

「断った。」

え。それ、すげえタイミングで
声かけちゃったんだな俺。
イチャイチャしてるとこに割って入る
よりもある意味罪深いじゃないか。

「お前ら、仲良いじゃん。
賞平じゃダメなのか?」

俺は賞平が少しばかり気の毒になり
プライベートだとわかって、つい
立ち入った確認をしてしまう。

「だって。好きとか分かんないもん。」

美月は事も無げにあっさり言い捨てた。

「それにつき合うとかいうのも
ピンと来ない。」

えー。そこからか?
お前、18年間何を考えて
生きてきたんだよ?

「そういうの。よくわかんないんだよ。
長内くん。教えてよ。」

美月は俺の左から肩を上るようにして
すがりついてくる。

「切ない、とか。ドキドキする、とか。
どんな感じなんだ?どうすればそうなるんだ?」

「はあ?!お前そういうのは教わる
もんじゃなくて自然となるもんなの!」

「えー!じゃああたし一生好きとか
思えないかも!結婚も出来ないよ!」

俺は心底、賞平に同情した。
こんなやつ、好きになって
これなら他のやつに負けて
すっぱり振られる方がまだましだろう。

「本当に男に対してドキドキしたり
したことねぇのか?」

「うん。」

美月はけろっとしてにっこり笑う。

「こんなことされると、自分の女を
意識して、へんな気持ちにならないか?」

俺は美月の肩を抱いた。

「長内くんの手、暖かくて気持ちいい。」

俺じゃあそれこそ、ちょっと若い
叔父さんみたいで美月に意識を掻き立てる
ような結果には結び付かない。

「男の体にドキドキしてこないのか?」

なんか、むきになっていく自分を
自覚した。どうせ何とも思わないんだろ。
俺は美月を自分の胸に抱いて
髪を撫でる。シャンプーの甘い匂い。
美月の体の暖かさを今度は俺が
受けとる。あんな暴れん坊のわりに
随分と柔らかい女の子だ。

「ん。気持ちいい。」

美月は自分から俺の胸に
体を擦り寄せてきた。

「俺も。気持ちいい。」

美月は俺の首、顎のあたりに
頬を寄せて言った。

「肌と肌。気持ちいい。」

え。ヤバい。
なんだこれ。
美月は俺の首にしがみついて
今度は頬に頬を擦り寄せてくる。

「なんか。ドキドキする。」

俺は美月を押し退けて、必死に
気持ちを逸らしながら言った。

「ほら!明日、賞平にしてやれ!
ちゃんとくっつけばドキドキするんじゃんか。
美月だって女の子だってことだ。
結婚だってちゃんとできる。」

美月はすごく寂しそうにうつむいた。

「なんだろ。よくわかんないけど。」

「いや、分かったろ?ドキドキすんの。」

美月は、俺の膝に指先で触れる。

「賞平くんとは。したく、ない。」

「え?」

まずい。ヤバい。
これは、いかん。
苦しい。胸が。詰まる。

「なんでかな。なんか、他のやつと
してもドキドキなんかしない気がする。」

美月は俺の肩にコツンと頭を乗せる。
美月の頭蓋骨が柔らかな皮膚に包まれ
ふわりと髪が覆う、そして暖かな体温で
立ち上る美月の匂いが俺を襲う。

かわいい。

ここまで気持ちが昂ったのは
何年ぶりになるだろうか。
ここ10年ばかり、ろくに恋なんか
していなかった。甘くて苦しい痛みが
容赦なく無防備な俺を痛めつける。

「帰るよ。もう。」

美月は俺からスッと離れて立ち上がる。

「送っていくから。」

俺は胸がズンズン地震みたいに揺れるのを
感じながら、美月を引き留めた。
引き留めたのだ。
もう少し、感じていたかった。
こいつと、一緒にいたい。

「うん。わかった。」

美月は俺の左に寄り添い、指で
ちょこちょこと俺の手に触れた。

「気持ちいい。手も。」

「……………手。繋ぐ?」

俺は完全におかしくなった。
美月の指に指を絡めて、手を握った。

「これが、恋人繋ぎ。」

馬鹿だ。何ぬかしてんだ。俺は。

「こいびと?」

「そうだ。恋人。」

俺は、自分の部屋には上がらず
駐車場から車を出した。

「うしろ、乗れ。」

あえて突き放した。

「どう、して?」

美月はすこしショックだったのか
沈んだ顔になるが、何がショックなのか
測りかねていて目が泳ぐ。

「運転になんないし。まっすぐ
送ってやれなくなるかもしれない。」

美月に通じるわけないと思ったが
一番は半勃ちになった股間を見られたく
なかったのだ。だらしがねぇ。

「わかった。運転の邪魔しないよ。」

美月はたぶん別の思いで聞き分けた。









パラレルストーリー 同棲編最終回②

2018-08-26 23:11:50 | 美月と亮 パラレルストーリー
俺はがっくりと肩を落として
学校を出た。

坂元先生は職員室に行けって言ってくれたけど
この学校の職員室は大きくて、ひっきりなしに
先生や生徒が出入りしているのだ。
学校まで乗り込んできて何なんだが
いくらなんでも、職員室で出来る話じゃない。

坂元先生は笑って「夜に話せよ」と
送り出してくれたんだけど。
プロポーズしたら、泣いて飛び出して行って
それきりなんだ、なんて言えなかった。

当然、美月が戻らなかったら
同棲なんて解消だし。
おかしいなあ。プロポーズする前は
ずっと俺たち一緒に居られる気がしてた。
何が、いけなかったんだろう。

俺は急に、二人のアパートに帰るのが
辛くなって。久しぶりに家に帰った。






「ただいま。」

玄関から入ると、廊下の突き当たり右の
リビングの扉が開いた。

「きゃっ!お兄ちゃん!」

3つ年下の妹、悦子が過剰な反応で
俺を迎えた。何故だ。もしかして
俺がプロポーズで玉砕したのをもう
聞いているのか?
そうだ。俺たちの同棲は両家公認だ。
お金の話だってクリアにして、正式に
同棲というものを始めたのだ。
この同棲を解消するとなれば、
お互いの親に話をすることになる。

美月は、もうそこまで話を進めていた
そういうことになるんだ。

「えっちゃん。昨夜美月、来たんだ?」

「来た来たあ!もう美月ちゃんてさ
律儀だよねえ!」

悦子ははしゃいでいる。
このバカ妹、兄の不幸を笑いやがって
畜生め!

「お父さんもお母さんもビックリ!
泣きながらうちに来てさあ。」

俺は世界一愛しい女を、泣かしたんだよ。
むしろ、喜んでほしくてした話で
泣かしたんだよ!

「このお話、受けてもいいんでしょうかって。
それ、こっちに訊きにきちゃう?」

あれ?なんか俺が思ってたのと違う。

「お父さんがね。そういうつもり
じゃなかったの?って。目が点だよね
うちにしてみたらさ。」

あれ?そりゃ同棲を許してくれたんだから
そう思っててもおかしくないよね。
それは、俺と美月が結婚するに反論は
全くないってことだよね?
ここまではトントン拍子なんだけど。

「なんか美月ちゃんは自分が年上なの
すごく気にしててさ。長内家として
こんな五歳も上の嫁でいいのかって。」

はあ?

「うちはオッケーだよって言ったら
へろへろになってその場に崩れ落ちて。」

そ、それって。

「昨夜はうちに泊めた。」

「なんだよそれ!なんで連絡くんないんだよ!!」

「美月ちゃんが、いいって言うから。」

「それで引き下がったの?」

「もう、休んでるかもしれないから
起こしたくないからって。」

もう俺は何がなんだか。

壮大なドッキリに引っかかってる気になる。
それが結局どこに着地するのか
真実はどこにあるのか
本気でわかんなくなった。

「もう。お兄は馬鹿だなあ。確かにお兄に
返事を保留してうちに来た美月ちゃんは
おかしくなっちゃってたかも知んないけど。
あたしは、なんかかわいいなあって思ったよ。
はっきり断られてもいないのに、そんな
世界の終わりみたいな顔しないの!」

俺は19の小娘にもっともらしい説教を受けて
悔しいながらも我に返った。
そして、立ち上がる。
この流れで行ったら、これから俺の行くところは
あそこしかない。

「がんばれ。お兄。」

「おう。」

俺は悦子を振り向かず、気取って親指を立てた。




「ご無沙汰してしまって、申し訳ありません。」

鷺沼家のリビングには、もう嫁いで家を出た
美月のお姉さん、洋子さんもいた。
一応お邪魔する前に電話を入れたんだが
まだ夕方の6時だっていうのに
お父さんの正直さんまでが帰宅していた。

「よう。亮くん。」

機嫌はよさそうだけど。
美月から話は行ってるのかな。

「ええと。聞いてます?」

「なにを?」

これは本当に話が行ってないのか
はたまたとぼけているのか。
ま、どっちでもいいや。

俺は腹をくくってきたんだから。

「就職先も決まりました。美月さんと結婚させてください!」

一瞬、座が冷えた。ような気がしたのは
俺自身に余裕がなかったからかもしれない。

ここで、もし結婚にストップがかかっても
焦らずに時が満ちるのを待とう。

「美月はね。」

そこで父の正直さんの隣に寄り添う
母の絹江さんが口を開く。

「亮くんと同棲するってときに。
私たちにきっぱり言ったのよ。
亮くんと結婚するって。
今すぐってわけには行かないけど
結婚するならこの人しかいないって。」

「もう。みーちゃんは初恋の人と添い遂げるって
メロメロなんだよ?」

洋子さんとは会うのが二回目なんだけど
初めて会ったときから、こんなふうに
距離を感じさせない優しいお姉さんだ。

え?初恋?

「わかってると思うけど、美月はほんと強いからな。
殴られたら痛いじゃすまないだろうなあ。
夫婦ゲンカしたらほぼ亮の負けだよ。
その覚悟ができてんなら、うちとしては止めないから。」

直樹さんはウインクすると茶目っ気たっぷりに
舌を出した。みんなが笑う。

「美月を、よろしくな。」

正直さんが晴れやかな笑顔で俺を見る。

「こちらこそ。よろしくお願いします!」

頼りない返事だなあ。
こういうときは娘さんを幸せにしますとか言うんだよ。

そんな言葉も俺をからかってるんだって
すごく伝わってきて。

「俺たち、幸せになります。」

今の自分の精一杯の気持ちをお返しした。

「で?美月は?」

そうだ。結婚の許しを請う席になぜ
娘の姿がないのかといぶかしんだのも
無理はない。

俺は昨日からのことを話した。

一拍おいて、全員が笑った。

こんなに笑ったの久しぶりねえ。
洋子さんがしみじみと言って
みんなまた、笑った。






「おかえり。」

あのあと、鷺沼家で酒を振舞われた俺は
千鳥足でアパートに帰った。
部屋に明かりがついていたのを見たとき
俺の目には涙がにじんだ。
もうこんな思いをするのはごめんだ。
きっちり捕まえてなきゃ。
離さない。
そう決めた。

「あのね。亮。」

俺は美月にみなまで言わせなかった。

「お義父さんにも。お義母さんにも。
結婚許してもらったよ。」

「え?」

美月は俺に返事もしないで俺の親に
話をしに行ったくせに、俺が同じことをしたら
驚くんだな。美月が俺んちを大事にしてくれたの
嬉しかったから。俺も同じようにしたんだ。

「お前。昨夜うちに泊まったんだな。」

「聞いたんだ。」

美月はほっとしたような、ちょっぴり
申し訳なさげな心もとない顔になった。

「ごめんね。こんな年上の嫁、よく思わないんじゃないかって
心配で。亮はきっと親御さんに何の相談もしてないと思って。」

「確かに。でも、俺にはわかってたんだ。
俺の選んだ女を悪く思うような人たちじゃないよ。」

俺は美月を抱きしめる。

「亮う。すぐに返事しなくってごめんね。」

「じゃあ。今、聞かせてよ。」

「ん。」

美月は黙って俺にキスしてきた。

「はい。返事した!」

「ずるい!!」

「わかるでしょ!」

「はっきり言ってくんなきゃ!やだ!」

俺はごねにごねた。

「初恋の人と両想いになれただけで嬉しいのに
結婚までできるなんて夢みたいだよ。」

「美月。」

「これで満足かね?」

美月はちょっと恥ずかしかったのか
つんと俺から顔を背けた。

「大満足!!」

美月を横抱きにして抱え上げると
寝室に運んだ。

「じつは今日、洋子さんから聞いちゃった。
俺が美月の初恋の相手だって。」

「え!!もう洋子姉さんのバカ!!」

美月足をばたつかせて暴れたので
俺は危うくかわいいフィアンセを
床に落っことすところだった。

「でも。あのときの亮は。すごく素敵だった。
そうでもなかったら、あんな塀から足滑らせて
落下なんて生涯の汚点だよ。」

何の言い訳に俺を使うんだ。
もうあんなところに登ったらただじゃ
おかないからな。

「今は?素敵じゃないのか?」

美月は顔を真っ赤にした。
両手で顔を覆うとかすかに体を左右に振った。

「どうしていいかわかんないくらい。
素敵。どうにかなっちゃう。」

俺はお姫様をベッドにおろす。

「もう、離さないよ。」




それから、俺は美月をずっと離さないでいる。
美月にも離してもらえそうにない。


パラレルストーリー 同棲編最終回①

2018-08-25 19:24:38 | 美月と亮 パラレルストーリー
「お願いします!」

ある日、突然。沖田先生が
俺に向かって深々とおじぎをかまし
右の手のひらを突き出してきた。
俺が反応に苦慮していると
沖田先生はガバっと音のする勢いで起き上がる。

「ねるとん。知んない?」

いや、知らないわけじゃないけど。
先生は男だし、俺だって男だし。
あ、俺。昔言うに事欠いて
「女はダメなんだ。」って
でまかせ言ったことあったな。
あの女、なんて言ったっけ。ぶりぶりした
んと、ブリタ?ちがうな。ま、どうでもいいや。

「ちょーーーーッと待ったアー!!」

今度は沖田行政書士事務所の№2の音無先生が
俺と沖田先生の間に駆け込んでくる。

「よろしくお願いします!!」

なんかもっと決め台詞があった気もするのだが
この際、もうねるとんのお作法はどうだっていい。

「もう少し意味の通じる言葉遣いで
お願いします!!」

俺も頭を下げた。何だこりゃ。
お願いしますの三つ巴だ。

事務の迫田さんが、いかにも通りすがり
という風に横にやってきて、言い捨てた。

「手続きとか色々あるから。返事は早くね。」

「何をお願いされてるのか分からないので
返事も決めかねますよねッ?!」

俺はその場にいる人たちが全て仕掛け人だと
見なし、まんべんなく顔を向けながらアピールした。

「んもう。ニブいなあ、亮はあ。
この春からは正社員として継続して勤務して欲しいって
お願いしてるんじゃないかあ。」

みんなが当然そうに頷く。

「はじめから、はっきり言って下さいッ!!!!」

本来なら俺が喜ぶべき話なのに怒らなきゃならないのも
変な話だ。それもこれもみんな、この先生の人間性の
なせる技なんだけど。それに追随する事務所№2や
ベテランスタッフのノリも良過ぎる。

「この件は一旦持ち帰らせていただきます。」

「やっだ!お持ち帰りだなんて
ヤリチンだわッ亮ってば」

「そーいうコトばっかり言うから持ち帰らせて
欲しいんですよッ!!」

沖田先生は相変わらずの悪筆で、俺がその翻訳を
するのを日々心待ちにしている。
一日四時間ほど、講義の合間や、終わってからの
時間で仕事を手伝ってきたのだが、
先生は朝から晩まで俺をはべらせて、ちゃちゃっと
ウルトラ文字みたいな字でメモ書きを散らかし、
俺に清書させたいと思っているのだ。
その思いはスタッフとて同じで、
俺がいないだけで業務の滞ることもあるという。
俺は仕事の内容自体はともかく
「自分が求められている」
ということについては
とてもやりがいのある仕事だと思っている。

「俺が引退して解読係が要らなくなるころには
お前だって一人前の行政書士になってるさ。」

沖田先生はムチャな悪筆を俺に解読させる
だけではなく仕事についても色々と教えてくれるのだ。
だが、俺は行政書士という仕事には
今ひとつ心揺れない。

今はこうした充実した人間関係があり、日々楽しく
バイトをしているものの、社員としてこの事務所で
働くことに関しては迷うことも多い。

もっと真面目にこの仕事に就きたいと思う人たちの
門戸を狭めてやしないか。
俺がここで働くことで、この仕事をしたいと思う人
一人を弾き出すことになるのではないかと
考えてしまう。足は止まってしまう。

「まあ、何だ。俺の愛人になると思って。
気楽に来てくれたらいいんだからさ。」

ああ。昔言ったでまかせが本当になってしまう。

就活は、していないわけではなかった。
何となく、いくつかの会社の説明会に行き
二次面接に進んだものもあった。
内定も一つもらったがお断りした。
もう四年も夏だというのに卒論にかまけて
就活は足踏み状態だった。

「亮はどうしたいのか。自分で見えてるの?」

教師としてキャリアを重ね、日々スキルを上げている
美月は、そんな俺の相談相手だ。
彼女は高校の教師であるが、進路相談をしてくれる感じだ。
なにより、毎日一緒にいるから俺の気持ちに寄り添ってくれる。

「美月は進路、迷ったりしなかったの?」

「あたしは先生になりたくて大学に行ったからさ。
そこは迷いなんてなかった。でも、自分に先生が
向いてたかって言うと、それはまだ。分かんない。」

「美月は新任で俺たちを教えてくれてたころから
中堅どころみたいな落ち着きがあったけど?」

これは冗談ではない。
美月の仕事ぶりは、生徒から見れば
標準以上で、不向きな人が頑張っているような
そういったものではなかった。

「そうだね。そう言って貰えると嬉しいけど。
向き不向きより、自分が充実していて尚且つ周りに迷惑
掛けてなかったらいいのかもしれないね。」

自分が充実して、回りに迷惑掛けなければ。

沖田先生のお誘いに応えるなら、これは
クリアしているように思われた。

「それに、行政書士は他の資格を取って転職も
できそうだけど。教師はなかなかそういうわけには。」

行政書士の仕事は様々な業界と書類でリンクしている。
特に不動産関係の書類を扱うことの多い沖田先生は
宅建の資格も持っているのだ。
まだまだ世間知らずの自分は、信頼できる先生と
働くことで、新たな道が見つけられるかもしれない。

「まあ、転職ありきで考えると先生に失礼かも、だけどね。」

美月は先生にも気を使いつつ、俺にアドバイスをくれる。

「あたしも同僚の先生に恵まれてて。
先輩方もやさしいし、いい職場なんだ。
亮の迷う気持ちもわかるし。」

絶対的な正解なんてない。
ってことは。失敗だって、ないってことだ。






俺は沖田先生に返事をした。

「この事務所で働かせてください。」

「おっけー。」

「なんか面接とか、入社試験とかやるんですか?」

「おう。じゃあ、これを清書してみろ。」

先生はいつものようにへろへろとペンを走らせて
そのメモ書きを俺に寄越した。
それは、いつものウルトラ文字だった。






季節も移ろい。朝晩めっきり冷え込むようになった。

俺は散々考えて、やっぱりごてごて飾り立てるのはやめて
ストレートに気持ちを伝えようと思った。

晩御飯を済ませて。
美月が食後のお茶を淹れてくれた。

デカフェのダージリンに蜂蜜を垂らした。

俺の蜂蜜。
それは、美月だ。

「ねえ、美月?」

ローテーブルに向かい合う俺と美月。
美月は頬杖で可愛く小首をかしげる。

「俺が大学出たら。結婚してくれる?」

美月の瞳が。
こぼれ落ちてしまう。
いや、そんな心配になるくらいに見開いた。

「美月?」

その見開いた瞳から、ころんぽろんと
大粒の涙を流した。

え?泣いちゃうの?
俺はこんなこと美月はとっくに承知してくれていて
当然、大学を出たら結婚してくれると
むしろそれが男としてのけじめだとさえ思っていた。

「ごめん。ちょっと。あたし。」

美月はふらふらと立ち上がると
ワープしたみたいにアッという間に玄関先にいた。

「ごめん。先に、休んでて。」

俺は、美月を止められなかった。






美月は結局、その晩にはアパートに戻らなかった。

朝、美月が隣にいない。
台所にもリビングにもトイレにもいない。
風呂場にもベランダにもいない。
世界の終わりだ。

視界が狭まって、ふちが黒く見える。
胸が苦しい。
フィルターが掛かったみたいに
目の前はぼやけて、耳には雑音がざらざらと響く。
でも、卒論も佳境に入っていたので
なんとかして気持ちを奮い立たせて大学に行った。
心がシャッターを下ろすって初めて経験したけど
昼に学食で食ったカレーの味がしなかったのは参った。

「亮。どうしたよ。世界の終わりって顔してよ。」

さすがに沖田先生には丸わかりだろう。
俺はすがるような目をしていただろう。
先生に昨夜の話をした。

「振られたな?まあいいじゃないか。
所詮それまでだったってことだ。
若いうちには誰しも経験することだよ。」

「きつい。嘘でもいいから慰めてくださいよ。」

「ベッドの上でかい?」

俺はバイじゃないよ?と沖田先生は笑った。

俺には言い返す気力も残っていない。
沖田先生はため息をついて言った。

「ばかやろう。美月ちゃんがお前を捨てるか?
おかしいと思わねえの?」

じゃあ、何で帰ってこない?

「直接本人に確かめろ。帰ってこなけりゃ、会いに行け!」









俺は、バイトを早あがりさせてもらい
母校にやってきた。

変わらぬ佇まいながらも
卒業して四年近くが経っている。
OBとして玄関から受付を通り
手っ取り早く理科準備室に行く。
時間的にはまだ六時間目が終わっていないので
廊下には誰も歩いていない。

「あれ?お前何しに来たんだよ。」

坂元先生が一人で準備室にいた。
美月に会いに来たんだろうと冷やかすように笑う。

「美月は六時間目が終わったらすぐに研修だよ?
こっちには来ないけど。」

え?ってことは。

「自分のクラスでホームルーム終わったら
職員室で書類上げたりして、すぐ出かける。
帰りは夜中だよ。夕食会も組まれてる。」

なんか俺は目の前が真っ暗になった。

美月が今夜、帰ってくるならいいが
そんな保障は一つもなかった。

俺はその場に崩れ落ちた。