亀の啓示

18禁漫画イラスト小説多数、大人のラブコメです。

とにかくイチャイチャハロウィン小説版(49)

2018-02-20 00:02:49 | とにかくイチャイチャハロウィン小説版
「赤ちゃん。可愛かったわね。」

「ああ。特に下の子は美月にそっくりだ。」

賞平と美雪は家に帰ってくると
赤ちゃんの可愛さを語り合う。
なかなか子宝に恵まれず
後から結婚した亮と美月に
先に赤ちゃんが来たことが
羨ましくないと言えば嘘になる。
エリザベスやバーバラといった
コウモリにも次々赤ちゃんが生まれ
そのいずれの出産にも関わった美雪は
散々と言って良いほど赤ちゃんの可愛さを
見せつけられて来たのだった。

「あたしたち。不妊治療受けた方が
良いのかしらね。」

美雪は寂しそうに俯いてため息をつく。
ヴァンパイアと魔女の組み合わせは
受胎に特別な弊害はない。
相変わらず激しく夜を過ごし、昼間も美雪は
しばしば余韻に切なくなるほどなのだが、
いっこうに赤ちゃんはやってこない。

「そうだな。そろそろ診てもらうのも
いいかもしれない。」

賞平も子どもは欲しいので
不妊治療は仕方がないと思う。
検査でスペルマを採らなくてはいけない時も
出せる自信はあるし、病院内の個室で美雪に
触れられながらなんて、ちょっとワクワクだ。
気楽な妄想をして、賞平は美雪の胸に
手を伸ばした。

いつもならすぐにでも感じて
受け入れる態勢になる美雪が
翳りのある表情を見せた。

「どうしたの?」

賞平が美雪の首筋に牙を立てても
美雪はいつものような切ない声も
上げなかった。

「ごめんなさい。賞平さん。」

美雪が、初めて夜の営みを拒んだ。
よほど不妊を深刻に考えているのか
賞平も今夜は抱き締めて眠るだけに
しておこうと思う。

「ご、ごめんなさい。」

賞平は回りを見回した。
何もないし、誰もいないから
重ねて謝られているのは、自分だ。

「今夜はひとりにして。」

「み、」

賞平が美雪と呼び終わらぬ間に
美雪は寝室を出た。
すぐ隣のベビールームに入って行ったようだ。
そこはエリザベスとスミレ、スイトピーの
過ごしている部屋で、賞平は普段から
出入り出来ないのだ。

「美雪い。」

賞平はガックリと肩を落とす。
もしかすると、自分の子種が薄いのか。
まだ、衰える年ではないから
こんな濃ゆい新婚生活を送り続けて
赤ちゃんが出来ないのは確かにおかしい。

「離婚か。」

賞平はとたんに役立たずな旦那として
妻に捨てられるような気分になってしまう。
きちんと検査を受けて、もし自分の責任なら
いさぎよく諦めよう。
美雪が本気で妊娠を考えていて
それを自分が叶えてやれないなら
その先の判断は美雪に委ねようと思う。
あるいは、要因が美雪にあったとしても
別れたくはない。
逆に何が何でも離したくない。
自分は美雪という女に惚れたのだ。
子どもを生ませたいからと
嫁にしたのではない。
この女と一緒にいたいからである。

そんなことを考えていると
美雪への想いがますます募る。
ろくに眠れぬままに夜を明かした
賞平だった。



翌朝。美雪は顔色も悪く
本当に沈み込んでいた。
気持ちを強く持てない。
いつもの快活な、仕事に生き生きと打ち込む
美雪とはまるで別の女になってしまった。

「今日は俺が作るよ。フレンチトースト
でも食べるかい?」

賞平がキッチンから声を掛けても
美雪はダイニングのテーブルで
ため息をつくばかりだ。

「ケンカ?」

エリザベスが賞平の方に飛んできた。
目がつり上がって、眉間にシワが刻まれる。

「リズ。俺だって頑張ってるんだ。
わかるだろう。結婚して一年たつのに
なんの音沙汰もない。」

エリザベスの表情が和らいだ。

「赤ちゃんの話ね。バーバラおばさまから
私と来て、美月ちゃんにも赤ちゃんが
生まれたんですものね。」

「だから、もうきちんと検査を受けて
不妊治療をしようって美雪と話したんだ。」

エリザベスは少し黙りこんだが
仕切り直すように賞平を見た。

「こういうの、男性は嫌がるみたいだけど
賞平は大丈夫なの?病院で射精しろとか
言われるらしいわよ。」

相変わらずこんな話題も真顔である。

「俺は出せばいいだけだ。美雪は
本格的に不妊治療となれば、負担がかかる。
そっちの方が心配だよ。」

エリザベスは頷きながら、
美雪の様子を窺う。
美雪は前向きな女だ。
不妊治療が始まってもいないのに、
あんなに憂鬱そうな顔をして愛する
旦那さまにそっけなくするだろうか。

「美雪!」

賞平が美雪に駆け寄る。
美雪が瞳から大粒の涙をぽろぽろと
こぼして泣き出したからだ。

「美雪。どうしたんだ?君、昨夜から
おかしいよ。」

美雪はメンタルも強い女だ。
もしかするとそれは賞平の都合のいい
思い込みだったのか。
二人で過ごすことで、何か彼女に負担に
なっていたのではないか。
それが何かはわからない。
だが今、現にうちひしがれるように
元気を無くした彼女を楽にしてやらないと
いけないだろう。
美雪も、二人の仲も元に戻らなくなって
しまいそうだ。

賞平は不妊治療の前に、メンタルケアが
必要だと美雪に説明した。

「ごめんなさい。あたしがこんなだから。」

美雪は論理的に今の状況を捉えることも
出来ない様子で、ただただ謝るばかりだ。

「ねえ。美雪。キス、してもいいかい?」

「…………………ごめんなさい。」

結婚して一日と開けずにセックスしていた
賞平と美雪だったが、もう丸一日キスさえ
していないのだ。ゆゆしき事態である。
賞平は挫けそうになりながら
女性医師のいる評判のいい
メンタルクリニックを検索しはじめた。

自分が嫌われたかもしれない。
そんな不安に次第に強くとらわれる賞平。
俺もカウンセリング受けたい。

エリザベスが見つけた隣街のクリニックに
アポイントを取った。

「ちょうどキャンセルが出たらしいの。
今日の午後3時、大丈夫かしら。」

「俺が抱えて飛ぶよ。美雪は寝ていれば。」

美雪はそばにいたエリザベスに
こそこそと耳打ちした。

エリザベスはため息をつくと賞平に言った。

「あなたに抱かれて飛ぶのは遠慮しますって」

「あ。そうかい。車を出すよ。」











クリニックの女医は笑顔で夫婦を迎えた。
丁寧なカウンセリングで好感が持てたが
特に深刻なエピソードも認められないと
語った。

リラックスできるアロマでも炊いて
何日か仕事を休んだらと勧められた。

根本的には何の解決にもならなかったが
心を病んでいるわけではないと
わかっただけでもいいかと賞平は思った。







「あ、賞平くん。俺のいない間に
来てくれたんだって?」

翌日、亮から電話が来た。

「ああ。赤ん坊も大変だな。」

少しとげのある口調になってしまう。
妬む気持ちは隠せない。
亮は分かっているのか、いないのか
適度にスルーして話題を変えた。

「美雪が美月に素敵なプレゼントを
くれたらしいんだ。美雪に代わって。」

「あいつは、具合が悪いんだよ。
ふせってるから。勘弁してくれ。」

「そうか。じゃあ、アルファとベータも
行かせない方がいいか?」

「なんで、アルファとベータが?」

「いや、スミレとスイトピーに会いに
行きたいって言うから。それも美雪に
訊こうと思ったのさ。」

賞平は少し迷った。
エリザベスはアルファとベータのママだし
異父兄妹とはいえ血が繋がった妹に会いたい
という二人を追い返すのも可哀想だ。

「アルファとベータが来るだけなら。
スミレとスイトピーを見るだけなら、
美雪も構うことはないし。」

賞平はいつも朗らかなアルファとベータが
少しでも空気を変えてくれるかもと
なるべく楽観的な考え方を持つよう努めた。






「スミレカワイイ!」

「スイトピーモ、カワイイ!」

いつもより翼のはためきが高速だ。
アルファとベータはとても喜んで
スミレとスイトピーのそばを離れない。

「ショウヘイ、ミユキハ?」

アルファが美雪を探しに来た。
おいでなすったなと賞平は振り返る。

「トマトジュース飲むか?」

賞平は飲み物でごまかそうとしたが
アルファは首を振る。

「ジュース、ノンデキタカライイヨ。」

それより美雪は?と言いたげな
円らな黒い瞳があまりに邪気がなく
賞平は根負けした形で寝室を指差す。

「気が滅入ってるのか、だいぶネガティブ
なんだ。変なこと言って傷つけないで
くれよ?」

言いながら賞平は嫌な気分になる。
ネガティブになって八つ当たりしているのは
賞平の方だ。こいつも亮も何にも悪くない。

「ニオウヨ?ダカラ、カイデクル。」

匂う?

賞平は台所の火も使っていないし
臭いの元になるものにも心当たりは
全くなかった。
花も飾っていない。
フルーツも置いていない。

アルファは寝室に入っていった。