「俺はね。別にクビになったって
構わない。」
「シン。」
俺はホテルのベッドの上で、まりに
腕枕をしながら頬を寄せる。
「その方がおまえと堂々と
つき合えるじゃん。うれしいよ。」
「んもう。強がり言わないの。」
まりは俺にキスして、起き上がる。
案外と大きな胸を俺に押し付けてくる。
「ああん。シン。なめて。」
くう。かわいい。俺が乳首にしゃぶりつくと、
はうん、と色っぽい声を上げた。
「ねえ。シン。毎晩抱いて欲しいの。」
「ん?」
「毎晩。」
まりの瞳に映った俺は、冷静だった。
その動じなさにかえってまりの方が慌てた。
「冗談よ。それだけ愛してって
言ってるだけ。」
そんなこと、いっしょに暮らさない限り
無理だから、そうしたら結婚するしか
ないな。
まだ同棲できる年ではない。
まだ15歳なんだから。
結婚だって出来ないけど。
でも俺はこいつを近い将来、毎晩
抱くことになる。そんな気がしていた。
「あんたはこの学校はクビよ。」
案の定。
わかってたからそうショックじゃない。
小夜は俺を校長室に呼び出して、
決定事項を読み上げる。
「でも、あんたの数学教師としての
能力はみんな買ってるわ。
よかったじゃないの。」
「でも。クビなんだろ?」
「あんたは、竹田に回すことにしたから。
感謝してよ。夫婦喧嘩までしたんだから。」
さりげなくのろけやがった。
「そう遠くないでしょう?竹田は一応
転勤扱いで処理するから。
事実上はクビではないけど。
だけどクビだからね。そう思っといて。」
まあ、俺がいなくなればまりが
肩身の狭い思いをすることも少ないだろう。
早くみんなが忘れるといい。
「子どもたちの間では、単に教師と生徒の
道ならぬ恋って認識みたい。
あんたがむりやり指宿を犯したとか
そんな展開にはなっていないようよ。」
「そりゃ、よかった。」
「それも、指宿が翌日から普通に
登校してきたからよ。それに周りの友達に
のろけまくってたそうだし。
あんな素敵な人いないって。」
「まり。」
俺の口元がゆるんだのを見て小夜が笑った。
「んふふ。これからもうまく
やんなさいよ。」
「ありがと。小夜。」
「どうだったの?」
校長室から出てきた俺をつかまえるまり。
「竹田に回してくれた。
ここはクビだけどね。」
「竹田って、あの姉妹校の?」
「ああ。そう。来年度から正規雇用だから、
それまでは講師扱い。給料は下がるけど
そんなことも言ってられない。」
「がんばってね。」
「うん。」
なんか玄関先で奥さんに送り出される
旦那のようで、くすぐったかった。
そうして俺は、転勤したのだった。
「それで、俺は勤め先が一回変わったのだ。」
「ふううん。なんか、シンちゃん
らしいよね。えっちな話抜きにしては
語れない人生。」
俺は41になった。
今は娘の鈴(これでりんって読ますのだ)
の担任である美月と個人面談で
ひざを突き合わせている。
電話で話したりはあったが、こうして
二人で話をするのは久しぶりだった。
「鈴ちゃんは全く問題なしの、優等生。
うちの卓といつもいちゃいちゃしてるけど
お勉強には影響なし。おうちで何か
気になることは?」
美月はいそいでしなくてはいけない話を
まくしたてて、ノルマを達成した。
「どうだよ。最近セックスしてるう?」
わざとそんな話を振って、
美月を困らせてみる。
とてもじゃないが高校教師の発言とは
思えないけど。
「ああ。まあね。案外としてるよ。」
「ええええ?」
「かわいがられてるから。んふふ。」
聞けば、このころちょっとした
出来事から、倦怠期を脱出したばかり
だったらしい。
「なんか意外だなあ。」
「そう?まあ、あんたとことは
比べ物にならんだろうけどさ。」
俺は、まりが高3の夏。
妊娠させる。それが鈴なのだが。
これはできちゃったなんとかではなく、
お互い狙った妊娠だった。
「早く結婚したかったんだもん。」
俺はあのあずさとの一件以来、
浮気は一度もしていない。
娘もあきれるほどの、仲良し夫婦。
夜もお盛んだ。