亀の啓示

18禁漫画イラスト小説多数、大人のラブコメです。

とにかくイチャイチャハロウィン小説版(55)

2018-02-26 00:20:43 | とにかくイチャイチャハロウィン小説版
市太郎さんの納骨も済んで
色々な手続きも終わった。
あとは、絹江さんがいつ帰ってくるか
となっていた。
絹江さんは市太郎さんの入っていた
ホスピスの近所に、ワンルームのアパートを
借りて一人住まいをしていた。
一向に帰ってくる気配のない絹江さんに
美月は事あるごとにせっついていた。

「お母さん、いつ帰ってくんの?」

「ん、そうね。色々整理しなくちゃ
いけなくて。このアパートの契約も
だいぶ残ってるから落ち着いて片付けるわ。」

母はのらりくらりとかわして
はっきりと返事をしない。
美月は電話を切ると深いため息をついた。

「お義母さん、まだ帰らないって?」

「アパートの契約も3ヶ月残ってて。
荷物なんかろくにないのになあ。
何を整理したいのかわかんないよ。」

亮は早く帰れと急かす美月の気持ちも
わからなくもないが、逆に正直さんが
動かないのが気になった。

「なんで正直さんは迎えに行かないの?」

「そっちも煮えきらないんだよね!」

美月は正直さんが動かないからこそ
絹江さんにマメにコンタクトを取るのだが
良い方に向かっているようには
思えなかった。

「母さんには母さんの事情があるんだとか
ものわかりの良いこと言っちゃって!
素直になれってえのよ!!」

美月は極限までイライラを募らせている。
だが、これを爆発させたら上手く行くものも
台無しになりそうな気がするので
亮は美月をなだめすかしてブレーキを
かけている。

「きっと、お葬式のときに
なんかあったんじゃないかな。」

亮はあのとき、夫婦の間でなにか
あったのではないかと言う。

「あるいは、何も無さすぎたか。」

言ってみてこの方が可能性が高いと思う。
お互いのちょっとした言動を読みすぎる
満足な会話もないのに、あっという間に
すれ違うケースだ。

「でも。回りが何も言わなかったら
余計膠着状態じゃない?きっかけは
つくってあげたいからさ。」

美月はもっともなことを言うが
家族が介入すると言葉が過ぎたり
無遠慮な態度になったりして
こじれることもある。











「お前に言われっと癪に触るが。
確かにその通りかもしんない。」

直樹は電話口で唸る。

「誰か自然にあの夫婦のわだかまり
っちゅーか掛け違えたボタンを直して
やれるような人はいないのかな。」

「俺だって黙ってみてる訳じゃないよ。」

「どうせ、とっとと帰ってこいよ!
引っ越しなら手伝うから!とか
言ってんじゃないのかよ。」

「俺が余計なこというと拗れるから。」

直樹はこんなとき少しも役には
立たないが、そんなところが亮は好きだ。

「俺が会ってもいいか?」

「なんで?」

直樹は何だかんだ、自分の両親が
このまま別れてしまうとか
さらさら思っていない。
美月だってケンカをいさめるくらいの
気持ちなんだろう。
これは、ケンカとか意地の張り合いとか
そんな問題として捉えていていいのか。
こんな発想は、他人だから出るのだろうか。

家族としてでなく、部外者として
話が出来るのは自分だけだと思ったのだ。
直樹の妻、みつえは直樹の高校時代からの
後輩で、つき合いは長い。人間だし、嫁だ。
絹江さんとは女同士、上下関係がたぶん
自由な会話を阻むだろう。

亮は、スケジュールの調整できそうな
週末に絹江さんを訪ねることに決めた。

「美月にもよく言い含めるが、俺が
絹江さんに会いにいくとか正直さんには
絶対に内緒だからな!いいか?」

「まあ、俺は面倒くせえから何にも
言わないけどね。」

聞かなかったことにすると直樹は笑う。
つくづく、良いヤツだなと亮は思う。






「じゃあ、あたしも行くよ!」

案の定、美月は同行したいと言い出した。
亮は心を鬼にして、美月を押し留めた。

「そんなに、信用出来ない?あたしを。」

「そういうんじゃないよ。
でも、美月にもないか?家族には
言えないけど、他人になら言えること、
相談するにも他人の方が話しやすいこと。」

「んー。確かに。」

「こんなこと言ったら我が儘だとか
こんなこと言ったら心配掛けるとか。」

家族を想うが故に話せないこと。
それは当事者だから、言えないことがある。

「そもそもお前や直樹は、言いたいこと
我慢できないだろう?いつも本音だ。」

そこがたまらなく可愛い。
そこまでは言わないでおいた。
反応がまた可愛いのは火を見るより明らかで
そうなると真っ昼間からでも抱きたくなる。

美月はぶうっと膨れっ面をする。
ああ、可愛い。これも可愛いよ。
亮は顔がとろけそうになるのを必死に
引き締めながら続ける。

「俺に話、させて。」

「ん。わかったよ。任せる。」

「俺は仕事で近所に行った事にするから。
正直さんには内緒だよ?絶対に気を悪く
しちゃうから。余計こじらすよ?」

「わかったよ。」

こんな秘密を守るのも、美月にはつらい
ことだろうが、ここは踏ん張って貰おう。
亮は美月の唇を指先でなぞる。

「いい子だ。」

なぞったラインを確かめるように
唇で触れた。








そして、亮はひとり。
海辺の町へきたのだった。