亀の啓示

18禁漫画イラスト小説多数、大人のラブコメです。

とにかくイチャイチャハロウィン小説版(52)

2018-02-23 00:09:11 | とにかくイチャイチャハロウィン小説版
「あ、正直さん。ご無沙汰してます。」

「やあ、亮くん。ひさしぶりだね。」

長内家が赤ちゃん中心の生活になってから
半年が経った。
双子たちはベビーチェアに座って
離乳食を握りしめる。

亮は舅からの電話に背筋を伸ばした。
なんならちょっとお辞儀をしている。

「渉と卓は元気か?」

渉はマッシュポテトをもっとマッシュ
するのがマイブームである。
卓はキャロットジュースをもっとスクイーズ
したいらしく試行錯誤の毎日だ。

「頼もしい限りですよ。」

亮は双子をロックオンしながら
美月に向かって手招きする。

「正直さんだよ。」

美月はあわててエプロンで手を拭き
亮から受話器を受け取った。

「お父さん?久し振り。元気?」

「あ、あのな。」

正直さんはなかなか続きを話さない。

「どうしちゃったの?」

「ん。昨夜、亡くなった。」








美月の母、絹江さんは実父の市太郎さんを
介護するために家族と離れて暮らしていた。
美月が結婚する前だからもう2年になる。

夫婦仲は悪くない。
悪くないどころかアツアツだ。
この二人がどんな事情があろうと
まさか別居するとは思わなかった。
美月は当時、心配になり色々と提案した。

ーおじいちゃんをこっちに呼んだら?
いいホスピスならこっちにもあるし。

市太郎さんは海辺の町で育った。
ずっと同じ海を見て育ったから
海を見ながら死にたい。
この海のそばで死にたいんだ。

市太郎さんはすっかりぼけてしまい
実は絹江さんのことも覚えていないのだ。
そんな父がしっかりしていた頃に
こんなことを言っていた。
絹江さんはなんとしても、父を故郷で
眠らせてやりたかった。

ーじゃあ、お父さんも行ったら?
この家にはあたしが戻って管理するから。

この提案に何故か、正直さんは
首を縦に振らなかった。
正直さんと市太郎さんとは、標準的な
舅と婿であった。仲が良いとも言わないが
決していがみ合うような仲ではなかった。
もっともぼけが入ってからは
見知らぬ男が何の用かといぶかしげに
するだけだったから、今更の心配だ。

2年の間、別居していた夫婦が
また一緒に暮らせるようになるのは
喜ばしいことなのだが
それは1人の人間が人生の幕を閉じたと
いうことで、それは悲しいことなのだ。

美月は初めてシッターさんをお願いし
父の様子を見に行くことにした。

「どうせだからゆっくりしてきたら?」

おじいちゃんのお葬式も手伝ってくれば?
と亮は言ってくれるのだが、美月はお葬式に
出るつもりはなかった。お花とお香典を
送るだけで済ませるつもりである。

「直樹もみつえちゃんも仕事だし。
喪主はお母さんになるけど、お父さんが
行ってあげたら十分だよ。」

「そうか。正直さんによろしくな。」

美月はまだまだにじみ出るおっぱいに
パッドを挟み晒を巻いて押さえた。
外出するときに胸はじゃまなので
こうして締めるのだが、気づけば亮が
指を咥えて見つめている。

「どうしたの。」

「ん。いや。何でもない。」

亮は美月の晒で締められて少し上に出来た
谷間に顔を突っ込んできた。

「やん!」

「んふふ。気持ちいい。」

亮は胸の谷間だけじゃなく
腰を抱き締めながら肩や首筋やうなじまで
キスして回った。

「きれいだよ。ママ。」

「ん。ばかあん。」

美月も亮の首にぶら下がるようにして
唇に吸い付いた。





「行ってくるね。」

「気をつけてな。」














「美月い。数珠ってどこにあるかな。」

意外なほど正直さんは狼狽えていた。

美月は洋服タンスをあけると引き出しから
数珠をふたつ出した。

「お母さんのも、持ってってあげて。」

「ありがとうな。美月。」

でも美月は不思議に思った。
タンスには母の喪服も入っていた。

「お母さんの喪服はどうするの?」

「それはとっくに送ってあるよ。」

「え?ここにあるのお母さんのでしょ?」

出してきてサイズをチェックするも
やはりここにある喪服は母のものだった。

「あたしの?あたしの送っちゃったの?」

美月は喪服を持って出なかった。
もし魔界で葬式にいくにしても、既婚者と
しての作法や服装は微妙に違うらしい。
実家に置いといてもらうのが正解と思ったが
思わぬ落とし穴にはまった形か。

美月は標準より大柄だ。
母の絹江さんとは20センチ近い
身長差がある。
あの喪服はワンピースで。
スカート丈はロングで。
ごまかしようがない。

その時、電話が鳴った。

美月は気づくの遅いぞ!と思う。
早く出なよ?と正直さんを押す。
正直さんは叱られるのがわかるので
いやいやと首を横に振った。
コールが7回目になると業を煮やしたのか
美月が受話器を取った。

「アナタッ!」

美月が名乗らぬうちにお説教体勢だ。

「お、お母さん落ち着いて。」

「あら。美月。何してるのよ?あなた
赤ちゃんはどうしたの?」

「あ、シッターさん頼んできた。
お父さんが心配だったからさ。」

「ん。まあ、正解かしらね。あの人ったら
喪服送ってって頼んだら……」

「あたしのだったんでしょ。いまタンス
見てたからさ。お数珠は送ってないし。」

「仕方がないから着てみたの。」

当然袖は余るし肩は落ちるし裾は引き摺る。

「デカイ娘でごめん。」

「明日の夜がお通夜なのよ。お父さんには
告別式だけでいいって言ったんだけど
予定繰り上げて喪服持ってきてって。」

「待って。お父さんに代わるから。」

「あ、いいわ。グチグチ叱っちゃいそう
だから。持ち物リストをメールするから。
みーちゃん丁度良いわ、チェックして。」

母は忙しいのか、さっさと電話を切った。

「お母さん。案外元気そうだった。」

美月はいつもの母の様子にすっかり
安心したように微笑む。

「……弱くなるのは、もっと後だよ。」

正直さんはやさしげな表情を浮かべた。

「気になるのは、母さんが納得して
送り出してあげられたかどうかだよ。」

美月は不思議そうな顔をする。

「そういうの、納得する、しないって
関係あるの?」

人の生き死にというのは、ある程度の
医療技術や回りのケア、本人の気力体力が
左右するものだろうが、死が訪れるときには
どんな思いも無力なのではないか。

「ん。あいつはずっと覚悟を決めて
お義父さんに尽くしてきたんだ。納得行かない
お別れをしたら、後で絶対自分を責める。」

母の気持ちがどこにあるのか。
美月には想像もつかない。
父はそれを察して心を痛めている。

「お母さんは帰ってくるんでしょ。」

「ああ。」

「また、お父さんと暮らすんだよね。」

「そうさ。」

「お父さんはずっと寂しい思いをして
待ってたのに、お祖父ちゃんが亡くなって
悲しんでるお母さんのことも受け止めなきゃ
いけないんだね?」

正直さんは、案外と図星を突いてくる
娘を呆れたような顔で見た。

「まあ、素直に甘えてくれないなんて
思いたくはないんだが。俺は頼りない
男だからなあ。」

美月はPCを開いてメールを確認した。

「さっき、お母さんが電話でお父さんと
話さなかったのも、さ。」

「お前で用事が済んだからだろう?」

「お父さんとゆっくり話したら、
泣いちゃうからかもね。」

正直さんはため息をつくと、乾いた声で
少しだけ笑った。

「こんなとき、酔えない体質を呪うよ。」

「お母さんも酔わないんだから。」

「酔わせてやりたいよ。」

美月も自棄になって酔い潰れるなんて
出来ないので、実感はないのだが
こんな時こそ酒は良い仕事をするのだろう。

美月はメールで送られてきた持ち物リストを
一つ一つチェックして、正直さんと一緒に
荷造りを手伝った。
航空チケットもネットで手配できた。

翌朝、車で空港まで送ったら帰ろう。

美月は久しぶりに自分の部屋で眠った。