亀の啓示

18禁漫画イラスト小説多数、大人のラブコメです。

とにかくイチャイチャハロウィン小説版(53)

2018-02-24 00:00:10 | とにかくイチャイチャハロウィン小説版
「ただいま。」

空港まで正直さんを送った美月は
そのまま車を回して家に帰ってきた。

シッターさんは今日1日でお願いしていたが
半日毎の契約なので、午後の分をキャンセル
させてもらった。

「二人とも良い子にしてたぜ。
案外と内弁慶なんだな。」

シッターのマーサさんは恰幅のいい
ゴツいメープルおばさんといった感じの
任せて安心な雰囲気を醸す女性だった。

「双子ちゃんを新米ママが一人で面倒
見るなんて大変よ!よく頑張ってるわね。」

いつでもお手伝いさせてね、と
名刺を置いて帰って行った。

「彼女は純血の魔女だね。」

亮が美月に解説する。
魔法での寝かしつけなんかが
アピールポイントなんだけど
寝かしつけるのは、赤ちゃんが本当に
眠いのに眠れないって時に、補助の魔法を
かけるだけなんだ。

「離乳食も作りおきをしてくれたよ。」

シッターさんは赤ちゃんのことに関わる
仕事は十分すぎるくらいにサービスして
くれるのだが、他のことはきっちり線引き
するのである。

「自分の食事は自分でやったよ。」

「またチーズにワインとか言うんじゃ」

美月がお小言の口調で亮に詰め寄ると
亮は美月の背中に手を回しやさしく撫でた。

「お前がいないのは、やっぱり寂しい。」

「誤魔化して!」

「愛してるよ。」

毎日言われているのに、あらためて
顔を赤らめる美月。

「あたしだって。」










ランチを食べて、双子たちも眠そうだ。
ぐずりながらもようやく昼寝を始めた。

「よく動くようになったな。」

ただ横たわっていた新生児の時代にも
泣き止まないだけで心が押し潰されそうに
つらかった。今は掴んでほしくないものを
掴みたがり、ハイハイであっという間に
二人バラバラに目の届かないところに
潜り込んでしまうのだ。

「亮が極力在宅で仕事をしてくれるから
すごく助かってるよ。ありがとう。」

美月は双子が2ヶ月くらいの時、精神的にも
不安定になって大変だった。その頃に仕事を
産休前のペースに戻そうとしていた亮は
考えをあらため、在宅で出来る仕事を中心に
組み替えて行ったのだ。
すぐには変えられなかったし
古くからのクライアントから契約解除を
食らったりもしたのだが
亮は方針を変えなかった。

「近くに頼れる家族がいないからなあ。
それに子育てはお母さんだけの仕事じゃ
ないんだから。」

「でも、ヴァンパイアにしても珍しいでしょ
そんな風に考えるの。取引先でも理解されて
いるのか、ちょっと心配なんだよね。」

「確かに。会社の役員級の人との話より
課長とか、主任とかの現場の人たちとの
話の方が拗れるな。フリーランスは
いい気なもんだって。」

たまには"人間の女は子育て一つまともに
出来ないのかね"なんて言われることもある。
そんなことは美月には言わないが、美月も
想像がつかない訳ではない。

「俺はフリーランスだからね。
自分の好きなようにするさ。
フリーランスは云々言ってる役員連中に
したって、俺をドライバー扱いしたりする。
そこをちょっとしたおまけの発注で
サービス出来るのもフリーランスの
機動力なんだから。」

美月はまたうっとりと亮を見つめる。
亮には、やっぱりよくわからない。

「美月はあと半年で本当に仕事復帰?」

「うちの学園は保育園もあるんだよ。」

半年から入れられるが一歳以降には
保育料が安くなるので、産休を産後にも
一年取ることにしたのである。

「学園ではそういうの、持ちつ持たれつ
っていうか、誰か必ず助けてくれるから。
復職に不安はないよ。」

亮は美月を見ていると、こういう職場なら
自分も一つところに骨を埋めるのも
悪くない選択だと思えてくる。
自分が求められることはない職場なんだが。

「今頃お父さん、飛行機降りたくらいかな」

正直さんは、ホテルの送迎バスと
路線バスを乗り間違えて、
隣町のターミナル駅で下ろされて
ポカンとしていた。

とにかくイチャイチャハロウィン小説版(52)

2018-02-23 00:09:11 | とにかくイチャイチャハロウィン小説版
「あ、正直さん。ご無沙汰してます。」

「やあ、亮くん。ひさしぶりだね。」

長内家が赤ちゃん中心の生活になってから
半年が経った。
双子たちはベビーチェアに座って
離乳食を握りしめる。

亮は舅からの電話に背筋を伸ばした。
なんならちょっとお辞儀をしている。

「渉と卓は元気か?」

渉はマッシュポテトをもっとマッシュ
するのがマイブームである。
卓はキャロットジュースをもっとスクイーズ
したいらしく試行錯誤の毎日だ。

「頼もしい限りですよ。」

亮は双子をロックオンしながら
美月に向かって手招きする。

「正直さんだよ。」

美月はあわててエプロンで手を拭き
亮から受話器を受け取った。

「お父さん?久し振り。元気?」

「あ、あのな。」

正直さんはなかなか続きを話さない。

「どうしちゃったの?」

「ん。昨夜、亡くなった。」








美月の母、絹江さんは実父の市太郎さんを
介護するために家族と離れて暮らしていた。
美月が結婚する前だからもう2年になる。

夫婦仲は悪くない。
悪くないどころかアツアツだ。
この二人がどんな事情があろうと
まさか別居するとは思わなかった。
美月は当時、心配になり色々と提案した。

ーおじいちゃんをこっちに呼んだら?
いいホスピスならこっちにもあるし。

市太郎さんは海辺の町で育った。
ずっと同じ海を見て育ったから
海を見ながら死にたい。
この海のそばで死にたいんだ。

市太郎さんはすっかりぼけてしまい
実は絹江さんのことも覚えていないのだ。
そんな父がしっかりしていた頃に
こんなことを言っていた。
絹江さんはなんとしても、父を故郷で
眠らせてやりたかった。

ーじゃあ、お父さんも行ったら?
この家にはあたしが戻って管理するから。

この提案に何故か、正直さんは
首を縦に振らなかった。
正直さんと市太郎さんとは、標準的な
舅と婿であった。仲が良いとも言わないが
決していがみ合うような仲ではなかった。
もっともぼけが入ってからは
見知らぬ男が何の用かといぶかしげに
するだけだったから、今更の心配だ。

2年の間、別居していた夫婦が
また一緒に暮らせるようになるのは
喜ばしいことなのだが
それは1人の人間が人生の幕を閉じたと
いうことで、それは悲しいことなのだ。

美月は初めてシッターさんをお願いし
父の様子を見に行くことにした。

「どうせだからゆっくりしてきたら?」

おじいちゃんのお葬式も手伝ってくれば?
と亮は言ってくれるのだが、美月はお葬式に
出るつもりはなかった。お花とお香典を
送るだけで済ませるつもりである。

「直樹もみつえちゃんも仕事だし。
喪主はお母さんになるけど、お父さんが
行ってあげたら十分だよ。」

「そうか。正直さんによろしくな。」

美月はまだまだにじみ出るおっぱいに
パッドを挟み晒を巻いて押さえた。
外出するときに胸はじゃまなので
こうして締めるのだが、気づけば亮が
指を咥えて見つめている。

「どうしたの。」

「ん。いや。何でもない。」

亮は美月の晒で締められて少し上に出来た
谷間に顔を突っ込んできた。

「やん!」

「んふふ。気持ちいい。」

亮は胸の谷間だけじゃなく
腰を抱き締めながら肩や首筋やうなじまで
キスして回った。

「きれいだよ。ママ。」

「ん。ばかあん。」

美月も亮の首にぶら下がるようにして
唇に吸い付いた。





「行ってくるね。」

「気をつけてな。」














「美月い。数珠ってどこにあるかな。」

意外なほど正直さんは狼狽えていた。

美月は洋服タンスをあけると引き出しから
数珠をふたつ出した。

「お母さんのも、持ってってあげて。」

「ありがとうな。美月。」

でも美月は不思議に思った。
タンスには母の喪服も入っていた。

「お母さんの喪服はどうするの?」

「それはとっくに送ってあるよ。」

「え?ここにあるのお母さんのでしょ?」

出してきてサイズをチェックするも
やはりここにある喪服は母のものだった。

「あたしの?あたしの送っちゃったの?」

美月は喪服を持って出なかった。
もし魔界で葬式にいくにしても、既婚者と
しての作法や服装は微妙に違うらしい。
実家に置いといてもらうのが正解と思ったが
思わぬ落とし穴にはまった形か。

美月は標準より大柄だ。
母の絹江さんとは20センチ近い
身長差がある。
あの喪服はワンピースで。
スカート丈はロングで。
ごまかしようがない。

その時、電話が鳴った。

美月は気づくの遅いぞ!と思う。
早く出なよ?と正直さんを押す。
正直さんは叱られるのがわかるので
いやいやと首を横に振った。
コールが7回目になると業を煮やしたのか
美月が受話器を取った。

「アナタッ!」

美月が名乗らぬうちにお説教体勢だ。

「お、お母さん落ち着いて。」

「あら。美月。何してるのよ?あなた
赤ちゃんはどうしたの?」

「あ、シッターさん頼んできた。
お父さんが心配だったからさ。」

「ん。まあ、正解かしらね。あの人ったら
喪服送ってって頼んだら……」

「あたしのだったんでしょ。いまタンス
見てたからさ。お数珠は送ってないし。」

「仕方がないから着てみたの。」

当然袖は余るし肩は落ちるし裾は引き摺る。

「デカイ娘でごめん。」

「明日の夜がお通夜なのよ。お父さんには
告別式だけでいいって言ったんだけど
予定繰り上げて喪服持ってきてって。」

「待って。お父さんに代わるから。」

「あ、いいわ。グチグチ叱っちゃいそう
だから。持ち物リストをメールするから。
みーちゃん丁度良いわ、チェックして。」

母は忙しいのか、さっさと電話を切った。

「お母さん。案外元気そうだった。」

美月はいつもの母の様子にすっかり
安心したように微笑む。

「……弱くなるのは、もっと後だよ。」

正直さんはやさしげな表情を浮かべた。

「気になるのは、母さんが納得して
送り出してあげられたかどうかだよ。」

美月は不思議そうな顔をする。

「そういうの、納得する、しないって
関係あるの?」

人の生き死にというのは、ある程度の
医療技術や回りのケア、本人の気力体力が
左右するものだろうが、死が訪れるときには
どんな思いも無力なのではないか。

「ん。あいつはずっと覚悟を決めて
お義父さんに尽くしてきたんだ。納得行かない
お別れをしたら、後で絶対自分を責める。」

母の気持ちがどこにあるのか。
美月には想像もつかない。
父はそれを察して心を痛めている。

「お母さんは帰ってくるんでしょ。」

「ああ。」

「また、お父さんと暮らすんだよね。」

「そうさ。」

「お父さんはずっと寂しい思いをして
待ってたのに、お祖父ちゃんが亡くなって
悲しんでるお母さんのことも受け止めなきゃ
いけないんだね?」

正直さんは、案外と図星を突いてくる
娘を呆れたような顔で見た。

「まあ、素直に甘えてくれないなんて
思いたくはないんだが。俺は頼りない
男だからなあ。」

美月はPCを開いてメールを確認した。

「さっき、お母さんが電話でお父さんと
話さなかったのも、さ。」

「お前で用事が済んだからだろう?」

「お父さんとゆっくり話したら、
泣いちゃうからかもね。」

正直さんはため息をつくと、乾いた声で
少しだけ笑った。

「こんなとき、酔えない体質を呪うよ。」

「お母さんも酔わないんだから。」

「酔わせてやりたいよ。」

美月も自棄になって酔い潰れるなんて
出来ないので、実感はないのだが
こんな時こそ酒は良い仕事をするのだろう。

美月はメールで送られてきた持ち物リストを
一つ一つチェックして、正直さんと一緒に
荷造りを手伝った。
航空チケットもネットで手配できた。

翌朝、車で空港まで送ったら帰ろう。

美月は久しぶりに自分の部屋で眠った。



とにかくイチャイチャハロウィン小説版(51)

2018-02-22 06:44:07 | とにかくイチャイチャハロウィン小説版
「あら。」

エリザベスは見たこともない
女の赤ちゃん二人に首をかしげた。
同時に自分の体の違和感にも気づいた。
視界のど真ん中に手をかざす。
白くてふっくらとした手が目に入る。

「んまあ。」

再び赤ちゃんたちに目を落とした。

「ヒト形になってもなかなかの美人さんね。」

エリザベスは深く頷き、二人の娘の頬を
指先でやさしく撫でた。

「ママっ!ママーっ!!」

奥の部屋からデルタが走り込んで来た。

「なあに、デルタ。静かにして頂戴!」

「あ、ごめんなさい。やっぱりママも。」

ヒト形に変身したデルタは二回目とは言え
よほど変身が嫌なのだろう、血相を変えて
飛んできたのだった。

「美雪の様子を見てきて。」

赤ちゃんはデルタの慌てぶりにか
お腹が減ったのか、二人で同時に
泣き出した。






「美雪!」

寝室では吐くものもないのに
吐き気が収まらず、ずっと洗面器に
顔を突っ込んで衰弱し切った美雪がいた。

「あ…デルタ…」

「美雪。お医者さんに行った方が
良くない?」

「うぶ」

美雪が白目を剥く。

背中をさすろうとしたデルタの手が
翼に戻ったり手に変化したりする。

「参ったなあ。お医者さんに連絡するわ。
回診してくれないか聞いてみる。」

「ご………めぇん…デル……タ」









「辛いでしょ。入院する?」

同じ魔女の女医が外来の合間だからと
家まで来てくれた。

「あれ?妹さん?」

家族構成は夫婦二人と聞いていたので
女医はデルタを見て首をかしげたのだ。

「なんか、あたしの具合が悪くて
制御出来ない魔法が出ちゃうみたいで。」

「それは?」

「彼女はうちのコウモリなの。」

女医はマジマジとデルタをみる。

「電話くれたのも、あなた?」

「はい。」

「あらら。」

「早くコウモリに戻して。」

デルタはこの姿が嫌いだ。
何でか分からないが、この姿になると
ガンマより小さくなる。
デルタはガンマがガンマじゃないみたいで
とても落ち着かない。
今日はガンマは出掛けているが
このままじゃ帰ってくるなり変身だ。

「美雪が入院すれば吐き気止めの薬も
点滴で入れられるし、無理に食べなくても
いいから楽になるわ。そして魔法が漏れる
こともないし、そもそも病室からでは
反応することもないと思うわ。」

デルタは美雪を見た。
美雪はこんなになっても
入院するのは嫌と言う顔だ。
デルタにはよくわかる。
美雪はそういう女だ。
賞平に心配をかけまいとしている。

「しないか。入院。」

女医にもわかったようである。

「吐き気止めは飲み薬で処方するから。
近所の薬局で出してもらって。」

「ごめんなさい。」

「いいわ。辛いのはあなただもの。」

女医はデルタに向かって手招きした。

「最近魔法を使ってないから自信ないけど
あなた一人くらいなら美雪の魔法から
ブロックしてあげられると思うわ。」

「戻れる?コウモリに?」

「えっと。このおうちにはコウモリ
たくさんいるんでしょ?」

女医は玄関から寝室に入ってきたから
奥の部屋のエリザベスとスミレ、スイトピー
には会っていないのだ。
だが美雪が複数のコウモリと暮らしている
ことは問診で聞いていたし、そのコウモリが
全員ヒト形になったらごちゃごちゃするかな
なんて考えたのだった。それに、この子は
コウモリの姿に戻りたいみたいだし。

「あと、私のママと生まれたばかりの
赤ちゃんがふたりよ。あ、私の兄もいる。」

「あー。ママと赤ちゃんは同じ姿に
しとかないとまずいわね。じゃあ、あなたか
あなたのお兄さんか。どちらかを。」

「あ、今兄は出掛けてて」

その時、隣の部屋から野太い叫び声がした。

「またかよ!美雪だろ!!」

どかどかと寝室に入ってきたのは
あの初めての変身のとき、確かにこういう
姿形だったガンマだった。

「ガンマ。」

「お前もか、デルタ。」

女医は新たな変身コウモリを見て
腕を組んだ。首を左右に傾けコキコキと
骨を鳴らす。

「あなたも嫌みたいね。」

「このおばさんは?」

「ガンマッ!」

女医の顔が般若に変わり
ガンマを睨み付ける。

「おばさんはおばさんでも
美しいおばさん。」

般若が聖母に変わる。

「どっちか1人、コウモリに戻してあげる。」

「マジすか?!お、俺俺俺戻してっ!」

「何よあたしが先に戻してもらう話に
したんだからズルイわよガンマはあっ!」

兄妹げんかが始まり、二人は掴み合いの
取っ組み合いで容赦ない戦いを繰り広げる。
コウモリの姿なら体格に差はなく
ほとんど互角の二人はいつもの調子で
やりあうが、ヒト形ではガンマの方が体が
大きいためあっという間にデルタに馬乗りに
なってしまった。

「いたあいっ!苦しい!!」

ジタバタとデルタがもがいていると
女医が呪文を唱える声がして
ふっと体が軽くなった。

「ごめん。あのままじゃあなたが
怪我をしてたわ。」

今までデルタを組み敷いていたガンマは
コウモリの姿でちょこんとデルタの胸に
座っていた。

「ガンマ。」

「ヤッタヤッタ!もとに戻ったア!」

嬉しそうに飛び回るガンマ。

「ったく。」

デルタは膨れっ面で立ち上がった。
改めてコウモリのガンマを見た。

「ちっちゃいのね。」

もちろんヒト形に変身してから
コウモリを見れば小さく見えるわけだが
ガンマとは同時に変身し同時に元に戻って
いたので、冷静にコウモリの小ささを
実感する暇はなかったのだ。

「うわっ何すんだよデル……キュウ~」

デルタはガンマの耳の裏を指の腹で
コスコスと撫でてやる。

「可愛い顔しちゃって。」

「キュウキュウ。」

ガンマはすごく気持ちよさそうに
鳴いている。だが、必死に自分を
取り戻そうともしていた。

「デルっ…や、やめ…キュウ~」

恍惚とした顔と怒って照れる複雑な顔とを
交互に出しながらデルタに撫でられる。
ガンマはデルタの手のひらでコロコロと
転がされる。

「仲良くなったわね。んふふ。」

処方箋を書き終わった女医が席を立った。

「先生。ありがとうございました。
なんかガンマまでお世話になっちゃって。」

美雪はまだゼエゼエと呼吸が浅い。
吐き気は依然として治まってはいないのだ。

「とにかく、吐き気止めが効いたら
その間に飲み食いして眠ること。
他のことはあんまり構わずにね。」

「ええ。」

デルタは女医から処方箋を受けとる。

「一番近い薬局、わかる?」

女医は家から近くの調剤薬局の場所を
教えてくれた。

「まあ、この薬局まで行ったら
あなたはコウモリに戻ると思うんだけど。」

コウモリは個体差として能力に幅がある。
それは訓練の有無や育つ環境も左右するが
ヒト形になったときのやり取りを見ていて
薬局で薬を受けとるくらいなら、問題なく
出来るだろうと判断した。

「請求はこっちに回してって伝えて。」

「はい、ありがとうございました。」

デルタは家を出て、路地を何度か曲がり
大通りに出た。アーケードを突っ切り
西側のブロックの端のテナントに
調剤薬局がある。デルタは人並みを縫って
先へ進んだ。

「お、可愛いね彼女ぉ。」

「俺たちと遊ばない?」

獣人(これは狼系だろうか)の男二人組が
デルタに絡んできた。

「今、忙しいの。またね。」

「そんなこと言うなよ~」

「俺たち暇で気が狂いそうなんだ。」

「交尾しようぜえ。」

スカジャン姿に耳にじゃらじゃらと
音がするほどピアスを着けた男が
デルタの手首を掴んで引っ張った。

「キシャーーーーッ!!」

男は、自分が掴んでいた女の手首が
いつの間にかコウモリの爪に変わって
思い切り毛皮に食い込んでいるのを見て
痛いと感じるより先になにが起こったのか
脳がどちらの情報を処理したものか
選びかねている様子だった。

「離してよッ!」

そこへ命令が発せられたので
脳みそが安心したのかもしれない。
男はハイハイと手を離した。

デルタは呆気にとられる獣人どもを尻目に
歩き出した。ん?

「あ。戻ったわ。」

デルタは改めて人混みの上を飛び、薬局へ
一直線に進路を取った。

「やっぱり飛べないのは不便よね。」









デルタが家に戻ると、奥の部屋から
キュウキュウとガンマの鳴き声がする。

「ありがとう。デルタ。」

「美雪。ガンマは何いい気になって
アヘアヘ言っちゃってるの?」

グラスに水を入れて美雪に渡す。
美雪はすこし辛そうに、口に粉薬を
振り入れて水で飲み下した。

「あ、あれはエリザベスがはしゃいでるの。
自分がコウモリの気持ちいいところを
撫でてやるなんて新鮮でしょ?」

「まあ、ねえ。」

「エリザベスがガンマを撫でまくって。
ガンマはとろけ切っちゃってるのね。」

デルタはちょっぴり羨ましかった。

「たまにはいいと思うけど。
ガンマはママに撫でられる年じゃないわ。」

すこし強がった発言に美雪が笑う。
笑いながらも、まだ吐き気が上がってくるのか
口元に手を添えた。

「デルタもコウモリに戻ったら
あたしがたくさん撫でてあげるからね。」

「んもう。美雪は大人しく寝てなさい!」

デルタは美雪を強引にベッドに入れて
掛け布団で蓋をした。







「そうか。大変だったんだな。」

賞平が仕事から帰るとガンマ以外の全員が
ヒト形になっていたので、軽く驚いた。

「あたしが戻してもらう予定だったのに
ガンマはズルイのよ、いつもああして
いいとこばっかり持っていくんですもの!」

機関銃のように喋るデルタ。
これはコウモリの姿でも変わらない
ことだが、迫力が違うと賞平は思った。

「デルタ。よくやってくれたね。
ありがとう。」

いつも賞平は帰宅してから自分の夕食を
自分で作り、美雪の体調を見ながら
彼女の喉を通りそうなものを出してやる。
今夜はそれをすべてデルタがやって
くれたのだ。
賞平はデルタの肩を抱いて頬を寄せた。

「あたしがお腹減ったから作っただけ。」

ツンデレなデルタ。

「美雪が悪阻治まるまでずっとこのまま?」

賞平はいつコウモリに戻れるか分からない
四人の女性が家族に増えたと思い至る。

赤ちゃんにはオムツがいる。
普通にベッドも人数分いるし
衣料品も一通り揃えなければならない。
賞平は美雪に相談しに行った。






「ごめんなさい。賞平さん。」

薬が効いているうちに、買い揃えるものを
検討した。

「わかった。最低限だけど明日にでも
すぐに手配するからね。」

「ありがとう。賞平さん。」

「美雪。」

賞平は久しぶりに具合の良くなった
美雪にすり寄った。

「なあに?」

美雪も今は賞平を拒まない。

「そうか。俺の精気分けてあげたら
元気になるかな?」

「精気を?」

美雪はヴァンパイアと魔女の混血だが
実際にヴァンパイアと暮らすのは初めてだ。
彼らが精気を分け合うというのは知識では
知っていたけれども、具体的には分からない
ものだった。

「ねえ。キス、出来そう?」

「舌を絡めないでくれたら。」

「オッケイ。」

賞平は美雪に唇から近づく。
ふわりと彼女の百合のような匂いが
胸に流れ込む。あ、勃ってきちゃった。
股間を固くしながらも美雪の唇に吸い付き
なるべく舌が入らないような角度で
精気を流し込む。

「ん。んふう。」

美雪の頬がピンク色に染まる。

賞平は大きくため息をついた。
肩で何度か深呼吸をすると
美雪の頬にキスした。

「どう?」

「すてき。」

一時的ではあろうが、気分がすっかり
良くなった美雪は、久しぶりに夫の体臭を
嗅いでうっとりした。

「嬉しいわ。こうしてあなたと抱き合える。」

美雪は初めて夫が、自身を固く
立ち上がらせていることに気づいた。

「長いこと放っておいたから。」

「い、いいよ。自分で出すから。」

「お願い。触らせて。」

美雪は賞平の股間に手を伸ばした。
頭を撫でて、顎を弾いた。長い首を
やさしく握って上下に素早く擦った。

「くはあっ!」










「あら?」

エリザベスは可愛い赤ちゃんコウモリと
だいぶ大きくなったコウモリ男子に
目をやる。近づいて撫でると視界には
黒い翼が横切ってくる。

「戻ったわ。」

「本当だ。」

コウモリ男子は自分とさほど変わらない
サイズに戻った母親に、ヘソ天のポーズから
起き上がって寄り添った。
一緒に戻ったスミレ、スイトピーは
何事もなかった顔で、ご機嫌そうな
声を上げる。

エリザベスとガンマが美雪の様子を見ようと
寝室まで行くと、ドアの前で躊躇うように
飛んでいるデルタがいた。

「お前も戻ったんだ。」

「まあね。」

「美雪、元気になったみたいね。」

エリザベスがドアノブに手をかけようとすると
デルタが止めた。

「なんか、夫婦の時間みたいよ。」

「え?」

「聞こえる声がなんか。違うから。」

コウモリたちは部屋に帰ることにした。

今度はあたしが先に戻してもらうんだから!
わかったよ、悪かった。
兄妹も仲直りをした。







とにかくイチャイチャハロウィン小説版(50)

2018-02-21 00:01:37 | とにかくイチャイチャハロウィン小説版
「ミユキ、グアイワルイカ?」

「アルファじゃない。どうしたの?」

美雪はアルファのはためきに吊り上げられる
ようにスッとベッドから起き上がった。

「ミユキ、ネ、ネガヒブナノカ?」

「何の話?」

「ショウヘイ、ミユキヲキズツケルナッテ。
スゴクシンパイシテル。」

「ごめんなさい。アルファ。あたしが
こんなだから。賞平さんを悪く思わないで。
あたしが、いけないの。」

「ミヅキノトキニ、ニテル。
ミヅキ、グアイワルクナッテ。
トオルガ、イライラシタ。」

「美月ちゃんの、とき?」

「アカチャン、ソバニキテルノニ。
ナンデウレシクナイノカ?」

「は?あ、赤ちゃん?」

「ココカラ、ニオイガスルヨ。」

アルファは美雪の下腹に翼を広げて止まる。

「キット、アカチャン。」

美雪は前の生理を思い起こした。
遅れていると言えば遅れているし
通常の誤差の範囲と言えば納得いく
レベルでもある。

「マワリニ、アカチャンイッパイ。
ミユキノアカチャンモ、サビシクナイネ。」

美雪はすぐに言葉が出なかった。
妊娠したかの判定はあと一週間は
待たなければ正確な結果は得られない。
アルファの言うことを鵜呑みにして
後からガッカリするのは嫌だったし
それならエリザベスやガンマ、デルタと
一緒に暮らしている子達には何故
美雪の妊娠がわからないのか。
でも、当てずっぽうでこんなことを言う
コウモリではない。

「アルファ、ドウシタ?」

ベータが飛んできた。 

「ア!アカチャン!」

ベータもアルファと一緒に美雪の下腹に
止まって耳をくっつけた。

「クルクル、オドルオトガスル。」

「まだ、着床していないの?」

美雪が突っ込んだことを訊くが
もちろんベータには着床なんて仕組みは
わからないのでキョトンとしている。

「あなたたち。受精卵がわかるの?」

「ミユキ、ナンノジュモン?」

美雪は起き上がるとクロゼットを開けて
引き出しをかき回す。
アルファもベータもキュッ?と声を上げる。

美雪が取り出したのは、夏にお腹を
冷やさないための薄手の腹巻きだった。

「お願い。ママのお腹で。大きくなって!」

美雪は腹巻きをしたお腹を手のひらで
やさしく暖めた。

「お願いよ。」







「アルファ、ベータ。何していたの?」

エリザベスが二人に問う。

「ママ。ミユキ、ママニナルネ。」

「え?本当に?ちっとも
わからなかったわ。」

「ドウシテ?ママ、ハナヅマリカ?」

「そうね。この子達がいるからかしら。」

母コウモリは子コウモリを守るために
異変を嗅覚や音波でも感じとるように
なっているのだが、守るべき子供のため
他のアンテナを閉じている状態になる。
一緒に暮らす兄のガンマや姉のデルタも
同じ状態になるのである。
エリザベスは美雪の異変はまだ微量過ぎて
感じとることは出来なかった。

「アルファ。ベータ。このことは
賞平には内緒にしてあげて。」

エリザベスが二人にお願いした。
二人は不思議そうにしたが
ママの言うことを素直に飲み込んだ。







美雪は赤ちゃんが出来た前提で考えてみる。
精神的に不安定になり、体調が悪くなり。
悪阻かと言われると微妙だが、体のホルモン
バランスの変化から、数々の不定愁訴も
納得がいく。
いつもは愛しくて仕方ない彼の体も、
匂いたつような男の体臭がむせ返るほどの
刺激に感じてしまった。
受精卵が着床しようとしている今
しばらくの間は性交を控えた方が良く
体が自然と示した反応かもしれない。

今すぐにでも賞平に教えたい。
赤ちゃんが来ているかもしれないの。
どんなにか喜ぶだろう。
でも。妊娠が完全に成立しなかったら
お互いに落胆するのは目に見えている。
辛すぎて、想像できない。

それから一週間の間。

美雪はほとんど床を上げずに過ごした。
賞平までもが食欲減退でやつれ始める。

「あなたは食べなさい。」

エリザベスはご飯と豆腐とワカメのお味噌汁
焼き鮭に生卵をテーブルに並べる。

「んもう。あなたがしっかりしなくて
どうするのよ。一家の大黒柱でしょう?」

「立ち枯れだよ。役立たずさ。」

「んもう!そんなことでパパになれるの?」

エリザベスはつい言い過ぎたと
口元に翼を持ってきたのだが
賞平は不妊治療を頑張れとの叱咤激励と
取ったようだった。





キャーッ





美雪が悲鳴を上げた。
バスルームからだったから
美しくエコーがかかって家中に響いた。

賞平は煙たがられるのを承知で
美雪のもとへ駆けつけた。

美雪は陽性反応がくっきりと出た
妊娠判定薬を握りしめていた。







とにかくイチャイチャハロウィン小説版(49)

2018-02-20 00:02:49 | とにかくイチャイチャハロウィン小説版
「赤ちゃん。可愛かったわね。」

「ああ。特に下の子は美月にそっくりだ。」

賞平と美雪は家に帰ってくると
赤ちゃんの可愛さを語り合う。
なかなか子宝に恵まれず
後から結婚した亮と美月に
先に赤ちゃんが来たことが
羨ましくないと言えば嘘になる。
エリザベスやバーバラといった
コウモリにも次々赤ちゃんが生まれ
そのいずれの出産にも関わった美雪は
散々と言って良いほど赤ちゃんの可愛さを
見せつけられて来たのだった。

「あたしたち。不妊治療受けた方が
良いのかしらね。」

美雪は寂しそうに俯いてため息をつく。
ヴァンパイアと魔女の組み合わせは
受胎に特別な弊害はない。
相変わらず激しく夜を過ごし、昼間も美雪は
しばしば余韻に切なくなるほどなのだが、
いっこうに赤ちゃんはやってこない。

「そうだな。そろそろ診てもらうのも
いいかもしれない。」

賞平も子どもは欲しいので
不妊治療は仕方がないと思う。
検査でスペルマを採らなくてはいけない時も
出せる自信はあるし、病院内の個室で美雪に
触れられながらなんて、ちょっとワクワクだ。
気楽な妄想をして、賞平は美雪の胸に
手を伸ばした。

いつもならすぐにでも感じて
受け入れる態勢になる美雪が
翳りのある表情を見せた。

「どうしたの?」

賞平が美雪の首筋に牙を立てても
美雪はいつものような切ない声も
上げなかった。

「ごめんなさい。賞平さん。」

美雪が、初めて夜の営みを拒んだ。
よほど不妊を深刻に考えているのか
賞平も今夜は抱き締めて眠るだけに
しておこうと思う。

「ご、ごめんなさい。」

賞平は回りを見回した。
何もないし、誰もいないから
重ねて謝られているのは、自分だ。

「今夜はひとりにして。」

「み、」

賞平が美雪と呼び終わらぬ間に
美雪は寝室を出た。
すぐ隣のベビールームに入って行ったようだ。
そこはエリザベスとスミレ、スイトピーの
過ごしている部屋で、賞平は普段から
出入り出来ないのだ。

「美雪い。」

賞平はガックリと肩を落とす。
もしかすると、自分の子種が薄いのか。
まだ、衰える年ではないから
こんな濃ゆい新婚生活を送り続けて
赤ちゃんが出来ないのは確かにおかしい。

「離婚か。」

賞平はとたんに役立たずな旦那として
妻に捨てられるような気分になってしまう。
きちんと検査を受けて、もし自分の責任なら
いさぎよく諦めよう。
美雪が本気で妊娠を考えていて
それを自分が叶えてやれないなら
その先の判断は美雪に委ねようと思う。
あるいは、要因が美雪にあったとしても
別れたくはない。
逆に何が何でも離したくない。
自分は美雪という女に惚れたのだ。
子どもを生ませたいからと
嫁にしたのではない。
この女と一緒にいたいからである。

そんなことを考えていると
美雪への想いがますます募る。
ろくに眠れぬままに夜を明かした
賞平だった。



翌朝。美雪は顔色も悪く
本当に沈み込んでいた。
気持ちを強く持てない。
いつもの快活な、仕事に生き生きと打ち込む
美雪とはまるで別の女になってしまった。

「今日は俺が作るよ。フレンチトースト
でも食べるかい?」

賞平がキッチンから声を掛けても
美雪はダイニングのテーブルで
ため息をつくばかりだ。

「ケンカ?」

エリザベスが賞平の方に飛んできた。
目がつり上がって、眉間にシワが刻まれる。

「リズ。俺だって頑張ってるんだ。
わかるだろう。結婚して一年たつのに
なんの音沙汰もない。」

エリザベスの表情が和らいだ。

「赤ちゃんの話ね。バーバラおばさまから
私と来て、美月ちゃんにも赤ちゃんが
生まれたんですものね。」

「だから、もうきちんと検査を受けて
不妊治療をしようって美雪と話したんだ。」

エリザベスは少し黙りこんだが
仕切り直すように賞平を見た。

「こういうの、男性は嫌がるみたいだけど
賞平は大丈夫なの?病院で射精しろとか
言われるらしいわよ。」

相変わらずこんな話題も真顔である。

「俺は出せばいいだけだ。美雪は
本格的に不妊治療となれば、負担がかかる。
そっちの方が心配だよ。」

エリザベスは頷きながら、
美雪の様子を窺う。
美雪は前向きな女だ。
不妊治療が始まってもいないのに、
あんなに憂鬱そうな顔をして愛する
旦那さまにそっけなくするだろうか。

「美雪!」

賞平が美雪に駆け寄る。
美雪が瞳から大粒の涙をぽろぽろと
こぼして泣き出したからだ。

「美雪。どうしたんだ?君、昨夜から
おかしいよ。」

美雪はメンタルも強い女だ。
もしかするとそれは賞平の都合のいい
思い込みだったのか。
二人で過ごすことで、何か彼女に負担に
なっていたのではないか。
それが何かはわからない。
だが今、現にうちひしがれるように
元気を無くした彼女を楽にしてやらないと
いけないだろう。
美雪も、二人の仲も元に戻らなくなって
しまいそうだ。

賞平は不妊治療の前に、メンタルケアが
必要だと美雪に説明した。

「ごめんなさい。あたしがこんなだから。」

美雪は論理的に今の状況を捉えることも
出来ない様子で、ただただ謝るばかりだ。

「ねえ。美雪。キス、してもいいかい?」

「…………………ごめんなさい。」

結婚して一日と開けずにセックスしていた
賞平と美雪だったが、もう丸一日キスさえ
していないのだ。ゆゆしき事態である。
賞平は挫けそうになりながら
女性医師のいる評判のいい
メンタルクリニックを検索しはじめた。

自分が嫌われたかもしれない。
そんな不安に次第に強くとらわれる賞平。
俺もカウンセリング受けたい。

エリザベスが見つけた隣街のクリニックに
アポイントを取った。

「ちょうどキャンセルが出たらしいの。
今日の午後3時、大丈夫かしら。」

「俺が抱えて飛ぶよ。美雪は寝ていれば。」

美雪はそばにいたエリザベスに
こそこそと耳打ちした。

エリザベスはため息をつくと賞平に言った。

「あなたに抱かれて飛ぶのは遠慮しますって」

「あ。そうかい。車を出すよ。」











クリニックの女医は笑顔で夫婦を迎えた。
丁寧なカウンセリングで好感が持てたが
特に深刻なエピソードも認められないと
語った。

リラックスできるアロマでも炊いて
何日か仕事を休んだらと勧められた。

根本的には何の解決にもならなかったが
心を病んでいるわけではないと
わかっただけでもいいかと賞平は思った。







「あ、賞平くん。俺のいない間に
来てくれたんだって?」

翌日、亮から電話が来た。

「ああ。赤ん坊も大変だな。」

少しとげのある口調になってしまう。
妬む気持ちは隠せない。
亮は分かっているのか、いないのか
適度にスルーして話題を変えた。

「美雪が美月に素敵なプレゼントを
くれたらしいんだ。美雪に代わって。」

「あいつは、具合が悪いんだよ。
ふせってるから。勘弁してくれ。」

「そうか。じゃあ、アルファとベータも
行かせない方がいいか?」

「なんで、アルファとベータが?」

「いや、スミレとスイトピーに会いに
行きたいって言うから。それも美雪に
訊こうと思ったのさ。」

賞平は少し迷った。
エリザベスはアルファとベータのママだし
異父兄妹とはいえ血が繋がった妹に会いたい
という二人を追い返すのも可哀想だ。

「アルファとベータが来るだけなら。
スミレとスイトピーを見るだけなら、
美雪も構うことはないし。」

賞平はいつも朗らかなアルファとベータが
少しでも空気を変えてくれるかもと
なるべく楽観的な考え方を持つよう努めた。






「スミレカワイイ!」

「スイトピーモ、カワイイ!」

いつもより翼のはためきが高速だ。
アルファとベータはとても喜んで
スミレとスイトピーのそばを離れない。

「ショウヘイ、ミユキハ?」

アルファが美雪を探しに来た。
おいでなすったなと賞平は振り返る。

「トマトジュース飲むか?」

賞平は飲み物でごまかそうとしたが
アルファは首を振る。

「ジュース、ノンデキタカライイヨ。」

それより美雪は?と言いたげな
円らな黒い瞳があまりに邪気がなく
賞平は根負けした形で寝室を指差す。

「気が滅入ってるのか、だいぶネガティブ
なんだ。変なこと言って傷つけないで
くれよ?」

言いながら賞平は嫌な気分になる。
ネガティブになって八つ当たりしているのは
賞平の方だ。こいつも亮も何にも悪くない。

「ニオウヨ?ダカラ、カイデクル。」

匂う?

賞平は台所の火も使っていないし
臭いの元になるものにも心当たりは
全くなかった。
花も飾っていない。
フルーツも置いていない。

アルファは寝室に入っていった。