開光塾 カアチャンのつぶやき

どうしたら子どもたちに力をつけていけるか、元気に育っていけるか。
愉快でパワーにあふれたみんなとの、楽しい記録です。

6月の詩

2018-06-23 17:40:36 | 子どもたち
昨日、机の整理をしていたら、詩集を見つけました。


I was born. 吉野 弘


  確か 英語を習い始めて間もない頃だ。
 
   或る夏の宵。父と一緒に寺の境内を歩いてゆくと
  青い夕靄の奥から浮き出るように 白い女がこちらへやってくる。
  物憂げに ゆっくりと。

   女は身重らしかった、父に気兼ねをしながらも、僕は女の腹から目を離さなかった。 
  頭を下にした胎児の 柔軟なうごめきを 腹のあたりに連想し
  それがやがて 世に生れ出ることの不思議に打たれていた。

   女は行き過ぎた。

   少年の思いは飛躍しやすい。
  その時 僕は〈生まれる〉ということが まさしく〈受け身〉である訳を
  ふと諒解した。僕は興奮して父に話しかけた。
  ---やっぱり I was born.なんだねーーー
  父は怪訝そうに僕の顔を覗き込んだ。僕は繰り返した。
  ---I was born. さ。受身形だよ。正しく言うと人間は生まれさせられるんだ。自分の意志ではないんだねーーー
  その時 どんな驚きで 父は息子の言葉を聞いたか。
  僕の表情が単に無邪気として父の眼にうつり得たか。
  それを察するには 僕はまだあまりに幼かった、
  僕にとってこの事は文法上の単純な発見に過ぎなかったのだから。

   父は無言で暫く歩いた後 思いがけない話をした。
  ---蜉蝣(かげろう)という虫はね。生れてから二,三日で死ぬんだそうだが、
  それなら一体 何の為に世の中へ出てくるのかと 
  そんな事がひどく気になった頃があってねーーー
   僕は父を見た。父は続けた。
  ----友人にその話をしたら 或日 これが蜉蝣の雌だといって拡大鏡で見せてくれた。
  説明によると 口は全く退化して食物を摂るに適しない。
  胃の腑を開いても 入っているのは空気ばかり。 見るとその通りなんだ。
  ところが 卵だけは腹の中にぎっしり充満していて ほっそりした胸の方にまで及んでいる。
  それはまるで 目まぐるしく繰り返される生き死にの悲しみが
  咽喉もとまで こみ上げているように見えるのだ。
  淋しい 光の粒々だったね。
  私が友人の方を振り向いて〈卵〉というと 彼も肯いて答えた。〈せつなげだね〉
  そんなことがあって間もなくのことだったんだよ、
  お母さんがお前を生み落としてすぐに死なれたのはーーー。

   父の話のそれからあとは もう覚えていない。
  ただひとつの痛みのように切なく 僕の脳裡に灼きついたものがあった。

  ---ほっそりした母の 胸の奥の方まで 息苦しくふさいでいた白い僕の肉体ーーー

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梅雨から夏にかけて、このような↓卵を見かけたことはあるでしょうか?


 はかなげで、初めて見たときは何だろうと思いました。
 「うどんげ」というそうです。
 「クサカゲロウ」、「ウスバカゲロウ」の卵なんだとか。



 この「ウスバカゲロウ」の幼虫が、「アリ地獄」の主です。↓
 


 ところが、詩に登場する「蜻蛉」の幼虫は水生昆虫で、水の中で暮らすらしい。
 当然卵は、水中に産み落とす。
 …ンン?

本当の「蜻蛉」は、こちらでした!↓

これかァ… 

  

   

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