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(読書)eデモクラシーへの挑戦

2005年03月19日 | 読書感想
eデモクラシーへの挑戦 ―藤沢市市民電子会議室の歩み―

金子 郁容,藤沢市市民電子会議室運営委員会 著


 本書は、1997年2月より神奈川県藤沢市が開設している ▲市民電子会議室▲ の取り組みを通じて、ITによって民主主義がどのように進化していくのかを解き明かす手がかりを具体的に提示することが目的とされています。



(藤沢市HPより)


 市民電子会議室やそれに類するものは、全国733の自治体(2002年調査)で開設されていますが、その中でうまく運営されているものは数少ないと言われています。
 その中にあって藤沢市では運営体制やしくみをうまく工夫し、大きな成果をあげています。 ▲市民電子会議室設置状況▲



(藤沢市HPより)


 藤沢市の市民電子会議室の運営面の特色は、会議室を「市役所エリア」と「市民エリア」に区分していること。

 「市役所エリア」は市政に関するテーマが議論される場で、藤沢市の中では市民提案制度のひとつとして正式に位置づけられているそうです。ここで論議されて一定の合意が得られた意見については、運営委員会が取りまとめて市に提案し、市がそれに回答することになっいて、参加者は実名を登録し発言することになっています。

 「市民エリア」は、市民同士の自由なコミュニケーションの場と位置づけられていて、ニックネームでの発言もできる設定となっています。

 これらの運営が円滑に行なわれている背景には、市民有志からなる運営委員会の活躍があります。 ▲藤沢市市民電子会議室実施要領▲


 軍隊や企業や行政組織のようなヒエラルキー組織の場合は、責任と権利、地位と権限という要素をチェックすればその運営方法を分析することができますが、この電子会議室の運営については、ルール、ロール、ツールという考え方に則して分析する方が理解しやすいと解説されています。
 一般的には、ルールとは決まりや規則のことで、ロールとは役割や機能、ツールとは道具のことです。

 しかし、市民電子会議室のルールは、コミュニティから自発的に発生した規則、ロールとはコミュニティのメンバーに承認されることによって果たすことが期待されている役割、ツールとはメンバー間のコミュニケーションと情報共有のメディアだとされています。

 電子会議室の運営において、様々な問題点もあったようですが、単なるシステムとしてではなく、コミュニティのマネジメントということに視点を置いて運営されているからこそ、他の自治体のように掲示板を設置し、問題が生じてすぐに閉鎖するということが起こらないのだと感じました。

 次に、eデモクラシーの可能性を知る上で、ITによる電子的コミュニケーション媒体を利用することによって、行政や政治プロセスへの参加がどのように進展したかが興味のあるところですが、市役所エリアでまとまった提言が市に提出され、それに対して市が回答するというルールが確立されています。

 1997年に市民電子会議室がスタートしてから、2005年現在まで、正式な提言とその回答は4回行われ、約6割が最終的に政策に反映されているとされているそうです。


 市民電子会議室は、誰でも自由に参加できるオープンな議論の場であり、市政への参加が直接できる場でもあります。しかも、インターネット上では無責任で有害な情報が氾濫しがちですが、藤沢市の電子会議室には一定のルールが設けられるなど、コミュニティとしての秩序が保たれています。

 こうした中で形成される民主主義の特徴は、直接性、オープン性、参加性、協議制ということにあります。

 民主主義の一番分かりやすい方法は、みんなが集まって議論し結論を出すことだと思いますが、ITを活用することによって直接民主主義的な方法も可能になるのではないでしょうか。しかも、選挙で候補者を選択したりYES・NOということを表明するだけでなく、相互に内容を深め合うコラボレーションの関係が構築されます。


 本書は、市民電子会議室を実際に導入しようとする自治体にとっては、そのノウハウを学ぶ上で非常に役立ちます。それと同時に、インターネットを民主主義の発展との関連で活用しようとする人にとっても、本書では単なる理論ではなく実践的なプロセスに沿って示されているので一読の価値があります。

(読書)自治体デモクラシー改革 〔その2〕

2005年03月18日 | 読書感想
 昨日に引き続き、「自治体改革」(ぎょうせい発行)第5巻の4章~5章を紹介します。


第4章 自治体デモクラシーの発展


 直接請求制度については、地方自治法で4つの制度が設けられています。

 ①条例の制定又は改廃の請求
 ②事務監査請求
 ③議会の解散請
 ④議員及び長等の解職請求

 この中で、①についてはあまりなじみがありませんが、もしかしてまちづくり基本条例などの制定を市民立法で行うこともできるでしょうか?

 住民参加について、本書では住民投票や直接請求制度などの政治参加と、審議会やワークショップ・パブリックコメントなどの行政参加に区分されています。

 住民参加制度については、議会機能の低下や既存の参加制度が形骸化している一方、NPOの台頭や地方分権の潮流のなかで、各自治体において様々な手法が積極的に取り入れられています。また、住民参加を制度的に確実なものとするために住民参加条例などの制定も盛んに行われるようになっています。(草津市も早く制定してほしい)
 現状の課題として、個人を対象にしたものが多くNPOを含む団体を対象とした意見募集方法や参加形態にはあまり目が向けられていないことや、政策形成ではなく執行段階での参加が多いことがあげられています。また、新しいパブリックのありようやその担い手である市民参加のありようについて、従来の住民参加の枠を超えるシステムへの移行が必要であると問題提起されています。

 さらに「コミュニティ施策の発展」について言及しています。

 「コミュニティ」という言葉は、1969年の国民性格審議会調査研究部会の報告(「コミュニティ~生活の場における人間性の回復」)で「生活の場において、市民としての自主性と責任を自覚した個人及び家庭を構成主体として、地域性と各種の共通目標をもった、開放的でしかも構成員相互の信頼感ある集団を、われわれはコミュニティと呼ぶ。」と定義されました。  

 コミュニティの課題として、地縁型コミュニティの場合、本来は住民の自主的な組織であるにもかかわらず、歴史的には住民統制手段として使われてきた経緯があります。
 例えば、江戸時代には五人組制度が実施され、幕府によって強制的に隣保組織が結成されました。
 五人組制度では、 年貢を納めない者がでたり、土地を捨てて欠落をする者があると、組としての連帯責任が追及され、不納の年貢等は組が納めなければならなかったり、組内に犯罪者や隠れキリスタンがいることが分かれば密告しなければならず、それをしなかった場合は厳しく処罰されました。 現在の日本特有の連帯保証制度は、こうした流れを汲むものだと思われます。
 また、町内会組織は、1940年代に大政翼賛会(近衛文麿を中心とする新体制運動推進のために創立された組織。総裁には総理大臣が当たり、道府県支部長は知事が兼任するなど官製的な色彩が濃く、翼賛選挙に活動したのをはじめ、産業報国会・大日本婦人会・隣組などを傘下に収めて国民生活のすべてにわたって統制した)によって戦争遂行の手段として利用された経緯もあります。
 そうした中で、武蔵野市では1947年に町内会を廃止し、2002年にはコミュニティ条例を制定されました。

 今後の方向性として、地縁型コミュニティとテーマ型コミュニティの両者の特質を兼ね備えた団体が地域の課題解決に向けた活動を行うことを提案されています。また、インターネットを使った電子型コミュニティの重要性がさらに増大していくだろうと述べられています。

 情報公開制度については、地方分権改革が地域の自己決定=自治体の行政だけで決めるという意味ではなく、市民参加システムの充実が求められているとし、現在の情報公開制度に基づく情報開示は住民の請求を受けて行う「受け身」に止まらず、積極的に情報を提供していく必要があるとし論じています。
 その先進事例として、福岡県春日市の基本条例が紹介されています。

▲春日市情報基本条例▲

 同条例第5条には、次のとおり明記されています。

(情報提供)
第5条 市は、次に掲げる事項その他の説明責任を全うするために必要な事項について、前条の請求を待つことなく、広く積極的に保有情報の提供(公表を含む。以下「情報提供」という。)を行うものとする。
(1)市政運営の基本方針に関する事項
(2)基本的な行政計画に関する事項
(3)主要な事務事業に関する事項
(4)その他規則で定める事項
2 前項に規定する事項のうち、市民生活に対する影響が大きいと認められるものについ ては、規則で定めるところにより事前に計画案等を公表するものとする。
3 市は、情報提供を行うに当たっては、分かりやすく伝えるとともに、市民が情報を迅 速かつ容易に得られるよう配慮しなければならない。
4 情報提供の方法その他情報提供に関し必要な事項は、規則で定める。


 このように、行政自らが積極的に情報発信していく際には、個人情報保護制度の整備も強く要請されると付記されています。

 「NPOの発展」と題した節では、新たな公共の担い手としてのNPOへの期待が高まる一方、セクターとしてのNPOの可能性や役割について充分に認識されていないことが課題であると指摘されています。

 
第5章 自治体デモクラシーの将来展望


まず、次世代電子政府研究会の報告書で示されているITによるサイバー・デモクラシーについて解説がされています。

 e-Japan 戦略によってもたらされる社会基盤の変革は、民間事業基盤の革新・強化、行政プロセスの効率化・透明化等にとどまるものではない。殊に、いわゆる電子政府との関わりから見たときには、市民が行政サービスの受け手という立場から、国、自治体等による公的プロセスへ積極的に参加する主体としての立場を獲得する契機を生みだしている。このような動きはe-democracy、サイバー民主主義あるいは電子民主主義といった言葉が表現しようとしているものである。

▲次世代電子政府研究会報告書(PDF)▲
 

 次にインターネットによる情報提供が実行できている自治体として三鷹市と下関市、市民会議室の先進事例として藤沢市や大和市が
紹介されています。

 また、サイバー・デモクラシーの中核となるメディアとして、ウェブログが紹介されています。たった一人のジャーナリズムであるブログが世の中を動かすこともありうるという力をどう活用していくのかが問われているのでしょう。

 ITを通じて市民意識の確立を図り、市民社会型組織の中核としてNPOを強化するという意見に対して、次の2点について課題が述べられています。

 1.今後、保守系NPOの台頭が予測されるが、市民社会内の分裂が広がるのではないか。

 2.NPOの下請け化が進み、市民型組織とは呼べないものが多く出てくる。

 またITが市民参加のツールとして活用が進み、民主主義を活性化させるとの期待がある一方で、ポピュリズムの蔓延が危惧されると指摘されています。



 第2節では、自治体基本条例制定運動について、その背景や本質について分析されています。

 自治基本条例についは、ニセコ町が早い時期に制定しています。

▲自治基本条例(ニセコ町)▲
 

 条例制定の背景には、量から質への転換や政府の劣化と市民が担う公共の台頭、地方分権改革と自己決定の動きがあると指摘しています。

 (以下省略)

  随分、長い文章になってしまいましたが、とにかく非常に密度の濃い内容です。
 地方自治体の改革に興味のある方には、必読の書だと思います。

(読書)自治体デモクラシー改革 〔その1〕

2005年03月17日 | 読書感想
 今日は、「自治体改革」と題したシリーズ第5巻として(株)ぎょうせいから発行されている本書を紹介します。

 この本の目次は次のとおりで今回は1~3章までとして残りは明日紹介しますが、特に第3章は大阪市の厚遇問題や諮問会議解散騒動などを考える上で参考になるのではないかと思います。

目次
 第1章 地方選挙の制度と実態
 第2章 地方議会の制度と改革
 第3章 「首長主導」の政治体制の確立
 第4章 自治体デモクラシーの発展
 第5章 自治体デモクラシーの将来展望

 
第1章 地方選挙の制度と実態


 この章では、まず選挙の基本的なしくみが分かりやすく説明されています。(選挙に必要な費用やルールなども詳しく書かれている)
次に地方選挙の実態として、統一地方選挙となる率が会を重ねるごとに低下していること、投票率は低下の一途を辿っていること、女性議員が増加していること(草津市は一人もいないけど)、単独政党型首長の減少や与野党相乗りの増加と政党の推薦や支持を受けない「非政党型」首長の増加などが紹介されています。さらに、長野県における田中康夫知事不信任決議の一件など首長と議会の二元代表制の課題についても論及し「自治体政治における首長選挙は、地域の自己決定のための最大のイベントであり、住民にとって重要な政治参加のシステムである。~政党『相乗り』指向が有権者の選択肢を奪い、政策を先行するチャンスを失わせる事態が進行している~」といった分析をした上で、今後の改革に向けての興味深い提案がされています。

▲参考HP▲
  

 改革構想には、住民自治という視点と日本の政治構造改革を促進するという2つの視点が必要だとしています。
 国政においては、中選挙区制から小選挙区比例代表制へ以降したことにより、マニフェストなども大きくクローズアップされ二大政党制へと向かう傾向が顕著ですが、選挙区での選挙運動の実態は、例えば保守系議員の後援会組織は保守系市町村議の後援会組織(自治会町内会、商店街、農協、PTAなどの地域組織の役職者が中核)を末端基盤として地方議会議員と国会議員の系列化が進行している理由が個人的な後援会組織を形成しなければ選挙に臨めない選挙制度に問題があるのに加えて、都道府県議員は中選挙区、市町村議会議員は中選挙区的な制度となっているため、政党間の政策綱領の優越を争う選挙にはなりにくいと分析されています。

 そうした状況において、有権者の政党離れが進んでいますが、無党派化自体は現状では不健全とはいえないにしても危険極まりないとし、政界再編成を進め、地方選挙も政党選挙になるように制度改革が必要だと論じています。
 また、地方議会の政党化の是非については、その役割を地域的な利害をきめ細かく代表することに求めるのか、それとも多様な政治的意見を代表することに求めるのかという選択問題に関わっているとしています。また別の視点で言えば、現在の地方議員の構成が多種多様な属性の市民を均等に代表しているのはという疑問です。そこで、ここでは多様な人たちが議員として活動できるよう、例えば公務員やサラリーマンがその身分を保持したままで立候補できる制度や雇用慣行の確立が提案されています。さらに、地方議会議員の選挙制度を拘束名簿式の比例代表選挙への改革や、専業議員ではなくアメリカのカウンシル・マネジャー・システムのように議会は夜に開催され議員は他の職業と兼業で活動できる制度の導入、フランスのコミューンで採用されている小さな町での地方議員選挙制度の自由化などが試案として提案されています。


第2章 地方議会の制度と改革

 地方自治体において、二元代表制という枠組みのもとで議会の不信任議決権や首長の議会解散権がありますが、こうした制度は本来議員内閣制にはなじむけれども、機関対立型の現行制度には適さないこと(長野県での田中知事不信任決議の事例)が示されています。また、3割自治といわれる財政・権限の枠組み、中央政府から出される条例準則の横行、議会の議決事項の制限などがあり、これらの改善が必要だと述べられています。
 さらに、現在の会議規則(地方自治法120条)が基本的に40年近く全面改定されていないため、様々な問題があるとし、その改善に向けての参考として全国市議会議長会議が2002年2月に発表した「分権時代における議会運営のあり方の調査研究報告書」が紹介されています。


第3章 「首長主導」の政治体制の確立


首長の経歴の推移については、60年台から70年代は保革対立、79年の統一地方選挙を契機に各党相乗り型首長の台頭、90年代後半に入ってからは特定の政党支持を受けない無党派首長が台頭しているという傾向があるとも分析がされています。また、2003年4月の統一地方選挙においてはマニフェスト選挙が展開されましたが、これによって有権者の政策選択を可能にして市民自治が前進したと評価されています。また、自治体改革のドラスティックな改革においては、非常に有効な手段であると分析していますが、その例として岩手県の増田知事による200億円の公共投資さく現の経緯を紹介しています。また、神奈川県の増田知事がマニフェストに基づき短期間で新しい総合計画の策定が実現されたことも評価されています。

 次に、自治体のマスタープランづくり等に関して、それが絵に描いた餅とならないように市民との協働が不可欠だとし、三鷹市の事例を紹介しています。ちなみに、三鷹市の現市長である清原慶子氏はこうした取り組みに積極的に関わった市民21会議代表の一人である点から考えても、三鷹市の取り組みが名ばかりの市民参加ではないことが伺い知れます。
 また、公共サービスのあり方を改革するための手法として、NPM(ニューパブリックマネジメント)を紹介しています。こうした改革を進めるにあたっては、行政評価制度の導入が不可欠であり、同時に総合計画・財政計画・行財政計画の三つ計画を連動させることが提案されています。

 次のスポットを当てているのが、最近大阪市の出来事で注目されている補佐機能や政治任用に関する現状についてです。
 助役の9割は行政職員からの抜擢であるのが現状ですが、例えば横浜市の場合は中田市長が任用したのは第一生命経済研究所主任研究員だった前田正子さんです。福岡市の場合は、佐賀県伊万里市ではコンサルタントの前田氏が選任されています。(大阪市の場合も、行政職員ではなく外部から抜擢しているという点では評価できるんですが・・・)

 助役、収入役といった3役以外での政治任用については、特別秘書の場合は地方公務員法第3条4項「地方公共団体の長、議会の議長その他地方公共団体の機関の長の秘書の職で条例で指定するもの」で定められおり、首長の黒子役となります。また、長野県では、全国からの公募で10人の任期付き部課長級を採用されています。
 
▲地方公務員法▲

 一方、政治任用する際の議会の合意の必要性や折り合いの問題があります。神奈川県では、部長職を地方公務員法22条で規程する臨時的任用で採用されているそうですが、あまり良い形だとは思えません。かといって、アメリカ連邦政府のように、大統領の交代とともに各省庁の幹部をすべて交代するといったシステムが有効であるとは考えにくいとしています。

 「労使交渉の実態とその改革」と題した節も、大阪市での動きを見る上で大いに参考になります。労使交渉についは、地方公務員法第55条3項で「地方公共団体の事務の管理及び運営に関する事項は、交渉の対象とすることができない。」とされているため、労働条件の改善や福利厚生の向上といった個別利害の問題しか扱われることがありませんので、そうした中からは、現在の厳しい財政状況において市民感覚に沿った議論は生まれません。そこで、三重県や群馬県、松阪市などのように労使協働委員会(労使協議制)を設けている自治体あります。三重県の労使協働委員会では、設置の目的を「生活者起点のより良い県政の実現を目指し、勤務条件から政策議論に至る幅広い課題について、オープンで建設的な議論を行う、緊張感ある労使の協働の場として、創設いたしました。」とし、協議内容についてはすべてホームぺージ上に公開しています。

▲労使協働委員会▲
 
 自治体の労使関係においては、より地域に開かれた行政運営や社会的役割を逸脱した場合の内部統制機能の一部としても機能し、緊張感のある協働・連携を模索していくことが望まれているのではないでしょうか。

 最後に、首長と教育委員会や公安委員会などの行政委員会との関係のありようについても論及していますが、ここでは省略します。

(読書)新しい公共性

2005年03月16日 | 読書感想
 NHKの2005年度予算案の国会審議が、初めて生中継されました。
 これは、民主党から「NHKに対する不信感が広がり、受信料支払い拒否件数が1月末で約40万件近くに達していることなどから、テレビで生中継し、国民に広く審議の内容を聞いてもらうべきだ」との提案によって実現したものだそうです。
 
 私は深夜の再放送を見ましたが、率直に言って「これでは何も変わらない」という感想を持ちました。
 NHKにとっては、信頼回復をどのように図っていくのかを国民にアピールする最高の舞台だったと思いますが、自己弁護に終始し、改革に取り組む熱意や気概や真剣さは何も伝わってきません。
 全会一致での承認が慣例となっていたNHK予算案に対して、野党各党がそろって反対する異例の結果になったのもうなずけます。

 そうした中で、公共放送とは何かを問い直すために「新しい公共性」と題した本を読みました。

 ▲書籍紹介HP▲ 
 

 この本の主題は、官による公共の独占が揺らぐ一方で市民的公共性もなお未成熟な中で、新しい公共性はいかなる内容・手続きで形成されるべきかを明らかにすることが目的とされています。

 序章「新しい公共性を求めて」で、山口定氏は公共性の判定基準について次のように示しています。

 まず、社会的有用性(社会的必要性)があり社会的共同性が伴っているかどうか、また公開性や人権の保障に基づいているかどうかが問われるとしています。さらに、国際社会で形成されている共通の価値から見た妥当性である「自由」「人権」「デモクラシー」「寛容」「持続可能性」と言ったものや「地球環境問題」「テロリズム」といった新しい普遍的価値や諸問題との関係、さらには、手続きにおける民主性が問われるとし、そこにおける民主性は議会制民主主義における議決というだけではなく、説明責任、情報公開、市民参加によって形成されることも重要だと示されています。

 本書には「メディア政策と公共性」「放送メディアの公共性と市民アクセス」と題した章もあり、NHKやフジテレビに関する動きを考える上で参考になりました。

 以下メモ

(放送の公共性)

 誰もが平等に受信できること
 放送内容が公正・公平であること
 多様性が保障されていること

(放送事業のしくみ)

 放送制度が多元的であること
 経営が民主的であること
 
電波資源の有限性や影響力の大きさを考慮し、自社のことだけでなく、社会全体の利益を優先すること。

今、メディアの規範性や公共性の再定義が求められている! 
→ 人々の表現の自由や公正
→ パブリックアクセス


 詳細は紹介できませんが、公共放送のありようを考える上で、今回の「事前説明」「番組改ざん」問題といったNHKによる逸脱した動きだけでなく、本来のありようについてより多元的にとらえていく必要があることが本書を読むと分かると思います。

(読書)自治体改革 第6巻

2005年03月05日 | 読書感想
 今日の朝日新聞夕刊のトップに「有識者会議を解散」と題した記事が掲載されています。職員厚遇問題見直しなどの改革案を提案してきた大阪市の諮問機関が市役所改革には内部だけでは不可能であるとの判断から、外部登用の特別職「改革担当補佐官」を設置するよう求めたことに対して、市側から強い反発があったため解散に至ったとか。
 あれだけ世間を賑わしている問題があるのに、自治体改革というのは本当に難しいものなのですね。
 
 という訳で、本日はこうした件と関連する書籍を紹介します。本のタイトルは「職員・組織改革」。 (編著:天野巡一、編集代表:西尾勝、神野直彦出版社:ぎょうせい)

 本書は、「自治体改革」シリーズ(全10巻)の中の1冊です。
 この「自治体改革」シリーズは、自治体が当面している諸課題について、その現状認識と将来展望を構築することを目的としています。ちなみに、地方分権における改革の今後の課題について地方分権推進委員会「最終報告」(平成13年6月14日)で次の6点の課題が挙げられていますが、こうした問題にもスポットが当てられています。


(地方分権における改革の課題)
1.分権型社会にふさわしい地方財政秩序の再構築
2.地方公共団体の事務や執行体制に対する義務付けや枠付け等の大幅緩和
3.道州制論、連邦制論などの新たな地方自治制度の仕組みの検討
4.「補完性の原理」に照らした事務事業の移譲
5.制度規制の緩和と住民自治の拡充方策
6.「地方自治の本旨」の具体化


▲地方公務員制度調査研究会報告▲



 同シリーズは手元に数冊ありますが、その中で一番興味を持った第6巻から読み始めました。

 さて、公務員制度改革については、公務員制度改革大綱(平成13年12月25日 閣議決定)▲大綱HP▲が出されていますが、本書ではそれに先だって出された地方公務員制度調査研究会報告「地方自治・新時代の地方公務員制度-地方公務員制度改革の方向-」が重要であるとの観点からその内容を詳しく解説しています。また、地方公務員制度調査研究会報告では、下図にあるようなことを基本視点として、次のように述べていますが、この基本認識の上で、専門性、創造性、柔軟性や豊かな人間性さらには住民の信頼を得る職務能力、公務員としての倫理観や責任感が求められる分権型社会における地方公務員を目指して、地方公務員制度を21世紀における地方自治を支える人事制度にふさわしいあり方に改革する必要があると本書では述べられています。

 こうした論点に加えて、公務員改革において「全体の奉仕者としての公務員」という意味を問い直す必要があると問題提起しています。何故ならば、公(おおやけ)の領域や基本概念を見直す必要があり、また公と民との垣根がますます低くなるなかで、公務員だけが地域の担い手ではなく地域住民の誰もが地方自治の主体であるべきだと考えられるからです。

 ところで、本書に興味を持ったのは理屈だけでなく改革に向けた実際の取り組みを、その当事者が直接紹介している点です。
 例えば、第6章「職員と住民の役割分担」については、住民が自らの自治体を自ら運営するという基本コンセプトで先進的な取り組みをしている志木市の穂坂市長が記述しています。志木市では、現在の公務員制度が終身雇用制であるため、改革のためには今後退職者の補充を一切行わない方針を貫くために「志木市市民との協働による行政運営推進条例」を制定されました。▲関連HP▲

 また、市民による行政運営参加が単に安い労働力の提供とならないように行政パートナー制度を導入し「志木市市民との協働による行政運営に関するパートナーシップ協定」の締結などをされています。▲関連HP▲

 また、こうした制度や行政が行うべき領域に関する検証作業についても、住民主体で行われており、市民プールの廃止に至る経過が紹介されています。さらに役割分担に関して、市町村サミット ~改革自治体からの世直し提言~ ▲関連HP▲を紹介されています。
 穂坂市長は、アウトソーシングやNPOとの協働および第三セクターの徹底した体質改善に関する取り組みを現場責任者ならではの視点で語られていると共に、「職員の役割」と題した節では、「首長も含めて公務員としての倫理は普遍であるが、役割については180度転換しなければならない。従来の概念を捨てることが重要である。」としています。

 その他、本書では福岡市役所の「DNA改革」と銘打った組織体質改革の実践▲関連HP▲ やプロポーザル運動などが紹介されています。

 最後に、自治体職員の処遇(待遇)問題もテーマとして掲げられており、冒頭で取り上げた大阪市の職員厚遇問題などの深層を知る手がかりが得られます。
 次は第5巻の「自治体デモクラシー改革」を紹介します。(たぶん)


(読書)資本から人間の経済へ

2005年03月02日 | 読書感想
ライブラリ相関社会科学 9 〈資本〉から人間の経済へ -20世紀を考える(III)-

東京大学教授 丸山真人・東京大学教授 内田隆三 編


 現在、地域通貨は全国各地で広がって様々なシステムで運用されていますが、実際に効果を上げるのは難しいものです。

 本書は、何人かの学者の小論文を集めたものですが、その中から特に地域通貨の運用を考える上で参考になりそうな部分をピックアップして紹介します。

 まず「非市場的関係領域の拡大と貨幣・資本概念の多様化」と題した福田 豊氏(電気通信大学人間コミュニケーション学科教授)の小論文から。
 冒頭で、「市場原理主義の浸透がグローバリゼーションという形で進行する一方で、非市場的領域の影響が大きくなり始めている。」との基本認識が示され、その例としてオープンソースとして公開されているリナックス(パソコンのOS)やNPOの台頭などがあげられています。グローバリゼーションの進展は、市場原理から駆逐されていくパブリックな価値を支えていくための構造をも生み出しているということでしょう。
 そうした中で、地域通貨の役割は非市場社会を支えるしくみとして期待され、実際に2000年には地域通貨元年ともいわれる程になったけれども、実際にうまく機能しているものは少ないとした上で、その理由を次の2点にまとめています。
(筆者は、地域通貨は現実の貨幣と全く別の機能を持つものだと認識することが必要であるとの観点から分析しているようです。)

1.貨幣が価値尺度機能を果たしながら、商品の流通を媒介する通貨として使用されているのはなぜかという、経済的な考察に欠けている。そもそも貨幣が価値尺度機能を果たせるのは、それ自身が価値物(商品)であるからだ。
 地域通貨の圧倒的大部分は、単なる紙であったりICカードのポイントであったりするが、貨幣価値の「象徴」部分にのみ目を奪われている。

2.かつて中央銀行が成立するまでは、個別銀行が「銀行券」を発行し、それが地域通貨的なものとして流通していた時期もあるが、それは「金」との兌換を保証された銀行の手形であったからである。そうした事実を誤解して兌換銀行券の地域的流通ということを現在の地域通貨でできるように考えてしまっている。

 筆者は、非営利組織の維持運営においての独自ツールとしての地域通貨を期待されていますが、地域通貨を活用する上で目的と手段、戦略および理論構成を一体的に考えないと、誤解が生じるのだと思います。
 
 次に紹介するには、「自立経済と甦る貨幣改革論の視点」と題された森野栄一氏(ゲゼル研究会 http://www.grsj.org/ )の論文。
 その中でも、地域通貨の運用に関して参考になる「地域通貨の多様性と実質的民主主義」という項目を紹介します。

 地域通貨は、「地域社会のニーズに応じてさまざまなシステムがありうる」とし、その意味を次の通り示しています。

 「人々の取り結ぶ信用の状態はいちばん下層に貨幣を介在させない共同体ともいうべき家族の関係をおき、これに順次、市場的関係がしみこむ程度を増す関係が積み上がり、貨幣によって処理される市場的関係が重畳するいわば地層を形成している」

 つまり、地域通貨はこの信用の状態に応じて個性的ないくつものシステムとして存在しているということです。これが地域通貨の多様性であり、「地域通貨とはこうあるべきだ」と一面的な固定概念をもって論じるべきではないという意味でもあります。

 この点に関して、「資本に転化しない『貨幣』:地域通貨」と題した小論文で丸山真人氏(東京大学教授)も次のような見解を示しています。

 「地域通貨による財およびサービス交換は、商品交換関係と互酬関係のあいだに位置づけられる」「地域通貨には様々な変化型が存在するので、目的を明確に定めた上でそれにふさわしい地域通貨を選択することが重要である」
 
 また、丸山氏は「人間の経済を市場主義や国家の管理に任せておけばよいとする時代はすでに過去のものとなった」と示し、地域通貨への関心はさらに高まるであろうと予想されます。

 本書を読んで、地域通貨を成功させるためにはこれまで全国で展開された実験的な取り組みを参考としながら、その理論的意味や手法についてより深く学んでいくことが必要であると思いました。

 本書では、上記以外に色々と興味深いことが書かれていますので地域通貨関係者の方は一読されることをお勧めします。

(読書)公益とは何か

2005年02月25日 | 読書感想
 今、世間で最も注目されている? ライブドアのニッポン放送買収問題をめぐって、「メディアの公共性という観点から疑問だ」とする自民党の森喜朗元首相が新聞に出ていました。それとは逆に「自分達の利益のためにグループ支配の構造を続けておきながら、放送の公共性を持ち出し、視聴者や国民のことを考えた番組づくりが行われていない」とするインタビュー記事も記載されています。
 NHK放送の教育テレビの「シリーズ 戦争をどう裁く―第2回 問われる戦時性暴力」の改変問題では、毎日新聞の「記者の目」で、「実はくせもの 公平・公正 錦の御旗に政治的色彩」(2月3日)とのタイトルで書いているように、公共性という形式の元で、実際には一部の人たちの意向が強く働いていたりすることも実際にはあるようです。
 ちなみにNHKは国が設立した「公共法人」という分類になるのですが、地方自治体などが設立する財団法人や社団法人は「公益法人」と呼ばれています。また、私たちNPO法人も民法以外の特別法に基づいて設立される公益を目的とする法人として位置づけられています。 

 ここでいう「公共」とか「公益」とはいったいどういう意味なのでしょうか。
 社会・経済構造の大きな変化の中で求められる新しい「パブリック」の概念や実践のありようを考えるため、「公益とは何か」(著者:小松隆二)と題した本を読んでみました。
 
 まず本書は冒頭で、「小学修身訓 高等科用 巻之三」(1892年)に掲載されている公益に関する教えの引用をしています。

「公益とは、国の為め、世の為めに、幸福を謀りて、己れ一人の為めにせざるをいふなり。人たるものは、忠孝の道を守り、君父に仕ふべき事勿論なれども、又進んでは公衆の為めに、其の便益を増さん事を思ふべし。家計の少しく余裕あるに至らば、則ち公衆の便利を謀るべし。ただ私欲に耽りて、己れが耳目・口腹を楽しましむるは、志士仁人の行ひにあらず。公益の事業甚だ広し。国家の為めに財を損て、力を尽すは公益なり。倉を開きて、窮民を救ふも公益なり。荒地を開き、水利を起すも公益なり。」

 次に、「小学修身訓 高等科用 巻之四」の次の文章も紹介しています。

 「会を立て、社を結び、公益を図らんとせば、ひろく衆人の言を聞き、我が徳器大にして、衆人と共に心力を戮すべし/ 世には、公益を名として、ひそかに私利を営むものあり。遂に公利・公益を害して、我が身を破るに至る。返す返すも、是れらの行ひあるべからず。」
 
 この文面を見て、随分昔の時代のものなのに公益ということの本質的ものに迫っているなぁと正直関心しました。しかし、この終身訓は教育勅語に基づき作成されたものであり、国家による価値観の統制や天皇への忠君愛国、国体の精華という神話の強制などとセットになっているものなので、非常に評価しづらいものであでることも確かです。(言葉と実際の目的とは違うということを常に考えておかないと、今の世の中で真実を見抜くことはできません。)
 同じように、日本では結いという助け合いの良き文化があるのですが、江戸時代には幕府が5人組という隣保組織をつくって町人・百姓を統制するために使いました。また戦前は町内会を戦争への国家動員の道具として利用するなど、儒教の良い意味での道徳・精神性、公共的な意識や組織を政治的に利用するという歴史があるので、冒頭の引用を読んで筆者の真意を理解するのに苦労しました。

 ところで、本書では公益のキーワードとして、〈ニーズ〉〈サービス〉〈ソーシャル〉の三点を挙げています。

 ニーズという点に関しては、かつて極貧など極度に劣悪な状況にあるものを救済するということからはじまり、対等の関係において協力し合うという形態に変わったとしています。また、上からの救済を必要とするニーズや、見返りなどを求めない一方的な貢献の役割も重要ではありますが、現在の公益活動の軸は「参加・協力・連携」であると記述されています。
 この考え方には、大いに共感を覚えます。たとえば、ボランティアの人たちの考え方も色々ありますが、「博愛」「奉仕」だけでは無いことを理解していない方もいらっしゃるので、そういう方とは一緒に活動しにくい分野もありますよね。

 本書を読んで、「世のため、人のため」という志は公益の出発点ではありますが、「そのために何をどのように行う?」ということを今の時代背景や社会状況を掌握しながら実践しなければ本当の意味でのパブリックは見えないのだと思いました。

 * * * * * *

 現在の話題になっているメディア問題も、公共性一般を論じても意味がありません。

 今日の京都新聞に井上ひさし氏の次のコメントが載っていました。

 「かつては各局とも、優れた娯楽性や話題性などを番組づくりで競い合っていた。ところが今は当たった他局の番組のまねが大すぎ、内容も幼稚。衰えかかったメディアを『新しく使えるぜ』と殴り込んだライブドアに、フジテレビ側はテレビをどのように新しく使えるのか議論しながら攻防してほしい」

 本当、そうですよね。結局、「公共」や「公益」を言葉だけで言ってみたり、逆にそれを表面的に信用するというのでは駄目なんです。実際の現状や課題などを広く議論し、本来のありようを探求し実践していく姿勢こそが必要なのではないでしょうか。


(読書) eガバナンス 

2005年02月17日 | 読書感想
副題:「戦略政府+革新企業」による日本再生

●著 者:白井 均/古橋 智保/城野 敬子/石井 恭子/高畑 和弥
●出版社:日刊工業新聞社

本書のアウトラインは以下のとおり

第1部 問い直されるガバナンスの意義

 冷戦の終結によって、モノ・カネが自由に移動するようになると共に、IT革命や市場のグローバル化が進展した。 
 この変化の中で、社会経済システムの再構築が求められている。そこで、新たな環境に対応した様々な経済主体のガバナンスのあり方について問題提起することが本書の主眼。

 グローバリゼーションは、政治(国家)・経済・文化の再編を伴う複雑なプロセスであり、eガバナンスはITを単なる効率化の手段としてではなく、政府・公共部門、企業、市民など多様な経済主体が参画し、相互に緊密な関係を築くための基盤としての役割を果たすことに意義がある。
 
コーポレートガバナンスにおけるIT活用の意義は次の3点。

1.戦略設定・アクションプランの構築・進捗管理・結果の評価などを企業全体で行う。

2.ステイクホールダーズとの関係再構築
株主・従業員・取引先・地域社会・消費者
 →共通の利益を目指す関係へ
3.リスクマネジメント

     
第2部 政府・公共部門のガバナンス再構築と「戦略電子政府」

 ガバメントの内部マネジメントを改革するだけではなく、政府・公共部門の役割やステイクホルダーズ(利害関係者)との関係の見直しなど、ガバナンス再構築が求められている。

 1980年代初頭(イギリス=サッチャー政権、アメリカ=レーガン政権)における改革では、財政赤字の縮小や住民に対する行政サービスの質の向上を目指し次の3点をガバナンスに取り入れた。

1.結果主義 評価の明確化

2.市場メカニズムの活用 政策形成と実施を分離し、実施についてはアウトソーシング化

3.顧客中心主義 受益者の満足度を追及

こうした流れを受けてクリントン政権では、GPRA法により「顧客中心主義」「結果主義」「市場主義」が三原則とし具体的目標設定と指標を使っての結果説明の義務化した。


 現在の日本の政策課題は、次の4点。

1.競争抑制的な規制が日本企業の国際競争力向上の阻害要因

2.中央集権的体制の弊害の顕在化(多様な市民ニーズへの対応ができない)

3.官僚による省庁縦割り政策の限界

4.高度経済成長の終焉によって、国の財政が逼迫。

次に、各国における電子政府の取り組みの目的は次の3点。

1.効率向上
業務改革と生産性向上
例)バージニア州 eVA(電子調達ポータル)

2.情報公開 透明性を高め、情報を幅広く活用できる環境を構築する
 例)連邦政府 First Gov(行政ポータル)http://www.firstgov.gov/

3.利便性向上 

①経済的で実用的なサービス提供 
②時間や場所に制約を受けない 
③ワンストップサービス(1ヶ所で、1回の手続きで処理できるしくみ)

 例)イギリス UK Online 住居引越時の住所変更当の手続きの一元化サービス
 例)アメリカワシントン州 Eligibility Calulator 社会給付に関する受給資格判定サービス
 例)タンバ市 eメールで寄せられた要望や質問の処理状況がHPを通じて確認できるサービス


政府・公共部門のガバナンスの再構築の方向性は、次の3点。

1.戦略性
 最小のコストで最大の効果をあげることが基本だが、政策そのものが適切でなければ効率性だけ追求しても意味が無い。そこで、政策の質を向上させることが決定的に重要となるため、政策形成のプロセスにITを活用する。

2.透明性
 情報の公開によって、政治的圧力や特定の利益集団の圧力を弱めること、また説明責任を課すことによって適切な政策が選択され結果が検証されるようになる。評価を明確にすることによって、次の政策に反映させることができる。

3.ステイクホルダーの参加促進
 市民を顧客という視点ではなく主権者(当事者)としていくことによって、市場(競争原理)を導入することができる。

 ITを活用した参加によって、市民の主権者・責任主体としての意識向上と同時に政策選択の幅を広げることが可能となる。また参加のプロセスをつくることによって、政策を実行する際に理解と協力を得やすくなり実現性を高める効果もある。
こうしたデジタル・デモクラシーの効果に関して、アメリカの第3代大統領トーマスジェファーソン(1801年3月就任)は、「情報は民主主義の貨幣である」との明言を残している。
 情報を持つことは、意思決定に参加するための必要条件である。

電子政府の機能は、次の4点。

1.情報共有支援

①既存の情報を共有
②住民ニーズに関する情報の充実
③政策の知識やノウハウの共有化
④外部組織との情報共有化

2.政策立案の支援

①情報の分析とその開示
②現場での活用促進
③市民ニーズの分析と政策の高度化

3.政策決定支援

①間接民主主義の補完
②デジタルデモクラシーの制度整備

4.政策評価支援(デジタルアカウンタビリティ)

①具体的目標の設定
②予算・人事への反映
③政策形成過程の評価

(読書)政策形成の過程 

2005年02月10日 | 読書感想
副題:民主主義と公共性

著者:チャールズ・E・リンドフロム、エドワード・J・ウッドハウス

 本書は、民主主義に基づいて政治が行われているのに社会問題が合理的かつ効果的な政策が実行されない理由を分析したもの。
 非常に興味深い内容です。

 1978年にノーベル経済学賞を受賞したハーバート・サイモンは、人間は常に最適かつ合理的な判断を行える存在では無いとし、認知限界という概念を打ち出したそうですが、本書でも人間の頭脳は複雑に絡み合う現実社会の複雑な構図をそう簡単にはすべて解き明かすことができないとしています。また、分析というのは一定の限界はあるものの、現実的に政策は分析や情報に基づく合理的な方法を選択するのではなく権力(利害関係)に基づく決定が主流であることから、益々その問題解決に複雑さを増しています。
 そうした中で、民主主義に基づく政治的相互交流が賢明な政策をおこなう上で、どのような潜在的可能性を持っているのか、またその限界はどこにあるのかを分析することがこの本の主題です。