英語と書評 de 海馬之玄関

KABU家のブログです
*コメントレスは当分ブログ友以外
原則免除にさせてください。

再出発の英文法:パンクチュエーション

2008年06月01日 15時54分48秒 | 英文法の話題


[1]パンクチュエーションの重要性
◆パンクチュエーションとはなんでしょうか
『再出発の英文法』最終回のテーマは「パンクチュエーション」(punctuation)です。「パンクチュエーション」とは句読点の使い方。簡単に言えば、「ピリオド・疑問符・びっくりマーク」「カンマ」「コロン・セミコロン」「括弧」「ダッシュ」等々、アルファベット以外の記号の使い方のこと。この前のセンテンスに3個使った「・」や5組10個使用した括弧などもその対象になる英文法でも渋い領域。

punctuationはpunctual(几帳面な/時間に正確な)と同じ語源。それらは、ラテン語のpunctus(錐や槍のようなもので1点を突き刺す→点)から来ており、「点を打つ方法」とか「1点もゆりがせにしない几帳面な態度」という語義に発展したものです。几帳面とまではいわないけれど「句読点」は正確に使わないと大変。実際、アメリカではカンマ1個のあるなしで数百億円の損害賠償の行方が左右されるケースは珍しくありません。普通の英文でもカンマ一つで大違いの例は枚挙にいとまがない(the list could go on and on.)。

とは言っても、読者の中には、そんな「ピリオドやカンマの使い方が英文法と何か関係あるんですか」「カンマの使い方が上手になればTOEICのスコアが上がるというのですか」と怪訝な表情を浮かべられた方も少なくないのではないでしょうか。おおありですし、TOEICのスコアとも大いに関係するのです。有名な例を紹介しておきましょう。関係代名詞の制限用法と非制限用法に関する例文です。

(1)Momoko’s mother had one daughter who became a professional golfer.
(2)Momoko’s mother had one daughter,who became a professional golfer.

(1)は「彼女にはプロゴルファーになった娘が一人いた」という意味であり、このセンテンスだけでは彼女には他にも(ゴルファーにならなかった)娘さんがいるのかいないのかは不明なのに対して、(2)は「彼女には娘が一人いて、その娘さんはゴルファーになった」という意味なのです。

要は、(1)の関係節(who became a professional golfer)は単なる修飾語句であり、文法的には(1)は、She had one dutiful daughter.(彼女には親孝行な娘がいた)と全く同じであり、これに対して非制限用法の関係節を含んでいる(2)は、

She had one daughter, and she(=one daughter) became a professional golfer.
(彼女には娘が一人いた。そして、その娘はプロゴルファーになった)

と、接続詞の and で連結された二つの等位節に書き換え可能。大切なポイントはこの「カンマ」は紙の上では「カンマ」ですが、このセンテンス(Momoko’s mother had one daughter, who became a professional golfer.)が発話される際には「間隔」になるということです。当たり前のことですが、自然言語は人類史20万年くらいの中でこのほんの5千年くらい前まではほぼ100%「音声」の形態でしか存在していなかったのですから、すべからく、紙の上の「記号」はなんらかの音と関連しているは当然なのです。


◆パンクチュエーションの重要性
パンクチュエーションの英文法における重要性は、しかし、関係代名詞の用法に尽きるものではなくかなり本質的なものです。なぜならば、英語のセンテンスを、「大文字からピリオドまたは疑問符(?)およびビックリマーク(!)までの単語列」と定義してきたこの『再出発の英文法』の立場からは、パンクチュエーションは「あるセンテンスを他のセンテンスから区別する指標」にほかならないからです。

この「指標」としてのパンクチュエーションの重要性というかありがたさは、例えば、今日届いた新聞の記事から突然「句読点」が消えた星新一さんのSF的な場面を想像されれば思い半ばに過ぎると思います。そんな新聞を読むのは辛いですよ。このことは、国際会議などで日本人のスピーチを長時間聞いた際の疲労感と通底しています。なぜならば、その日本人スピーカーが今話しているのがさっきのセンテンスの一部なのか別の新しいセンテンスの一部なのかが不明な状態で集中力を持続することは多くの人にとって苦行以外の何ものでもないですから。要は、日本人の抑揚のない英語の音声は、音声の形態に移し変えられたパンクチュエーションを欠く新聞と同じなのです。


更に、パンクチュエーションは「挿入句」を明示することで、ある語句により詳しい説明を加えながらも全体としてはセンテンスの「S→V→・・・」構造を壊さないですます便利なテクニックでもある。下の例でこのことを確認しておきましょう。

Yesterday Prime Minister Junichiro Koizumi made a nationally televised visit to the Yasukuni Shrine, a memorial in central Tokyo, amid its annual festival beginning this week.

(小泉純一郎首相は、全国にテレビ放映される中、靖国神社(それは東京の中心にある追悼施設であるが)、今週始まった同神社の例大祭の同神社に参拝した)

【例文から副詞・副詞句・副詞節をすべて削除してセンテンスの骨格だけを取り出すと、Prime Minister Junichiro Koizumi made a visit. になります。これは文法的に正しい第3文型のセンテンスであり、而して、この骨格に「~を訪問する」「~の最中に」を表す副詞句を加えた、Prime Minister Junichiro Koizumi made a visit to the Yasukuni Shrine amid its annual festival beginning this week.もHe made a visit to the US Naval Base Yokosuka during an anniversary of the National Defense Academy adjacent to the base. (防衛大学の開校記念祭の間、彼は防衛大学と目と鼻の先のアメリカ海軍横須賀基地を訪問した)と同じ構造の文法的に正しいセンテンス】

つまり、もし、「カンマによる挿入句」という技法が使えないのならば、この例文は、Yesterday Prime Minister Junichiro Koizumi made a nationally televised visit to the Yasukuni Shrine amid its annual festival beginning this week. The Yasukuni Shrine is a memorial in central Tokyo.とセンテンスをだらだらと重ねなければならなくなる。これでは小学生の作文のような「そして、そして、それで、そして、・・・」ものの文章。つまり、「カンマによる挿入」は「ここで文型違反をやりますよ、注意してくださいね」という合図なのです。






[2]パンクチュエーションの概要
具体的にパンクチュエーションの内容を確認しておきましょう。

●ピリオド/?/!
これらの重要性は、英語のセンテンスは「大文字からピリオドまたは疑問符(?)およびビックリマーク(!)までの単語列」ということに尽きます。つまり、これらはセンテンスを終わらせる必殺仕事人3兄弟。

センテンスとセンテンスの区切りが明確だからこそ「S→V→・・・」構造に関する文型論の知識を使ってセンテンスの意味を理解できる。だから、会話でもピリオド/疑問符/びっくりマークの箇所は明らかにそれとわかる音声の抑揚や間隔が施されるのです(繰り返しますが、あらゆる自然言語(any natural languages)は音声が先にできたのですから、本当はこれらの音声の抑揚や間隔が文字が発明されて以降にピリオド/疑問符/びっくりマークの記号で表されるようになっただけなのです)。


●カンマとセミコロン
「カンマ」は挿入句の区切りを示す他、複数の項目を並べるときの項目の区切りに使われます。
これまた有名な例。

Benio and Moslem-mama visited Kobe, Hyogo, Nagoya, Aichi, and New York, New York.
(紅緒先生とモスリムママは兵庫県神戸市、愛知県名古屋市、そして、ニューヨーク州のニューヨーク市を訪れた)

つまり、Kobe以降は、
(Kobe, Hyogo), (Nagoya, Aichi), and(New York, New York)
という構造になっていてこのセンテンスには都市と都道府県を分つ「カンマ」と3個の都市を区別する「カンマ」という抽象度の異なる大きく2種類の「カンマ」が混在しているのです。

例えば、Tokyo, Osaka, Aichi, and Mie とか
Tokyo, Osaka, Aichi, Mie, Hiroshima, Okayama, Nagano, Niigata, and Hokaido のように 

カンマで要素を列挙する場合、最後の項目の前にand や orが置かれますね。ことから上の少々判じ物みたいな英文も厳密には不明確ではないのです。しかし、最初の例文がわかりにくいことも確か。よって、2種類の抽象度の異なる「カンマ」が必要な場合には、より大きな区分けに関しては「セミコロン」と「カンマ」を併用するのが正しいパンクチュエーションです。つまり、

Benio and Moslem-mama visited Kobe, Hyogo; Nagoya, Aichi; and New York, New York,

「セミコロン」は「カンマ」と「ピリオド」の中間の性質を持っており、セミコロンは語句だけでなく節(「S→V→・・・」構造)をつなぐこともできます。ただし、ピリオドではないのでセミコロンがつなぐ(あるいは区分けする)節と節の間にはなんらかの関係があるのです。例えば、

Kiki is now thirteen; she decided to spend a year on a town without other witches.
(キキは13歳になったので、他の魔女がいない町で1年間暮らそうと決心した)


●コロン
「コロン」は「セミコロン」と同様、語句も節も区分けすことができますが、コロンが区分けする項目と項目の関係はセミコロンより密接です。通常は、コロンで区切られた前者を後者が詳しく説明する場合に使用されます。例えば、

Boot campers should bring the following: boots, stationery, and extra socks.
(自衛隊の体験入隊者は次のものを持参してきてください。すなわち、靴・文具・かえの靴下)





[3]パンクチュエーションとパラグラフ
英文法を、「大文字からピリオドまたは疑問符(?)およびビックリマーク(!)までの単語列」である英語のセンテンスに妥当している、語の配列と語の変化のルールの体系と理解している『再出発の英文法』の立場にとって、しかし、センテンスを横断する情報も英文法の対象になります。それは、実際の英語を通した言語活動においては、センテンスもそのセンテンスを包摂するパラグラフから意味を与えられているからです。例を挙げて敷衍しましょう(以下の記事の出典は、Japan Times "Ueda's fifth victory clinches money title,"「上田5回目の優勝で賞金女王レースに結着をつける」Nov. 19, 2007)。

Momoko Ueda became the youngest money title winner on the Japan LPGA tour Sunday, completing a wire-to-wire victory at the Daio Paper Elleair Ladies Open after a final-round 72.

She posted three birdies and as many bogeys on a day when most players struggled to cope with high winds en route to a winning total of 7-under-par 209 at Elleair Golf Club in Kagawa Prefecture, three strokes clear of four players.

It was the fifth title of the year for her, who won the winner's check of 16.2 million to clinch this year's money title with 159.61 million in official earnings with one tournament left in the season.


(上田桃子選手は日曜日、日本のLPGA(女子プロゴルフ協会)トーナメントツアー史上最年少の賞金女王になった。大王製紙エリエールレディスオープンで最終ラウンドを72で廻り、初日から首位を渡すことなく勝利を飾った結果である。最終日、ほとんどの選手が強風への対処に苦しむ中、上田選手も一日で3バーディー3ボギーを記録したものの、結局、トータル7アンダーの209で勝利した。香川県エリエールゴルフ倶楽部で、4人の選手に3打差をつけての勝利である。大王製紙エリエールレディスの勝利は上田選手にとって自身今年5回目となる勝利。而して、この勝利で彼女は1,620万円の賞金を獲得し獲得賞金総額も1億5,961万円に伸ばすことで、今シーズンあと1試合を残した時点で今年度の賞金女王レースに結着をつけた)

第2センテンスの冒頭の She と第3センテンスの10語目の her は誰のことでしょうか。もちろん、それは第1センテンス冒頭の Momoko Ueda ですよね。また、第2センテンスの on a day(一日で)の「一日」とは何月何日のことでしょうか。それは、冒頭第1センテンス14語目の Sunday に違いありません。そして、それはこのJapan Timesの記事が2007年11月19日の月曜日に掲載されたという周辺情報を加味すれば「2007年11月18日の日曜日」以外ではありえない。

要は、代名詞にせよ名詞にせよその意味は、それらの単語が置かれているセンテンスの<ミクロコスモス>内部だけでは確定せず、多くの場合、そのセンテンスを包摂するパラグラフや、時には一般の常識の助けを借りなければ確定することはできないのです。つまり、センテンスの意味を確定するには常識や話者の経歴や、その会話や著述がなされたコンテクストの知識が不可欠になる場合が多いけれど、それらの情報は一旦パラグラフに集約され、そのパラグラフからパラグラフ内部の各センテンスに分有されるということ。而して、語の配列と語の変化ルールの体系である英文法が支配する<ミクロコスモス>とそれを包摂する<マクロコスモス>としてのパラグラフという構図を私は採用しているのです。


畢竟、日本語の「段落」と英文の「パラグラフ」は似て非なるもの(They are as different as chalk and cheese.)です。つまり、英語のパラグラフは「著者が伝えたい一まとまりの内容の塊」。それに対して、日本語では必ずしもそうではない。それどころか、一塊の主張が幾つかの段落に分散されることなど珍しくないでしょう。

英語のパラグラフは、原則、(a)パラグラフの主題を述べるトピックセンテンス、(b)トピックを詳しく説明する(または、トピックへの反対論を論駁する、あるいは、自問自答する)ボディー、(c)再度、主題を別の言葉で言い換えるコンクルージョンの三パーツで、かつ、この「(a)→(b)→(c)」の順序で構成されています(ただし、パラグラフが積み重なると、どうしても重複がでてきますから適宜これらのパーツは省略されることが普通)。上の、桃子姫の活躍を報じたJapan Timesの記事は各センテンスが綺麗にこの、トピックセンテンス→ボディー→コンクルージョンの構成を取っています。

英語のパラグラフの約束事として重要なことは、一つのパラグラフには唯一の主題(トピック)しか盛り込むことはできないこと。つまり、<ミクロコスモス>としての英語のセンテンスは、このような構造と約束事が定まった<マクロコスモス>としてのパラグラフの中でしか存在を許されないのです。パラグラフが英文法にとっても無関係でない理由がここにあります。

英語のセンテンスの理解でも大切なことは、英語では「パラグラフという風呂敷に包まれない限り情報や主張を他人に渡すことはできない」「パラグラフという風呂敷に包まずに、情報や主張を他人に渡すことは失礼であり教養を疑われる」、否、「土台、パラグラフという風呂敷に包まれない情報や主張は英語のネーティブスピーカーには論理的に理解されない」ということ。而して、上で説明したように、パラグラフ以外の「常識」や「話者の経歴」や「コンテクスト」もパラグラフを単位として集約されると考えて、少なくとも、英語のセンテンスの理解においてはそう問題は生じないのです。


●パラグラフの構成と順序
(a)トピックセンテンス:パラグラフの主題の提示
     ↓
(b)ボディー:トピックの詳述、または、トピックへの反対論への論駁
     ↓
(c) コンクルージョン:主題の再論


●パラグラフ作成の約束事
1個のパラグラフには1個の主題しか盛り込むことはできない!

●パラグラフの<風呂敷>
パラグラフの中に置かれないセンテンスは理解されない!


再出発の英文法(追補):「パラグラフ」ってなに? 
 http://blog.goo.ne.jp/kabu2kaiba/e/ea89ebe1327316460296604a216c057e





[4]ライティングの注意点
『再出発の英文法』もこの記事で終わり。よって、最後にパラグラフの説明の延長として些か英文法の範疇を越えたコメントを書いておきます。それは、英語と日本語の(特に、Writingにおける)意味の移し変えのTipsについてです。「Writing」能力は日本人が、自己と家族を守り、日本の文化伝統を保守して日本国の国益を守るためにも、すなわち、「英語で根拠を添えて論理的に言いたいことをいい、そのためにも、相手の言い分も英語を通して理解できる」ために、而して、「親兄弟でも彼氏彼女でもない赤の他人と、英語を通して協力したり競争したりできる」ための最重要なスキルと言えるでしょう。1980年代に倒産の危機からクライスラー社を再建したアイアコッカー(Lee Iacocca)氏も「ビジネスで最も大切なスキルはWritingである。書くことによって人間は多くの人々に正確に自分の考えを伝えることができるのだ」と述べているくらいですから。


有名な英作文の例で説明します。次の日本語を英訳するとき、このブログ記事の読者の皆さんはどういうふうにアプローチしますか?

(A)象は鼻が長い。
(B)僕はテンプラ定食だ。


(A)の主語は「象」かしら、それとも「鼻」? (B)は「I am a tempura set meal.」になる、わけないよな? 模範解答の一つを)先に書いておきます。

(A)An elephant has a long nose.
(B)I’m going to order/ I would like to order a tempura set meal(a tempura table d’hote.).


つまり、日本語の文の訳そのものではなく、「その日本語のセンテンスの論理的な意味」まで遡って、その「論理的な意味」を英語で表現することがポイントです。そして、これは我田引水(Turning everything to one’s own advantage.)ではなく、この論理を媒介に「日本語から英語にセンテンスの意味を移す」(vice versa)は、現代国語の読解力の開発にも通じると思います。蓋し、英語力スキルの向上は英語力だけのマターではないということです。

●英語と日本語の間の意味の移し変えのTips
日本語→論理→英語
英語→論理→日本語



ただし、前の項でも述べたように、論理では理解不可能な壁があるのもまた「異文化コミュニケーション」。その社会の常識やエートスを理解しない限り、パラグラフを通してセンテンスに流れ込んでいる意味を把握するのが難しい場面は少なくない。けれども、そのような「壁」が立ちはだかっているからこそ「異文化コミュニケーション」は興味深いとも言えるでしょう。私の経験から言わせていただければ、


異文化コミュニケーションは可能であるが、
それには、忍耐と努力とスキルが必要である。


この点で、『魔女の宅急便』のキキちゃんが異文化と格闘してついに尊敬されるメンバーとしてそのコミュニティーに受け入れられたように、シンディー・ローパやパフィーやチェ・ジウ姫、大塚愛ちゃんや沢口靖子さんが文化の壁を越えて多くのファンに理解され愛されていること。そして、上田桃子姫がアメリカで苦戦しつつも一戦一戦成長していることは、多くの英語学習者に勇気を与えてくれることではないかと思います。畢竟、敵を知り己を知れば百戦危うからず、です。

共に闘わん!

コメント (2)    この記事についてブログを書く
« 再出発の英文法:文型 | トップ | 再出発の英文法:『再出発の... »
最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
リズム (パクパク)
2010-08-04 05:56:00
パラグラフ。これがとても大事な概念ですね。
Unknown (Unknown)
2011-10-15 10:03:37
Momoko’s mother had one daughter ,who became a professional golfer.
カンマの後ろではなく、前にスペースが入ってしまっています。

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

英文法の話題」カテゴリの最新記事