鶴岡から南へ5キロほど行ったと所に高坂という村がある。その村は金峰山の山懐に張り付いた静かな村である。今の金峰街道は整備されているがそこから旧道に入ると路は細く曲がりくねる。
しっとりと落ち着いた風情のある佇まいである。
この案内板に沿って、細い路を左折しまた右折すると右に空き地が開ける。
その空き地の一角にかの地を示す石碑が立っている。
この石碑がなければどこにでもある空き地で、l何の変哲も無い。
このところからさらに50メートルほど進むとかすかなせせらぎを伴うちいさな堰に出会う。そのせせらぎの側に「三月の鮠」の一説を記した案内板が立っている。
「三月の鮠」 山王社
村の中の道はわずかにのぼり坂になっていて、道わきには小流れが走っていた。家々は無人のようにひっそりしていたが、人がいないわけではなく、通りすがりにのぞいた庭の奥に、子供を背負った老婆が物を干しているのが見えた。 小流れは絶えず、人がつぶやくような小さな水音を立て、歩いていく道は、生垣の内からさしかける新葉の欅の大木に日を遮られて小暗くなったりと急に木陰も家もなくなって、真夏の道のように白く輝いたりした。
オール読物 平成元年六月号
この一節は生誕の地、高坂を見事に描写している。
鶴岡そぞろ歩き (海坂藩の紹介)