Dr. 讃井の集中治療のススメ

集中治療+αの話題をつれづれに

Intensivist 特集 CRRT 刊行

2010-05-23 07:51:16 | 集中治療
おまたせしました。

Intensivist Vol.2 No.2 特集 CRRT が、今週刊行になります。

急性期血液浄化の決定版です。あのJohn Kellumも寄稿してくれています。

内野先生、中先生、柴垣先生、大変ご苦労様でした。

以下、内容

<特集・CRRT>
1. 私の血液浄化考.
内野 滋彦/東京慈恵会医科大学 麻酔科 集中治療部
2. 処方を考えるうえでのCRRTの原理
谷澤 雅彦・柴垣 有吾/聖マリアンナ医科大学病院 腎臓高血圧内科
3. 開始・中止のタイミング
森松 博史/岡山大学病院 集中治療部
4. CRRT 対 IRRT 対 SLED
中 敏夫/和歌山県立医科大学 救急集中治療部・救命救急センター
5. 濾過・透析液量:CRRTにおける濾液・透析液量(浄化量)のポイントを理解する
中敏夫
6. AKI に対するCRRT:モード,膜,前置換/後置換
五月女 隆男/滋賀医科大学 救急集中治療医学講座
7. 抗凝固剤:その使い方とエビデンス
江木 盛時/岡山大学医学部 麻酔・蘇生学 集中治療部
【コラム】CRRT中の抗凝固剤としてのナファモスタットメシル酸塩
内野 滋彦
8. ダブルルーメンカテーテル:種類,特徴,挿入部位について
中田 健/大分大学医学部 総合内科学第二講座
9. 透析カテーテル関連感染のマネジメントと予防
柳 秀高/東海大学医学部 総合内科
10. CRRT中の栄養・電解質
門川 俊明/慶應義塾大学医学部 医学教育統轄センター
11. CRRT中の薬物投与量:抗菌薬の投与量設計を中心として
山本武人/東京大学医学部附属病院 薬剤部
樋坂章博/東京大学医学部附属病院・22世紀医療センター 薬理動態学
大野能之/東京大学医学部附属病院 薬剤部
鈴木洋史/東京大学医学部附属病院 薬剤部
12. CRRTのトラブルシューティング:臨床工学技士・看護師の立場から
矢田 哲康/聖マリアンナ医科大学 クリニカルエンジニア部
森實 雅司/済生会横浜市東部病院 臨床工学部
藤谷 茂樹/聖マリアンナ医科大学 救急医学
13. シミュレーションケース
相馬 友和/東北大学大学院 腎高血圧内分泌学分野・医化学分野
14. 敗血症に対する non-renal indication としての CRRT
内野 滋彦
15. CRRTの国際標準
内野 滋彦
【コラム】PMX–EUPHAS studyについて考える
森松 博史
16. 小児での(C)RRT
北山 浩嗣・和田 尚弘/静岡県立こども病院 腎臓内科
【コラム】造影剤とRRT
河原崎 宏雄・花房 規男/東京大学医学部附属病院 腎臓内分泌内科
17. What does Evidence Based Medicine have to do with the practice of Intensive Care?
JohnA.Kellum/The CRISMA(Clinical Research, Investigation, and Systems Modeling of Acute Illness)Laboratory, Department of Critical Care Medicine, University of Pittsburgh
18.「特集 CRRT」解説
(1)「常識common sense」を疑い,「常識 standard」を身につけよう
柴垣 有吾
(2)そろそろ大人になろう.
中 敏夫

<連載>
集中治療に役立つ内科ベッドサイド診断学(米国内科専門医の内科診断学)
第 5 回:意識障害患者の神経学的所見の取り方:ICU でも神経学的所見を取ろう[パート 2]
平岡 栄治・宮本 宣友/神戸大学医学部附属病院 総合内科

M&M ケースファイル
第 4 回:胸腔鏡下肺葉切除後の経皮的冠動脈インターベンションによる出血性合併症
JSEPTIC(日本集中治療教育研究会)

集中治療室目安箱:ナース/ME,私の言い分
第 5 回:外国のナースから見た日本の ICU は ??
三島 淳子/Austin Health, Intensive Care Unit

ICU フェローからのメッセージ
第 7 回:LDS ホスピタル訪問記:チーム医療の最前線を垣間見て
石岡 春彦/自治医科大学附属さいたま医療センター 集中治療部

集中治療に関する最新厳選 20 論文.
柴田 純平/諏訪赤十字病院 麻酔科
藤谷 茂樹

We need leaders

2010-05-16 02:36:25 | 集中治療
突然ですが、Peter J Pronovostという著明な麻酔科系のIntensivistがいます。すでに多くの方がご存知ではないでしょうか。

昨年のASA(American Society of Anesthesiology)での講演(We need leaders: The 48th Annual Rovenstine Lecture. Pronovost PJ. PMID: 20216391)が最近のAnesthesiologyに掲載されていて、素晴らしいので、少しインターネットで調べてみました。

2008年のタイムの世界の百人にも選ばれています(知らなかった)。

彼を有名にした著作は恐らく皆さんご存知以下の二つの論文:

Pronovost PJ, Angus DC, Dorman T, Robinson KA, Dremsizov TT, Young TL. Physician staffing
patterns and clinical outcomes in critically ill patients: a systematic review. JAMA. 2002;
288(17):2151-62.

集中治療専門医がICUを管理した方が予後が良い、という研究。

Pronovost P, Needham D, Berenholtz S, Sinopoli D, Chu H, Cosgrove S, Sexton B, Hyzy R, Welsh R, Roth G, Bander J, Kepros J, Goeschel C.. An intervention to decrease catheter-related bloodstream infections in the ICU. N Eng J Med. 2006; 355(26):2725-2732.

単純なチェックリストを使ってチームでミシガン全州のカテーテル感染を激減させた研究。恐らく世界の100人にはこれで選ばれているのだと思います。

CV(履歴書)も公開されています。
http://www.hopkinsmedicine.org/bin/q/x/pronovost.pdf

ウィキペディアにまでなっています。
http://en.wikipedia.org/wiki/Peter_Pronovost

凄いです。素顔は知りませんがどんな人なんでしょうか。

若い人はこの人をロールモデルにすればよいのではないかと思いました。それにPronovostを誰かどこかの日本の学会に呼んでくれないかな、と思いました(JSEPTICはちなみにそんな資金残念ながらありません)。そしたらコネを作ることもできますし。

実際、米国の臨床研究に対する医師以外の職種のサポート、金額も半端ではありませんので、彼1人の力ではあり得ず、彼を生むようなシステムが凄いのは確かです。個人的な能力では日本でも彼のように凄い人はたくさんいるでしょう。ときどき黒船に日本刀で立ち向かうような無力感におそわれることがありますが(大河ドラマ“龍馬伝“の見過ぎ)、1人ではできなくても力を合わせ、時間をかければ立ち向かえるだろう、と楽観的に考えています。

JSEPTICでも多施設臨床研究が始まりました。下地は徐々にですが確実にできつつありますし、門戸は誰にでも開かれています。

讃井

構造主義的回診

2010-05-02 02:27:19 | 集中治療
フランス文学者 構造主義的思想家 内田樹の「こんな日本でよかったね」を読んだ感想(勝手な解釈)です。

毎日の回診、診療の中に応用できるヒントがたくさんあることに気づきました。

1. “コトバ以前に言いたいコトがあるわけではない、コトバによって初めて言いたいコトが生じ、コトバを選択しながらあーでもないこーでもないと考えていくことによって言いたいコトが形成されていく”
=指導医は最初から確かな正解(鑑別診断や方針)を持っているわけではなく、レジデントとの会話によって考えを固めていく(ま、最初からこれ、と決まっていることもありますけど)。

2. “自分が語る(書く)コトバは、自分が語っているのではなく、他者が語ったものを選択しているに過ぎない。自分というモノがあるなら、ただその選択をする自由を持っているだけのことである”
=指導医が語るコトバは、“◯◯の文献でこういっている、自分の経験ではこうだ、病態生理学的にこうだ”、などなどを選択しているに過ぎません

3. “論理的なコトバは審美的に美しい。このような美しいコトバを聞いて(読んで)体感するトレーニングをすることで、コトバを聞いたり文章を読んで違和感を感じることができるようになる。その結果、論理的なコトバ、審美的に美しいコトバ自ら発することができるようになる”
=レジデントのうちから、論理的な説得力のある話し方を聞いて体感することで、それを真似て身につけることは重要です。米国のレジデントトレーニングの強みの一つがこれなんでしょう。


4. “成人の条件は、知らない答えに対し何とか正解を出していくことができるようになることである”
=まさにレジデントやフェローを終了して指導医になる条件と同じと思いました。


5. 原理主義と機能主義
“原理主義の人:選ぶことができる資源は無限であると考え、最高のもの、正しいものを求める。もしそれが不可能なら真っ向から反対する。怒りっぽい人(原理主義的な人)に「お前は違う、本当はこうだ」とはっきり言うと(原理主義で対抗すると)、喧嘩になるだけ”

“機能主義の人:資源は有限でそれを理解して何とか折り合いをつけ、目の前の問題を収める。関心があるのは得られる答えが機能的であることのみで、正しいか正しくないかは二の次である。原理主義的な人には機能主義で対応すれば、腹も立たずに解決策が導かれるかもしれない。そもそもほんとうの機能主義者は原理主義者に対し間違っているとは決して表明しないことになる”

=このように答えが機能的であること(=最終的に患者が効率よく良くなること)のみに執着すれば、精神衛生上も非常に楽になります。勝手な治療方針を要求する主治医に対し「それはエビデンスが否定しているから違う」と真っ向から反対したり、逆に黙って自分の意見と違うことを「主治医がこういったから」と腑に落ちないままやるよりは、「答えの機能性」の観点から堂々と意見を述べればよいのではないでしょうか。ここら辺もトレーニング(+胆力)でしょうね。口を開く、失敗を恐れない胆力も、実はトレーニングでしか身に付かないのではないかと思います。鈍感になるというか動じなくなるためには口を開きつづけるしかないというか。


こじつけでごめんなさい。

讃井