Dr. 讃井の集中治療のススメ

集中治療+αの話題をつれづれに

第9回JSEPTICセミナー & 第6回慶應ヤングハートセミナー無事終了しました

2011-01-30 23:37:23 | 集中治療
第9回JSEPTICセミナー & 第6回慶應ヤングハートセミナーが無事終了しました。

講師の先生がた、ご参加くださった方々、ありがとうございました。今回の会場はいかがだったでしょうか。

心不全のエクスパートから、明日からの臨床に役に立つ知識が詰まったためになる会でした(私は本日日当直ですので本日から役に立っています)。参加された方の満足度も高かったのではないでしょうか。

こんな会はそうありませんので、ビデオ撮影してお配りする必要があるかもしれませんね。

検討します。

Intensivist 特集・Infection Control 刊行します

2011-01-26 05:01:52 | 集中治療
Intensivist vol. 3 no. 1 刊行します。

素晴らしい原稿をご執筆いただいた諸先生がた、ありがとうございました。森兼 啓太先生、林 淑朗先生編集作業大変ご苦労さまでした。

以下目次

<特集・Infection Control>
ICUにおいて感染症は主要な問題です。ICUで治療する感染症には市中感染などICU外で
発生する重症感染症もありますが,人工呼吸器関連肺炎(VAP),カテーテル関連血流感
染(CLABSI),カテーテル関連尿路感染(CAUTI)など医療行為が原因で起こる感染症もあ
り,特にこれらの感染症は薬剤耐性のために治療が難しくなってきています。薬剤耐性
の深刻さは増しつつあり,昨今の多剤耐性菌による院内集団感染の事例や,ニューデリー
・メタロ-β-ラクタマーゼ1(NDM-1)産生肺炎桿菌の国内感染例の出現などを鑑みれば,
薬剤耐性菌への対策は急務といえましょう。しかしながら,薬剤耐性菌に有効な新規抗
生物質の開発がほとんど行われていない現状では,隔離予防策や適切な抗菌薬使用法が
数少ない対策です。
 また,そもそも重症感染症では現在の標準とされるマネジメントが適切になされたと
しても,mortalityとmorbidityに与える影響は無視できず,感染症予防の重要性が強調
されつつあります。
 集中治療医には,感染症に対する診断・治療に加えて,適切なinfection controlを実
践できる能力も要求されるのであり,本特集では集中治療医が知っていなければならな
いinfection controlの常識,および最近注目されている話題について包括的に解説し
ました。

1. はじめに
林 淑朗/Royal Brisbane and Women’s Hospital, Department of Intensive Care
Medicine/ The University of Queensland, Centre for Clinical
Research

2. なぜ手を洗わないといけないのか?:簡単なこと,ちゃんと手を洗いましょう!
藤田直久 /京都府立医科大学 感染制御・臨床医学教室

3. 隔離予防策
森澤雄司 /自治医科大学附属病院 感染制御部

4. 積極的監視培養
森兼啓太 /山形大学医学部附属病院 検査部

5. カテーテル関連血流感染症(中心静脈カテーテル関連血流感染症)の予防
本田 仁 /手稲渓仁会病院 総合内科・感染症科

6. 人工呼吸器関連肺炎
大庭祐二 /University of Missouri 呼吸集中治療内科

7. 選択的消化管除菌
志馬伸朗 /京都府立医科大学 集中治療部・感染対策部

8. カテーテル関連尿路感染とその予防
満田年宏 /横浜市立大学附属病院 感染制御部

9. 手術部位感染
星 寿和 /University of Iowa 腫瘍外科


10. “Bad bugs, No drugs”:ICUで問題となる薬剤耐性菌
原田壮平 /東邦大学医学部 微生物・感染症学講座

11. 抗菌薬スチュワードシップの実際:その立ち上げに向けて
大澤良介 /State University of New York at Buffalo, Buffalo General Hospital
Roswell Park Cancer Institute 感染症科

【コラム】LDS Hospitalのcomputer-based antibiotic stewardship
山下和人 /自治医科大学附属さいたま医療センター 麻酔科・集中治療部

12. カルバペネムと抗MRSA薬を正しく使用せよ
羽田野義郎・大曲貴夫 /静岡県立静岡がんセンター 感染症内科

13. プロカルシトニン・ガイダンスによる抗菌薬消費量の削減
林 淑朗

14. 集中治療医が知っておくべきワクチンの知識
勝田友博・齋藤昭彦 /国立成育医療研究センター 内科系専門診療部 感染症科

15. 「特集Infection Control解説」intensivistが実践すべきInfection Controlとは
森兼啓太

<連載>
集中治療に役立つ内科ベッドサイド診断学(米国内科専門医の内科診断学)
第7回:髄液検査
豊國 剛大・平岡 栄治/神戸大学医学部附属病院 総合内科

集中治療室目安箱:ナース/ME,私の言い分
第9回:米国における集中治療看護師と,看護師の自立に必要なこと
岩田恵里子/Valley Anesthesia Inc. United Anesthesia: Harbor UCLA Medical
Center 看護麻酔師,急性期看護ナースプラクティショナー

米国ICUフェローからのメッセージ
第10回:呼吸器・集中治療フェローとその役割
則末泰博/St. Louis大学 呼吸器集中治療フェロー

第11回:米国ICUフェローからのメッセージ The Canadian Critical Care Trials
Group:成功し続ける臨床研究グループとは
青山和由/University of Toronto 集中治療科

集中治療に関する最新厳選20論文
柳井真知/Division of Infectious Disease, Veterans Affairs Greater Los
Angeles Healthcare System
藤谷茂樹/聖マリアンナ医科大学 救急医学

日本集中治療教育研究会(JSEPTIC)
JSEPTIC-CTG活動報告②  J-SCRIPTとJSEPTIC CRRT registryについて
讃井將満・内野滋彦/JSEPTIC-CTG

Critical Care Nutrition,International Nutrition Surveyへのお誘い
東別府直紀/神戸市立医療センター中央市民病院 麻酔科/NST

Rapid Response System導入研修会
(1)Rapid Response System導入研修会の開催
児玉貴光・中川雅史・今井 寛・藤谷茂樹・安宅一晃/RRS推進委員会
(2)Rapid Response System導入研修会を受講して
入江 仁/津軽保健生活協同組合健生病院 救急集中治療部

SCCM日本人会にご参加くださったみなさまありがとうございました

2011-01-17 05:59:22 | 集中治療
SCCM(米国集中治療医学会@サンディエゴ)の日本人会にご参加くださったみなさまありがとうございました。

皆さま食事、ワイン、いかがだったでしょうか。普段なかなか施設を越えてお話する機会がありませんので、とても良い機会だったと思います。来年以降も是非おこないたいですね。

幹事のミネソタ大学永松先生、大変ご苦労さまでした。ほんとうに。


ところで、日中の学会もみなさま楽しまれましたでしょうか。

私は、イタリアのARDS研究で著明な(最も有名なのは腹臥位療法の研究でしょうか)Gattinoni先生の講演が聴けただけで満足しました。イタリア訛りが結構きつかったですが、ARDS人工呼吸療法の歴史を振り返る内容で、sense of humorにもあふれ、素晴らしい講演だったと思います。こちらは案の定、いかにして開いて人工呼吸関連肺傷害を防ぐか、ということが永遠のテーマのようなお話でしたが。。。。。

その一方で、午前中の「ARDSの最新の研究」に関するセッションで、遺伝子多型、ステムセルに関する講演と並んで、Dr Slutskyがpermissive atelectasisの概念を解説されたのには正直びっくりしました。知らなかった。具体的なお話はあまり多くありませんでしたが、とても興味を魅かれる内容でした。

10年後には、open lungは廃れてclosed lung!!とみんな叫んでいるかもしれませんね。



輸液バランスと急性腎傷害

2011-01-03 10:36:39 | 集中治療

あけましておめでとうございます。

本年もよろしくお願いします。

Medscape(http://www.medscape.com/criticalcare)などの医療情報提供源では、年末恒例の年間最も読まれたCME(continuing medical educaiton: 生涯教育)記事トップ10などが報告されています。その8位にランクされたFluid Balance and Acute Kidney Injuryという記事があります。

http://www.medscape.org/viewarticle/715130?src=top10

登録していない方は簡単な登録が必要なのが少し手間ですが、時間のある方はどうぞ。Austin Health, Melbourne, AustraliaのJohn R. Prowleという方がBellomo、Roncoなどのこの世界の有名人と一緒に書いていらっしゃいます。よくまとまっています。

そのアブストラクトの中でProwle先生は、

ショックの蘇生においては心拍出量を回復するために輸液蘇生が必要であるが、組織浮腫を助長し臓器障害に貢献する可能性がある。血行動態がひとたび安定したら、体液バランスをゼロに持っていきさらにネガティブバランスに持っていくドライサイドの管理が必要である。そのため、急性腎傷害の患者では、RRTがより早期に必要になるかもしれない。一方、利尿薬とRRTによる除水により、血管内低容量と腎低灌流が起こりうる。体液の状態の正確な評価とそれにもとづいた注意深いバランス管理がアウトカムを改善する。

乱暴に言えば、輸液はかならずしも善ではない、悪になりうる

と述べておられます。

コメント1:
おっしゃる通りですが、

体液の分布の正確な評価が難しい
血管内容量の評価が難しい
血管内容量の低下が体外に失われて起こるか体内で分布が変わっておこるかその割合を正確に決める評価が難しい
入れた輸液が血管内にとどまらない
組織浮腫がどれほど悪影響があるか評価が難しい
どの組織にも均一に浮腫は起こるのか知らない

などの多くの問題から、この手の話は、同じ主張(たとえば「血管内容量が不足しており容量負荷が必要だ」)をしているのに実際はやっていることが大きく違うことが起こります。ほとんどの患者は「血行動態が安定する体液バランス」に幅があり[1]、軽症の患者ほどその幅が広いので、我々の多少のへまや、この「やっていることの違い」を患者が吸収してくれ、みんなますます自分の主張は正しく、やっていることも正しいと信じてしまい、「やっていることの違い」はそのままになります。

私が経験した米国の麻酔科系、外科系医師の大量輸液の仕方に、日本人で勝負できる医師はいないでしょう(あ、1人いました。昔、とある麻酔科の先生が胃切除で出血がほとんどなくても、硬膜外+全麻で10,000mlプラスにする大量輸液の報告を学会発表されていました。決してエフェドリンやネオシネは使わない)。かれらの血管収縮薬嫌いは第2次世界大戦以来筋金入りで、多発外傷後の若い男性のICU1週間ぐらい、PEEP18cmH2O、FiO2100%、その時点で当然のごとく+10kg以上オーバーのARDS患者が血圧低下、乏尿になったときの、若い外傷外科+集中治療アテンディングと私(フェロー)の会話(FACTT [2]が発表される前です)。

Attending「Isolyte(日本でいうヴィーンF)を1リットル(500ccのバッグを院内で見つけることは困難)ボーラスしろ」

Fellow「輸液をしたらガスが悪くなりませんか?」

A「PEEPを上げればいい」

F「血圧が下がるんじゃない、さらに尿も出なくなるんじゃ?」

A「さらにIsolyteを1リットルボーラスしろ」

F「輸液をしたらガスが悪くなる」

A「PEEPに限界はない」

実話です(一本入れてだめなら、とりあえずガンツをいれろといつも叫ぶアテンディングもいました)。というようにこの若いアテンディングなりの容量の評価と、水=善、血管収縮薬=組織低灌流を起こす=悪、組織浮腫は悪でない、という思想があるわけです。

というわけで余談ですが、日本のどんな先生が「ヴォリュームはもう十分だと思います」なんて(いかにも私は輸液にリベラルな人ですというようなしたり顔で)言っているのを聞き、「いったいいくら輸液したの」と聞き直すと「生食500ml / 2時間です」と返答されることを経験する度に、同じ主張をしているのに実際はやっていることが大きく違うなあ、と思うわけです。

コメント2:Prowle先生にも引用されている有名なFACTTですが[2]、これにしたってARDS患者に対するドライサイド管理が死亡率を改善したわけではありません。人工呼吸時間とICU滞在を短くしただけです。水を絞るとガスがよくなるという我々の臨床的感覚にあっているからこの研究がこれだけ受け入れられた、つまり、水引いても死亡率があがらずに早く抜管できるならそうしましょう、ということが確かめられて安心したから受け入れられているだけではないですか。

コメント3:ARDSに対してはこのように調べられ、ある意味みんなの腑に落ちる「落ちついたら水を絞ろう」という努力目標ができたわけです。しかし、AKIに関してはまだ観察研究しかありません。いくら調整を行ったとしても、「それで、本当のところは? 重症だから体液バランスがポジティブになるだけじゃないんじゃないですか、結果を見ているだけでは? 血管収縮薬だって悪とする観察研究はいっぱいありますよ[3]」と反論されてしまいます。どちらかと言うと腎臓のためにはウェットがよいと教え込まれてきた世界のドクター、上記のような組織浮腫は気にしない米国の外傷外科医を説得するための根拠が示せるか見物です(ちなみにJSEPTIC-CTGはそのような研究も計画中)。

輸液の議論は尽きません。

昨年はみなさまにとってどんな年でしたでしょうか。そして本年はどんな年にしたいと思われますか。

[1] Jammer I. Does central venous oxygen saturation-directed fluid therapy affect postoperative morbidity after colorectal surgery? A randomized assessor-blinded controlled trial. Anesthesiology. 2010 Nov;113(5):1072-80. PMID: 20885291
[2] Wiedemann HP. Comparison of two fluid-management strategies in acute lung injury. N Engl J Med. 2006;354:2564-75. PMID: 16714767.
[3] Dünser MP. Association of arterial blood pressure and vasopressor load with septic shock mortality: a post hoc analysis of a multicenter trial. Critical Care 2009, 13:R181. PMID: 19917106