今回は、このテーマの日本における第一人者と言ってもよい東京女子医科大学救急医学の矢口有乃先生をゲストエディターにお迎えし、JSEPTICメーリングリストでご活躍中のご存知松江赤十字病院麻酔科の橋本圭司先生にも大々的にご協力いただきました。また、編集作業を総括していただいた東京ベイホスピタルの藤谷茂樹先生、大変ご苦労さまでした。
読者が、こういうものがあったらと潜在的に思っているが気づかずにいる「ああこれが知りたかった、読みたかった」と思う内容を毎回目指していますが、今回はその典型号になるでしょう。自信作です。
ますますグローバルな見識が求められる若い方へのIntensivistからの挑戦状として、「諸外国の事情」はあえて英文のまま掲載しました。その一方で常に「できるだけ多くの方にわかりやすく」も目指していますので、その日本語訳も、いつかどこかに掲載したいと思っています。
End-of-life(終末期)医療は、Intensivistの創刊準備に取りかかった2008年夏から編集会議をやるたびに、「いつか、できるだけ早い時期にやろう」と毎回議題にあがったテーマでした。
というわけで、念願がかなってとっても晴れやかな気持ちでいます。
以下コンテンツです。
<特集・End-of-life>
高齢化社会を迎えている我が国において,終末期医療は避けて通れない問題です。欧米諸国では,終末期医療に対して一般市民や医療従事者間での双方向のコミュニケーションが積極的にとられています。一方,我が国においては,「死」を語ることについてタブー視する習慣や,宗教的背景,死生観などの文化的背景が異なり,海外での終末期医療の概念をそのまま導入するのは困難な感があります。そのため,日常医療のにおいて,医学的な判断だけではなく,法的,倫理的,そして医療資源を考えたときに,頼るべき指針も法律もない医療従事者は常に葛藤せざるを得ません。そこで本特集では,日本救急医学会,日本集中治療医学会で終末期医療のリーダーである先生方と,法学,経済学の専門家にもご執筆いただき,現時点での終末期医療の考えと状況を把握し,現場で問題に直面した際に解決の糸口を見出せる,教科書となる特集を狙いとしております。
1. 日本の現状と取り組み:
終末期医療に関する取り組みは多くの学会との協働が必要
氏家 良人 岡山大学大学院 医歯薬学総合研究科 救急医学講座/日本集中治療医学会倫理委員会 委員長
2. 用語の解説
飯塚 悠祐・橋本 圭司 松江赤十字病院 麻酔科・集中治療室
3. 終末期医療の中止と刑事裁判例の歴史
池田 守 弁護士
前田 正一 慶應義塾大学大学院 健康マネジメント研究科
【コラム】川崎協同病院事件について:自身の「最期」を考えるという視点で終末期医療を考えてほしい
須田 セツ子
4. 終末期医療と法:
「刑法」でも「民法」でもなく,医療のための「医法」の整備を
井上 清成 井上法律事務所
5. 米国における終末期医療:withdraw,心臓死後臓器提供,教育,研究
松崎 孝 岡山大学医学部 集中治療部
酒井 哲郎 University of Pittsburgh Medical Center, Department of Anesthesiology
【コラム】米国医学部での生命倫理教育:一般臨床でも重要なbehavioral science
北野 夕佳 聖マリアンナ医科大学 横浜市西部病院 救急集中治療部
6. ヨーロッパにおける終末期医療:
個人主義の国々における終末期医療の考え方
矢口 有乃 東京女子医科大学 救急医学
【コラム】その他の国々①英国:End-of-Life Decision―a United Kingdom Perspective
Joel Branch Medical Education and Simulation Skills Training,
Shonan Kamakura General Hospital
7. オーストラリアの集中治療における終末期医療:
患者の望みと医学的判断に基づいた集中治療医主導の終末期医療
後藤 幸子 大阪大学医学部附属病院 集中治療部
8. 終末期医療と医療経済:医療費の実態と今後の対応方法
池上 直己 慶應義塾大学医学部 医療政策・管理学教室
【コラム】高齢者医療とmedical futility:
社会的コンセンサスを形成し,患者・家族の価値観にあった治療を目指す
金城 紀与史 沖縄県立中部病院 内科
【コラム】futile careと経済:結論の得られていない課題:米国での臨床経験から
反田 篤志 Beth Israel Medical Center
【コラム】その他の国々②中国:End-of-life Care in Chinese ICU
Teng Yan Department of Critical Care Medicine, First Affiliated Hospital of Medical College of Xi'an Jiaotong University
Feng Wang Department of Surgery, Xi’an Hospital of Aviation Industry Corporation of China
Heli Xiang Department of Kidney transplantation, First Affiliated Hosptial of Medical College of Xi'an Jiaotong University
【コラム】その他の国々③韓国:End-of-life Care in Korea: Current situation
Ilhak Lee Department of Medical Ethics and Law, Yonsei University College of Medicine
Shin Ok Koh Department of Anesthesiology and Pain Medicine, and Anesthesia and Pain Research Institute, Yonsei University College of Medicine
【コラム】その他の国々④タイ王国:End-of-Life Care in ICU: Thailand Perspectives
Phornlert Chatrkaw Department of Anesthesiology Faculty of Medicine, Chulalongkorn University
Dusit Staworn Department of Pediatrics, Phramongkutklao Hospital
9. 看護師の立場からICUでのend-of-lifeケアを考える:
必要なのはすべての医療者がよりよい“cureとcare”に思いをめぐらすこと
山中 源治 東京女子医科大学病院 看護部/東京医科歯科大学大学院 保健衛生学研究科
10. 小児:多職種のチームで取り組む小児の終末期医療
川口 敦 University of Alberta, Stollery Children's Hospital, Pediatric Critical Care Medicine
11. ICUにおける緩和ケアpalliative care:米国との比較にみる日本の課題
関根 龍一 亀田メディカルセンター 疼痛・緩和ケア科
【コラム】拝啓 これからの日本の医療を担う医師の皆様へ:正義も人権もベッドサイドにのみある
伊藤 雅之 高岡みなみ病院 外科
12. 今後の方向性と課題:我が国のガイドラインからみえてくるもの
中村 俊介・有賀 徹 昭和大学医学部 救急医学講座
13. 「特集 End-of-life」解説:
(1)「End-of-life」特集を終えて
矢口 有乃
(2)“a man can die but once.”人間1度しか死ぬことはできない
橋本 圭司
【連載】
■Lefor's Corner
第2回:Nutritional Management of the Critically Ill Patient: Part I
Alan T. Lefor Department of Surgery, Jichi Medical University
■集中治療室目安箱:ナース/ME,私の言い分
第12回:オーストラリアのチーム医療と集中治療看護師
飯田 英美 Royal Brisbane and Women’s Hospital, Intensive Care Unit
■ICUフェローからのメッセージ
第14回:タイで学ぶ熱帯医学:マヒドン大学ディプロマコースに参加して
石岡 春彦 自治医科大学附属さいたま医療センター 集中治療部
第15回:香港留学記:医療経済で異なる集中治療事情
竹田 健太 兵庫医科大学 集中治療医学科
■ICUと皮膚病変
第4回:水疱
笠井 弘子・大山 学 慶応義塾大学病院 皮膚科学教室
【コラム】急性膵炎における鎮痛薬の基礎知識:使用法と注意点
古屋 智規 秋田赤十字病院 総合診療科
■集中治療に関する最新厳選20論文
柳井 真知 Division of Infectious Diseases, Veterans Affairs Greater Los Angeles Healthcare System
藤谷 茂樹 東京ベイ・浦安市川医療センター/聖マリアンナ医科大学 救急医学
■日本集中治療教育研究会(JSEPTIC)
JSEPTIC簡単アンケート
第3回:体重測定,重症度スコア,重症急性膵炎
内野滋彦 東京慈恵会医科大学 麻酔科 集中治療部