とりあえずボランティア(無給)で1ヶ月やってみてと言われて来たのが2003年。正直、来た瞬間に帰ろうと思った。ベトナム、タイ、ラオスと私が好きな国の隣国なので、軽い気持ちで来てみたものの、何がと問われれば難しいのだが、生活、人、磁場など、とにかくすべてがいまいちピンと来なかった。私は自分の動物的な感覚をけっこう信じている。さすがに社会人経験もある身として、「いやだ、帰りたい」と無責任にするわけにもいかなかった。しかし、すべてが直感的に合わないと悟ったので、最初に決めた1ヶ月がたったら、アンコールワットでも観光して、即効で日本に帰ろうと決めていた。手帳に毎日×をつけていたのを、昨日のことのように覚えている。そのとき、まさかこんなにいることになるとは、1%さえも思っていなかった。
そして今まで時が流れてしまった。
「タガイ カエ コンロン タウ(歳月は過ぎ行く)」私が好きなクメール語のひとつである。
先日、友だちから3年ははやいねといわれたが、あっという間の楽しい3年間でした!と笑顔でいえるほどではない。振り返ってみればいい3年だったといえるが、しかしそれは、カンボジアの未舗装道路のようなでこぼこ道だった。とにかく1年目は何もないところから、学校が開校したばかりだったので、今では考えられないようなハードな毎日だった。学生も少なかったので、生徒集めから広告(チラシ配りも!)・カリキュラム・教材・テキスト・テスト作成、学校や生活環境の整備、そして授業準備と、とにかく忙しい日々。予算もじゅうぶんになく、朝から晩まで手作り文字カードや絵カードをラミネートした日が懐かしい。週末も早朝から夜遅くまで連日働き続けたものだ。衣食住はすべて学校。みんなで車座になって床で飯を食い、夜は教室で寝ていた。一つのシャワーをクメール人スタッフもあわせて10人くらいで共同で使っていたこともあった。
日本でも終電までの残業や徹夜、休日出勤などかなりハードな仕事をこなしたが、そんな日本のサラリーマン生活に比べても、あのときは本当にすごかった。「たぶんカンボジアでいちばん私たちが働いている気がする」とよく言い合ったものだ。時給換算してみたら、30円に満たなくて、驚愕の声をあげたあのころ。1ヶ月くらいたって、初めて学校の外で食べた、小さな食堂の麺の味は一生忘れないであろう。ほんの一歩、学校外に出ただけで感激したものだった。それほどまでにストイックな生活を送っていたのかと、今では自分でも信じられない。
当時の同僚、スタッフは私が3年間いたなかでも最強の濃い~面々であった。しかし、この大変な時代があったからこそ、今のJOASがあるような気がする。今いる同僚やスタッフにももちろん愛着があるのだが、立ち上げ当時のあの苦労は自分のJOAS勤務を振り返るうえで、また、カンボジアの日々を思い出すとき、これからもずっと忘れられないであろう。今はカンボジアに、日本に、世界にと各地に散らばった当時の同志達は、おそらく同じ気持ちに違いない。
時代はうつりかわり、今は校舎も新しい場所に移り、学校環境や住居環境も格段によくなった。カリキュラムも落ち着き、教材もテストもそろい、教務や事務の流れもシステマチックになったので、もうあわてふためることもほとんどない。新しい先生が来ても、自分の授業準備以外にたいしてやることもないほどに、学校は少し大人になった(まあ学校としてはこれが普通といえば普通か)。来たばかりのころ、ベテランの主任の先生が「学校は3年はたたないとわからない」と言っていたが、それもよくわかる気がする。一時は閉校かなんて危機もあったが、3年たって、ようやく落ち着きをみせてきている。
学生も教師もスタッフも来ては去り、また来ては去り。1ヶ月、1週間、1日でやめていく人も多いお国柄、短期間だけ教えた学生も入れればいったい何人の学生に教えたのだろうか。彼らが日本語を学ぶうえで、何かを少しでも学び取ってくれていれば、と思うのは教師の勝手な幻想である。やめていった学生は「あいうえお」すら忘れているかもしれない。人の入れ替わりは本当に激しく、クメール人スタッフもかなりの数のスタッフが来ては去っていった。そして、私の記憶が確かであれば去っていった日本人教師は全部で13人。いい人も、びっくりするようなとんでもない人も、本当にさまざまな人がいた。私は14人目になる。この学校で得た経験はいいことも、悪いことも今後の自分の「実」になってくれることを願いつつ、学校と学生の成長を願ってリーハウイ(さようなら)JOAS!
PS>今まで読んでくださったみなさんどうもありがとうございました。意外なところで、いろいろな方がブログを読んでいるので、本当にびっくりしました。JOASはまだまだたくさん教師がいます。今後は新しい教師も来る予定です。年明けからは新たな先生たちのブログもスタートします。お楽しみに!
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