一 五十首の哥たてまつりし時
一 尋きて、花にくらせる、木のまより、待としもなき、山のはの月
古抄云。華を尋きてくらせる木のまに、又
月をふとみたる景氣、言語道断なるべし。
面白事重畳たる心なり。月を落題のや
うに云説わろしとなり。
増抄云。昼夜の美景をいへり。花に終日く
らして、夜になりたらば、かへらんと思ひしに、
待ともなき月が花の間みえてあるに、
これはいかで、かへるべきぞとの心なり。待
としもなきといふにて、一入おもひがけもなく
面白し也。
頭注
はなにくらすとは
餘事なき事也。
只花の下にて
終日ありし由也。
待としもなきしも
は休字なり。待と
なきなり。
※この歌に句点がある理由は不明。
