新古今和歌集の部屋

西行 撰歌一覧

新古今和歌集 西行撰歌一覧 95首

略語
山:山家集 異:異本山家集 聞:聞書集 残:残集 補:補遺 御:御裳濯河歌合 宮:宮河歌合、心:山家心中集
通:源通具 有:藤原有家 定:藤原定家 隆:藤原家隆 雅:藤原雅経
隠:隠岐本 切:切出歌

家集は、新編国歌大観及び岩波文庫による。

撰者名注記は、穂久邇岩波文庫本によるが、( )は烏丸本、〔 〕は尊経閣本。

★は、歌が若干異なっているもの。


  春歌上
 題しらず 7
岩間とぢし氷も今朝は解けそめて苔のした水道もとむらむ 異御★ 有 隠

 春歌とて 27
降りつみし高嶺のみ雪解けにけり清瀧川の水のしらなみ 異御 定隆雅 隠

 題しらず 51
とめこかし梅さかりなるわが宿を疎きも人はおりにこそよれ 異聞 有定雅

 題しらず 79
よし野山さくらが枝に雪散りて花おそげなる年にもあるかな 異 定〔隆〕 隠

 花歌とてよみ侍りける 86 
吉野山去年のしをりの道かへてまだ見ぬかたの花を尋ねむ 異聞御 定隆雅 隠

  春歌下
 題しらず 126
ながむとて花にもいたく馴れぬれば散る別れこそ悲しかりけれ 山異心 定隆雅 隠

  夏歌
 題しらず 217
聞かずともここをせにせむほととぎす山田の原の杉のむらだち 異残御 隆 隠

 題しらず 218
郭公ふかき峰より出でにけり外山のすそに聲の落ち來る 異御 隆雅 隠

 題しらず 262
道の邊に清水流るる柳かげしばしとてこそ立ちとまりつれ 異 定隆雅 隠

 題しらず 263
よられつる野もせの草のかげろひてすずしく曇る夕立の空 異 定隆雅 隠

  秋歌上
 題しらず 299
おしなべて物をおもはぬ人にさへ心をつくる秋のはつかぜ 異宮 定隆 隠

 題しらず 300
あはれいかに草葉の露のこぼるらむ秋風立ちぬ宮城野の原 異御 有定隆雅〔ー定〕 隠

 題しらず 362
心なき身にもあはれは知られけりしぎたつ澤の秋の夕ぐれ 山異御心 定隆雅 隠

 秋歌とてよみ侍りける 367
おぼつかな秋はいかなる故のあればすずろに物の悲しかるらむ 山異 有隆 隠

  秋歌下
 題しらず 448
小山田の庵ちかく鳴く鹿の音におどろかされて驚かすかな 山異心 隆 隠

 題しらず 472
きりぎりす夜寒に秋のなるままに弱るか聲の遠ざかり行く 異御 雅 隠

 題しらず 501
横雲の風にわかるるしののめに山飛びこゆる初雁の聲 山異心 定隆雅 隠

 題しらず 502
白雲をつばさにかけて行く雁の門田のおもの友したふなる 山異宮心 有定隆 隠

 題しらず 538
松にはふ正木のかづら散りにけり外山の秋は風すさぶらむ 異御★ 定隆雅 隠

  冬歌
 題しらず 570
月を待つたかねの雲は晴れにけりこころあるべき初時雨かな 異御 定 隠

 題しらず 585
秋篠やとやまの里やしぐるらむ生駒のたけに雲のかかれる 異宮 定隆雅 隠

 題しらず 603
をぐら山ふもとの里に木の葉散れば梢に晴るる月を見るかな 異宮 隆 隠

 題しらず 625
津の國の難波の春は夢なれや蘆のかれ葉に風わたるなり 異御 有定隆雅 隠 

 題しらず 627
寂しさに堪へたる人のまたもあれな庵ならべむ冬の山里 山異 定隆

 歳暮に人に遣はしける 691
おのづからいはぬを慕ふ人やあるとやすらふほどに歳の暮れぬる 山異 定隆 隠

 題しらず 697
昔おもふ庭にうき木を積み置きて見し世にも似ぬ年の暮かな 異聞宮 有定隆雅 隠

  哀傷歌
 陸奧へまかりけるに野中に目にたつ樣なる塚の侍りけ
 るを問はせ侍りければこれ中將のつかと申すと答へ
 ければ中將とはいづれの人ぞと問ひ侍りければ實方
 朝臣のこととなむ申しけるに冬の事にて霜枯の薄ほの
 ぼの見えわたりて折りふし物悲しう覺え侍れば 793

朽ちもせぬその名ばかりをとどめ置きて枯野の薄形見にぞ見る 山異 有 隠

 無常の心を 831
いつ歎きいつ思ふべきことなれば後の世知らで人の過ぐらむ 異 定隆

 人におくれて歎きける人に遣はしける 837 
亡き跡の面影をのみ身に添へてさこそは人の戀しかるらめ 異聞 定隆 隠

 歎く事侍りける人問はずと恨み侍りければ 838
哀とも心に思ふほどばかりいはれぬべくは問ひこそはせめ 山異心 定隆 隠

  離別歌
 陸奧へ罷りける人に餞し侍りけるに 885
君いなば月待つとてもながめやらむ東のかたの夕暮の空 山異心 有隆雅(定ー隆) 隠

 遠き所に修行せむとて出で立ち侍りけるに人々わかれ
 をしみてよみ侍りける 886

たのめおかむ君も心やなぐさむと歸らむ事はいつとなくとも 異補 定隆 隠

 遠き所に修行せむとて出で立ち侍りけるに人々わかれ
 をしみてよみ侍りける 887

さりともとなほ逢ふことを頼むかな死出の山路を越えぬ別は 山異 定隆 隠

  羇旅歌
 題しらず 937 
都にて月をあはれと思ひしは數にもあらぬすさびなりけり 山★異心 雅 隠

 題しらず 938
月見ばと契りおきてしふるさとの人もや今宵袖ぬらすらむ 異御 定隆〔雅ー隆〕 隠

 天王寺へまうでけるに俄に雨の降りければ江口に宿を
 を借りけるにかし侍らざりければよみ侍りける 978

世の中を厭ふまでこそ難からめかりのやどりを惜しむ君かな 山異 通雅 隠

 東の方に罷りけるによみ侍りける 987
年たけてまた越ゆべしと思ひきやいのちなりけりさ夜のなか山 異 定隆 隠

 旅歌とて 988
思ひ置く人の心にしたはれて露わくる袖のかへりぬるかな 不明 定 隠

  戀歌二
 題しらず 1099
はるかなる岩のはざまに獨ゐて人目思はでものおもはばや 異 定

 題しらず 1100
數ならぬ心の咎になしはてて知らせでこそは身をも恨みめ 山★異御★心★ 隆

 題しらず 1147
何となくさすがにをしき命かなあり經ば人や思ひ知るとて 山異 定隆雅 隠

 題しらず 1148
思ひ知る人ありあけの世なりせばつきせず身をば恨みざらまし 山異宮心 有定 隠

  戀歌三
 題しらず 1155
逢ふまでの命もがなと思ひしはくやしかりけるわが心かな 山異心 ナシ 隠

 題しらず 1185
おもかげの忘らるまじきわかれかななごりを人の月にとどめて 山異 定隆 隠

 題しらず 1193
有明はおもひ出あれや横雲のただよはれつるしののめの空 補 雅 隠

 題しらず 1200
人は來で風のけしきもふけぬるにあはれに雁の音づれて行く 異御 隆雅 隠

 戀歌とてよめる 1205
たのめぬに君來やと待つ宵の間の更け行かでただ明けなましかば 異御 定隆雅 隠

 題しらず 1230
あはれとて人の心のなさけあれな數ならぬにはよらぬ歎を 山異 隆雅 隠

 題しらず 1231
身を知れば人の咎とも思はぬにうらみ顏にも濡るる袖かな 山異宮心 定(隆ー定)

  戀歌四
 題しらず 1267
月のみやうはの空なる形見にて思ひも出でばこころ通はむ 山異 定雅 隠

 題しらず 1268
隈もなき折りしも人を思ひ出でてこころと月をやつしつるかな 山異 有定隆 隠

 題しらず 1269
物思ひて眺むる頃の月の色にいかばかりなるあはれ添ふらむ 山異 定隆 隠

 題しらず 1297
疎くなる人をなにとて恨むらむ知られず知らぬ折もありしを 異 定雅

 題しらず 1298
今ぞ知る思ひ出でよと契りしは忘れむとてのなさけなりけり 山★異 定雅 隠

 題しらず 1307
あはれとて問ふ人のなどなかるらむもの思ふ宿の荻の上風 山異宮心 有定隆雅 隠

  雜歌上
 題しらず 1470
世の中を思へばなべて散る花のわが身をさてもいづちかもせむ 異宮★ 定隆雅 隠

 題しらず 1530
月を見て心うかれしいにしへの秋にもさらにめぐり逢ひぬる 山異心 定隆雅 隠

 題しらず 1531
夜もすがら月こそ袖にやどりけれむかしの秋をおもひ出づれば 山異心 定隆 隠

 題しらず 1532
月の色に心をきよくそめましやみやこを出でぬわが身なりせば 異宮★ 隆

 題しらず 1533
棄つとならば憂世を厭ふしるしあらむ我には曇れ秋の夜の月 異宮★ 有定雅 隠

 題しらず 1534
ふけにけるわがみのかげをおもふまにはるかに月の傾きにける 異聞御★ 定雅 隠

 題しらず 1560
雲かかる遠山畑の秋さればおもひやるだに悲しきものを 異 定 隠

  雜歌中
 伊勢に罷りける時よめる 1611
鈴鹿山うき世をよそにふり捨てていかになりゆくわが身なるらむ 山異★ 有隆(定ー有) 隠

 あづまの方へ修行し侍りけるに富士の山をよめる 1613
風になびく富士の煙の空に消えて行方もしらぬわが思かな 異 定雅 隠

 題しらず 1617
吉野山やがて出でじと思ふ身を花ちりなばと人や待つらむ 山異御心 有定隆雅 隠

 題しらず 1630
山深くさこそ心は通ふとも住まであはれを知らむものかは 異 雅 隠

 題しらず 1631
山かげに住まぬ心はいかなれや惜しまれて入る月もある世に 異宮★ 雅

 題しらず 1640
たれ住みてあはれ知るらむ山里の雨降りすさむ夕暮の空 異宮 定隆雅 隠

 題しらず 1641
しをりせで猶山深く分け入らむ憂きこと聞かぬ所ありやと 山★異御 隆雅(ー隆) 隠

 題しらず 1657
山里にうき世いとはむ友もがな悔しく過ぎしむかし語らむ 異 定隆雅(ー隆雅) 隠

 題しらず 1658
山里は人來させじと思はねどとはるることぞ疎くなりゆく 異 定

 題しらず 1674
古畑のそばのたつ木にゐる鳩の友よぶ聲のすごきゆふぐれ 山異心 定隆 隠

 題しらず 1675
山賤のかた岡かけてしむる野の境に立てる玉のをやなぎ 山★異御心 定隆雅 隠

 題しらず 1676
しげき野をいくひと村にわけなして更に昔を忍びかへさむ 山異御心 定隆雅 隠

 題しらず 1677
むかし見し庭の小松に年ふりてあらしのおとを梢にぞ聞く 異 定雅 隠

 題しらず 1680
これや見し昔住みけむ跡ならむよもぎが露に月のかかれる 異★ 定隆雅 隠

  雜歌下
 題しらず 1746
數ならぬ身をも心のもちがほにうかれてはまた歸り來にけり 異★ 定雅 隠

 題しらず 1747
おろかなる心のひくにまかせてもさてさは如何につひの思は 異★聞 定隆雅 隠

 題しらず 1748
年月をいかでわが身に送りけむ昨日の人も今日はなき世に 山異宮★心 定隆 隠

 題しらず 1749
うけがたき人の姿にうかび出でてこりずや誰もまた沈むべき 異★聞★ 定隆 隠

 題しらず 1778
何處にも住まれずは唯住まであらむ柴のいほりの暫しなる世に 異 雅(有) 隠

 題しらず 1779
月のゆく山に心を送り入れてやみなる跡の身をいかにせむ 補 雅 隠

 題しらず 1808
待たれつる入相の鐘の音すなり明日もやあらば聞かむとすらむ 山異宮心 定隆雅 隠

 題しらず 1828
世を厭ふ名をだにもさはとどめ置きて數ならぬ身の思出にせむ 山異 定隆雅 隠

 題しらず 1829
身の憂さを思ひ知らでややみなましそむく習のなき世なりせば 山異 定隆 隠

 題しらず 1830
いかがすべき世にあらばやは世をも捨ててあなうの世やと更に思はむ 異★ 定隆

 題しらず 1831
何事にとまる心のありければ更にしもまた世の厭はしき 山異宮心 定隆雅

 題しらず 1842
なさけありし昔のみ猶忍ばれて長らへまうき世にも經るかな 山★異★ 定隆(有ー定) 隠

 寂蓮法師人々勸めて百首歌よませ侍りけるに否び侍りて
 熊野に詣でける道にて夢に何事も衰へ行けど此の道こそ
 世の末に變らぬ物はあれ猶この歌よむべきよし別當湛快
 三位入道俊成に申すと見侍りて驚きながらこの歌を急ぎ
 詠み出して遣はしける奧に書きつけて侍りける 1844

末の世もこの情のみ變らずと見し夢なくばよそに聞かまし 異 定 隠

 題しらず 1845d
ねがはくは花のもとにて春死なむその如月の望月のころ 山異御心 切

  神祇歌
 題しらず 1877
宮柱したつ岩ねにしきたててつゆも曇らぬ日の御影かな 異聞 有隆 隠

 題しらず 1878
神路山月さやかなる誓ありて天の下をば照らすなりけり 異★御 隆 隠

 伊勢の月讀の社に參りて月をみてよめる 1879
さやかなる鷲の高嶺の雲井より影はやはらぐる月よみの森 異御 ナシ(雅) 隠

  釋教歌
 返し 1977
立ち入らで雲間に分けし月影は待たぬけしきや空に見えけむ 山★異 ナシ(雅)

 勸心をよみ侍りける 1979
闇晴れてこころのそらにすむ月は西の山邊や近くなるらむ 山異★心 隆雅

コメント一覧

jikan314
西行歌の多くが、題知らずな理由は不明です。
私の考えは、西行の歌は、その場にいて、その時の感情をそのまま歌にしています。つまり、歌だけでその良さが伝わり、詞書を必要としなかったからでは?と。
所が、江口の様に、その歌の経緯が判った方が、よりその歌の良さが判るから書き添えたと思っております。
Shanxi様の御疑問も又一つのテーマとして調べて行こうと思っております。
又ご覧頂き、コメント頂ければ幸いです。
拙句
日が射して小さな虫も冬じたく
(支度と自宅。まあ日が射して、外に出ようとは思うのですが、生来の出不精に自宅自主隔離が有り)
jikan314
Shanxi様
疑問に持つのは、学問の出発点でとても良い事だと生意気にも思っております。一緒に学んで行きましょう。
このテーマの疑問は、「一体選者達は何を見て撰歌したんだろう?」です。そして、「選者達は、西行のどの歌に一番共感したのだろう?」です。
この基礎資料を作るために約3ヶ月掛かっていますので、そろそろ覚えた事を忘れない様にアップした所です。
御疑問の点には、今同時アップしている西行物語をご覧下さい。
撰歌材料の家集と西行物語の比較をしています。そして青文字は、新古今和歌集です。
西行歌の大半は題知らずですが、江口の時雨西行や紀伊千里浜の夢や陸奥実方中将の墓の様に、物語と言って良いほど長い詞書が記載されており、これが西行物語へと発展したのでは?と思って西行物語を読むとともに、周辺も調べております。
続く
3948Thankyoufoureight
jikan314先生
おはようございます。

作品には普通は主題や題名が伴いますが、絵画や彫刻の世界でも作品に題名が無く、『無題』と題されたものがあります。

句界の世界にも内容から考えれば題が決まりそうなのに『題知らず』と題されたものがありますが、
それは鑑賞者が受け取り方を自由に受け取っても良いと言うことなのでしょうか?

句の世界は興味があるので疑問質問が子供のように沸いてきてしまいます。
すみません。

先生、地道な目立ちにくい作業とご研究、これからも期待し楽しみにしています。

寒くなり行きます。
風邪などお気をつけて温かくしていてくださいませ。

Shanxi.10/30(土)
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