一 和哥所哥合に、羇旅ノ花といへるを
藤原雅經
一 岩ねふみかさなる山を分捨て花もいくへの跡の白くも
増抄云。伊勢物語の哥に、岩ねふみかさ
なる山はあらねどもあはぬ日おほくこひわたる
かなと、詞をとれり。岩ねふみかさなるといふより、
花もいくえと取あわせたり。分すてゝとは、あとに
花をなしたるといふ事也。またゆくすゑに
も花あるとみるべし。山にくもかゝるものなる
ゆへに、行すぎてあとをみたれば、花と雲と
ひとつにみえて、景氣のまさりたるよし也。
花をはなれてかへりておもしろきよし也。
花もとあるにて雲もいくゑをもたせたり。
頭注
岩ねふむは山旅の
躰なり。ねとは岩
の本なり。かさなる
山とはものをかね
たるやうに山の
ならびたる事也。
※岩ねふみかさなる山はあらねどもあはぬ日おほくこひわたるかな
伊勢物語七十四段
昔男、女をいたう恨みて、
岩ねふみ重なる山にあらねども逢はぬ日おほく恋ひわたるかな
拾遺集恋
題しらず
坂上郎女
いはねふみかさなる山はなけれどもあはぬ日かずをこひやわたらん
※ものをかねたる→ものをかさねたる
