--Katabatic Wind-- ずっと南の、白い大地をわたる風

応援していた第47次南極地域観測隊は、すべての活動を終了しました。
本当にお疲れさまでした。

水素メーザー原子時計

2006-02-16 | 南極だより・観測
ぽかぽか陽気の昨日、今年一番の暖かさになった東京ですが、今日は雨。
雨が降ると土のにおいがして、春が近いことを思わせます。
先日まで日本と大して変わらない気候かも・・と思っていた昭和基地は、雪の日が多くなり、最高気温が0℃を上回らなくなりました。
春に向かっていくことを実感するたびに、日に日に冬に向かっていく南極が一段と遠く感じるようになりました。
では、渡井さんの南極だよりです。
------------------------------------------------------------------
2006年2月15日(水) 雪のち曇り 水素メーザー原子時計

先日石井さんの説明で好評を博したVLBI観測。
主役ともいうべき大型多目的アンテナの他にもう一つ主役があります。
それが水素メーザー原子時計。
VLBIの観測では遠い宇宙のクエーサーから届く電波の時間差を測定するため、極々微妙な時間差がわかる必要があります。
電波を捉えるのが大型多目的アンテナの役目、それを多地点で比較するために時間をしっかり合わせるのが水素メーザー原子時計です。

クエーサーから届く電波の時間差は0.00-0.02秒しか違わないので、細かい時間を刻む必要があります。
そこで登場するのがこの時計。
なんでも100億分の一秒単位で計れるのです。
この時計があるからこそ数mmの誤差で相対的な位置の動きが測れるのですね。

先の観測に引き続き14-15日にもVLBI観測が行われたので、観測終了の15日夜取材に訪れました。
対応してくださったのは澤柿隊員。
水素メーザー時計は地震計室に保管されています。

扉を3つ開けてようやくたどり着いたのが水素メーザーが置かれている部屋です。
システムは安定化電源等を入れるとラック4台ほど。
心臓部はその中の1台、下から2段目にあります。
写真で紫色に光っているのが水素の光。

#写真の光は赤く見えますが紫色(赤紫)です
原理は理解できていませんが、ぱっとみ時計とは思えません。
ちなみに温度を一定に保っているため普段は出入りできないようです。


-----本日の作業-----
・テストガス精製
・新聞取材(地磁気絶対観測、1夏立ち下げ、鈴木モータース、VLBI水素メーザー)

・NOAA温室効果気体濃度分析用大気採取
・Prinston Univ.O2/N2比分析用大気採取
・CH4計定期メンテナンス
・「しらせ」観測機器トラブル対応

<日の出日の入>
日の出  4:00
日の入  21:09
<気象情報>
平均気温-4.2℃ 最高気温-2.6℃(1429) 最低気温-6.5℃(2319)
平均風速5.4m/s
最大平均風速8.6m/s 風向NNE(1330)
最大瞬間風速3.5m/s 風向NNE(1324)
日照時間1.4時間

---------------------------------------------------------------------
なんてタイミングのいい記事なのでしょう!
一昨日から昨日は澤柿さんのブログでVLBI観測が行われるという情報をキャッチしていたので、今度こそは!と思いオヒギンズ基地のウェブカメラをちょこちょこ見ておりました。
15分毎の更新なので、どのくらいの間隔で動いているのかは定かではありませんが、更新するたびに向きの変わるアンテナに感動しました。
かなりの速さで動くとのことですが、近くで過ごしているジェンツーペンギンたちは動じている様子はありませんでした。(ちょっと気になっていたのです)
ウェブカメラの様子は澤柿さんのブログで見ることができます。
世界の主なVLBI観測局はこちらで確認できます。
昭和基地とオヒギンズは重要な観測局なのですね。

その水素メーザー原子時計ですが、もちろん私も見たことはありません。
先日の記事にも載せた情報通信研究機構(NICT)の報道記事に写真が出ているのを見たくらいです。
この水素メーザーの歴史は比較的新しいようで、H.G.デーメルト(アメリカ)W.パウル(西ドイツ)N.F.ラムゼー(アメリカ)が高精度原子分光法の開発(水素メーザーの開発)で 1989物理学賞をとったということを知りました。
昭和基地に水素メーザーが入ったのは第44次隊。
2003年5月の極地研ニュースに「水素メーザー原子時計の立ち上げに成功した」と書いてあり、稼動が期待されていたことが分かります。

水素メーザー原子時計のメカニズムは、水素メーザ原子周波数標準器模式図で説明されていますが、見てもよく分からずお手上げでした。
また、水素メーザーの管理は、日本でもやはり厳重に行われているようでNICTの記事でも、電磁/磁気シルード対策や、温度(±0.5℃以内)および湿度(±10%以内)が高精度制御されているため、原器室への立ち入りは限られた職員のみが許可され、通常は完全無人運用状態で、離れた場所から計算機を使って監視されると書いてあります。
ですから、水素メーザーを見ることができるということはとても貴重なことなのだと思います。

昭和基地の様子を聞くたびに思うのですが、本当にいろいろな専門家がふだん専門家以外は見ることもない観測機や計器などを使って観測を行っています。
そういう場所は少なくとも日本にはないと思うのです。
私から見ればそういう意味でもとてもうらやましい場所です。
越冬をするということは、専門以外の研究分野を知りさらに視野を広げることができるとてもいい機会になるということでもあるのですね。

最新の画像もっと見る