--Katabatic Wind-- ずっと南の、白い大地をわたる風

応援していた第47次南極地域観測隊は、すべての活動を終了しました。
本当にお疲れさまでした。

すりばち池

2006-11-28 | 南極だより・自然
「しらせ」はたぶん今日フリーマントルに入港したはず。
進め!しらせを見ると、昨日の時点で既にフリーマントルに着いているかのよう。
今日入港のために港外で待機しているのかもしれません。
一方、日本からは今日、無事に成田空港から第48次隊が出発したみたいです。
明日にはパースに到着しフリーマントルに寄港している「しらせ」に乗り込むのですね。
フリーマントル出港は12月3日。
まずは無事に「しらせ」に会えますように。

あ、そうそう、渡井さんは昨日から泊まりで野外に出かけたようです。
たまっている渡井さんの南極だよりをこつこつアップします。
それでは、さっそく先日の野外オペレーションの南極だよりをお届けします。
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2006年11月22日(水) 快晴 すりばち池

ラングホブデ方面からスカルブスネス方面に向かうと、三角形の特徴的な形の山が見える。
すりばち山だ。
きざはし小屋からは丘を一つ越えた谷の近くにある。
山の麓にはすりばち池もあってちょっとした景勝地だ。

このあたりの露岩地帯は小さな池が点在している。
現在は底まで凍っているようだが、あと一ヶ月もすれば氷も溶け完全な池となる。
水があったと思われるところには貝の化石があった。
筒状のものが2本まとまっていて入水管と出水管のようだ。
が、土の中を少しほじってみてもそれ以上はでてこなかった。
アザラシのミイラもある。
池の標高は-32m。
海面より低いのだった。
昔は海とつながっていたのだろうか?


#すりばち山とすりばち池

#貝の化石

#近づいてみると・・

#アザラシのミイラ

-----11月22日本日の作業など-----
・ゆきどり小屋、袋浦不明ドラム回収
 ラングホブデゆきどり小屋には、
 緑色の「白灯油」、ピンク色の「南極灯油」もあった
・ゆきどり小屋燃料ドラムデポ

<日の出日の入>
日の出  0:26
日の入  なし
<気象情報>
平均気温-8.3℃
最高気温-3.6℃(1556) 最低気温-14.0℃(0514)
平均風速2.6m/s
最大平均風速4.3m/s風向S(2030) 最大瞬間風速5.6m/s風向SSW(1837)
日照時間 21.8時間

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昭和基地周辺の大陸沿岸には冬でも雪に埋もれてしまわない露岩域があり、いくつもの(100くらいだったかな)の湖沼が点在しており、すりばち池もその一つです。
スカルブスネスのすりばち池は、直径が約700m~900mの楕円形で、水深約30m、まさにすりばち状に周囲を岩山で囲まれています。
その一角が標高258mのすりばち山なのだそうです。
このあたりの湖沼は真冬には2mほどの厚さの氷に覆われるけれど、水深が2m以上あれば底まで凍ってしまうことはなく、一年中水が存在しているとも書かれていました。

さらに調べているうちに、このすりばち池というのは大変興味深い池だということが分かってきました。
大陸氷床に接している湖沼はどんどん融氷水が入り込むため、淡水に近くなっていきますが、すりばち池は写真のように岩山によってすり鉢状になっており、大陸氷床とは接点がないので、入り込む水は降雪のみです。
かつてスカルブスネスは露岩域ではなく、氷床に覆われていたのだそうです。
その氷床が後退し、重さを失った地面は次第に隆起し、入り江だった池周辺は海と切り離されて独立した池になったのだそうです。
すりばち池はもとは海の中にあったのですね。
だから、アザラシのミイラや貝の化石があったのかと納得しました(でも、いつ頃そういう地形になったのかはよく分かりませんでした)。
さらに大陸氷床と接していないことにより、淡水化しなかったので塩分の濃い池になりました。
このような湖沼では、底のほうに濃縮された海水がたまり、その上に降雪や雪解け水が流入し、塩分躍層という層が作られるのだそうです。
すりばち池でも上の層では4.8%、下の層ではなんと20%の塩分濃度(海水は3.5%)なのだそうです。
一番興味深いのは、上の層と下の層は水が混ざり合うことはないというところ。
上の層にとけ込んだ酸素は下層には到達しないというのです。
つまり、下層は酸素のない世界。
嫌気性のバクテリアや、嫌気性菌などがすんでいるのだそうです。

もっと調べると面白そうなので、近いうちにまた調べてみたいです。

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4 コメント

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Unknown (さわがき)
2006-11-29 06:36:10
あざらしのミイラは,たぶんごく最近のものだと思いますよ.パイプのようなものは,浅い海に棲む「スゴカイ(polychaeta)」の巣の跡で,約5-8千年前のものだと分かっています.

ちょっと長くなりますが,私の専門でもありますので,ここで,すりばち池と氷床と海の関係について考えてみたいと思います.

すりばち池と現在の海との間には標高30mくらいの峠があります.スゴカイの化石はその峠の池側にありますから,5-8千年くらい前にはその峠が海面よりも低い所にあって,海と池とがつながっていたことを示しています.ただ,「海岸の高さ」は海面と陸との相対関係で決まるものです.ですから,5-8千年前から現在までの変化は,「海面よりも低かった峠が上昇した」ということもできますし,「峠よりも高かった海面が低下した」ということもできます.どちらを選ぶべきかはそう単純ではないのと同時に,重要な意味を含んでいます.

氷床が縮小した後,南極大陸が隆起したことは確かですが,それならば,氷床があった地域にだけそういう隆起が見られるはずです.ところが,この時期は地質学的に「気候最適期」と呼ばれる時期に相当し,氷床や氷河が最も融けたことによって現在よりも海面が高くなっていたことが「汎世界的」に確認されています.日本でも同様で「縄文海進」と呼ばれています.

ちなみに「気候最適期」は今よりも年平均気温が1~2℃が高かった時代でした.それ以後現在にいたるまで,やや冷え込んでくるとともに海面は下がってきて,相対的に陸地が上昇してきました.このような汎世界的な海面の上下動のことを「ユースタティックな海面変動」といいます.現在,地球温暖化で懸念されている海面上昇も「ユースタティックな海面変動」で,5-8千年前の高海面期からちょっと下がって安定していたものが,急速に上昇に転じていることを心配しているものなのです.

すりばち池にもどりますが,スゴカイの化石の年代から考えると,この池が海から切り離されたのは,陸地の隆起ではなくて「気候最適期」の高海面期から現在にかけて徐々に海面のほうが低下してきたため,と考えたほうが自然です.つまり「峠よりも高かった海面が低下した」のです.

さらに言えば,「気候最適期」の高海面期に一時的に海とつながっていただけで,長い目で見れば切り離されているのが普通の状態,とも言えます.実は「一時的」と言うには,氷床がいつ頃から縮小し始めたのか,というのが大きな問題で,丁度氷がなくなった時に海水がすりばち池に流れ込むようなことがあったかもしれません.そうなると,約5-8千年前よりも前からずっと海とつながっていたことになり,最近数千年のうちに初めて切り離されたことになります.でも,すりばち池が氷床から解放された頃は,おそらく,海水準は現在よりも数十mほど低い高さにあったと思われますので,解放直後には峠は存在していたハズで,ずっと海とつながっていたとは考えにくいのです.このへんは,湖沼底の堆積物を調べるとはっきりするのですが,今のところ,1万年より古い年代試料は出ていませんので,たぶん,海とつながっていたのは「気候最適期」の高海面期前後だけではないかと思います,

ちなみに,氷床の盛衰に伴って陸地が隆起・沈降することを「氷床荷重によるアイソスタティックな地殻変動」と言い,それと相対的に海面が上下することを「アイソスタティックな海面変動」といいます.すりばち池が海から切り離された原因に,アイソスタティックな隆起も確かにありますけれど,その量はよく分かっていません.仮に5千年に30m上昇するとすれば,1年に6mmで,これは地球上で見られる氷河アイソスタティックな変動としては最高レベルのレートに相当します.この地域を覆っていた氷床の厚さから考えると,たぶんそれほどは大きくないでしょう.

すりばち池が海とつながっていたことは「ユースタティックな海面上昇」が原因であり,池と海とが切り離されたことは「アイソスタティックな陸地の隆起」と「ユースタティックな海面低下」の合作である,というのがふさわしいと私は思っています.

いろんなキーワードを挙げましたので,いろいろと調べてみてください.
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さわがきさま (み・くり)
2006-12-01 01:55:37
ありがとうございます!
どうして塩湖があの場所にあるのかという謎は、生物学的な方面からの視点で書かれた書籍で読み、何となく解決したように思っていました。
海と陸との関係で考えるというのはとても新鮮でした。
アイソスタシーというと、どうしても地殻にばかり目がいきがちでしたが、氷床が後退すれば海の水が増えるわけで、単に地面の隆起だけでは語れないのですね。
教えていただいた視点で調べるとかなり面白そうで、嵌りそうな気配です。
分からないことがあったらまた教えてください。

あ、あのアザラシは最近のものならば、どうやってすりばち池まで来たのでしょう。
30mの峠を越えて、露岩を這ってきたなんてとても考え難いのですけれど。
返信する
あざらしのミイラ (さわがき)
2006-12-01 04:20:36
すみません,渡井さんがみたアザラシのミイラはきざはし小屋から池に行く途中の浜にあるやつだと勘違いしてました.夏の調査で毎日のようにみていましたので,つい思いこみでそう判断してしまいました.すみません.実際には池のそばで見つけているんですね.渡井さんが帰ってきたら詳しく聞いてみます.

ところで,海から離れたところにあるアザラシのミイラは,南極では七不思議のひとつです.ドライバレーと呼ばれるところで見つかっているもので放射性炭素年代が測定されているミイラがありますが,だいたい1000~3000年くらい前という結果だったと思います.

でも,南極では,年代測定に使う炭素同位体の割合が普通じゃない(リザバー効果という)ので,現在生きている生物で年代を測っても1000年前くらいの値が出てしまうんです.ですからドライバレーのミイラも実際のところは,ほんとにごく数年から数十年前のものである可能性も残っています.そうすると,どうやってそこまで来たのか,という疑問が残りますね.それが七不思議の一つと言われる由縁です.実際にはもっと困ったことがあって,そういう年代の怪しさを指摘して,ノアの洪水が本当にあってアザラシはそれに流されてきたんだ ,なんていう人たち(創造主義者という)もいるんですよ.

写真を見る限り,渡井さんがみつけたミイラと同じくらいの保存状態のミイラは海岸にもいくつもあります.南極は微生物の活動が活発ではないためになかなか腐らないので,本当は古いくても新しそうに見えるということもあり,実際に年代を測ってみないと正確なことは言えませんし,その測定方法自体が信頼度が低いと思われていますので,なかなか難しい問題なんです.
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さわがきさま (み・くり)
2006-12-02 09:32:28
アザラシがすりばち池にいるのは南極の七不思議なのですね!
それを知りたい!!という気持ちと、不思議は不思議のままにしておきたいという気持ちが混在しています。
どうしてだろう~って考えている時間が楽しいみたいなところがあるのだと思うのですが。
私は研究者には向かないかもしれませんね。
でも、「年代測定に使う炭素同位体の割合が普通じゃない」というのは、興味深いです。
大気でも、氷床コアでも同位体を調べることで分かることがたくさんあるのだと、南極観測を通じて知ったので、それが普通じゃないこともあるのだというのには、ちょっと驚きでした。
(いろいろ調べ物をしているとときおり「炭素リザバー」という言葉が出てきていました。こだわることもなく通り過ぎていましたが、知りたくなってきました。調べ物が多くてどうしましょう!と、嬉しい悲鳴です。)
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