ヒストリカルロマンスアワー

Historical Romance Hour

The Masqueraders

2006年03月13日 | H-I
The Masqueraders
Georgette Heyer (1928) ジョーゼット・ヘイヤー

ヒストリカルロマンスの元祖、へイヤーです。文学史的価値を除いても読む価値のある作品です。検索してみましたが、翻訳はされていないようです。

Story:   
Dialogue:  
Romance:  
Adventure: 

日本の平安期に書かれた「とりかえばや物語」を思い起こさせますが、これもオリジナルです。
ヘイヤーがまだリージェンシーに目覚める前に書かれた作品で、舞台はジョージ王朝期、主人公はプルーデンスと弟ロビンです。

若くてかしこそうなMr.ピーター・メリオットと清楚な妹Missケイト・メリオットがロンドンの上流社会にさっそうと現れ人気者となります。実はこの二人はワケがあって男装・女装しているプルーとロビンです。ピーターは紳士として男装しているプルーで、ケイトはレディーとして女装したロビンです。最初の1、2章では読者に分かるように書かれていないので、あらすじを知らないとかなり混乱します。

ロマンスとして分類されていますが、全体的には二人の冒険がお話全体を占めています。二人でレディー・レティーシャを危機から救い出したり、ピーターが暗いロンドンの夜道で襲われ戦ったり、ロビンが仮面をつけて再度レティーシャを救ったりと読者を飽きさせません。

二人はこの冒険でお互いの人生の伴侶に出会います。プルーはSir アンソニー、ロビンはレティーシャです。二人は同姓の友人としての付き合いしかできないし、二人の父が抱える問題からハッピーエンドはないだろうと少し悲観的でした。

いつも飄々としているが知的で鋭いアンソニーは、しかし、謎めいたピーターに興味を抱き接近します。実は最初数回会っただけで、ピーターが実は女性だと気付いていました。アンソニーがピーターの正体を問い詰めるシーンは、エロティックです。ワインがしたたるピーターの白くてか細い手首をアンソニーが強く握り締め二人は数秒間見つめあいます。かなわない思いを胸に秘めた女性としてのプルーの清純さとか弱さが一気にここで溢れ出し、一方のアンソニーは自分のことをもっと信頼してほしいという気持ちと彼女に対する尊敬と賞賛の気持ち、そして愛する女性を守るのだいう決意がにじみ出ています。アンソニーの率直なプロポーズは、ロマンスファンの心をギュッとワシ掴みです。

ロビンのほうのロマンスは、彼自身楽天的ですがやはりハッピーエンドはあまり期待していませんでした。相手のレティーシャとは女性の友人としてしか近付くことができなかったのですが、仮面舞踏会でブラック・ドミノとして彼女に近付き、人気のない薄暗いテラスで甘い言葉をささやきキスを奪うシーンは腰砕けです。

ですが、最初に触れたように、二人の冒険のほうが存在感が大きいという印象は否めません。現代に書かれたHRを読むとこのように思うのかもしれません。 登場人物全てが個性的で、会話もおもしろく、ロマンスは80年近く前に書かれたものとは思えません。現代に書かれたHRのようにラブシーンはありませんが、元祖ヒストリカルにしか存在しないエロティシズムがあります。これにかなうものを書ける現代の作家はそうそういません。

原作を読むのがもちろん一番いいのですが、ヘイヤーの作品が良い翻訳者に回り逢えることを願っています。


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