さいえんす徒然草

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RNA干渉を利用したミツバチのウィルス病治療薬

2011-01-07 23:28:13 | 食料
 セイヨウミツバチ(Apis mellifera)は古くから人間の生活に欠かすことのできない“家畜動物”だ。我々は、彼女らを利用して甘い蜂蜜を手に入れているだけではない。アーモンドやトマトなど数多くの作物は、その花を訪れる昆虫の手を借りて花粉を別の花から届けてもらわなければ果実を付けることができないが、我々はミツバチを畑に放し飼いすることでそうした作物の生産を効率よく行うことができる。実はアメリカなどでは、養蜂家の多くにとって蜂蜜の生産よりも送粉(ポリネーション)目的で農家に蜂の巣(コロニー)を貸したり売ったりといった方面の収入のほうが大きらしい。


 口蹄疫という牛や豚の伝染病が世間を騒がせたのはまだ記憶に新しい。同じく家畜であるミツバチにも、彼女らを脅かす小さな敵は数多く存在する。それらはウィルスであったり、ダニなどの寄生動物や、菌など多彩な顔ぶれだ。とくに近年では蜂群崩壊症候群(Colony Collapse Disorder:CCD)と呼ばれる、働きバチの大量失踪が起きる原因不明の病がアメリカなどの国で問題となっている。CCDの原因について、まだはっきりとした結論は出ていないが、何らかの病原体による伝染病であると考える研究者は多いらしい。


 イスラエル急性麻痺ウィルス (Israeli Acute Paralysis Virus:IAPV)というミツバチを死に追いやるRNAウィルスがいる。このウィルスは2004年にイスラエルで発見されたが、ミツバチコロニーの国際的な取引を通じてか今では世界各地に広がっているらしい。一時はIAPVこそがCCDの原因かとも考えられたようだが、少なくともこのウィルスが単独で引き起こしているわけではないという見方が強い。いずれにしてもIAPVは養蜂家や彼らを利用する農家にとって深刻な問題だ。

 近年、ウィルス病の治療法としてRNA干渉を利用した薬の開発が行われている。RNA干渉とは、二重鎖のRNAが引き金となって同じ配列を持つRNAが分解されるというほぼあらゆる真核生物が持つ奇妙な機構だ。ウィルスの多くはRNAをゲノムとして用いているので、これらを標的とした二重鎖RNAを人工的に合成し投与することで治療ができると期待される。今のところ人間の病気でRNA干渉を利用した治療薬はまだひとつも実用化していないようだが、それに先駆けてミツバチのIAPVの治療にRNA干渉薬が実用化されるかもしれない。

これまでに、合成したIAPVを標的にした二重鎖RNAをショ糖溶液に溶かしてミツバチに餌として与えるとIAPVによる感染と症状が軽減されるという報告があった。なかなか強引な方法だと感じるが、ミツバチは比較的RNA干渉が効き易い昆虫らしい。今回オンラインジャーナルのPloS Pathogene誌に比較的大規模な実地試験の結果が掲載されていた。Remebee-IAPVという治療薬としての名が付いていたが、開発しているのはBeelogicsという米国とイスラエルに事務所を持つベンチャー企業のようだ。

 試験はフロリダとペンシルベニアでそれぞれ行われた。ざっと見ると、両地区で蜂蜜の生産量に有意な向上が見られたり、少なくとも片方の地区でコロニー内の蜂の個体数や活動に向上が見られたりと一応陽性な結果を示している。


Figure 2. Net weight gain in hives (Florida).
Total weight gained by the hives in the different treatments corresponds mainly to amount of honey collected. Remebee-I+IAPV hives produced significantly more honey compared with IAPV only treated hives (N = 40, p<0.03). Honey production in control colonies and IAPV colonies were not significantly different (N = 40, p>0.2). doi:10.1371/journal.ppat.1001160.g002


 Table Summary of Remebee-I treatment on honey bee health and mortality.



 ただ、素人目にはどの項目も治療薬の効果はそれほど大きようには見えないような気もするが…。いずれにしても、Beelogics社は実用化に向けてFDAとEPAの認可を得る作業を既に開始しているようだ。


Hunter W, Ellis J, vanEngelsdorp D, Hayes J, Westervelt D, et al. 2010 Large-Scale Field Application of RNAi Technology Reducing Israeli Acute Paralysis Virus Disease in Honey Bees (Apis mellifera, Hymenoptera: Apidae). PLoS Pathog 6(12): e1001160. doi:10.1371/journal.ppat.1001160



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