さいえんす徒然草

つれづれなるまゝに、日ぐらしキーボードに向かひて

HIVワクチンの効果

2009-09-24 22:53:06 | 医療・衛生
 タイとアメリカの研究者が共同でタイで行ったエイズ予防ワクチンの大規模臨床試験で、これまで開発が試みられたエイズワクチンとしては初めて一定の治療効果(感染リスクを3年間で3割減)を示したと先月24日に発表された。この治験結果は今月20日にパリで開かれたエイズワクチン会議でも発表され、日本の各メディアにも取り上げられている。

毎日新聞
時事通信
Asahi.com

 いずれも「3割防ぐ効果があった」と伝えている。

 治験ではALVAC-HIVとAIDSVAXという二種類のワクチンがprime-boost法という方法に従って用いられた。研究グループが23日にNew England Journal of Medicine 誌に発表した論文では「予防効果については低いが、今後のワクチン研究にとって良い知見となるだろう」と結論付けている。

 今回のワクチンが実用化レベルでは無いということは、関係者の間でもほぼ一致している見解のようだが、「弱いながら一定の効果を示した」という事実はしばらく明るいニュースの無かったエイズワクチン研究の分野にとっては福音であるようだ。
 しかしながら、研究者の中からはその効果の存在自体を疑問視する声も出ている。

 治験の結果を詳しく見ると以下のようなものらしい。約16000人のボランティアを二つのグループに分け、それぞれにワクチンと偽薬(プラセボ)を与えたところ、3年後のワクチン・グループのHIV感染者が56人であったのに対し偽薬グループでは76人が感染していた。これは予防効果が26.4%ということになるが、統計的には有意な差とは言えない(P=0.08)。また、被治験者のうちワクチン接種プログラムに正しく従わなかった者を除いたところ、対象者数は約12000人に減り、感染者数はワクチン・グループで36人、偽薬グループで50人となる。これも統計的には有意ではない(P=0.16)。そこで、ワクチンの接種前にHIVに感染していた者を調べたところ7人見つかり、それらを除いて計算したら感染者がワクチングループで51人、偽薬グループので74人となり統計的には有意になった(P=0.04)。感染者が3割減という数字はこの3番目の計算から出てきた数字だ。

 有意確率が4%という数字は、確かに一般的に用いられる有意水準の5%を下回っているので、有意であるという主張はできる。が、逆の言い方をするならば、たとえワクチンに全く効果が無くとも、今回のような結果は25回中に平均一回は偶然だけで得られるということでもある。
 単に統計的に有意であるということは、その効果を直接立証するものではないし、単に有意ではないということはその効果を完全に否定するものでもない。また効果の3割という数字も幅があり95%信頼限界は1.7%から51.8%である。

 ちなみに、ワクチン・グループで感染した被治験者と偽薬グループで感染した患者でウィルスの血中濃度に差が見られなかったという結果も、ワクチンの効果に疑問を抱かせる要因の一つとなっている。

 いずれにしても、「今回のワクチンはHIVの感染予防に関して多分何らかの効果を持っていそうだが、全く無いという可能性も無視できない。また、効果があったとしても残念ながら低い。」が今のところ我々にとっての正しい理解であるようだ。

<参考>
AIDS Vaccine Study Reassures Skeptics(ScienceInsider)

HIV vaccine trial under fire(nature news)

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